周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

ゼルガディス=グレイワーズ 魂の遍歴

以前から疑問だったのだが、ゼルとリナはなぜ別れたのだろうか。


いや、待ってほしい。私の頭は正常だ。二次創作の話でもない。確かにゼルとリナは付き合ってない。しかし私が原作小説の話をしようとしているのも本当なんだ。

「――ガウリイ!」
あたしの呼びかけに、ななめ後ろから、聞き覚えのある声がした。
「予想を外してすまんが――俺だ」
「ゼルガディス!」


私が「スレイヤーズ」で一番最初に好きになったキャラクターがゼルガディスだった。少年漫画の主人公っぽいヘアスタイル(キャプテン翼時代並の発想)、剣も黒魔術も精霊魔術も使える魔法剣士(器用貧乏ともいう)、作中随一の常識人(にしていじられキャラ)。まあ好きにならないわけはなかったよね。

リナとの出会い


ゼルガディス=グレイワーズは(邪妖精と岩人形を合成した)改造人間である。彼を改造した赤法師レゾは善人ヅラしているが、自身の盲目を治療するため人体実験を繰り返す悪の賢者である。ゼルは自分の自由のためにレゾから賢者の石を奪うのだ!! 


……そんな時に、彼はリナ、ガウリイと出会った。最初は敵として。後にレゾに対抗するため共同戦線を張る。最終的には、賢者の石によって魔王ジャブラニグドゥとして目覚めたレゾを倒した。


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ゼルの片手での握手をわざわざ両手でぎゅっと握りしめるリナ。そういうとこだぞ


ゼルにとってレゾは自分を好き勝手改造した憎むべき相手だが、同時に血の繋がりがある親族で、なんともいわく言いがたい感情を持っていた。いつか自分が倒したいと思っていたレゾが魔王になってしまって、ゼルはどう感じたのか。レゾ=ジャブラニグドゥを放ってはおけないと死地に挑むゼルは、ヤケクソな感がある。彼を諭したのがリナだった。「たとえ勝てる確率が一パーセントほどだとしても、そういう姿勢(つもり)で戦えば、その一パーセントもゼロになる」。この言葉は彼の胸に深く刻まれ、「可能性がどんなに低くても元の姿に戻ることを諦めない」後の人生の指針となった。ガウリイとリナの

「あいつに利き手で握手させちまうとは──さてはあいつ、お前さんにホレてでもいたのかな?」
「ばかなこと言わないの」
あたしは笑って受け流した。


というやり取りは伊達ではない。自分の体を忌み嫌うゼルのこと、戦士としての心構えがどうこうより、握手自体が好きではないだろう。それを許すほど、この時点でゼルはリナに惚れ込んでしまっている(逆に言えばガウリイとは握手してない)。それが色恋に繋がるものどうかは別として。

二度目、三度目の出会いを経て旅の仲間に


三巻「サイラーグの妖魔」では自分と同じくレゾの配下であったエリス、そしてレゾコピーと戦う。レゾを慕っていたエリスとレゾに改造させられたレゾコピーは、昔のゼル自身と言える。二人を倒したことでゼルは過去と訣別。元の人間の姿へと戻るという目的に邁進することになる。


五巻「白銀の魔獣」で三度目の出会いを果たしてからは、リナのそばにいれば伝説級の事件の方が寄ってくるということで、アメリアも含めて四人行動を共にする。



スレイヤーズ」の人間関係は基本的にドライだ。しかし情を解さないわけではない。これは何度も言ってきたことだが、中でもゼルはセンチメントな面を想像しやすい。「狂戦士」と呼ばれた過去とのギャップがそう感じさせるのだろうか。リナと出会って一番人生観が変わったのは間違いなく彼だろう。リナたちと別れた後のゼルを主役に据えた外伝「ゼルガディス朧月草紙」を読むとそれがよく分かる。



彼は自分の願いのために同道しつつ、リナたちと共に戦う。「ゼロスはあくまで旅の道連れ。仲間でも味方でもない」=私とあなたは仲間or味方かあるいはその両方だ、とリナに言われても否定しない。しかし悲しいかな、中心となるリナとの信頼関係においてはやっぱりガウリイには及ばないのだ。

「……あんた……よくこんなのと旅してるな……」
「いやぁ。オレってがまん強いから」


ガウリイは謙遜(?)するが、単に我慢強いばかりではない。彼は誰よりもリナに全幅の信頼を寄せている。だから一緒に旅していられる。それが分かるのが、七巻「魔竜王の挑戦」でゼロスの正体についてパーティーが紛糾したシーンだ。元々ゼロスとは人間の体に戻る手がかりである異界黙示録(クレア・バイブル)を巡って対立し、いい感情を持っていなかったゼルのこと。リナが知っていてそれを隠していたことが気に入らない。対して、ガウリイはなんとゼロスが魔族であることに感づいていたという。

「それで……あんまし気にしないで、いっしょに旅してたわけ!?」
「気にしないで、っていうか、お前さんが、知らん顔したままいっしょに旅続けてるから、たぶん、何か考えがあるんだろうなー、なんて思ってな」


もちろん「人間に戻る」という確固たる目的を掲げて旅してるゼルとガウリイの反応を一緒くたにはできない。しかし、このシーンは強力で……あまりに強力で、ガウリナ的にはご馳走様というしかないし、急にCP話を始めると、ガウリナ前提のゼルリナが自分的に決定的になったのもこのシーンだった。私は結局、叶えられない想いに身を焦がす奴というのが大好物なのだ。ゼルはこの後、こう述べている。

「たしかにつきあってはやるが、ゼロスたちや魔竜王たちが何を考えてやがるのかがはっきりした時── ガウリイの旦那はいざ知らず、俺やアメリアは、ことと次第によっちゃあ、あんたの敵にまわる可能性もあるんだぜ」


「ガウリイの旦那はいざ知らず」である。多分本人は皮肉を言ったつもりではなかったのだろうが、キツい言葉にリナは珍しくしょんぼりしている。それだけ彼女の中でゼルアメも含めた仲間の存在は大きいものになっていたのだろう。


パーティーへの思い入れということならゼルアメの方も同じだった。八巻「死霊都市の王」でガウリイがフィブリゾに拉致された後、冥王の目的の検討はついているというリナに、そういう話なら聞きたくないとアメリアは拒否する。冥王が一体何にリナを利用しているのか聞いたら、リナと協力してガウリイを助け出すどころかリナをなんとしてでも止めなければならなくなるかもしれないからと。ゼルもそれに同調する。「敵にまわる可能性もある」発言を完全無欠に撤回した形だ。ガウリイを失って意気消沈しているリナに心動かされるものがあったのだろうか。

永いお別れ


冥王の一件が片付いて。アメリアもゼルもガウリナとは一度別れる。アメリアは「一つの悪が滅びたことをセイルーンの人たちに知らしめるため」。ゼルは「人間に戻る方法を探すため」。以降、去年発売された十六巻まで再会することはなかった。



よく考えてみればアメリアはともかくゼルの選択はおかしい。そもそも彼は「リナと一緒にいたら自分の身体を戻す手がかりすなわち伝説級の事件の方から舞い込んでくるから」旅に同行していたのではなかったか。それは魔族の一件が片付いたからと言って変わるわけではない。別にその後も一緒にいればよかったのだ。まさかガウリナの邪魔をしたくないからというわけもないだろう……多分……きっと……それでも私はうれしいけど……


あえて理由をつけるなら。ゼルは、ひょっとしたら分からなくなったのかもしれない。自分の体を元に戻す手がかりを掴むためにリナたちに同行しているのか。リナたちと旅をする理由として手がかりを探しているのか。


ガウリイを助けるためなら自分の価値観と相反するかもしれないことは無視する、という行動でゼルは矛盾を自覚してしまう。決してガウリイ救出を後悔しているわけではないが、さりとて「新しい剣を探すためにこの後もガウリイと一緒に旅をする」と二人旅の理由をあっさりひねり出したリナとは違い、自家撞着に柔軟な対応ができなくて……だから、とりあえず一人になってみることにした。どうですかね。アクロバティックすぎるかな。