周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

魔術士オーフェンはぐれ旅 第二話「牙の塔」 魔術士が魔術の訓練をすることに驚く原作読者たち

現在:エバーラスティン家


他の魔術士たちから怪物を救ったオーフェン。しかし皮肉にもそのことが《彼女》の注意を彼に向けさせる。

「あれは――」
オーフェンが)言いかけた刹那、怪物が頭をもたげ、(天井に向かい)――吠えた。
犬の遠吠えのような、なんのことはない、ただの遠吠えのように聞こえた。だがその声が響き渡り、辺りを湿らせるように満ち渡ったときには――(部屋の中は炎であふれ返っていた。)

()内はアニメで削られた・修正された部分です。


炎が放たれた。「我は紡ぐ光輪の鎧!」オーフェンは咄嗟に魔術で防御し、「我退けるじゃじゃ馬の舞!」炎を霧散させる。そんな様子を尻目に、《彼女》は剣をつまんで飛び去っていく。「逃げないでくれ、アザリー!」オーフェンの懇願も届かない。羽ばたく姿が遠くなっていく。呆然と立ち尽くすオーフェンに、チャイルドマンが悠々と歩み寄ってくる……。鉄面皮と評されるチャイルドマンだけど、このアニメでは穏やかな顔立ちで、不思議系美少女のようなぽーっとした表情をしていることが多い。

五年前:《牙の塔》訓練場

それらはすべて遠い記憶だったようだが、冷静に思えば、それほどの年月が経ったわけではなかった――だが、確かに彼自身にとってみれば、ひどく長い時間だった。ひかえめに言っても彼は、じれったかったかに違いなかった。
夢の中でさえ、彼は焦がれていた――

それは遠い記憶だったようだがが、それほど年月が経ったわけではなかった。
大陸北西部にある《牙の塔》。そこは、最強の魔術士の養成所であった。その中でも、チャイルドマン教室では卓越した才能を持つ者達が集められていた。

原型留めてないので両方載せます。原作のこのくだりはオーフェンが今もどれだけアザリーを慕っているか語っているのですが、アニメでは回想の導入にしかなっていません。


広い訓練場では、チャイルドマン教師を六人の生徒が取り囲んでいた。「光よ!」ハーティアの、「雷よ!」そしてレティシャの魔術を、最強の術者はあっさり防いでみせる。「コルゴンは?」その場にいないチャイルドマン教室最後の一人について聞く。「屋根裏部屋で本を読んでいましたが……」最年長のフォルテが答える。「《塔》にはいたのか」「珍しいわね」「あの放浪癖には困ったものだ。せめて室長の私にはどこへ行くかちゃんと届けてほしいね」


では次は、と名指しを受けたフォルテは訓練を辞退。コミクロンの番となった。「コンビネーション2-7-5……!」回転する疑似球電が今にも放たれようとしたその時。「波紋よ」アザリーが横合いから邪魔をする。魔術は暴発。コミクロンは吹っ飛ばされ、黒焦げに。アザリーがちょっかいを出して下級生がひどい目に合うのはプレ編では日常茶飯事とは言え、後の展開のことを思うとなんともいえない感情が湧いてくる


「どう? 盛り上がったでしょ?」悪びれないアザリー。訓練中にふざける義妹をティッシが咎めないのは違和感があった。魔術は容易に暴発する。だから魔術士は絶対に自制しなければならないし、そのために訓練は何より大切なものだ、という彼女はどこにいったのか。


「遊んでるわけじゃないぞ」「分かってます……光よ!」ティッシの代わりに、というわけでもないだろうが、叱責したチャイルドマンを魔女の光熱波が襲う。チャイルドマンはこれも防御。《塔》内でも最大の魔力を持つ《天魔の魔女》と大陸でも最強の術士の魔術がぶつかり合う。《塔》全体を揺るがす轟音にざわつく魔術士たち。その中には苦い顔をするウオール・カーレン教師の姿もあった。


このパートはまるっきりアニメオリジナル。原作では魔術の練習が直接描かれる機会は皆無に等しく、素手の組手ばかりやっていた。訓練の様子を見せるよりはチャイルドマン教室メンバーの紹介が主眼なんだろう。しかしそれにしても、棒立ちで魔術を撃ち先生がそれを防ぐだけ、という絵面はなんとも眠たい。同じ生徒の紹介を目的としたパートでも、舞台版はそれぞれの個性が視覚的に分かる組手をやってたのだけど……。

五年前:《牙の塔》内教室


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チャイルドマン教室で、アザリーの吹くハーモニカの音色*1が響いている。思いつきで何かを始めてはほっぽりだすのは彼女の悪い癖だが、今回は「声で魔法を構成することができるんだから音でも出来ないかなーと思って」というのが言い分らしい。その脇には運動着姿の女子の写真――原作プレ編「馬に蹴られて死んじまえ!」に登場するキャロル・スターシアだ――を見て「散々気のある振りしといて……」とため息をつくハーティアと、訓練で本気を出しすぎたアザリーの始末書を代筆させられているキリランシェロの姿。訓練中に使用した魔術で、特に施設を破壊したようにも見えないのに始末書とはこれいかに


ティッシのローブの腕には風紀委員の腕章があった。チャイルドマン教室は能力はすごいけど問題児ばかりで騒ぎを起こす。ただでさえエリートということで他の教室から目の敵にされてるのに……。彼女はこの現状を憂い、同窓生の軽挙妄動を取り締まるのだという。誇らしげなティッシは、しかし自分のヒステリーが騒動にひと役買っていることを棚に上げている。「また僕がとばっちり喰らうじゃないか……」キリランシェロは嘆息する。


その時、横から入ってきたのはコミクロン。後ろには彼が開発したガラク……人造人間を連れている*2。コミクロンのいつもの「発明品」だ。また一つ騒ぎの種が増えたわけだ……。キリランシェロは机に立てかけてあった金属バットで、即座にガラクタを破壊する。今日もチャイルドマン教室は平和だった。

現在:トトカンタ市警の牢屋


目覚めると、そこは牢屋だった。オーフェンの横には礼服を着たままの地人兄弟。彼らは結婚詐欺や騒乱罪でここにぶちこまれたのだった。


ボルカンは《怪物》について説明を求める。オーフェンは仕方なしに語りだした。「大抵の子供ってのは自分のことを可愛がってくれる年上の女に憧れるものなんだよ」ティッシとアザリーと自分、三人で《牙の塔》に入門したこと。彼女たちは家族のような存在であったこと。《塔》の大半の生徒は孤児であること、大人になるまでの生存率は一割にも満たないのだから、まともな親ならそんなところに我が子を入れるわけがないこと。アザリーが魔術の実験であの姿になったこと。彼女を探す旅に出て、あきらめかけた頃にトトカンタにたどり着いたこと――。


オーフェンが過去を吐露するのは実は稀なことで、この後一緒に旅に出ることになるマジクやクリーオウも彼の過去はほとんど知らない。それだけ地人たちが近しい存在なのだ……というわけではなくむしろその逆。借金以外に繋がりのない関係だからこそ気安く話すことが出来たのだろう。


「だが、彼女の使った魔術が分からなければ、俺にはどうすることもできない」話し終えた時、牢に訪問者が現れる。ハーティアだ。五年ぶりに会った友人は、オーフェンを大陸魔術士同盟トトカンタ支部に連れていく。そこで待っていたのはチャイルドマンだった。

五年前:《牙の塔》


「先生、やっと回復したんだ」ハーティアの言葉に、オーフェンの意識は再び五年前へ。アザリー失踪後、眠りについたままのチャイルドマンを尻目に、彼はアザリーの葬儀に出ていた。


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その場を取り仕切っているのはウオール・カーレン。ティッシは義妹の遺影を抱えている*3。《塔》は魔術の実験に失敗したアザリーを汚点としてなかったことにするつもりなのだ。空の棺を埋葬しようとする、形骸の葬式に憤慨するキリランシェロ。ハーティアが止めようとする。「お前は《塔》のエリートなんだ! この前も首席を取ったし……」「黙れよハーティア! 僕が首席なのは、アザリーが試験を受けてないからだ! 試験なんか意味ないって――」そしてオーフェンは決意を口にする。「僕は彼女を探し出す、何年かかろうともだ!」「それまで僕はオーフェン、孤児だ!」「彼女の他には誰もいない、孤児だ!」


原作では特に印象深い「オーフェン」誕生の場面だが、葬儀に参列する人物が微妙に異なっている。まずチャイルドマンがウオール・カーレンに置き換わった。葬儀の前には昏睡しているチャイルドマンの横顔をじっと見て思いつめた表情をしている彼を映すことで、原作ではチャイルドマンに反抗したことで旅立つことになったのが、「先生が眠っているなら俺がやらねば誰がやる」という感じに。原作ではショックを受けて葬儀に出なかったと明言しているティッシ、あとフォルテやコルゴンまでいるのは理由がよく分からない。Aパートのプレ編パートと同じ面子を揃えることで、騒々しいながら楽しい日常と対比させたかったのだろうか。


それとキリランシェロが首席なのはアザリーが試験を受けていないからというのは、キリランシェロが最エリートであることアザリーの奔放さを強調したかった? 原作では《塔》における「首席」は世代別に選ばれていたが、今作は違うらしい。これにより同世代のライバルとしてのハーティアの立ち位置が揺らぐことに。ブラックタイガーは存在から抹消されたしね。でもまあ、あいつは前作で散々いじられたんだからいいんじゃないでしょうか。

現在:魔術士同盟トトカンタ支部


チャイルドマンは語る。《バルトアンデルスの剣》の実験でアザリーは怪物の姿になり、自分は昏睡。それが五年経って自分が目覚めたのと同じく彼女も覚醒した。だが今の彼女に人間だった頃の記憶と意識はなく、あるのは元の姿に戻りたいという衝動的な本能だけだろうと。また《剣》がエバーラスティン家にあったのは、昏睡する直前にチャイルドマンがフォルテに指示したからだという。他の誰にも利用されないために。


彼はトトカンタに訪れてすぐエバーラスティン家に忍び込び、《剣》に魔術の印を刻んだ*4。チャイルドマンには、逃げたアザリーの居場所がわかる。白魔術という切り札を持つアザリーに対抗するため、彼はオーフェンを討伐隊に勧誘する。いずれにせよ、オーフェンが再びアザリーに会うためには師についていくしかなかった。

現在:バグアップズ・イン


自分の部屋で荷造りをするオーフェン。昼食だと呼びに来たマジクに、オーフェンは別れを告げる。「戻ってこられるかわからない」「時間が動き出したんだ、止まっていた時間が」「お前にもいつかそういう時が来る、必ずな」。マジクの止まっていた時間が動き出す……第四部かな?

現在:エバーラスティン家


「我は癒やす斜陽の傷跡」オーフェンはアザリーが壊した倉庫を魔術で修理していた。お礼を言うクリーオウに、冗談半分で「代金払ってもらえると溜め込んだ宿代払えるんだがなあ」と言ったところ、彼女は自分がつけていた指輪を差し出す。聞くとこの指輪もまたフォルテがこの家に持ち込んだものだという。義姉が身につけていたものが義父*5の手に渡りそれが未来の嫁に相続され、最終的にはオーフェンのところに……ってなんとも因縁深い。


指輪に刻まれた、古代の魔術士の魔術文字《ウィルドグラフ》を見てはっとするオーフェン。それは見覚えのあるものだった。アザリーが教えてくれたのだ。刻まれた文字の意味は「武器よ落とせ」。使用者を一度だけ危険守ってくるのだと。「もっとも、私だと小指にしか入らない。きっと華奢で綺麗な手をしたお嬢様のために作られたものなんでしょうね」「僕はアザリーの手もきれいだと思うよ」*6「あら、うれしい。ありがとうキリランシェロ」そう言うアザリーの笑顔は今も瞼の裏に焼きついている。


怪物にアザリーと呼びかけていたことを聞きたがるクリーオウだが、オーフェンは「彼女は怪物じゃない」以上のことを語らない。「彼女が抹殺される前に奴らを出し抜き、一緒に逃げる」「俺は、彼女を守る」そう言い残して、屋敷を去っていく。

現在:トトカンタ外縁部


夕刻、オーフェンはチャイルドマンの討伐隊に合流する。「お前が先陣を切るんだ。お前なら死んでも始末書を書く必要がないからな」必要なことだけ言って、チャイルドマンは出発する。他のメンバーも続く中で、一人だけ近寄ってくる男がいた。「来たんだな、キリランシェロ」それはあのコミクロンだった。三編みおさげを切ってはいるが、面影が残っている。「コミクロン……」思わず昔のような口調でその名を呼びながら、彼に返す言葉はなかった。


「お前なら始末書を書く必要はない」はオーフェン視点の地の文で「チャイルドマンにしては珍しく冗談じみたことを口にした」と書かれている。それもそのはず彼はチャイルドマンではないのだから。これに、今回プレ編から持ってきたパートで始末書の常連だったのは誰かを考えると、答えはおのずと見えてくる。ここはうまい改変だと思った。


*1:抜けた音が良かった

*2:その外観はメタリックカラーで妙にロボロボしていて、コミクロンの手作り感は見られないこれは舞台版のハリボテの方がイメージに合っていた

*3:この遺影のアザリーの表情がなんとも絶妙で、絶対に笑ってはいけないアザリーの葬式」という感じ

*4:これは人間の黒魔術としてはオーバーテクノロジーもいいところだが、天人の遺産でも使ったのだろうか

*5:クリーオウの父親であるエキントラのこと

*6:舞台版にもあった台詞だ