周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

森見登美彦原作「ペンギン・ハイウェイ」 負けるなハマモトさん

なんといっても、原作は森見作品の中で一番好きなのである。初めて読んだとき「これは映像化してほしい」と思った。それから7年か、8年か。森見氏の人気を考えると随分長くかかってしまったように思う。待望のアニメ化であった。


小説家・森見登美彦といえば「四畳半神話大系」「夜は短し恋せよ乙女」など、やたら古風でもってまわった言い回しを駆使する腐れ京大生というイメージが一般的だ。彼らは星野源のようなインテリ愛され非モテキャラとして、女性ファンにも可愛がられている。


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本作の主人公アオヤマくんは小学四年生だけど、大学生主人公のミニチュア版のような喋り方をする。アオヤマくんのような子供を見かけると、大人は決まってある種の評価を下す。曰く「こしゃまっくれている」「ひねくれてる」「頭でっかち」「生意気」……。しかし、腐れ京大生どもと違いアオヤマくんの性根はどこまでもまっすぐだ。本作の舞台―――小高い丘に造成された、小綺麗なニュータウンらしき町*1でペンギンが大量発生する。この異変に遭遇した時、彼がその謎を解明しようと思ったのは、全くの知的好奇心からだった。ペンギンと、森のなかに人知れず佇むSF的構造物【海】の研究に、アオヤマくんは夏休みの全てを費やす。志を共にするウチダくんは泣き虫だけどなかなかに根気に満ちている。クラスメイトのハマモトさんは以前から【海】の存在を知っていて、二人が信頼に足ると分かるや、協力を申し出てくれた。【ペンギン】と【海】にはなんらかの相関があるはずだと。彼らは様々な条件であらゆる実験を繰り返し、どんな些細な情報でもノートに書き込み、時間があればそれをためすがめつ眺め、もちろん実地にフィールドワークにも出かける。彼らの研究は理路整然としていて、それでいて楽しげだ。勉強ができるというだけでなく、勉強のために創意工夫を凝らすのが面白いのだろう。私もそんな子供でありたかった。


子供たちの楽しい空間に無遠慮に踏み込んで台無しにするのは、いつだって大人だ。三人の楽しい時間は長く続かなかった。アオヤマくんが好きで好きでたまらない、おっぱいの大きい歯科助手のお姉さんの乱入が子供たちの関係にヒビを入れる。なんと彼女はペンギンを自由自在に出現させることができるのだという。お姉さんに悪意があったわけではないのだが、子供達だけで楽しくやっていたのにいきなりおっぱいの大きなお姉さんが登場して、ハマモトさんは気を悪くする。しかしこれは順序が逆であろう。ウチダくんはいざ知らず、アオヤマくんはお姉さんとはずっと以前から、実験を開始させていた。そしてお姉さんの不思議な特技が世間に知られたら大変なことになると知って、隠してきた。この物語においては、ハマモトさんこそが途中から入ってきたのだ。あくまでこの映画は年上の女性と男子小学生のお話なのだ。……とはいえ、自分は【海】のことを話したのに、アオヤマくんはお姉さんの力のことを隠していた、というハマモトさんの怒りはもっともだ。ならばあくまでもその正しさで勝負してほしかった。しかしハマモトさんは「(自分と違って)おっぱいが大きいからお姉さんが好きなんでしょう」「おっぱいは好きだけど、お姉さんが好きなのとは関係ない!」「でもお姉さんはおっぱいあるじゃん!!」と本題とはまるで関係ないことでアオヤマくんを責め、挙句に「大いにあるね!」と返されてしまう。


白状すると、原作を読んでハマモトさんがどういう役割を担うか知っていた私は、映画が始まった当初、ハマモトさんが映る度に「かわいそう! どうあがいてもお姉さんに勝てないハマモトさんかわいそう!」と心の中ではしゃぎ、口元はゆるみっぱなしであった。オタクはいつだってフラレナオンキャラに夢中なのである。それがどうだ、お話が進むにつれて「可哀想……ハマモトさん可哀想……゚゚。゚(゚´Д`゚)゚。」とガチで凹んでいった。この際、ハマモトさんにアオヤマくんへの恋愛感情があったかどうか、くっつくかくっつかないかというのはさして問題ではない*2。あの聡明で、学者の父を尊敬していて、自分の研究というものに誇りを持っていたハマモトさんが、お姉さんが現れたことを遠因に、すっかり影を潜めてしまった。そのことがひたすらに辛い。原作でも顛末はこんな感じだったか実は覚えてないので、私の読み方が変わったのかアニメの解釈のせいなのか映像化されたことで元々あった問題が表出したのかは判然としないのだけど。そりゃ「絶対に許さないから!」ってゆって同級生女子に平手張られるのはそれはそれで男のロマンだけどさあ……*3。アオヤマくんに助けを求め、邪魔する大人を足止めするだけではなく、一緒に【海】に突入しようととするくらいのことはしてほしかった。……え、どれだけ賢くてもまだ子供だ? 初恋を経験して、自分の知らない感情とぶつかってひとつ成長しただ? うるせ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!! さも「あの子達が経験した感情は既に自分たちは通過してきましたいやあ懐かしいネ」みたいなしたり顔で語ってんじゃね~~~~~~~!!!!!! 子供に限らず、賢さってのはそれだけ尊いものなんだよ!!!!!!!!



……取り乱しましたごめんなさい。あまりに辛いので、上映終了後に入った冨士宮焼きそばの店でビールを飲みながら、「10年後に腐れ京大生に成り果てたアオヤマくんのところに海外でバリバリ研究してるハマモトさんがやってきて『どうしようもない阿呆ねアオヤマくんは』とか言い放ってほしい」とすら思った。でもアオヤマくんは腐れ京大生にはならないよなあ……たとえ父親が森見登美彦クリソツな顔してても、アオヤマくんはアオヤマくんだからなあ……

*1:原作はニュータウンの人気のない、どこか浮世離れした風景描写がまた見事であった

*2:エピローグを見る限り明らかにそういう風に描かれてはいるけど。それともあれはアオヤマくんの自意識過剰?

*3:平手を張られたのはアオヤマくんではなく研究のことを大人にばらしたいじめっ子のスズキくん