なつかしの異世界転生・召喚もの:「ゼロの使い魔」完結と、ヤマグチノボルという作家について
ヤマグチノボル「ゼロの使い魔」が、このほど完結した。本作は、ライトノベルにおける異世界トリップ物の中興の祖である。が、20巻出たところで著者がガンを患っていることが判明、2013年に逝去。遺されたプロットを元に21巻、最終22巻は書き上げられたそうだ。
代筆した作家の名前は当初公表されていなかった……が、後に「精霊使いの剣舞」などを代表作に持つ志瑞祐であることが明らかになっている。2004年のシリーズ開始から、実に13年を経ての終幕となった。
ちょっとおバカな高校生・平賀才人は、ある日、中世~近世ヨーロッパ風の異世界に召喚される。彼を召喚したのは、魔法学園の生徒・ルイズだった。日本にも帰れない才人は冒険に、戦いに、恋に身を投じていくことになる。高飛車だけど可愛いルイズというご主人様の「使い魔」として。
少年漫画的な熱さと、女の子の可愛さ。この男子が大好きなもの二つを掛けて二で割らない、プリミティブな楽しさがこの小説の魅力だ。
この連載の第2回で取り上げた「日昌晶「覇壊の宴」で、2000年頃、お約束をいじるタイプのライトファンタジーにどん詰まりを感じていた、と書いた。そんな私が改めて、もしかしたら初めて「王道っていいな」と思ったのが、「ゼロ魔」だった。最初は、当時流行していた「ハリポタ」風の魔法学園物の亜種という印象が強かったのだけど……。
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「アレがアニメ化とか今何年だっけ?」って聞かれたら「うるせえ俺が生きてる間は90年代だ」って答えたい
ある一定の年代以上に特に有名な漫画やラノベの(再)アニメ化・リメイクが相次いで発表されています。既に「たくさん発表されすぎて食傷気味になってきた」という人もいるくらい。……でも、「懐かしい」「今何年だっけ」と言いたいがためだけに一切合切同じ箱に入れるのはちょっと……と思う毎日です。
- 作品ごとの現在に至る経緯はそれぞれに違う
- 今も続いているシリーズ
- 完結以降特に原作に動きがないシリーズ
- 近年*2続編がスタートしたシリーズ
- 続編がスタートしたけどそれも無事完結したシリーズ
- 原作者以外の続編が始まって終わったシリーズ
- 一時中断して再開したかと思ったら……なシリーズ
- 見ての通り
- 再始動が望まれる理由とは
- 他者を想像しろ
作品ごとの現在に至る経緯はそれぞれに違う
今も続いているシリーズ
近年の再アニメ化ブームの発端かと言われる荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」(1987-)は、各部によって主人公も舞台も年代も違う漫画です。連載開始から、途中何回か期間を置きつつ、掲載誌を変え、現在まで続いています。
主人公が一貫して同じ時雨沢恵一「キノの旅」(2000-)や上遠野浩平「ブギーポップ」(1998-)も現在進行中のシリーズです。浅井ラボの「されど罪人は竜と踊る」(2003-)は、最初の版元である角川スニーカー文庫との間にトラブルが起こったため袂を分かち、2008年からは小学館のガガガ文庫から刊行されています。
完結以降特に原作に動きがないシリーズ
田中芳樹のスペースオペラ「銀河英雄伝説」(1982-1989)は約30年前に完結しました。とはいえ既にオタクの基礎教養みたいなポジションに就いててその地位が揺らぐことはなく、徳間書店のノベルス版に始まって、徳間文庫版、愛蔵版、徳間デュアル文庫版、創元SF文庫、らいとすたっふ*1の電子版、そして今回のアニメ化を記念したマッグガーデンノベルスなど多数のバーションが刊行されています。
藤崎竜「封神演義」(1996-2000)や藤田和日郎「うしおととら」(1990-1996)、「からくりサーカス」(1997-2006)も、完結済みの作品です。一度きりの読み切りなどを挟みつつも、基本的に原作は長いこと供給されませんでした。
近年*2続編がスタートしたシリーズ
CLAMPの「カードキャプターさくら」(1996-2000)は、2016年から続編の連載が開始。今回のアニメもこの続編の方の映像化となっています。衛藤ヒロユキ「魔法陣グルグル」(1992-2003)は、2008-2012年にかけて「魔法陣グルグル外伝 舞勇伝キタキタ」が連載され、その最終回で原作の正式な続編連載が発表、現在も続いています。2017年版のアニメは原作をイチから映像化しつつ、1994年版の旧アニメに対する目配せも利かせるというニクい作りでありました。
続編がスタートしたけどそれも無事完結したシリーズ
秋田禎信「魔術士オーフェン」(1994-2003)みたいに、一度完結したけど2008年*3から新シリーズがスタートして2015年にそれも既に完結してる、というパターンも。新シリーズは版元が富士見書房からTOブックスに変わっていて、だから今回のアニメ化も基本的には富士見は関係ないはず。
「オーフェン」は旧シリーズが刊行されてた期間より、新シリーズが開始してから今に至るまでのほうが既に長かったりします。その中で、版元が何度か「重大発表あります!」と煽って「これはアニメ化か!?」とファンが期待するも別の企画だった……ということが繰り返されてきたこともあり、今も追ってる人的には今回の発表は既定路線とまではいかないまでも、「ようやくか」といった感はありました。
原作者以外の続編が始まって終わったシリーズ
続編が必ず原作者の手によるものとは限りません。賀東招二「フルメタル・パニック!」(1998-2011)は、原作完結と同時に、続編であり外伝でもある「フルメタル・パニック!アナザー」が開始。原作者が原案・監修に回り執筆は新人の大黒尚人に任せたこのシリーズも、2016年には完結しています。「フルメタ」は、今春から始まるアニメがリメイクや再アニメ化の類ではなく、2002年の最初のやつから今回の四作目「Invisible Victory」まで原作を映像化するという意味ではずーっと一貫してる続き物なのがすごいなーって思います。
アニメ「サンリオ男子」が思春期のイタいリア充コンプレックスを生々しく抉ってくる怪作だった
サンリオキャラ大好きな五人の男子高校生。彼らこそが「サンリオ男子」である。サンリオ原作のこの企画は、ハローキティやマイメロディ、ボムポムプリンなど各自に「推し」キャラがいるのが特徴だ。最初はtwitterでのキャラクターアカウント同士のやり取りから始まり、今年1月からTVアニメが放映開始。先日、最終回を迎えた。
私自身、「おねがいマイメロディ」「ジュエルペット」「リルリルフェアリル」とサンリオ作品とは10年以上付き合ってきて――ラインナップを見れば分かる通り、私の場合はアニメ視聴が基本なんで、サンリオアニメ男子っていうのが正しいけれど――近いようで遠い存在の「サンリオ男子」には興味があった。アニメが放映されると聞いて、入っていきやすい媒体が来たぞとちょっと期待していた。
……全話観た今の感想は、面白いつまらない以前に、なんかすごいものを観た、というのが正直なところだ。
メインビジュアルとtwitterから垣間見える雰囲気を見る限り、きらびやかなイケメンたちが愉快な日常を過ごす楽しいアニメだと思ってた。でも、全然違った。このコンテンツには「イケメン」「恋愛」「青春」という三つのコンセプトがあるそうだけど、TVアニメはその内「青春」がクローズアップされている。
続きを読む時雨沢恵一「キノの旅」 星新一のSSとの違い、積み重ねられるキャラクター
漫画やアニメなど、過去にハマってたものを挙げてくと年齢がバレるという。でも、売れた作品っていうのは、自分たちのものだと思い込んでても、案外下の世代も読んでたりするものだ。多少ブームが過ぎても、それまでに築き上げた知名度が慣性となって、新規のファンを開拓してくれる。
2000年時点の「キノ」とその影響
時雨沢恵一の「キノの旅」は、ラノベの中でも特に長く読み継がれてるシリーズのひとつだろう。2000年に第1巻が刊行されて以来、継続的に巻数を重ね、最新刊は21巻となる。タイトルは宮崎駿の「シュナの旅」を意識していたとか。
主人公のキノは、モトラド=喋る二輪車のエルメスに乗って旅をする。目的地はない。「世界は美しくなんかない。そしてそれ故に美しい」そんな風景を探し求める旅だ。一つの国に滞在するのは最大三日間。どんな国に行っても「旅人さん」として、傍観者としての立場を崩さないまま三日間を過ごし、国を出る。
「彼らが出会う人々は少し哀しくて、とても愛おしい。」*1キノが訪れる国は、どれも実在する人たちのイデオロギー主義主張文化風俗を戯画化したものだ。マスコミとか、表現規制問題とか、某国とか、こういった現実を風刺する内容は、ある意味では古式ゆかしいファンタジーとゆえるかもだけど、当時の業界では珍しく、新鮮なものとして映った。
以降、連作短編形式*2ちょっといい話・寓話は、ひとつのジャンルとして定着していくことになる。ハセガワケイスケ「しにがみのバラッド。」や益子二郎「ポストガール」、七月隆文「Astral」、雨宮諒「シュプルのおはなし」、ちょっと遅れて芦屋直人「旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。」など、特に版元である電撃文庫ではこの手の作品が目立った。
*1:このリード文は各巻で微妙に違う。http://cinematografo.toypark.in/kino/
*2:ファンタジア文庫が得意とする「スレイヤーズsp」「オーフェン無謀編」のような本編に対する外伝としての連作短編ではなく、最初からそういうものとして生まれた
5分で分かる「魔術士オーフェン」シリーズ25年の展開
5分で分かる(分かるとは言ってない)
「魔術士オーフェン」のテレビアニメ化が発表されました。このシリーズは、秋田禎信先生によるファンタジー小説/ライトノベルです。魔術士の最エリート候補だったけれど、行方不明の姉を追って学校を出奔し、はぐれ旅するようになった主人公オーフェンの物語です。イラストは一貫して草河遊也先生が担当しています。
- 旧シリーズ(富士見書房)について
- 新シリーズ・新装版(TOブックス)について/現在入手できる原作
- 富士見書房(KADOKAWA)と秋田禎信とTOブックスの関係
- TVアニメについて
- ドラマCDについて
- 新旧コミカライズについて
- 副読本・画集など
- 他作品とのコラボなど
- 原作・アニメその他関連作品の一覧
- 原作
- 旧アニメ
- ドラマCD
- コミカライズ
- コラボなど
- 副読本・画集等
- その他
- 終わりに
旧シリーズ(富士見書房)について
富士見書房(KADOKAWA)から刊行された旧シリーズは、1994年-2003年にかけて展開されました。二度のTVアニメ化も果たし、「スレイヤーズ」と共に当時のファンタジア文庫を牽引。発行部数は1000万部超と言われています。
旧シリーズには
- シリアスな長編「はぐれ旅」(ファンタジア文庫書き下ろし)
- ギャグ時空の外伝短編「無謀編」(月刊ドラゴンマガジン連載後に文庫化)
- オーフェンの学生時代を描いた「プレ編」(「無謀編」文庫末尾に書き下ろし)
の三つの系統が存在します。「はぐれ旅」は第一部と第二部がそれぞれ10巻、「無謀編」は13巻、合計33巻が刊行されました*1。今回アニメ化されるのは、公開されているティーザービジュアルから「はぐれ旅」第一、二部だと思われますが、どこまでやるかは不明です。
*1:正確にはそれ以外にポケットサイズの角川mini文庫から全2巻の外伝が刊行されている