周回遅れの諸々

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「スレイヤーズ」のおさらい8 第二部に突入して何が変わったのか

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1995年、『スレイヤーズ9 ベゼルドの妖剣』が発売される。アニメから入った読者が初めて手にした原作最新刊である。本編第二部はこの巻からスタートした。メディアミックスが本格化し、作者は長者番付にランクインと、世間的な「スレイヤーズ」旋風はむしろこの頃から加速していった。が、さて第二部自体の評価はというと、あまり高くない。「第二部に入ってから失速した」というのが熱心なファン以外の世評だ。


何故第二部をつまらなく感じるのか。その理由として挙げられるもののいくつかにはちょっと反論したい。一方で私なりの不満もある。さて、第一部と二部では何が違うのか。

ルークとミリーナ、ゼルガディスとアメリ


第一部最終巻で光の剣を失ったガウリイとリナは、新たな魔力剣を探す旅を続ける。その中で出会ったのが傭兵の男女二人組。ミリーナにらぶらぶのルークと、ひたすら彼に素っ気ないミリーナ。このコンビはリナも賛嘆するほどの実力とコンビネーションプレイの持ち主だった。以降ガウリナは事あるごとに旅先でルクミリと鉢合わせすることになる。


ゼルとアメリアに比べてこの二人をぽっと出扱いする声がある。だが巻数で言えばルクミリが一緒に旅した期間も、死線をくぐり抜けてきた回数もそこまで変わらない。ゼルアメが特別視されるのはアニメが「正義の仲良し四人組」としてプッシュしていたからだ、というのは何回か書いてきた。この考えは今も変わっていない。



……ただ、ルクミリが終盤まで「謎の二人組」だったから馴染めないまま終わってしまった、というのはあるかなとは思う。ゼルは1巻のレゾ=シャブラニグドゥの件、アメリアはセイルーンお家騒動と、二人共初登場の巻で本人の根っこに関わる事件をガウリナともに解決させている。そりゃ仲間意識も芽生えるし、読者も親近感を覚える。


ルクミリはあまりに二人でコンビとして固定されてしまっていた。だから、パーティーに新メンバーが加わったことによって人間関係が複雑化し、コクが増す――ガウリナの関係に入っていけない壁を感じるゼルとか。これはまあ妄想だけど――というのも感じられなかったとは思う。強いて言うなら、リナとミリーナが「女同士の話し合い」をしたくらいか*1


リナは二人のことを仲間だとゆってるし、ルークも自分の黒い部分を見せたくないと思う程度にはそういう意識を持ってたっぽいけど、一方で「死霊都市の王」のゼルアメのように、全くの損得抜きに地獄に付き合うかというと……? もしリナが魔王を滅ぼす力を持っていなかったら、最終巻のルークはガウリナを自分の結界に招いただろうか。でも第二部のお話自体がかなり情に傾いてるわけで、人間関係まで湿度上げると話が成り立たなくなるかな。あくまで「私達はあの二人の過去を何も知らなかった」ことに意味があるというか。


神坂先生は、第二部は元々別作品でやる予定で構想を練ってたものをわざわざ世界を変える必要ないんじゃって思って「スレイヤーズ」で展開したという。その当初の構想では、ガウリナの役割に当たる登場人物はいたのだろうか。

バトルのやりこみ要素化、ルーティン化


リナの戦闘能力は、本編全15巻通してほとんど向上しない。『ヴェゼンディの闇』には「リナがズーマに対抗するためにガウリイに剣の稽古をつけてもらうが所詮付け焼き刃、結局通用しなかった」というエピソードが挿入される。これによって特訓による安易な成功体験を否定すらしている。魔力のブースト装置として大いに働いた魔血玉(デモン・ブラッド)も、じゃあどうやって手に入れたかというと、舌先三寸と金(というか取引できる資産)、というなかなかシビアなものではある。


第一部で会得した神滅斬(ラグナ・ブレード)は対魔族戦で決定打として最も多用された呪文だろう。五人の腹心レベルの相手でも通用する破壊力を持ちながら、重破斬(ギガ・スレイブ)ほどの副作用はない。問題は白兵戦が得意ではないリナが、虚無の刃をいかに相手に当てるかということ。極言すれば魔族とのバトルはその点に尽きるのであり、第二部に至ってはますますそこのところを突き詰めていく。強くなってるというより、魔族をいかに効率よく殺すかのライフハックを淡々と学習しているようだ。ある種のストイックさを感じる。が、今回もそれか、と一度も思わなかったわけではない。


無論、リナは殺し合いにおけるファンタジスタであり、読者があっと驚くような手段を次から次へと思いつくのだが――肝心の敵、魔族がだらしない。「人間相手に本気を出すのは精神生命体たる沽券に関わる」という最大の弱点*2を克服できない以上、リナはそこを突く攻略法を駆使するわけで。そこがルーティンになってるように見えたかな、とは思う。そりゃL様も怒り心頭だわ。



第11巻「クリムゾンの妄執」のバトルは最初から最後までノンストップ、スピード感溢れる攻城戦を楽しませてくれた。第二部の中でもこの巻のバトルが群を抜いて面白かったのは、直接戦う相手が魔族ではなかったからかもしれない。

第二部は暗かったのか


第二部は暗い。これはまあ否定出来ないところだと思う。ただし、単に話が暗いだけなら第一部だって『アトラスの魔道士』から暗かったし、『聖王都動乱』『ヴェゼンディの闇』だってなかなかのものだった。二部は神坂先生がホラー趣味を前面に押し出したような魔族を立て続けに登場させたから妙にねっちょりした雰囲気が増した、というのも考えられる。あるいは、魔族の動きが活発して以前にも増して人間の負の感情を増大させようとしているという、作中の事情を反映してのことか。



私は、第二部が必要以上に暗く感じるのは、ストーリーよりも語りの問題だと思う。以下は『セレンティアの憎悪』の一場面だ。

今は使われていない、古い教会か何かの一室のようだった。窓の小さなステンドグラスも今は破れ、もはやそれが神話のどの部分を再現したものであったかは知る由もない。薄汚れた壁に、まるで取り残されたかのように古えの聖人像がかかっていた。


原作「スレイヤーズ」のシリアスなストーリーをそれほど重く感じさせなかったのは、ひとえにリナの軽快な語りのお陰だった。神坂先生はかつてあとがきで「ズーマの過去を描けなかったのは、彼が回想を語ろうとした途端リナが『やかましい知るか』の一言のもとに攻撃呪文ぶち込みそうだから」と述べたことがある。私は、少なくとも本編ではそこまでお約束を無視する方ではない、とは思うのだが……そうした竹を割ったような性格を反映した語りが爽快感を生んでいたのは事実だ。


第二部ではその語りにキレがない。ストーリーの重力に囚われて、柄にもなくセンチメントな情景描写をしちゃったりする。「……心理描写と情景描写はとにかく、話のスジは大体分かったよ」とゼルに揶揄されるような語りが「スレイヤーズ」ではなかったのか。物語の重力に抗いきれなかったのはリナか、それとも神坂先生本人か。いずれにせよ生命線である語りが重くなった第二部は、求心力を失っていった。……

幻の第三部とリナの将来


とにもかくにも、全15巻で本編は終わりを告げた。なんだかんだ言ったものの、『デモン・スレイヤーズ!』はシリーズの総括に相応しい、綺麗なラストを迎えたと思う。


本編の続きはそれから18年間、描かれなかった。神坂先生によるとTVアニメ第三期「スレイヤーズTRY」やSFC版、漫画「水竜王の騎士」が「ありえたかもしれない第三部」に当たるそうだ。その後、リナはさらに幾つもの冒険をクリアし、魔道士協会の要職に就き、やがてその業績から「デモン・スレイヤーズ」と讃えられるようになる。


リナが組織の要職に就くのは、その弁舌の巧みさ、リーダー適性の高さから適当だと以前にも書いた。ただしそれは能力的に妥当という意味でしかない。リナ当人としてはどうなのか。あの自由奔放なリナが、組織の中に身を置いて窮屈ではないのか。立派な騎士を目指していたのに自由騎士となった「ロードス島戦記」のパーンと、立場が逆ではないのか。



……「スレイヤーズ」の「仲間」たちの人間関係は基本的にドライだ。ただし、それは必要以上にベタベタしないというだけで、情を解さないというわけではない。困ってる人がいれば、そして彼らがリナの実力を知った上でタダで利用してやろうというのでもなければ、助けを求める声に応えることもある。特に第二部のリナはこの情によって――つまりは誰かのために戦っている*3。常に事態の中心にいた第一部後半と比べると、第二部はリナにとって総じて他人事であるとすら言っていい。


もちろん、組織に所属していれば、他人のために動かなければならない場面に必ず出くわす。たとえ本人は野心や給料のために組織を利用してるつもりだとしても、だ。第二部で他人のために戦っていたのは、後に協会で相応の地位に就いて、多くの人のために働くようになる伏線なのか。単に年を取ったら落ち着いただけか。当人は「協会のお偉いさんになったら禁書の類を読み放題だし魔道オタクの身としてはたまらんわいグフフ」としか考えてないのか。あるいは要職といっても名ばかりのもので、実際は組織のことなど一顧だにせず以前同様自由気ままにやっているのか。……一体なぜリナは魔道士協会の要職に就く気になったのか。この「スレイヤーズ」の最後にして最大の謎を、あなたはどう思いますか?



さて、好き放題書き散らしてきたこの連載も多分次で最終回です。長いことお付き合いいただき、ありがとうございました。年内にはなんとか書き上げられればいいな……。脳ミソ直撃、烈閃槍(エルメキア・ランス)!

第二部一言感想

  • ベゼルドの妖剣:『アトラスの魔道士』にも登場したあの暗くて重くてグロい「屍肉呪法(ラウグヌト・ルシャブナ)」を初っ端に持ってきた時点で2部の方向性は決まっていた、とは言える。それだけに、シェーラがあんな形で一旦退場したというのは、シリアスな雰囲気に反していてなんだかちぐはぐではあった。
  • ソラリアの謀略:ルークがキメラ研究を目の当たりにして「こういうのを見ると人間を嫌いになっちまいそうだぜ」とか言い出すのが後の伏線と言えば伏線か。
  • クリムゾンの妄執:単なる天才美少女魔道士ではなく、リーダーとしてのリナの資質が冴えわたる。
  • 覇軍の策動:前哨戦、消化戦。
  • 降魔への道標:覇王、登場時はかっこよかったんだけど、魔族とのバトルにリナたちが慣れきってるせいかなんともインパクト薄い。人間舐めてない、という点ではガーヴが一番だったな。覇王(笑
  • セレンティアの憎悪:一言で言えば魔族より人間の悪意のほうが怖いよねという話。
  • デモン・スレイヤーズ:市販品の魔血玉は食用ではないので食べてはいけない。

*1:アメリアやシルフィール相手だとできなかったことが適切な距離のあるミリーナだったらできたという見方はあるだろうか

*2:第二部で魔族、主に覇王とシェーラが本気を出さない理由は他にもあるのだが

*3:本人は絶対認めないで「あたしがムカつくから」「このままじゃ収まらないからと言うだろうけど」