周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

【祝サイプラ電子化】フジリュー版「封神演義」の竜吉公主は「PSYCHO+」の水の森ちゃんではない

藤崎竜は代表作の「封神演義」よりも、10週打ち切り*1の初連載「PSYCHO+」のほうに愛着がある。というか、ヒロインの水の森ちゃんが好きでした。

「PSYCHO+」ヘンな美少女とゲームで超能力開発!


1992年。RPGブームに続き「ストⅡ」の爆発的ヒットで格ゲーブームが起きつつあり、ゲーム業界がノリにノッていた頃、この漫画は連載を開始した。



高校生の緑丸は生まれつき髪と瞳が緑色の突然変異体(ミュータント)で、周囲からは気味悪がられている。取り柄は、ゲームがめちゃくちゃうまいことだけ。彼は冬のある日、夜の公園で、自分の「緑」を「きれいね」と褒めてくれる人に初めて出会う。彼女の名前は水の森雪乃。優しい美少女はしかし、機械に負けるのが何よりも嫌で、自分よりゲームが強い奴じゃなきゃ付き合わないという変わり者だった。なんとかそれをやめさせたい緑丸だが、うまい方法が思い浮かばない。そんな時、放課後に立ち寄った中古ゲームショップで、妙に気になるソフトを見つける。「PSYCHO+」というそのゲームは、実は超能力を開発するゲームで――。


これは、ちょっと未来の話です、ということを示すために「FF7」や「ストⅢ」が絶賛発売中ということになってる、そんな時代に書かれた話だ*2。ゲーセンというとまだ不良の溜まり場みたいなイメージも生き残ってて。だから、好きな子がゲーマーで趣味が合って、っていうのはとても魅力的に思えた。ゲーマーヒロインとしては同時代に「ヤマモトヨーコ」がいたけどアレはラブコメ色が薄かったし、「ハイスコアガール」が連載開始するのは15年以上先という時代だった。作りとしてはちょっとラブコメラノベっぽいかも。


愛だ恋だというのは「封神」なんかの代表作だけ読んでると異質のように思えるかもしれないけど、短編に触れてるとそうでもない。



水の森ちゃんはゲームは好きだけど、ゲームが強い男と付き合いたいわけではない、と思う。言い寄ってくる奴がウザいからそれを口実にしてただけだ。だから緑くんは、「俺とゲームで勝負して勝ったら付き合って」とは言い出せない。あなたも私と付き合いたいの? と尋ねられて、一度否定してしまってるから。趣味の合う友達として遊んでるのは心地いい。クールな外見とは裏腹に自然に対して意外に優しいところや、ぶっ飛んだ姿、無防備な一面を見せてくれる。でも時々そのポジションに甘んじてることが歯がゆい。そんな関係。水の森ちゃんがなんだかんだで緑くんの本当の気持ちを知ってるような仕草を時折見せるのがまたズル可愛い。


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1巻の終わりでは、水の森ちゃんの元カレの一太郎(!)が登場する。ひと月付き合ったけど、ゲームのヒロインに夢中になってすぐに別れたという。実はそのゲームは、プレイヤーが次々と自殺してしまう呪いのゲームだった。事実を知った水の森ちゃんは、一緒に一太郎を助けてほしいと緑くんに懇願する。ひょっとしたらこれを機に寄りを戻してしまうかもしれない。そう思いながらも、彼女の弱気な表情を初めて見た緑くんは手を貸すことに。この切なさ。


一太郎編の後、物語のスケールがいきなり地球規模にでかくなる。「PSYCHO+」というゲームに秘められた謎とは。緑くんに課せられた使命とは。そして水の森ちゃんの本当の気持ちは。水の森ちゃんがここで見せる地球規模の博愛は、「封神」終盤の妲己ちゃんを思わせる。……新展開はしかし、たった3週で収束し、完結してしまう。いや、まあ、水の森ちゃんというキャラクターを形成してる重要な要素である元カレを4話目で出す時点で、んんん? なんか描き急いでる? とは当時思ったけれども。


……自分にとっては、10週打ち切りというものを初めてリアルタイムで味わった漫画かもしれない。もっと水の森ちゃんに振り回されたかった。

「TIGHT ROPE」「SHADOW DISEASE」ダークな短編群

「サイプラ」の前に発売された短編集「WORLDS」も読んだ。収録された作品の多くはダークな世界観を独特な絵柄で表現していて*3厨二病になりかけの自分はすぐ夢中になった。一から十まで見たことも聞いたこともない世界というよりは、誰もが一度は想像する世界を自分だけのものとして表現している、という感じで。共感と憧れ、両方を感じた。



人間の脳を利用したコンピュータ管理者「エイディー」に管理され、ドーム都市で無気力に生きる人々を描いた「TIGHT ROPE」は、「サイプラ」の次に続きを読んでみたいと思わせる世界の広がりがあった。「SHADOW DISEASE」は弱くて繊細な人間が自分の影に肉体を取って代わられるという話で、一本の読み切りとしてキレイに落ちてて、後に開花することになるストーリーテラーとしての藤崎の才能が伺える。「Soul of Knight」に登場する魔導師アタウアルパは、「封神」の申公豹とよく似てて、多分彼の原型になってると思われる。


「サイプラ」にも2本の短編が載ってる。「伝染源」は自分の思考を他人に伝染させる能力者が、危険思想を周囲に蔓延させていく。「DIGITALIAN」は当時流行していたRPG風のファンタジー。「万物の根源が数である世界」という設定で、「ちょいとそこの累乗を司る神さん 虚数とゼロを除いた+の数をこのノロマエルフにちょっくらわけてやってくれ」みたいな呪文がかっこいい。エルフのヒロイン・アレンティーのどんくさいところとかちょっと「ダンジョン飯」のマルシルっぽい。


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「封神」終了後に発売された2冊目の短編集「DRAMATIC IRONY」では、表題作は「封神」が始まる前に書いたもので単行本に収録するに当たり絵を修正したとのことだけど、スクリーントーン使いすぎててちょっと読みにくかった。


そういえば、初連載の前に短編集が刊行されるというのは、ジャンプコミックスの中では珍しかったりしないだろうか。編集部の期待の表れ?

古代中華SFファンタジー「封神演義


で、「封神演義」は1996年から連載開始する。中国四大伝奇作品のひとつが原作。太公望は実在の人物で、物語の大きな流れの一つである殷周革命も実際に起ったものだ。当時は「るろうに剣心」のブーム真っ盛りで、時代物の流れが来てたのかなとは思う。単行本には「『自称・SF漫画士(あくまで自称)』なので、このような歴史ファンタジー的なものを描くことになろうとは思ってもいませんでした」とあり、原作チョイスは編集者の要望だったことをうかがわせる。


第一印象は、やたらアニメちっくな絵になったなあというものだった。どんぐりまなこもやたらでっかい手足、肩パッドもデフォルメがききすぎてるっていうか、90年代の絵柄ってまあそういう揶揄を受けることが多いけど、「封神」は開始当初既に「超今風」感強かった記憶がある。ストーリーもキャラクターも普通の少年漫画だなあという感じで最初はあんまし惹かれなかった。一方で古代中国が舞台なのにバリバリのSFっぽいガジェットとか、クリーチャーとかは独特のセンスを発揮してた。SFはやっぱり絵だ、という意味でまさしくこの「封神演義」はSFだった。


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ストーリーが面白くなってきのは、聞仲が登場してから。殷を自分の庇護下で正しく導きたいというこの軍師の自分勝手さ、苛烈さに剥がされるかのように、善悪の境を超え、キャラクターの人間味が露わになっていく。


歴史の道標を滅ぼすためには手段を選ばない元始天尊。自分の半身であった王天君に「お人好しのあんたがやれないことをやった」と言われて、それを否定しきれない太公望太公望に助けてもらったけど周側に就かず殷の太子として滅びゆく国と運命を共にしようとする殷郊。仕事をサボってばかりのように見える太公望に「父親もコーチもこの人に見殺しにされたんじゃないか」と一瞬でも疑ってしまう黄天化*4


仙界大戦で「楊ゼンを信用しているのじゃな」という竜吉公主に「信頼だよ公主」と返す太公望に対し「太公望師叔は僕を【信用】してくれたみたいだ……」と独白する楊ゼン、同じエピソードで「私は誰も信じない」と言い切る聞仲、なんてのはそれぞれの立ち位置がうまく表現されてる。そして妲己は、もちろん作中で一番自分勝手で、やりたいことをやった挙句勝ち逃げしたキャラクターだ。


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そんな彼らだからこそ、地球を自分一人の箱庭としか見てないような女禍を許せない、とは言える。今私たちが生きている歴史は無数の枝分かれを繰り返した内の一本である、現実は虚構だ、世界は神ならぬ何者かに作られた箱庭だ。私たちはあの頃、そんな世界観にどうしようもなく惹かれてた。


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かように「封神」は「封神」で楽しかったけど、ひとつ問題だったのが竜吉公主に水の森ちゃんを見てしまうということだった。……うん、分かってる。ロングの黒髪くらいしか共通点ないよね。公主は「のじゃ」口調の仙人だし、水の森ちゃんほどぶっ飛んだ性格ではない。強いて縁を挙げるなら、霧露乾坤網(むろけんこんもう)という「水」を操る宝貝を使用することくらいだ。それでも、原始砲おもちゃみたいなトリガーを握るポニテ公主に、ゲームをプレイしてる水の森ちゃんを見てしまった。


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これはきっと、打ち切りで物語の行く末を最後までしっかりと見届けることができなかった読者の業なんだろう。もし仮に今になって続編が始まっても、それは解消されないと思う。


*1:正確には11週

*2:つまり連載期間中はまだどっちも出てない

*3:当時はスクリーントーンなんて言葉は知らなかった

*4:四不象はご主人のことを「本来なら聞仲や趙公明みたいな凄い人と戦ったりすることなんてできないごくありきたりな道士」だってゆってたけど、楊ゼンの「あの人は元始天尊様に認められたほどの才能の持ち主だからこれくらいできて当然」という証言と矛盾するような……それでもさすがに聞仲レベルではないって話なのか、楊ゼンが買いかぶりすぎってのが一番しっくり来るけど

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