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周回遅れの諸々

90年代にオタクとしての青春を過ごした人のブログです

女子校に対する幻想とか現実とかどうでもよくなる一冊 石川博品『四人制姉妹百合物帳』

ラノベ ラノベ-石川博品

 有名なお嬢様学校――閖村学園高校には“サロン”と呼ばれる友愛組織が存在する。そこに集う生徒たちは姉妹のように睦み合う。 御厨杜理子、佐用島紗智、時岡有希奈ら上級生をメンバーとし、「森」の図書館の一室でひっそりと活動している高踏的サロン「百合種(ユリシーズ)」への参加を切望する一年生・田北多恵は、サロン入会の条件である“秘密の試験”を受けることになるのだが――!?
石川博品が贈る“青春百合奇譚”

 

この小説は、著者曰く「以前から女の子どうしのイチャイチャを書きたいと思っていまして、そこに大好きな『細雪』と『半七捕物帳』へのオマージュをぶちこんで作りました」というものだ。

 

男子高校生が女友達から、その姉の高校時代の話を聞いていくという、『半七捕物帳』から着想を得た伝聞形式の導入で、物語は幕を開ける。

 

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)

 

 

細雪』の四姉妹に由来する名を持つ少女たちの日常は、古式ゆかしくもしっとりとした文体で綴られており、序盤は音もなく静かに進んでいく。しかし、一年生がサロンへ入るに当たって、全裸になり、「乳首責め十段」の「秘技乳暈蓮華化生」に耐え抜くことを試験として課された辺りから、様子がおかしくなってくる。

 

 静寂に満ちた図書室で古典文学を読んでいたかと思えば、父親のパソコンでみんなして無修正洋物エロ動画を観てけらけら笑い、文化祭でスコーン作りに奮闘する横では全校生徒のアンダーヘアを剃毛せんと奔走しているキャラがいる(自分でも書いてて何が何やら……)。

 

「きれい」「上品」「おしとやか」は幻想で「きたない」「下品」「はしたない」が現実。極論してしまえば現代日本の女子校に関してはそんな相対的なイメージが一部で支配的だが、著者は何が幻想で何が現実かなんてどうでもいいと言わんばかりに、作中で自在に想像力の翼を広げている。

 

方向性は全く逆だが、おっさんくささと乙女っぽさが共存しているという点では岸虎次郎「オトメの帝国」が近いだろうか。シモの話題を扱いながら、ユーモラスではあってもどこか品位を保っているのは、文体のおかげだろう。

 

 

奔放すぎると思うところもないではない。特に文化祭の狂騒から一転、冬の温泉でしんみりと心情を吐露する章は、君らそんな好きとか嫌いとかいう話今まで全くしてなかったじゃん!と戸惑う(再読してみるとそれらしいことは随所で匂わせているのだけど)。しかし、そこに終章が効いてくる。詳細を語ることは避けるが、全ての想像力の翼を畳むこの幕引きがとても見事で、馬鹿馬鹿しさも切なさも何もかもを許容し、「百合種」と書いて「ユリシーズ」と読むサロンの誕生から始まった物語が、何かとても崇高なものであったかのように錯覚させられてしまった。

 

この錯覚に陥った時、読者は、少なくともフィクションにおいては女子校がいまだ現実やら幻想やらの認識に囚われないフロンティアであるという事実を、再認識するだろう。……するといいな。

 

石川博品のおしゃべりブログ: 『四人制姉妹百合物帳』第1章公開

 

同人版と商業版の違い

本作はそもそも、著者が幾つかの版元に出版を断られたのを、2014年の夏コミで同人誌として頒布したものだ。それを星海社が拾い上げ、その年の冬コミの前には星海社文庫に収録されている。

 

商業化にあたっては細かい部分の修正のみ(わたしにはどこが修正されているのか見つけられなかった)で、書き下ろしなどはなし。ただあとがきと、comic zinの購入特典として家族の中の紗智を描いたSSつきペーパーが追加されている。イラストは同人作家の「はら」さんから「まごまご」さんへ交代。ポップでキュートな前者と高精細でシュっとしてる後者。甲乙つけがたいが、この奇妙奇天烈な物語をふんわりと許容しているのは、はらさんかなという気がした。まごまごさんのキャラが剃毛されていると想像すると自分にはちょっと生々しくなり過ぎる。

 

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面白いのは、同人版でイラストが挿入されていたシーンは、一つを除いて商業版でも挿絵があるということだ(構図などは別)。最初は何の挑戦だと思ったけれど、上の表紙でも同人版では奥の方にいる有希奈が商業版では最前面にいて、但し読者から顔を背けている辺り、登場人物の中で唯一内面を吐露することがなかった有希奈のポジションが云々、と想像してみるのも楽しいかもしれない

 

余談

  • 細雪」オマージュとしては、長女という高みから一人妹達を見守る長女、奔放なようで誰よりも姉妹のことを考えている次女などというキャラクター配置とか、それと細かい文章パロディなんかもありつつ大まかにはあれもシモいトピックを結構露骨に扱っているのに上品さを失わない小説だったなと。
  • タツヤ視点の御厨さん変遷は、「あの頃にはなかった神秘的な瞳」→「雨粒が街の灯を乱反射して〜彼女の腋だけはなめらかに暗かった」→「春先より色白になった」→「肩に赤っぽいあざ」→「肩のあざは〜見えなくなっていた」となっていて、これ寝取られた彼女のファッションが間男好みに変わってくアレだ!わざわざ男を第一の語り手に選んだのは、つまりきっとそういうこと。実際の所タツヤは御厨さんと話しているという事それ自体を楽しんでいるのであって話の真偽はどうでもいいのだけどそういうことを思っていると、彼女の「失恋」が非常に怪しいものであることを見落とすのである。
  • 「閖村」の「閖」は女陰のことを玉門または朱門とも言い、そこから出る液体、ということからの字らしい。
  • 博品の小説って百花繚乱の表現が登場するんだけど、中でも今回あっこの人真性だ、と確信したのは、「ひざこぞうに無数のスティッチが暴れまわる柄の絆創膏」です。文学的な香りは皆無。すごい卑近そうでいて普段から色々観察(宮崎駿的な意味で)してないと出てこないよこんなの!
  • お嬢様学校の面々で連れ立って旅行に行く場合、ホテルとかより老舗の温泉旅館に泊まることが多い気がする。前者だと親戚が経営してるからとかいう融通がききづらいのかな。そんなに温泉好きか、女子高生/名門お嬢様学校=ミッションスクール=洋風みたいなイメージからの落差? ウテナでも、あの暁生さんが女子中学生連れ込むのがホテルではなく特にどうということもない旅館?っていうギャップが それともあれヒルトンホテルの和室とかかしら
  • 星海社から出てるのになんでいまだにサっちゃん:坂本真綾でアニメ化されていないんですか

 

※この文章は2014年12月に書いた感想を加筆修正したものです。

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