周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

「ちえりとチェリー」 おばあちゃんちでの半日の冒険を描いた人形アニメ

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池袋で「シン・ゴジラ」を観た後、ハシゴをした。映画館に足を運ぶこと自体年に1回あるかないか、という自分にしては珍しいというか初めてのことだ。2本目は、渋谷ユーロスペースで上映中の「ちえりとチェリー(同時上映:チェブラーシカ、動物園へ行く)」。脚本家として活躍している中村誠監督による、郷愁あふれるパペットアニメーションだ。お目当ては主演の高森奈津美

  


ちえりは小学6年生の女の子。幼い頃に父を亡くし、母親と二人暮らし。
母親は仕事に忙しく、ちえりの話し相手をしてくれない。
そんなちえりの唯一の友人が、父の葬儀の時に蔵で見つけたぬいぐるみの“チェリー”だった。
チェリーはちえりの空想の中では父親の代わりにちえりと話し、遊び、助言し、守ってきた。
ある日ちえりは、父親の法事のため、久しぶりに祖母の家にやってくる。
そこでちえりを待ち受けるものとは…… 空想と現実の狭間で、不思議な冒険が始まる。

 


本作で描かれるのは、ゴジラとは対照的にどこまでもミクロな世界だ。天井の不気味な染みとか、長いこと放置されてる蔵の埃っぽさとか、床下に住み着いている何かとか。大人からすれば取るに足らないようなものでも、しかし、子供の視点からは不気味な怪物として映ったりすることがある。我々の身近な世界をファンタジーとして再構築するための別の視点。この作品では徹底してそれが意識されている。チェリーを始めとする登場人物の多くは、暖かみすら感じさせるデザインではあるんだけれど、子供がおじいちゃんおばあちゃんの家を訪れた際に嗅ぐあの抹香くささ、死の香りが色濃い。また少女が成長するための障害となるお化けの怖さは人形ならではのガチャガチャした動きが非常に不気味で、背筋が凍るような感覚があった。そもそもこういった人形劇って本来的にやたらホラーと親和性高いような気がする。無機質な人形が人間そっくりの動きをする、というのがポイントなんだろうか。

 

キャスティング面では、ちえりを演じる高森奈津美は子供の聞き分けのなさ、イノセンス、どうにもできないことにぶつかった時の身も世もない体が堂に入っていた。5年前の初主演作「ジュエルペット てぃんくる☆*1でも同じくらいの年齢で内向的な少女桜あかりを演じていたけれど、あちらが新人声優らしい少々不安定なところが魅力だったとすると、こちらは子供役としてなんだか貫禄すら感じさせる。星野源はでっかいうさぎのぬいぐるみという役どころに朴訥とした演技がハマっている。母親役の尾野真千子は、生活に疲れた未亡人(喪服! 喪服!)としての色気がちょっと凄かった。これで声優経験殆ど無いとか信じられない。押井作品のヒロインにも引けを取らない彼女の陰鬱な演技が、本編の雰囲気の醸成に一役買っていたことは間違いない。

 


 

声優目当てで観に行ったけど、「シンゴジ」と合わせて、日常的に付き合っているアニメとは近いようであまり縁がなかった世界に触れることができ、少し世界が広がった気がする。こういう風に普段できないことに挑戦できるのは夏休みならではですね。 

*1:本作の監督中村誠と脚本の島田満も参加