周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

ドラマ「ゆるキャン△」一話は原作やアニメそのまま……ではない

この一月からドラマ「ゆるキャン△」が始まっている。発表当初こそtwitterではいつも通り「アニメとイメージがまるで違う」「二次元を三次元で再現しようとするから無理が生じる」と拒絶反応が飛び交っていた。しかし実際に放映されてみると「いい感じに寄せてる」と評判のようだ。一方、「寄せすぎてて実写の意味がない」「アニメで観ればいいや」って人も。むつかしいところだ。


私は、出来うる限りアニメに寄せようとする努力は買う。それが必ずしも面白さに寄与してなくても、すごさはすごさとして称賛したい。でも声までアニメの演技に寄せてるのを褒めるのはちょっと……と書きかけて、なんか違うなコレと思い直した。

なぜ原作つきであっても対比されるのはアニメなのか


「声」が問題になるってことは話者は多分アニメを前提にしている。でも、なんでこういう場合引き合いに出されるのは決まってアニメなんだろう


氷菓」のときもそうだったけど、アニメオリジナルならともかく、原作が漫画や小説なのに何故原作を差し置いてアニメを再現することが評価に繋がるのか。単にマスなメディアだから、以上の何かがあるように感じる。同じ映像作品だから比較しやすいのか? でも、原作の派生作品という意味ではアニメはドラマと同格のはずでは? そういった疑念が拭えない。原作大垣は時折もっと可愛いんだよ!あれはアニメのキャラデザがよろしくない。


そんな話はさておいても、ドラマ「ゆるキャン△」がアニメ、原作漫画そのままだとは思えない。

電線の意味するもの


たとえば冒頭、リンちゃんが家からキャンプ場に向かうシーン。自転車を漕ぐリンちゃんを遠景から捉えるショットでは、アニメや漫画では目立たない、道に沿って並ぶ電柱と電線が画面を覆っている。電線は道ある限り続き、本栖湖まで伸びている


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キャンプ漫画としての「ゆるキャン△」の特徴は、文明の利器や誰か他人の手を借りるのを否定しない点にある。管理人さんが用意してくれた薪を使い、友人とLINEで連絡を取り合い、夜はタブレットで動画を楽しむ。ドラマは整備された道や電線電柱を強調することにより、その先に続くのが人跡未踏の地などではなく人の営みが存在する場所なんだということを示し、作品のありようをビジュアルとして視聴者に伝えている。


sube4.hatenadiary.jp


アウトドアを題材にした作品では風景描写は欠かせない。原作漫画を描くにあたっては綿密なロケハンが行われていて、作中のキャンプ場にはどれもモデルが存在する。そういう意味では原作より実写のほうが先にある、と言えるわけだ。しかしあfろ先生はそれを直接、写実的なものとして漫画に持ち込まない。いらないものは省略し、山の稜線や雲をざっくりとした*1線で描き、二次元キャラクターがそこにいても違和感ない風景を作り出している。アニメの背景美術もおおむね原作に沿っていた。


実写では根本的にあるものをなかったことにはできないから、一般に景観を損ねるとされるものも映すしかなかった? そうかもしれない。でも映さないという選択肢はあるはず。そこを、原作やアニメでは省略されていたものをあえて映すことで、家からキャンプ場まで地続きで、「きっと、そらでつながってる」ばかりではなく「陸でも繋がってる」ことを語る。

LINEは既に交換された


他に明確な意図を感じる改変がもう一つ。原作/アニメではなでしこが別れ際に一方的に連絡先を書いたメモを渡すのを、ドラマではちゃんとお互いにLINE交換していたのがそれだ。


自分の番号は教えるけど相手のそれは聞かない。原作ではこの描写があることによって、なでしこが単なる猪突猛進型の女の子ではなく、初対面の相手に対し連絡の主導権を渡すという気遣いor自分が受け入れられないかもしれないという恐れを抱いていることが分かる。これが、ドラマでは別れ際に最初のLINEのやりとりを済ませてしまっている。


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ドラマなでしこは原作よりぐいぐい来ている。初めての学校で何も分からなくとも物怖じせず、「転校してきた各務原なでしこです!」と見知らぬカップルに挨拶してるのもコミュ強を印象づける。


他方、リンちゃんは原作よりも人間関係に不得手そうだ。なでしこににぱっと笑いかけられて思わず目を逸らすシーンで特にそう感じた。口調もアニメの東山リンに比べるとぼそぼそしているし小動物のようにきょどきょどしている。。一人でいる時は変顔してみたり愉快なこと考えてるのもそれっぽい*2


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なでしことリンちゃん。コミュ強とコミュ障。この二人のコントラストが、ドラマをある意味ではアニメよりアニメらしく、漫画より漫画らしく演出している。


話を戻すと、原作/アニメの連絡先交換はメタ的には次回へのヒキとして機能していた。最初はなでしこからリンちゃんに一方的に引かれた矢印だったのが、いつしか逆にリンちゃんからの能動的なアクションが返ってくる。そういったドラマを盛り上げるための伏線として、一話から二話の間ではなでしこからリンちゃんに連絡する術はない。この時点では二人は「空でつながって」はいないわけだ。


それを踏まえて、ドラマは2話以降どう展開していくのか。インタビューなどを読む限り、原作から大きく外れることはしないと思うけど。LINE交換しても以降特にやりとりするわけでもなくそれっきりってパターンも大いにあるので、無難なところはその線かな……


ゆるキャン△ 1巻 (まんがタイムKRコミックス)

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*1:しかしめちゃウマな

*2:これについてはリンちゃんはこんなことしない的な反応もあるようだけど、原作でもワンコ寺でしっぺい太郎の真似して変顔してます