周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

「かぐや様は告らせたい」石上会計と、愛され非モテキャラブーム

例えば、映画公開間近、森見登美彦夜は短し歩けよ乙女」の先輩。
例えば、赤塚不二雄の漫画を原作とする「おそ松さん」の六つ子。
例えば、竹宮ゆゆこ「ゴールデンタイム」の二次元くん。
例えば、マドカマチコ「WxY」の横田先生もしくはKY☆ポコニャン先生。
例えば、ドラマでは星野源が演じた、「逃げるは恥だが役に立つ」の津崎平匡。


当人の内心としてはいたって切実な問題なんだけど、非モテを叫ぶその姿が大仰すぎるがゆえにコミカルに映ったり、あるいは自覚して道化を演じてる部分もあったりして―――オタクが大学デビューするにあたりいっそぺらいオタクとしてキャラを作るとコアな部分を隠してオタク以外の人とも案外付き合えるとか、そのくせウェーイなリア充を無意味に見下してたらしっぺ返しを喰らうとか、二次元くんの描写はいちいちクリティカル過ぎる―――そういうところがキャーカワイイーって読者に黄色い悲鳴を浴びるキャラクターたち*1。最近良く見るような気がする彼らを、愛され非モテキャラ、とわたしは勝手に呼んでる。


 ※つばさ文庫版『夜は短し歩けよ乙女』の表紙はなかなかkawaiiけど、乙女が大学生には見えない……


10年前に「電車男」が大ブームになった時、本田透は「オタクを恋愛資本主義に引きずり込もうとしてる」みたいな批判をしてて、あれは広告代理店やマスメディアとも絡んだ、無垢(笑)なオタクを自分好みの男に改造しようっていう逆光源氏計画的な匂いが気に入らんかったのかなと思う。



関係有るようなないような話だけど。女性作家は教養小説が好きで、ラノベや漫画で冴えない男がウハウハする話を描く場合でも、何かと主人公の「成長」を入れたがるっていう肌感覚はある。「政宗くんのリベンジ」の竹岡葉月が書いた「SH@PPLE」とかね。



でも最初に挙げたキャラの場合もうちょっとカジュアルというか、「非モテ」っていうキャラづけ自体がよさに繋がってるフシがある。恋愛資本主義っていうか非モテ資本主義? それぞれの作品、キャラクターが受けた理由は各々別だろうけど。既に死語になった感がある「だめんず」ともまたちょっと違う。太宰とかなんだかんだで女出入りが絶えなかったわけだし。


女性キャラでそういうのがいないかっていうと、「僕は友達が少ない」でちょっと話題になった「残念系美少女」とか近いのかなと思うけど。女性キャラの場合「彼氏欲しい気がする」「処女捨てたい」よりもうちょっと進んで進んで「結婚したい」になる傾向がある。気がする。


私が現在愛され非モテキャラとしてイチ推しなのは、「かぐや様は告らせたい!」の石上会計。リア充死すべしで凝り固まっていて、スイッチが入ると溜めてたものが爆発する。


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主人公・白銀生徒会長が不登校だったのを救ってくれたため恩義を感じていて、副会長のかぐや様との恋をサポートしようとしたりもするんだけど、正論ばかり言う、絶望的に空気が読めない、気軽に地雷を踏んでしまうなど何かと損な役回り。


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コミュ障なので、一度エンジンがかかると踏み込んじゃいけないところまで踏み込んじゃう。悪気はないんだけど絶妙にタイミングがまずく、普段は根暗なのに、ふとしたきっかけで白銀と猥談で盛り上がっているところを女子二人に見つかり、彼だけ冷たい目で見られて涙したりする。特にメインヒロインのかぐや様からは、読者に「東京喰種(グール)」と評される表情をよく向けられている。でもどっちかというと、ドン引きするような発言を笑い話で済ませようとしてくれる藤原書記の気遣いのほうがつらい。


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例えば白銀会長が結婚したとして、その後も友達付き合いを続けようとするんだけど、嫁さんには「あの人もう家に連れてこないで」とかゆわれてしまいそう。ラブコメの主人公以外の男キャラ、という損な役まわりを自覚しつつ頑張ってこなす姿は哀愁を誘う。女性作家のアレな愛情を一身に受けるタイプ。多分アニメ化されたら神谷浩史辺りが演じることになって、女性ファンが急増するはず……! 一回くらい彼が救われる回があることを切に願いたい。


*1:なお黄色い悲鳴をあげるのは女性に限りません