周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

【みんなで】も【ソロ】も許容する「ゆるキャン△」のゆるさ スマホ世代のアウトドア漫画

現在TVアニメが放映されてる、【あfろ】さんのキャンプ漫画「ゆるキャン△」がとても好ましい。最初は主演の花守ゆみりちゃん目当てでアニメを観始めて、あ、なんかこの雰囲気はいいなふわもこ女子可愛いな*1って思って原作に手を出したら、その「せいじてきただしさ」にえらい感心してしまいました。


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 TVアニメ「ゆるキャン△」公式サイト



冬の本栖湖で一人キャンプを楽しんでいた志摩リンは、寒さと空腹で死にそうになってる女の子を拾う。彼女の名前は各務原なでしこ。山梨に引っ越してきたその日に、富士山を見に行こうと思い立ち、家から自転車でやってきたのだという。リンが分けてくれたカレーラーメンをすすりながらキャンプの楽しさに目覚めたなでしこは、新しい学校で野外活動サークル通称「野クル」に入る。偶然同じ学校だったリンは、野クルの他のメンバーとも知り合い、一緒にキャンプに行こうと誘われるのだけど、なかなか重い腰をあげず……

テントの中で観るアニメの楽しさ


この漫画を一読して目につくのは、キャンプといって想像される以外のことをやってるシーンの多さだ。温泉に入ったり地元のおいしいもの食べたり、っていうのももちろん描かれる。一方、リンちゃんは一人でのキャンプ通称ソロキャンが基本で仲間をワイワイ騒ぐっていうことをしてこなかったものの、友達の斉藤さんとはこんなところに来てるってLINEを送ったり、現地の写真を見せ合ったりしてる。その他にも大自然雄大な景色を前に何をするかといえば、アウトドアチェアにどっしり腰を据えて本のページを捲ってる時間が長い。野クルのメンバー大垣千明は、キャンプの夜のお供にタブレットを持ってきて眠くなるまで動画観ようぜーって提案して、特に反対もなくみんなそれに乗ってくる。焚き火は面倒だからあんましやりたくない*2


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せっかくこういうところに来たんだからケータイorゲームor本はしまいなさい、と人は言う。先日読んだ「ナショナル・ジオグラフィック」にも、息子を世界的に有名な自然公園に連れてったけど家にいる時と同様スマホいじってて困る、という記事が載ってた。


でも、違う。いつもとは異なる環境で家にいる時と変わらないことをしてるっていう、その時点でそれはもう別種の体験なんだよね。キャンプで食べるラーメンが美味しいっていうのも同じ理屈。旅先でガシャを引いたらお目当てがドロップするかもドロップしてくださいと願をかけるのもそう。オタクなら、お仲間と一緒のお泊り旅行で、朝になったらキッズアニメ大好きマンがもぞもぞ起き出してドアサニチアサを観始めて、それが妙に楽しくて、っていう経験に覚えがある人も多いんじゃなかろうか。千明がタブレット取り出すシーンは、これ俺らがいつもやってるやつだ! っていう嬉しさ気恥ずかしさを感じた。

【ソロ】も【みんなで一緒に】も両方楽しもう


そんなキャンプの楽しみ方のゆるさは、人間関係の良好さにもつながってる。なでしこ始め、野クルのメンバーはみんなリンちゃんと一緒にキャンプしたいと思ってる。でも、その気持ちを決して押しつけない。この手の作品にありがちな、無理やり巻き込んででも楽しさを知ってもらうという手続きを採用しない。


なでしこ役の花守ゆみりの甘い声は、【孤独】から世界一遠い人たらしのもので、強引に誘うようなことをやっても多分絵にはなるだろうけど、それをしない*3。誘いを断れればそりゃ残念な気持ちにはなる。でも、LINEでどうでもいいようなやり取りを重ねるなどして、相手がその気になってくれるまで気長に待つ。リンちゃんのソロキャンを尊重して、決しておびやかさない。


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そういう人たちだと分かってから、リンちゃんも徐々に徐々に寄り添っていく。それができるのも、スマホを通じていつでもつながることができるという安心感が寄与してるんじゃなかろうか。


コミックス4巻では、とうとう野クルにリンちゃん、あと斉藤さんが合流しての初キャンプが描かれる。舞台は富士山麓! で、以降みんなで何かをすることの楽しさを知ったリンちゃんはソロキャンすることもなくなった……というと、別にそんなことはない。むしろみんなで一つのテントを共有することを経験して、ソロキャンの寂しさを自覚的に楽しむようになる。LINEで繋がってるってゆっても、やっぱり身は独つで行動してるわけだしね。そしてソロキャンの後は、またなでしこの人なつっこさが暖かく感じる。


強いてどっちかを選ぶ必要なんてない。ソロの楽しさもみんなでやる楽しさも味わいたい。「ゆるキャン△」(現在単行本は5巻まで発売中)は欲深い漫画なのだ。


*1:作中の季節は今のところずっと冬

*2:でもやるとやっぱりあったかい

*3:原作の内容に声優の演技を当てはめようとするクソオタムーヴ