周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

続・ゆりキャン△ 各務原桜と志摩リンの関係

アニメ「ゆるキャン」一期は、なでしこのソロキャンで幕を下ろした。原作でもその内やるだろうと原作者のあfろ先生が構想していたものを先取りした形だ。志摩リンのソロキャンに偶然居合わせたことでその楽しさを知ったなでしこが、今度は一人でキャンプに挑戦し、これまた偶然リンちゃんと鉢合わせる。第一話と連環する見事な構成となっている。


なでしこの二つのソロキャン


……そのソロキャンだけど、作中では「初めての」とは明言されていない。テントを設営する手つきが危なっかしいのでそんなに回数を重ねていないことは分かるのだが、野山の色から季節は既に春のようなので、その前のクリキャンからは大きく時間が飛んでいると推測される。その間に一、二回ソロキャンしたかも。あれが初ソロキャンなら、電話で「今日はソロキャンしてるんだー」ってゆわれたリンちゃんがもうちょっと驚きそうな気もする。先日発売された原作コミック最新刊のように。……


原作第7巻では、まさにそのなでしこの初ソロキャンが描かれている。季節はまだ冬。リンちゃんに相談してキャンプ地を決定。バイトが休みの週末に、富士宮に一人旅立つ。



志摩リンは自分も週末休みなのでなでしことキャンプしたかったようだが切り出せず、別の場所へ原付の旅へ。でもなでしこのことが気になって終始そわそわ。またなでしこの姉である桜さんも居ても立ってもいられず四輪一人旅。なでしこ見守り隊の二人は現地で偶然鉢合わせする。つまり、桜×リンである。主要登場人物の中で一番ちっこいのとおっきいのの、身長差カップル(?)だ。

リンちゃんは以前から桜さんに憧憬の眼差しを向けていた


順を追って話していこう。志摩リンから各務原桜に伸びる矢印というのは、元々愛好家の間では注目されていた。他人にあまり興味を持たないリンちゃんが、珍しく自分から人となりを知りたがっていたからだ。

  • 初めて会ったのは本栖湖になでしこを迎えに来た時。妹を豚野郎呼ばわりしながら車に押し込む強烈な登場だった。
  • 二度目はふもとっぱら。朝になかなか起きないなでしこを一緒に簀巻きにする桜さんは、妹を起こさないよう口元に人差し指を当て、ついぞ見せたことのないイタズラっぽい表情をしている(※追記:読み返したら、悪戯っぽい表情をしてたのは、寝てるなでしこの両目におにぎりを載せようとしてたからでした)。
  • そして四尾連湖にはなでしこ共々自分も車で送ってもらう。その際に飛び出たのが「なでしこのお姉さんって美人だよなあ……」だ*1。 テント設営してからも「お姉さん もう帰っちゃったのかな?」と、何かと気にする素振りを見せている。アニメでは送り迎えしてもらって申し訳ないとなでしこに感謝の言葉を述べたところ、「車を運転してる時楽しそうにしていた」と返ってきている。これは送迎してもらってる妹が気を遣わないためでもあると思うのだけど、実際のところは分からない。
  • クリキャンでは毎回送り迎えするほど妹を心配する桜さんの苦労を察し、「お姉さんにあんま心配かけんなよ」と謎の理解者顔をするまでに至っていた。
  • なでしこがソロキャンの話を切り出した際には、それまで「なでしこのお姉さん」と呼んでいたのが「桜さん」呼びに。


これだけだとオタクがこじつけているだけのように見える。しかし残念、『Megami MAGAZINE2018年05月号』の志摩リン役東山奈央さんのインタビューでは「唯一、なでしこのお姉さんに会うときだけは『かっこいい、憧れのお姉さん』みたいな感じで接していたので、声は少しうわずった感じにしていました」と発言していたのだ! *2リンちゃんが桜さんをそういう目で見ているというのは声優にとっても同じようだ*3。東山さんは、『ゆるキャン△ 公式ガイドブック』でも同様の趣旨の発言をしている。ジッサイ、原作でも桜さんと接してる時のリンちゃんは緊張で? ほっぺが紅潮してて、いつも以上に幼く見える。


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話は少し変わって。リンちゃんは普段からクールで大人でイケメンな自分であることを無意識の内に自らに課してるように見える。キャンプ上級者のかっこいい自分をなでしこに見せたい。引っ張りたい。そして思わぬ失敗をして逆にフォローされたりしている。シミュラクル現象がどうしたとかそれっぽい用語を使うもののいまいち使い慣れてなさそうなのも背伸びしてる感ある。作中では描かれてないけど、あのちっこさでソロキャンやってると色々煩わしいことも起こるだろう。それで早く大人になりたいと焦るほど子供ではないけど、ああしたいこうしたいと夢想することはあって。より遠くへ快適に旅できるように、ゆくゆくは四輪の免許もほしいし。それならなでしこを自分で送ってあげたりもできるし……。


桜さんは、そんなリンちゃんにとって理想のロールモデルなんじゃなかろうか。というか夜叉神峠で出会った登山のお姉さんといいリンちゃん年上のお姉さんに可愛がられてそうだよね、ていうのは一部界隈で根拠なく根強い説だったりするのですが。その裏でなでしこや斉藤さんは泣いてたり。

なでしこのソロキャンが二人の距離を縮める


リンちゃんは桜さんに憧れている。じゃあ桜さん⇒リンちゃんは? 優しく接してはいるけれど、あくまで妹の友達以上の感情はなかったと思う。それが、7巻ではお互いぐっと距離を縮める。


奈良田湖温泉で桜さんの車を見つけ、「来てるのかな?」と辺りをキョロキョロ見回すリンちゃんは控えめにいって飼い主に尻尾を振る子犬のよう。で、本人を見つけて。でも声はかけない。何故か隠れてコソコソしてしまう*4。声をかけたのは桜さんのほう。そのまま、古民家カフェで一緒にお茶して。最初は初めて二人っきりで話すということで気まずかったけど、なでしこが「お姉ちゃんは【原付の旅】*5大好きで家にDVDが全巻ある」とゆってたことを思い出し、タイトルを挙げたことを皮切りに同じ趣味を持つ者同士、緊張がほぐれ、会話も自然な感じに。桜さんも月イチでドライブするくらい一人旅が好きなことが明らかになる。でも、やっぱり話題はなでしこのことに。妹の初ソロキャンを心配する桜さんに、リンちゃんは「自分が焚きつけたところもあるから」と責任を感じる。


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ゆるキャン△」が非凡なのはここで二人揃ってなでしこの様子を見に行かせず、一度別れさせたところだ。その後桜お姉ちゃんは奈良田湖で温泉に入って「ぬるいわね」と感想を漏らし、リンちゃんは雨畑湖の温泉で「少し熱い位が最高だな」と感じる謎のシンクロを見せ……逐一ソロキャンの様子を伝えてきていたなでしこからのLINEが途絶えたことに不安になる。電波が通じないところにいるだけだと自分を納得させようとしてもできない。


最新刊では、特に旅先の背景に魚眼・超広角の構図が多用されている。奥行きのある絵は臨場感を生むが、同時にそれが絵に過ぎないということを強く実感させられ、なんというか、漫画を読むという行為が友人に旅行写真を後から見せてもらっていることと同じようにも思えた。それは、現在の自分からは決して手の届かない領域で……人間の視覚ではありえない歪んだ風景の中に映る友人は、別の世界に誘われているよう。


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そう感じたとき、リンちゃんと桜さんの胸騒ぎを私もまた共有する。旅は危険でいっぱいだ。それがソロキャンならなおさら。二人は同じようになでしこがソロキャンしてる富士宮へ向かう。そこには、親子連れキャンパーと仲良くなっているなでしこがいた。元気でやっているのを目の当たりにして、安堵する。そんなお互いの姿を見つけて、笑い合う。なんだか気が抜けてしまい、リンちゃんは絶好の夜景スポットに桜さんを誘う。その後、桜さんは桜さんで夕飯を一緒にしようと言い出して、二人夜の街へ消えていく……


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この作品の登場人物はお互いの一人でいたいorみんなといたいという時間、距離感を尊重する。アニメ最終回は、あくまで「ソロキャンしようとして偶然同じキャンプ場で鉢合わせる」というところに意味があった。ひるがえって、なでしこが心配で現地まで行ってしまう桜リンは、当然の心配だとはいえ、度を超している。そんな二人は愛おしいけど、おこがましい。なでしこがそれを知ったら怒るだろうか。聡いなでしこのこと、自分を心配しての行為だと分からないはずないから、かえって迷惑かけたと凹むかもしれない。困り眉で諦観の表情を浮かべるだけかも。そんな様子が容易に思い浮かぶから、リンちゃんも桜さんも決して自分たちの存在を知られまいとする。「ありがとね リンちゃん」という桜さんはなんとも言えない複雑な表情を浮かべている。そこには、おこがましいことを実行に移す人間が自分以外にいてくれることへの感謝と、安堵と……あと、ほんのちょっと寂しさも映っていたかもしれない。


同じなでしこ見守り隊の二人が共有するなでしこへの後ろめたさ、罪悪感。それが【桜リン不倫旅行】と悪い百合オタクが称する、どこか不穏な関係の根っこにあるものだと思う。二人のその感情は、では何か別のものに化けるのか。最初の出会い(奈良田湖)は偶然、二度目(なでしこの様子を見に冨士宮へ)は必然、では三度目は……? その先の世界に何を見るかはあなた次第だ。


*1:wikipediaではこのリンちゃんの独白が桜さんが作中で美人扱いされてることの傍証として挙げられてるのちょっと笑う

*2:のだ! ではない

*3:自身の論を補強するために声優のコメントを引用するクソオタク

*4:何故かもクソも

*5:作中世界で放映されているTV番組。別名「水曜どうでしょう