周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

舞台オーフェン第二弾「牙の塔編」 多少の解釈違いを越える「生」の強さ

八月に新宿村LIVEで上演された第一弾から三ヶ月後。舞台オーフェン第二弾は、品川六行会ホールで十一月に上演された。ライブハウスっぽかった新宿村LIVEと違って、そふぃすてぃけーとされた会場だった。


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ホール入口から入場口まで並べられたフラスタ


いわゆる「解釈違い」がなかったとは言えない。だが「生」で観て肌で実感する物語の力は前回同様かそれ以上に強く、多少の違和感は吹っ飛んでしまう。終わってすぐに是非とも第三弾キムラック編を観たいと思わせる舞台だった。2.5次元劇の現在の隆盛がなければ、今回の舞台も恐らく実現しなかっただろう。そう考えると、2019年というこの年まで作品を追い続けていてよかった。

足し算の第一弾から引き算の第二弾へ


夏の第一弾は原作ファンから大絶賛を浴びた。理由は、一つには原作第一巻『我が呼び声に応えよ獣』と過去外伝「プレ編」をうまく絡めてくれたというのが挙げられる。


当初、シリーズ化の予定などなく読み切りのつもりで書かれた「獣」は、とてもシンプルなストーリーだ。完成度は高いものの、二巻目以降に積み重ねられていったキャラクターの背景や世界設定が反映されておらず、シリーズのファンとしてはなかなか歯がゆいところもある。舞台版は発表順では後の「プレ編」のエピソードをうまく盛り込むことで、クライマックスの感動を高めていた。


sube4.hatenadiary.jp


今回は原作五、六巻『我が過去を消せ暗殺者』『我が塔に来たれ後継者』を舞台化している。これはオーフェンが学生時代を過ごしたタフレム市で、過去と向き合うエピソード。


アザリーの再登場という意味でも「獣」とは直接繋がっていることだし、この選択自体は納得がいく。ただしすっ飛ばした二~四巻の間に作品世界はぐんぐん拡張されていったし、新キャラも加入した。その間に増えた独自用語の説明もしなきゃらならないし、世界書や世界図塔といった後々の伏線としての意味合いのほうが強い割に、それ抜きではお話が成り立たない設定をどう扱うか……。


足し算で成り立ってた第一弾に対し、今回は引き算でいかに未読の人にも分かりやすく伝えるかがポイントだった。


魔術士オーフェンはぐれ旅 新装版3 (TOブックスラノベ)

魔術士オーフェンはぐれ旅 新装版3 (TOブックスラノベ)

  • 作者:秋田禎信
  • 出版社/メーカー: TOブックス
  • 発売日: 2012/10/13
  • メディア: Kindle


チャイルドマン教室とウオール教室の抗争の中で、オーフェンは過去の自分と対峙し、アザリーやフォルテは暗躍。仲間の背中を見るティッシは独り取り残されていることに苦しむ。説明は極力必要最小限に。元々原作からして舌を噛みそうな用語が多いこともあってなかなか「これちゃんと伝わってるかな……大丈夫かな……」という部分も散見されたけど、筋を楽しむ分には問題なかったとは思う。

チャイルドマン教室VSウオール教室の抗争 ド迫力の殺陣


原作を駆け足でなぞっただけの舞台なのか、というとそうでもない。今回の最大の見所は魔術を絡めた格闘戦だ。特に「後継者」の終盤は原作ではいまいち前線に立ってる印象が薄いフォルテがダブルロングソードで鬼神のような無双。そして彼とアザリーのコンビネーションプレイなど見所たっぷり。殺陣の指導もフォルテ役の小栗諒さんが請け負ったらしい。しなかやかで華麗なアザリー、パワーイスジャスティスのフォルテ、基本的に敵の攻撃は大体喰らう泥臭さ全開のオーフェンと、それぞれのキャラクターがよく出てた。


迎え撃つウオール教室の面々はアクロバットプレイがとてもお上手で、彼らの死に様がチャイルドマン教室の強さを際立たせている。ウオール教師は原作では強キャラの素振りを見せておきながらあっさりおっちんだのだけど、舞台版で彼を演じる末野卓磨さんは風格たっぷり。オーフェンをネックハンギングツリーで苦しめ、オリジナルの呪文まで披露。えっウオールが魔術使った!? 原作だと使ってないよな!? 突然だったからなんて言ったか聞き取れなかったあー次で聞き取らなきゃ―! ってはしゃいでた我々です。


あの世界ではどういった呪文を使うかがアイデンティティみたいなところがあるので、とてもうれしいサプライズでした。今回、ウオール教室のキャラがめちゃめちゃ立ってるのでスピンオフ小説を読みたくなった。タイトルは「暗殺教室」で


暗殺教室 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

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またキリランシェロの二人一役疑似空間転移考えた人にアイディア賞をあげたい。フードで顔を隠した正面のキリランシェロAが退場すると、オーフェンたちの後ろの袖の方からもう一人のフード男キリランシェロBがさっと現れる。こう書くとめっちゃ単純な仕組みなんだけど、原作の魔術を物理的手段でなんとか再現しようという意気込みがうれしかった。これは……多面的魔術理論……


個別のキャラ、役者さんについて

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壇上を支配していたのは、なんといってもアザリーを演じる花奈澪さんだろう。あまりに、あまりに圧倒的。旧アニメのベストアクレトレスは篠原恵美だとゆって憚らない私ですが、花奈澪さんのアザリーはそれに勝るとも劣らない存在感。第一弾からさらに立ち姿がお美しくなっていた。主人公氏がアザリーを「きれいな人」と表現したの、舞台版を観た今なら納得できる。立ち居振る舞いとかもひっくるめて「きれい」なんだよな舞台版。


特に今回の舞台だと「おっかえりなさ~い」だっけ? 妙に軽い口調で。あのアザリーが、ティッシの病室に長いこといたオーフェン(キリランシェロ)をティッシの屋敷で出迎えてそれ、というのが悪趣味全開でアザリーそのものという感じで大好き。


結構ツメツメの構成でみんな早口でわけてもアザリーが一番なんだけど、あの口調がさらに彼女の圧を強めている気がする。上司に持ったら胃が死にそう。席で言うならアザリー目当てなら前のほう、というか下のほうがいいかも。これは完全に好みの話なんですけど、なんというか、仰ぎ見たいキャラっているじゃないですか(?


次は松岡ななせさん演じるパット。原作読んでても印象が薄い人が多いんじゃないでしょうか。ティッシの生徒の女児なんですが、実は彼女が登場するたびにうるっときてました。コミクロンは不遇キャラだけど、不遇キャラとして大人気じゃないですか。しかし、パットは 第四部のパットは!! どういうことなんだよ秋田って詰め寄りたくなる不遇ぶりがさ、ほんとにさ、そんなところに松岡パットがスーッときいて……


彼女の兄ティフィス(田中宏輝さん)の女顔に痩せ型という体型はもちろんもう一人のマジクってことだったんだろうけど、舞台版だとなんだか肉付きよくて結構健康的になってて、パットとの絡みも含めて、これならこいつら今後も大丈夫では、という希望を抱かせるものがあった。


千歳ゆうさんのテイッシは原作舞台共に今回の主役、といっていいポジションなんだけど能力の高さに比べて驚くほど活躍しない(この場合の「活躍しない」は主に戦闘シーンにかかってるのであり、彼女の魅力というのは発揮されてますよもちろん。というか不憫さも魅力ではある)。前回プレ編の元気に風紀を守る姿を観てる分(原作ではプレ編での登場は今回舞台相当分の後です)、それがより強く印象付けられる。ティフィスが微妙にいい奴になってたのが彼女の救いになることを願う。


天音みほさん演じるクリーオウは前回に引き続きカワイイの3乗。2019年らしく? スキニージーンズ履いた足の華奢さが、この子ってそういえば昔病弱って設定だったなと思わせる。唯一の心残りはあの戦闘服姿を見られなかったことなのです……(原作だとオーフェンが寝込み襲われるときと塔に侵入する時に着てる


クリちゃんが連れてるレキはどう見てもただのぬいぐるみで、喋るどころか鳴きもほぼしないという思いきりのよさ。周囲の人間がそのように振る舞えば結構生き物に見えるなあとも。一種のパントマイムだよね。でもそのことによってナントカに刃物の「刃物」感が一層。レキ本人(?)の自我が問題になってくるのはもう少し先のことだから、あれはあれで正解だろう。


マジク役の奥井那我人さんは、アフタートークでの姿は第四部のマジクおじさんを彷彿とさせるものがあった。第一弾でのマジクのアドリブ、今回の魔術の初(舞台では)披露を踏まえてのことだったのかな。


主人公氏とティッシの(例のシーン)の後、飛び込んできたマジクにしれっと対応する姉を見てオーフェンは「女は怖い……」とゆってましたが、私はどっちかというとオーフェンとマジクがああだこうだゆってる最中微動だにしないティッシのほうが怖かったです。原作は小説という媒体だから言及されないキャラクターはその場にいても何やってるかわからない。そういう行間の解釈も舞台の楽しさの一つだった


チェキ会、自撮り、舞台裏


この舞台は、緞帳が降りた後も楽しませてくれた。チェキ会では直接感想を言う機会に恵まれている。舞台俳優さんと、以前にそもそもチェキを撮るという文化そのものが、2、3年前の私には考えられなかった。それがアイドル現場に通ったりする内にそんな心理的ハードルは消え失せてしまった。なんでも経験しておくものだ。……しかし、今考えると昼夜二公演でその合間に行われる場合、公演と公演の間にチェキ撮ってもらうの、すごい贅沢に役者様の時間をいただいている気がするな……


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オーフェン役の松本慎也さんにはただ感謝の言葉を伝えようと思っただけなのに、気がついたら寸打の表現難しかったでしょうなどと早口で語っていた。それに擬似空間転移も数mの移動をどう伝えるのか難しくてみんなで考えたんですよ、と返してくれる人柄の良さ。例のポーズ取った時「あ、それだと顔が隠れちゃいますよ」ってゆってくれるし。


花奈さんはチェキルームから楽屋に帰る時、オタクに両手を振ってさよならしてくれた。アザリーが! 両手で! 俺に! 手を! そんなアザリーいるか? ここにいた。福利厚生が行き届きすぎていてしぬ。しんだ。クリーオウ役の天音さんとは日程が合わずチェキが撮れなかったのが残念。


感想戦した某さんとは「地人兄弟のチェキはスリーショットがよかったんですよね」「間に挟まれたいですよね」「それな」というような会話をした。


twitterでは演者の人が日々自撮りをあげてくれる。原作で縁のあったキャラなかったキャラ敵味方が入り乱れ趣向を凝らしたツーショットスリーショットを撮っている様子が面白かったし、自分の愛着深い作品で演者さんたちが「遊んで」いるのはうれしかった。宣伝目的だとしても舞台を盛り上げようとするその貪欲さは好ましく映った。


togetter.com


演者さんたちのファンの熱量もすごかった。みんな隙あらば全通狙ってくる姿勢にはひたすらに頭が下がる。この舞台が成り立ったのは間違いなく彼ら彼女らのお陰だ。


フラスタもどれも工夫に富んでいた。オーフェン言うところの「天地開闢以来の最大の悪趣味」が見事にフラスタになってるヴィンビ役高岡裕貴さんのフラスタ始め、どれも圧倒させられた。実は私も企画してたんですが、紆余曲折の末に挫折してしまって……。次があったら絶対やろう。

キムラックへ

花奈さんが終了後にブログに書いた文章には泣かされてしまった。


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この文章の最後で、原作を読んだ人なら分かる形でタイトルの伏線をさらっと回収してるのがすごい。この人は本当に、一足先にキムラックにたどり着いてるのだ、と思わされた。


獣+αの第一弾が1時間45分、暗殺者後継者の第二弾が2時間10分だから、「血涙」「背約者」を舞台化するなら、休憩挟んで3時間でも足りるかどうか怪しい。さらにアレは設定語りの面白さがかなりの部分を占めるので過去の二篇よりも舞台化して面白くするハードルは上がるだろう。


だが、アザリーが待ってると言うなら行かないわけにはいかない。なんとかたどり着きたい。そう思って事後物販開始した後に追い物販したりもしたけど、まだまだ足りない気がする。今回の舞台に関わった人に報いたい。まだ何か私にできることがあったら、誰か教えてほしい。


【合本版1-10巻】魔術士オーフェンはぐれ旅 新装版 (TOブックスラノベ)

【合本版1-10巻】魔術士オーフェンはぐれ旅 新装版 (TOブックスラノベ)

  • 作者:秋田禎信
  • 出版社/メーカー: TOブックス
  • 発売日: 2015/03/20
  • メディア: Kindle