周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

「TVアニメゆるキャン△ 公式ガイドブック 野外活動記録」を読んだ備忘録

声優、スタッフ、そしてほとんど表に出てこない原作のあfろ先生も含めて、対談やインタビューなど貴重な証言がたくさん掲載されてたので、覚書。

佐々木睦美(キャラクターデザイン):動きでは育ちの良さを意識しました。ドリンクを飲むときも手を添えるし、座るときはスカートでもパンツスタイルでも内股で座る女の子らしさがあります。


志摩リンについて。この手の作品のキャラって基本的に育ちは良いよね。子供だけでキャンプしたいという願いに理解がある寛容さもそれっぽい*1。「女の子らしさ」という点では、なでしこに「焚き火で乾燥してるから」と化粧水を貸してあげるシーンが好きです。

あfろ(原作):初めはリンの友達キャラとして少し出てくるだけのキャラだったんですが、担当さんの推しキャラだったため途中からメインキャラにしようという事になりました。他のメインキャラの名字が地名なのに恵那だけ名字が地名じゃないのはそういう理由です。(…)

京極義昭(監督):(…)「ゆるキャン△」の中では斉藤さんが一番手強いですよ(笑) なんだか手のひらで転がされそうな気がする。僕と原作担当編集の黒田さんは、彼女のそういったところが気に入っています。(…)


関係者にファンが多そうな斉藤さん。あの独特の距離感は元々あまり登場する予定がなかったからなのか……。少し出てくるだけの友達キャラとしてはいきなりリンちゃんの髪いじってたり存在感めっちゃ強いけど、どの辺りでアニメメインビジュアルの内一人になるほどにしようと決めたんだろう。

高橋李依斉藤恵那役):(…)第2話の台本を見返してみたら、当時の私はものすごい量の書き込みをしていたいんですよ。それも「考えないようにする」ためのメモなんですね。たとえば、斉藤さんが図書室でリンに「あの子たちが気になるの?」と声をかけるシーンがありますが、ここでセリフの意図を考えたり、斉藤さんの気持ちを考えたりすると過剰な感情が出てきてしまうんので、メモで「教えて~」とだけ書いてあるんです。小学生みたいなメモなんですけど……(笑)


過剰な感情。斉藤さんの言葉に他意はない。分かるか?

京極義昭(監督):(…)僕の中で「ゆるキャン△」らしいキャラの距離感だなと思ったのが、部室でしゃべっているときに、千明が「へー。今週はしまりんとキャンプ行くのか」と言うシーン。サラッと言って、そこで終わりなんですね。これは原作で読んだ時に驚きました。野クルに入っているのに、他の人とキャンプに行くということに、どの子もわだかまりがない。なでしこがリンと行ってもいいし、野クルで行ってもいいみたいな、絶妙な距離感。(…)

原紗友里(大垣千明役):私としては、このシーンが仲よくなる転機というのはあまり意識していなかったですね。この作品はいわゆる友情ものとかではないので、千明とリンに関しても「最初は苦手同士だったけど、友情を分かち合った!」みたいなシーンは要らないのかなと思っていました。自然と仲よくなっていった感じになればいいのかなと思っていて……(…)


大垣とリンちゃんの距離感のなにがすごいってさ、なでしことリンちゃんが知り合いで、大垣とイヌ子はリンちゃんとは知り合いの知り合いくらいの間柄だっていうなら分かるんだけど、没交渉だったとしても付き合いはむしろなでリンより長いわけじゃないですか。しかも一度野クルへの合流を断ってるわけじゃないですかリンちゃん。それでわだかまりが全くないのが寛容だなって。で、原さんのコメントは「大垣千明……こいつ苦手なんだよな……」がソロキャンで助けてもらってちょっと変わっていくことについてのものなわけですが、特にわだかまりがあったわけじゃないからこそ自然と仲良くいったんだろうなって。

佐々木睦美(キャラクターデザイン):(…)冬の物語だったので、ダウンジャケットのモコモコした膨らみを意識して、そこからスラッと足が出る、女の子の冬服の可愛さを出せたらと思いました。

京極義昭(監督):(…)参考として毎回先生から服装の設定をいただくのですが、よく見るとマフラーやアウターなど、一部分が他のキャンプ服と同じになっている。つまり、キャラクターが着回しをしているんです。そのあたり、女子高生のリアルですよね。毎回全部上から下まで変えるような量の服を持っているわけありませんから。(…)


女児向けアニメなんかだと毎回服を変えるのが正義みたいなところあるけど、それ以外の選択肢もあると。女子高生のリアルかどうかは分からないけど。しかし着回ししても違和感ないコーディネイトって逆に難度高そう……。

京極義昭(監督):特殊効果を入れるとディティールはアップするのですが、キャラクターと絵の質感が変わってしまいます。つまり極端に言うと、料理とキャラクターが同じ世界にいるように見えなくなってしまう可能性があるんです。もちろん作品のスタイルによりますが、『ゆるキャン』では料理単体の見栄えだけではなく、料理を食べるキャラの表情や芝居を通して美味しさを伝えたいと思っていました。ですから、“キャラが実際に手にとって口に運べる”料理を表現するために、あえて特殊効果を入れずキャラと質感を合わせています。


今どきはセルの絵にグラデなんかの特殊効果を促すことが一般的だとこの作品ではやってないよね、と聞かれて。実は私、アニメの坦々餃子鍋とかそれ単体ではあまり美味しそうに見えなかったんですよね。色合いが。それはこういう理由だったのかと。確かに他のアニメでは特殊効果入れすぎてギンギラギンになっちゃってることもあるけど……

佐々木睦美(キャラクターデザイン):あfろ先生はコマを描く時にけっこう広角で撮ったり、面白いカメラを使ったりしています。これは私の想像ですが、監督はアニメの方では画面づくりとして日常の自然さを出すために、あまり魚眼は使わずに平面的に撮っているようにしていたと思います。マンガで読むとそこはすごく目を見張るシーンになるのですが、アニメーションはどうしてもムービーなので……(…)


レイアウトで意識している点を聞かれて。これ、アニメから遡って原作読んでそれからアニメ観るとどうしても物足りないなと思ってしまう最大の要因なんだよな。っていうかそういうのって二期がえてして盛り上がらない理由でもあるよな。「ゆるキャン△」二期はすっかり原作信者と化した私を満足させることができるのか。厳しくいくぞよ!

佐々木睦美(キャラクターデザイン):(…)最終話のアバンで10年後の妄想話がありますが、原作のその場面には斉藤さんがいなかったので、あfろ先生がラフを下さったんです。(…)


ストーリーを改変するために原作者の意見をうかがうっていうのはまああると思うんだけど、ありえたかもしれない斉藤さん。原作ではありえない斉藤さん。

佐々木睦美(キャラクターデザイン):単体のときはいつもの感じでいいのですが、2人3人になるとキャラクターがちょっとくっつき気味なラフが上がってくることがあるんです。そういうときでもきちんと原作通りのスタンスである、お互いの距離感を守っている感じや、5人の関係値を崩さないようにしています。「手を繋ぐのではなく、ちょっと触れ合うくらいで勘弁してください」みたいな感じにはしますね。


版権イラストなどでの話。手は繋がないけど髪はさわりますって冷静に考えたらなんだそれは。

豊崎愛生(犬山あおい役):(…)実は5月にふもとっぱらに行ったんですが、その日はめっちゃ雨が降っていて最悪でした(笑)雨が降るとキャンプの楽しさは本当に半減するんですよ。「雨の日は雨の日のよさが……」なんて言っていられない!(…)


原作でも雨や雪の中でのキャンプっていうシチュエーションはまだやってないんですよね。アニメのエンディングではまだやってないから逆にここでやろうってことになってたけど。不便さや失敗も楽しいけれど危険はあぶないよっていう線引は原作でされてて、さてそうなると「雨」や「雪」はどう描かれるのだろう。

終わりに


ちょっとへーってなったのは、「原作でもアルバイト先が出てこなかったので、「本が好きだから書店はどうですか?」と監督らの方からあfろ先生に提案して、採用された」というエピソード。読み返してみると、リンちゃんのバイト先が書店だと判明するのって原作だとかなり遅くてクリキャン後なんですよね。アニメと記憶がごっちゃになっていた。そんな感じで、あfろ先生と製作サイドの連携がうかがえるガイドブックでした。


*1:さすがに誇張はされているけれど