周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

「かぐや様は告らせたい」 ラブコメにレクリエーション要素を持ち込む

ヤンジャンで連載中のラブコメ赤坂アカかぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」が面白い。「マンガ以上ラノベ未満」という当初のアオリには何言ってんだこいつ感しかなかったけど、段々この漫画なりの楽しみ方が分かってきた気がする。

 


「恋愛は告白した方が負けなのである!」 家柄も人柄も良し!! 将来を期待された秀才が集う秀知院学園!! その生徒会で出会った、副会長・四宮かぐやと会長・白銀御行は互いに惹かれているはずだが…何もないまま半年が経過!! プライドが高く素直になれない2人は、面倒臭いことに、“如何に相手に告白させるか”ばかりを考えるようになってしまった!? 恋愛は成就するまでが楽しい!! 新感覚“頭脳戦”ラブコメ、開戦!!

 


ヒロインとただイチャイチャするためだけに

 

数年前、「ただヒロインとイチャイチャするだけのラノベ」を探し求めていた時期があった。お気楽なラブコメ的な導入であっても終盤シリアスになったり、ストーリーの縦方向の運動をなんだかんだで大事にするラノベでは、案外こういう作品が少ない。わたしが読んだのは風見周のタイトルもそのものずばり「僕と彼女がいちゃいちゃいちゃいちゃ」、沖田雅「妖怪青春白書」、水月紗鳥「森羅万象を統べる者」くらいか。後者はやっぱり終盤にシリアスが挿入されてたけど。

 

で、その時に気づいたのが、ストーリーの体裁を保つべく*1 、ちょっとしたゲームを挟みつつイチャイチャする作品の存在。アニメにもなった新木伸の「GJ部」が代表格で、あとは入間人間多摩湖さんと黄鶏くん」、比嘉智康神明解ろーどぐらす」(前半)なんてのもあるか。

 

作中に出てくる遊びは既存のものにせよ著者が独自に考えたものにせよ、おおむね他愛ないもので、そういう意味では土橋真二郎の「OP-TICKET GAME」はこの並びに入れるには真面目にゲーム性を追求しすぎてるかな。拡大解釈して「生徒会の一存」「はがない」辺りも入れていいかも。プレイするキャラが立っていれば王様ゲームだって面白い。いや、王様ゲームだからこそ面白いのかも。リア充が合コンでやるゲームで、NTRと相性がいい、程度の情報しかなくて、その実態はわたしにはベールに包まれている。そんな魅惑のゲームを題材にして面白くないわけないじゃないですか!

 

sube4.hatenadiary.jp

 

こじらせ高校生たちの恋愛頭脳

 

かぐや様は告らせたい」も自分の中ではこの枠に入っている。腹黒ヤンデレ気味の四宮副会長。唯一、一般家庭の出だけど度を越した努力家の白銀会長。海外のアナログゲームを好み、二人の間を無自覚に引っ掻き回すゆるふわ巨乳・藤原書記。主にこの3人が生徒会室で、どっちから先にメルアドを聞くかといった日常的な駆け引きから始まって、ババ抜き、心理テスト、NGワードゲームなどの一般的なレクリエーションなども展開していく。ゲーム自体も面白いけど、それ以上にこの連中だからこそゲームに興じてる様子が面白い。セックスに際した好き合ってる男女の頓痴気な掛け合いを描いた縁山先生のエロ漫画とか近いものがあるかも。

 

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彼らのゲームに際した論理はいつもああでもないこうでもないと無駄にこねくり回したもので、空回りっぱなし。うまく伝わるかわからないけど、そういうところが「スレイヤーズ」の昔から「王道」を避けたがるラノベをアオリに持ってきた理由、とは言えるだろうか。魔術士オーフェン「はぐれ」旅、ブギーポップは笑わ「ない」、俺の妹がこんなに可愛いわけが「ない」、僕は友達が少「ない」、俺の青春ラブコメが「まちがっている。」等の題を見れば分かるように既存の価値観への懐疑*2こそがラノベの正道だ。いやまあ、あのアオリはそこまで考えてないとは思うけど。

 

内容が内容なので、ビッグ主語としての「男はどうせこういうのが好きで」「女はこういう生き物で」みたいな展開も多いけど、時に一個人としての白銀とかぐやが、軽やかにそれを裏切っていくのがいい。恋愛の駆け引きなんていう一歩間違えれば地獄にしかならない題材をギリギリのところでエンタメに仕立てている。

 

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ブコメにおける主人公以外の男キャラの悲哀

 

わたしが好きなキャラは、コミックの方では3巻目から登場する生徒会の4人目、石上会計(男)。会計としての能力は抜群だけどきわめて影が薄く、2巻まで姿を見せたことはなかった。リア充死すべしで凝り固まっていて、悪気はないんだけど絶妙にタイミングがまずく、普段は根暗なのに、ふとしたきっかけで白銀と猥談で盛り上がっているところを女子二人に見つかり、彼だけ冷たい目で見られて涙したりする。

 

特に副会長からは、読者に「東京喰種(グール)」と評される表情をよく向けられている。でもどっちかというと、ドン引きするような発言を笑い話で済ませようとしてくれる藤原書記の気遣いのほうがつらい。

 

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コミュ障なので、一度エンジンがかかると踏み込んじゃいけないところまで踏み込んじゃう。例えば白銀会長が結婚したとして、その後も友達付き合いを続けようとするんだけど、嫁さんには「あの人もう家に連れてこないで」とかゆわれてしまいそう。ラブコメの主人公以外の男キャラ、という損な役まわりを自覚しつつ頑張ってこなす姿は哀愁を誘う。「ゴールデンタイム」の二次元くんみたいな。女性作家のアレな愛情を一身に受けるタイプ。一回くらい彼が救われるがあることを切に願いたい。

 

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まだ単行本は3巻しか出ていないけど、きわめて単純なシチュエーションコメディなので、既に各々のキャラ格はある程度確定している。あとはわたしたちは、彼らが他愛ないレクリエーションに一喜一憂する様子をニヤニヤしながら眺めていればいい。

 

*1:こう表現すると悪意があるか?

*2:懐疑であって否定でないところがミソ