周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

「推し武道」オタク見本市

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「推しが武道館いってくれたら死ぬ」はオタクの見本市だ。
アイドルでなくドルオタが主役のこの漫画は「とりあえず細いのと太いの」にとどまらず、本当に色んなオタクが登場する。
この記事では彼らの生き様を紹介したい。

ギリギリアウトな厄介女オタのえりぴよさん

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主人公えりぴよは「ChamJam」の不人気メン:市井舞菜に熱烈な愛を捧げている。どれくらいの愛かというと、舞菜に貢ぐため一切の服を売り払っていつもジャージで過ごしているほどだ。


特典会での彼女の言動は時として度を超えている。きびだんご*1を舞菜に握らせて「一生に一度でいいから舞菜ちゃんの体温で温まったきびだんごが食べたくて…」などと供述。オタク仲間のくまささんには「女オタだから許されてるところあるだけ」と言われる有様。


ただし彼女は推しに対しても自分に対しても、全く盲目なわけではない。舞菜のダンスセンス皆無なことなど、欠点は人に言われずとも分かっている。あれだけ追いかけてればそりゃ自然とそうなる。それでもそんな舞菜を愛してると言う。自分に対する塩対応に凹むこともある。握手会でも彼女なりに色々面白いことを言おうとして空回って失敗して「さすがにキモかったか……?」とちょっと反省しかけたりする。でも試行錯誤*2自体はやめない。オタクとしてタフなのではなく回復力が高いだけ。だから彼女は舞菜のトップオタなのだろう。


2年前に出会った時舞菜は15歳でえりぴよは多分高校卒業したての18歳。デビュー間もないライブで初めて会った綺麗なお姉さんに好きだってゆわれたらそりゃ舞菜も重くなるよね。えりぴよに対してはだから、舞菜目線で読者から「私もこれくらい一心に愛されたい」というある種夢小説的な感情を向けられている気もする。

ドルオタの鑑のくまささん

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厄介オタなえりぴよに対して、聖人だと評されているのがくまささんだ。ちゃむのリーダー:五十嵐れおを前グループから追いかけている彼は現場の最古参。誰にでも平等なれおを見ても嫉妬心など抱かずむしろ誇らしげで、新規のオタクに対しても色々と心を砕く。一番ファンタジーな存在と言われるけど、結構こういうおじさん見かけるような気も。私もお世話になったことがある。


そんな彼がえりぴよさんにはなぜだか当たりがキツい。「全国3万人いる舞菜のファンにがんばってもらうしかないな…」「ええー今更そんな考えできるなんて頭どうかしてる」人気最下位の推しを応援するオタクに対してこの煽りはよほど仲がいいとできないだろう。そういう気のおけない会話ができるのはちょっと羨ましい面も。それに、くまささんのツッコミによってえりぴよの厄介さが中和されていると考えると、やはりデキるオタクだなくまささん……とも思うのだ。

悩めるガチ恋勢(同担拒否)の基さん

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「自分が結婚できる/付き合えるとでも思ってるんだろうか?」ドルオタが叩かれる時の常套句だ。アイドル/オタクである以前に人間なので実際に結婚したい/付き合いたいという人もいても不思議ではないけど、ドルオタの中でもこういう人は「ガチ恋勢」として分けて考えられているみたい。


基さんも読者から大分手厳しい目で見られている。空音が男と歩いていたという目撃情報が出た時はそれを否定する材料を持っていたのに何もせず*3、むしろ「空音ちゃんを支えられるのは真実を知っている僕だけ」だからワンチャンあると思っていた。人気投票では彼女が多くの人の目に留まってほしくないという理由から気合を入れて投票しなかった。この辺りは多くの人に嫌悪感を与えたようだ。アニメで妹に「お兄ちゃん……ゲスい……」とツッコませたのは少しでもヘイトを減らすためだろう。


物語としては基さんはその後、推しが最下位転落したことを自分のせいだと反省し、オタクとしての「正しいあり方」について思い悩むようになる。そんなものありはしないのに。


私は、ガチ恋云々よりむしろこちらが彼というキャラクターの本質だと思う。覚悟をキメてるえりくまと違い、彼はとにかく葛藤する。作者が「ガチ恋勢はダメ」の一言で済まさず一人の人間としてちゃんと向き合っているのが、基さんにとって果たして幸せなのかどうか。6巻では同じガチ恋勢のオタクと知り合って多少吹っ切れた感はあったけど、あの後も彼は思い悩んでいくだろう。

オタク文化圏と無縁の玲奈ちゃん

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実は基さんが許されないのは、玲奈ちゃんという可愛い妹がいるからじゃないか。これは有力な説として支持されている。地下アイドル現場に一緒に通ってくれる可愛い妹! 「お兄ちゃん大好き♥」みたいなキャラではなく「普通に仲がいい」だけのキャラなのだけど、それにしても、ああ、なんという「普通」だろう。「家族構成勝ち組」とはよく言った。


sube4.hatenadiary.jp


兄に同伴した「岡山ガールズフェスタ」で舞菜に惹かれた玲奈ちゃんは、現場に足を運ぶようになる。しかし彼女はオタクの文化には染まらない。CDを積むのもライブに通うのもできる範囲だし、キンブレも振らない。受験勉強の間はオタ活はお休み。大学に入ってからは友達とリア充を満喫してるつつ合間に現場に通う。そういう「はたから見たらそこにいるのが不思議だけど彼女なりに楽しんでる人」も普通にいるという、現場の多様性を象徴した存在が玲奈ちゃんだ。

優佳に振り回されてるのが幸せそうなふみくんさん

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くまささんと並んで人格者ポジションの優佳推し。優佳が髪を染めてオタクに不評だった時も彼だけは肯定し、同担の愚痴に対して心の中で反論していた。この「心の中で」反論する気弱さもかえって好し。まあそのくらい人が好くなければ、何かっちゃ人を振り回す優佳のTOって務まらないのかも。


優佳がスタバカード欲しいって匂わせブログ書いたらプレゼントしてあげて、でも運営から金券は禁止ですってつっかえされたり、優しさが過ぎて孫が可愛くてしょうがないおじいちゃんみたいになっていることもある。でも推しに内緒で他現場を回してたなんて一面も。

ニコイチのあーやオタ(小菅と藤川)

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ロリ好きという本人らの嗜好が先行して、それに合致するあーやを応援してる感のある二人組。


あーやは舞菜と同じ後列安定組だけど本人の上昇志向がダンチだし、人気投票最終日のえりぴよ→舞菜票が有効なら最下位転落してただろう。その責任をTOの二人に求める意見がある。あーやはメイドカフェでバイトしている。そこで話したほうが1k5秒の握手券つきCDよりコスパがいいから積まないのだと。あーやは隠れてバイトしてるわけではなくお店にも来てほしいと言ってるのでこれが一概に悪いとは言えない。


これが本当かは分からないけど、コスパを気にするドルオタは結構いる。なにせ地下は週2、3回イベントがあったりするのだ。一回ごとは大したことない金額でも積み重なっていくと痛い。そりゃコスパを考えずにはやってけない。今の時代、貢ぐ手段は色々ある。もちろん推しに貢ぐことは前提として、その上でコスパを重視した選択肢を採るというのは地下アイドルに疎い私にはない考え方だった。

いつの間にか他界した眞妃オタ(松尾)

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初登場は第2話。物販列に長時間並んでる最中、くじけそうになったところをくまささんに諭された。他には、えりぴよの推し変疑惑について「美味しさ目当てで不人気メンしか推せないオタ」と陰口叩いてるところを舞菜に聞かれたり、舞菜列に並んで「ほんとは眞妃ちゃん推しなんだけど列無くて可哀想だったから」とぶっちゃけたり、およそロクな役回りではない。挙句の果てにはいつの間にか「他界」してしまっていた。


アニメでは最古参としてデビューライブに参戦してたり、キービジュで前の方にいたり、何かと優遇されている。でもこれ「あれだけ熱心に応援していたオタクもいつの間にかいなくなる」という展開への伏線だとしたら怖いな……。

涙もろいゆめ莉オタ(永井さん)

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ゆめ莉が前列に出たことで泣き、その後の握手会でも泣く。フェスでも「こんな大きなステージで踊るゆめちゃんが見られるなんて……」と泣く。とにかく感動屋のオタク。ゆめ莉は幼い頃からダンスを習っていてその技術はグループでも随一。でも運営に推されてなかったのと本人がガツガツしてないのであまり知られていなかった。そんなところに応援し甲斐を感じるオタクが報われてしまえば、自然と泣いてしまうのも分かる気がする。

繋がり厨のイケメン

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アイドルと「繋がって」は出禁を繰り返してる人物。アイドルからチョコをもらえるバレンタインを狙って初めてちゃむの現場に現れた。優佳との握手会の後は不敵な顔して「まあまあ手応えあり」とか言ってたけど、優佳の方は全く何も分かってない様子だったのが笑う。釣果がないことを悟ったのか、二年目夏のキャンプを最後に登場していない。

最古参だけど他界したヨシムネさん

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れおの前グループにくまささんを引きずり込んだ張本人。今は同じグループにいたメイちゃんが属する「めいぷる♥どーる」を追っかけている。めいぷるは絶好調のグループで武道館公演も決まっている。「推しが武道館いって」くれることが決まってそのオタクも幸せそうだ。


彼がちゃむのデビューライブにいたのは*4くまささんに誘われたのだろうか。それから結構通ってたとしたら「他界」ってことになるのだろうけど、フェスで久々にれおに接触しに行くのには何の躊躇もなさそう。この辺り、オタクの間でも個人差はあるよな……。一度干したらもう絶対その現場は行けないって人と、別に気にしないって人と。

ステライツの女オタ

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ちゃむが数年ぶりに対バンした「ステライツ」は女性人気が高い。彼女たちの多くは涼菓ちゃんというメンバーにガチ恋しているが、涼菓ちゃんが別メンと百合営業(ガチ)してるのが気に食わない人も。基さんはファンのtwitterの重い書き込みを読んだことで彼女と知り合い、自分以外のガチ恋勢に初めて共感する。もっとも空音と結婚したい基さんと違って、彼女は推しに自分のことを見てほしいわけではないという理由から、特典会にも参加できないようだが……。「好きって強い呪いだから自分では解けないんですよ」この台詞は重い。

二次元キャラに恋する美結

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彼女はえりぴよの同僚として登場した。この時点でアイドルへの興味は皆無。嫌悪感を持ってるわけではないけど時間も金もあそこまでつぎ込むことが理解できない。それがえりぴよに誘われてフェスを特集する番組を観てアイドルにハマ……らず、その後に偶然流れていたアニメで二次オタに堕する。


二次元と三次元、アニメキャラとリアルアイドル、男性アイドルと女性アイドル。両者の近年の関係は入り組み過ぎてて私の手に余る。ちゃむのライブにもえりぴよに乞われて参加したが、結局美結がアイドルにハマることはなさそうだ。ただ、全く関係ないライブでも観てると自分の推しのことを考えてしまうというのはどちらも変わらないらしい。

「推し武道」にいないオタク

それは特定の誰かではなくグループ全体を推す「箱推し」や「DD(誰でも大好き)」だ。生涯単推しを誓うえりぴよとはうまく好対照だと思うのだけど、作者自身は指摘されるまで不在に気づかなかったという。今後登場することはあるのだろうか。


*1:舞台が岡山なので

*2:えりぴよの言動を舞菜はこう表現する

*3:基さんが行動したからといって事態が好転したかはまた別問題

*4:アニメにはいない