周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

アニメ「サンリオ男子」が思春期のイタいリア充コンプレックスを生々しく抉ってくる怪作だった

サンリオキャラ大好きな五人の男子高校生。彼らこそが「サンリオ男子」である。サンリオ原作のこの企画は、ハローキティマイメロディボムポムプリンなど各自に「推し」キャラがいるのが特徴だ。最初はtwitterでのキャラクターアカウント同士のやり取りから始まり、今年1月からTVアニメが放映開始。先日、最終回を迎えた。


私自身、「おねがいマイメロディ」「ジュエルペット」「リルリルフェアリル」とサンリオ作品とは10年以上付き合ってきて――ラインナップを見れば分かる通り、私の場合はアニメ視聴が基本なんで、サンリオアニメ男子っていうのが正しいけれど――近いようで遠い存在の「サンリオ男子」には興味があった。アニメが放映されると聞いて、入っていきやすい媒体が来たぞとちょっと期待していた。


sube4.hatenadiary.jp

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……全話観た今の感想は、面白いつまらない以前に、なんかすごいものを観た、というのが正直なところだ。


メインビジュアルとtwitterから垣間見える雰囲気を見る限り、きらびやかなイケメンたちが愉快な日常を過ごす楽しいアニメだと思ってた。でも、全然違った。このコンテンツには「イケメン」「恋愛」「青春」という三つのコンセプトがあるそうだけど、TVアニメはその内「青春」がクローズアップされている。

ジェンダーの扱いって難しい 「男のくせに」が続く前半


前半の六話は、ひたすらにサンリオ男子であることの辛さ、それとは関係ない彼らの欠点とその克服が綴られる。

  • ストーリーの中心となる長谷川康太は、ちょっとお人好しなだけの平凡な高校生。入学当初は期待を抱いてた高校生活が、二年生になってもいっこうに「キラキラ」しないことに少しだけ鬱屈を覚えてる。幼少時はおばあちゃんから貰ったボムポムプリンが大好きだったが、「男のくせに」とからかわれ、プリンもおばあちゃんも大嫌いだと言い放ってしまう。それを謝ることができないままおばあちゃんが逝ってしまったことがトラウマになっている。
  • マイメロディが好きなことを隠さない水野祐は、チャラいように見えて、親が留守がちで受験生の妹のために家事をこなさなきゃならない毎日。その妹に「男のくせにマイメロ好きなんてキモいキモいキモい」と罵倒されることに悩んでた。
  • リトルツインスターズ好きの西宮諒は、幼い頃から姉たちのおもちゃにされ、女の子のような外見にコンプレックスを持っていて、「kawaii」に対して過剰に反応しすぐキレる。


大体こんな感じだ。人情物、と表現すればいいんだろうか。2018年になってまでやることかなあ、というのが感想だった。それは、いつの時代も世間の見る目と自分の趣味のギャップに悩んでる人はいるだろう。にしてもこれは偏り過ぎじゃなかろうか。息子が大切にしてた今は亡き祖母*1からのプレゼントを、最近は触ってなかったからと言って悪意なく捨てる母親など、周囲の登場人物の言動も理解に苦しむところが少なくない。


迷子の女の子に声をかけようとした康太が「このご時世、男が幼女に親切にしても下手したら【事案】に発展するだけ」みたいなことゆって制止された辺りは、おっ、と思ったのだけど。最終的に解決するとは言っても、ここまでウェットな展開が続くと、かえってそういう世間の見方を追認してるみたいだなって思ってしまった。


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上記の例を見て、周囲のジェンダーへの無理解から来る迫害に晒される少数派の悲劇……みたいな印象を持っただろうか。「サンリオ男子」の恐ろしいところは、同時に、主人公たちの欠点も容赦なく描き出していく点だ。例えば吉野俊介は、ハローキティをさん付けで呼ぶサッカー部のエースストライカーだ。実力はあるけどチームプレイの大切さをまるで理解していない彼は、傍若無人なふるまいで、周囲との軋轢を深めていく。この回において周囲は誰も悪くなく、彼一人に責任があるように描かれてる。もちろん、それは理由あってのことだし、他のサンリオ男子と出会うことで態度を改めるようになるのだけど……


シナモンを愛する生徒会長の源誠一郎は作中一の人格者で、この作品の清涼剤となってくれる。また、毎回アイキャッチに入る時、唐突にカメラが主観視点になって、画面には映らないけどそこにいる誰か――視聴者であるモブに向かって、サンリオ男子たちが語りかけてくるシークエンスも楽しかった。その都度「俺に話しかけてくれた!」と喜んだ*2


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でも、だからといって観続けようという気にはならず、五人揃って俺たちサンリオ男子だ! した辺りで、視聴が一度止まった。これから先はようやく明るい話になるんだろうな、と思っても消化しきれない録画が溜まっていった。

「俺がキラキラしたいんだよ……」康太のリア充コンプレックスが爆発する後半


最終話が放映されて、とりあえず、という気持ちで未消化分に手をつけた。五人でピューロランドを訪れたサンリオ男子は、目玉であるミラクルギフトパレードを観覧する。それに影響を受け、自分もまたキラキラしたいと願った康太は、その手段として、文化祭でミュージカルを演じることを提案する。


夏休みには合宿して、祐が脚本を担当することが決定。二学期に入って、さあこれからだ……というところで、暗雲が立ち込めてくる。これからは明るくゆるい展開がずっと続くと思ってたのは、とんだ勘違いだった。


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ここからがこのアニメの真骨頂だ。部活だ生徒会だと忙しい他のメンバーの分、康太の負担は増える。キャパオーバーがミスを生む。仲間たちは練習時間は少なくとも、自分の演技についてはきっちり仕上げてきてる。前よりもっとキラキラしてる。


元々、一話時点で仲間たちはそこにいるだけで輝くリア充で、自分は平々凡々……少なくとも康太はそう思い込み、その時点では面識がない仲間たちを羨んでいた*3。彼らに負けまいと康太はがんばる。その焦りがまたミスを増やす。祐たちは申し訳なく思って全員でフォローしようとするが、康太は自分の責任だからとかえって意固地になる。「俺がやるって言ってるんだ!」校内で劇について話してる女子が、自分だけ「地味で名前が思い出せない」と噂してるのを聞いてしまったことも、コンプレックスに拍車をかけた。


そんな中、康太はついに倒れてしまう。祐たちは大人しく休んでろと言うが、焦りは募るばかり。遅れを取り戻そうと休みから復帰した康太が見たものは、自分が完成させるはずだった舞台装置がすっかり出来上がった姿だった。なんと仲間たちは、他の知り合いに手伝ってくれるように頼んでいたのだ。「康太の抜けた穴、あっという間にみんなが埋めてくれたんだぜ」。俊介に頼まれたサッカー部の*4キャプテンは語る。

今まで頼り切りだった分、もうお前がもう何もしなくても平気なようにだってな。
他の奴らもみんなそうだ。お前ががんばらなくてもいいようにって。
いい仲間だな。でなきゃ、この忙しい時期にこんなに集まるもんかよ


優しく、気遣いができ、人望がある仲間たち。最初は、お約束としてこれで解決すると思った。「ま、これなら俺たちも康太のおまけくらいにはキラキラできんじゃね?」……しかし、それが逆に康太のコンプレックスを爆発させてしまった。

おまけなのは俺の方だ
祐も俊介も会長も諒も、ただそこにいるだけでキラキラして、それが周りを惹きつけるんだ
俺がいなくても……いや、むしろ俺なんて最初からいない方がいいくらいに

キラキラしてるのはみんなだろ!
みんなと一緒にいるようになって、俺もキラキラできるんじゃないかと思った
でも、そんなのはただの勘違いだった
邪魔……するなよ……みんな眩しすぎて仕方ないんだよ……
俺は……俺がキラキラしたいんだよ……


差し伸べられた祐の手をはねのけ怪我をさせてしまう康太。逃げるように帰宅した彼は、そもそも何故自分はそこまで「キラキラ」に拘るのか考える。ミラクルギフトパレードを観たから? それだけじゃない。幼い頃出演した幼稚園の演劇のことを思い出す。康太は「木」の役だった。ただ突っ立って枝を振るだけで、劇の内容には入っていけない。寂しかったし、情けなかったし、観に来てくれたおばあちゃんに申し訳なかった……

そうか、婆ちゃんと約束したから……
だから、キラキラしたかったんだ……
でも、分かってた……俺は一人じゃキラキラできないって……
だからみんなを巻き込んだ……俺がキラキラするためだけに……
なんて身勝手で、最低な……


「木」もそれはそれで大切な役割だよ、なんておためごかしはここにはない。ただただ、俺も一緒にキラキラしたい。その他大勢としてキラキラする彼らを眺めていた頃はともかく、すぐ近くにいる今は、仲間が眩しすぎる。そして、康太以外のリア充サンリオ男子は全くその気持が分からない。埋めようのない断絶……。


最終話、いかにして彼らが和解するか、もしくはそのまま喧嘩別れして終わりかはここでは語らないけど、このアニメがここまでぶち撒けるとは思わなかった。前半は上で述べた通り各話構成や登場人物の心情の理解に苦しむし、後半もよくできてるかというと判断に悩むのだけど、一周回って康太のことが嫌いになれなくなってしまった。

サンリオ男子総合Pの異例のコメント


こういった展開に対して、当初から追っていたファンからの苦言が公式サイドに届いたこともあったようだ。以下は、最終話放映直後に公式サイトに掲載された文章である。

TVアニメ『サンリオ男子』を
ご視聴頂きました皆様へ


平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
サンリオ男子には“イケメン・恋愛・青春ストーリー”という3つのコンセプトがございます。今回のアニメでは彼らの青春模様にフォーカスし、彼らがどのようにして友情を育んできたのかをお届けさせて頂きました。
お手紙などで「思っていた感じと違った」という感想を頂戴したこともありました。
それもそうだと思います。なぜなら、私が知っている男子たちの顔と、皆様一人ひとりが知っている彼らの顔が、必ずしも全く同じとは限らないからです。
一応私が知る彼らの過去をお届けしたまでですから、もしもアニメを好きになれなかったとしてもお気になさらないでください。


16歳から18歳という年齢は、たった3年ながら、人生の中でかけがえのないモノを得ることが多い3年間です。この3年の間に、自分と向き合い、大切な友人を作ることはどんな勉強より一番大事な学びではないかと思います。
彼らが友情を育めたことを心から祝福するとともに、そのきっかけにサンリオキャラクターという存在が寄与していたことを嬉しく思います。
サンリオ男子を通じて、皆様にもサンリオキャラクターの暖かさや友情の大切さを少しでも感じて頂けたとしたら、私はこのアニメを放映したことに悔いはありません。


最後までご視聴頂きました皆様へ重ねて御礼申し上げます。
ありがとうございました。
サンリオ男子総合プロデューサー


https://www.sanrio.co.jp/special/sdan/anime/comment.html


この後に、五人への通信簿みたいな言葉が続く。キャラクターへの愛情が半端ないと感動する人もいる。自己陶酔に過ぎないと皮肉る人もいる。ひょっとしたら両者に境目なんてないのかも。


こういった文章が放送終了直後に公式サイトに載ることも異例なら総合Pなる人物の名前が公表されてないことも異例だけど、何よりも、この人が総合Pということそれ自体に驚いた。肩書から類推すると、アニメだけでなく企画全体を統括してる人なのだろう。


アニメ好きの間では、サンリオ原作とゆえば制作スタッフの裁量が大きく、自由にやらせてくれるとゆわれてる。私は、このアニメの展開を、監督なりシリーズ構成なりの暴走だと思ってた。でもこの言い分だと、サンリオの……というかサンリオのえらい人の意向っぽい。Pとして、批判を受けて泥を被ろうとしたのでなければ。……俺たちのサンリオはどこに行こうとしてるのか……俺たちをどこに連れていく気なのだろうか……


*1:彼女から見れば。義理の、かどうかは知らない

*2:そのモブは明らかに女性として扱われてたけど。男だってサンリオ好きでいいじゃん」というテーマを打ち出してるアニメが視聴者を女性に絞ってて、男性視聴者はむしろ「俺に話しかけてくれた!」「いや俺だ!」と「本来の視聴者ではない自分たち」をネタにしてるという辺りのねじれが

*3:彼らが今輝いているのは、前半で康太がお人好しっぷりを発揮したからなのだけど……

*4: