周回遅れの諸々

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おさらい「スレイヤーズ」5 短編は結局終わったのか終わってないのか

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スレイヤーズすぺしゃる」の第1回「白魔術都市の王子」は、1989年にドラゴンマガジンに掲載された。ファンタジア大賞準入選を果たした長編第1巻「スレイヤーズ!」発売に先んじて掲載されているので、実質的に神坂のデビュー作と言える。

スレイヤーズすぺしゃる/すまっしゅ。とは


作中時間は長編開始以前。内容は、一人旅を続けていたリナが、毎回ゲストキャラの奇人変人を振り回したり振り回されたりするドタバタコメディとなっている。「スレイヤーズ」全体を評する言葉として「既存のファンタジー小説RPGのパロディ」といったことがよく言われる。

  • 王子様は実はむさいおっさん
  • 若年性痴呆健忘症のエルフ
  • ちょっと小粋でアドリブの効くゾンビ
  • 乙女ちっくなリビングメイル
  • ハイソなふるまいを勉強する吸血鬼
  • 村おこし広報課長のアサシン
  • モンスターを対象とする動物愛護団体
  • 最弱のゴブリンだけを狙うハンター


これらをネタにして笑いを取るのは、何度も述べてきた通り、主に短編のほうだ。ただし、短編初期の「リトル・プリンセス2」なんかもわりとシリアスだし、心臓の発作で事切れた「ロバーズ・キラー」とか、死人も出たりする。これは単に方向性が固まっていないためなのかとも思ったが、後期の作品でも油断すると後味の悪いオチが待ってたりするので、シリアスとコメディの境目はそこまで厳密なものではないのかもしれない。

レギュラーキャラはリナ唯一人


ガウリイに代わってリナの相方をつとめるのは、自称リナの最強最大のライバル、金魚のうんちこと白蛇(サーペント)のナーガ。年がら年中露出度の高い悪の魔道士ルックで通してる彼女は、

  • 血を見るとすぐ貧血起こして倒れたり
  • 肩のトゲにほっぺた刺してすんすん泣いちゃったり
  • お日様の下でお洗濯するのが好きだったり
  • さる王家の血筋を引いてたり


と色んな属性を盛られた人気キャラだ。俺の嫁」にするならリナよりナーガ、という男性の声も実は根強い。神坂先生も恐らく最初はあのナーガが高貴!? みたいなギャップによるウケを狙ったんだと思うけど、それを重ねるにつれて普通に魅力的な女性になっていく。劇場版・OVAでも大活躍し、富士見の二大怪人の名を「オーフェン」の変態執事キースと欲しいままにした。


ナーガとキースが共演する「スレイヤーズVSオーフェン


だがそれでもナーガは準レギュラーに過ぎない。基本的に短編シリーズは、同じキャラクターが二度登場するということはない。文庫単行本においては、収録された短編の中から1作選んでゲストキャラの後日談? が書き下ろされているが、あくまで例外。これが富士見ファンタジア文庫及びドラマガにおける本作の後輩として、書き下ろしシリアス長編連載コメディ短編のシステムを受け継いだ「オーフェン」や「フルメタ」との最大の違いだろう。つまり、現在のラノベにも連なる「いつもの面子によるお約束の掛け合い」でなく、一回こっきりのゲストキャラの奇人変人っぷりにその面白さが依って立つ部分が大きいのだ。「オーフェン」がトトカンタ、「フルメタ」が神代高校と舞台が固定されているのに比べ、「スレイヤーズ」は股旅形式なのも影響しているだろう。


リナは傍若無人なキャラと言われるが、短編では奇天烈な連中を相手に、どちらかというとツッコミ役に回ることが多い。彼らはいずれも現実に「こんな奴いる」というような人を誇張しているキャラでもあり、「スレイヤーズ」は結構風刺めいたところもある。また自称保護者がいない分、リナが長編よりかえって大人というか独り立ちしてる気もする。ナーガはリナの金魚のうんちしてるけど、あまり内側まで踏み込んでこない。自称保護者と被保護者のガウリナと違って女二人お互い独立した生き方をしてるからこそのよさ、みたいなのを愛するあまり、「なにさなにさ長編ではちゃっかりイケメンといい感じになっちゃって……!」という人もいる。

作品の変遷


「すぺしゃる」1巻から8巻まではおおむね1話完結式。ちょうどメディアミックス展開を始めた9巻以降は毎月のネタ出しが苦しかったのか、前後編形式がメインとなっていった。この間はキャラクター以上にリナの機転と駆け引きでピンチを切り抜ける知能バトルの色が濃い。私はスレイヤーズ」を今振り返ってみると、とにかくアクション小説だったという意見の人で、それはシリアス長編でもギャグ短編でも変わらない。というかこの9-30巻を読んで、ああ「スレイヤーズ」ってこういう話だなと気づいたところはある。


2008年にはTVシリーズ4期放送に備え「スレイヤーズすぺしゃる」が30巻収録分をもって終了し「スレイヤーズすまっしゅ。」と名前を変え再始動してからは、ドラマガの隔月刊化に合わせたのか、また1話完結式に戻っていた。


1989年に始まって、2000年に長編が一旦完結してからも続いてた短編が休止したのは2011年。連載時は何の告知もなく、単行本のあとがきでこれで終わりですと発表されるという、読者にとっては寝耳の水の出来事だった。この時は「ドラマガでの連載は一旦終了」でも「いつどこで、ひょっこり復活するかもしれない」と説明している。「こち亀」みたいに「一度ここで完結しますがまた気が向いた時に復活するかも」より、もうちょっと含むものがあるニュアンスだったように思う。


私も短編の方は一度買うのをやめた身で、一時休止を聞いてから全部読んだ身なので偉そうなことは言えないけど。改めて最初から最後まで読んでみると、これだけ長く続いた作品としては神坂先生のテキストもあらいずみ先生のイラストも驚異の安定感を魅せていた。20年間やってきたシリーズだ。神坂先生がもう書けないと仰ったとしても、売上の問題でも、完結するなら惜しいとは言うまい。しかし、これだけの人気作なのだから、今のままだとちょっと宙ぶらりんで気持ち悪いな、完結するにしても最後には花道を歩いてほしいな、と願っていたのだけど……あれから7年、今のところ続報はない。

次回予告

今回は短編シリーズ全体の概要をお話しただけで終わってしまったので、次回は個別の作品をしたいと思います。ファイト一発、爆裂陣(メガ・ブランド)!