周回遅れの諸々

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Vtuber可憐が見せる、お兄ちゃん大好き妹キャラの二十年後

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Vtuber可憐の配信を視聴していると、「シスプリ」という作品について改めて考えさせられる。彼女は妹モノの金字塔「シスター・プリンセス」のヒロインの一人として生まれた。それは約20年前のこと。原作は「ラブライブ!」でも有名な公野櫻子。妹キャラが12人登場して*1その全員がお兄ちゃん大好き*2、というエッジのきいた設定で大ブームを巻き起こした。


可憐は今年原作25周年ということで、毎週月曜日に生配信をおこなっている。アクターは以前と変わらず桑谷夏子。可憐の次は堀江由衣が演じる咲耶のデビューが予定されているようだ。シスプリvtuberとは、と驚かれたが、元々原作は雑誌の読者参加企画だったり、後継路線の「Baby Princess」(2007-)通称べびプリがコメント欄全開放のブログを展開の軸にしてたりと、積極的にユーザーとやり取りできる方式を選んでたことを考えると、それほど意外でもない気がする。



公野櫻子通称ゴッドと言えば、私は「べびプリ」に大ハマリした人間だ。「シスプリ」はアニメとゲームにひと通り触れた程度。キャラコレポケコレは数冊読んだくらい。どちらかというと周囲が熱狂しているのを遠巻きに眺めてた方だった。


そんな自分が今一度原典である公野テキストに触れてみるに、この作品のメルヘン度合いは群を抜いている。二人称で語りかける対象のお兄ちゃんに月イチでしか会えないという距離がそうさせるのだろうか。みんな、浮世離れした自分の心象世界を全力でぶつけてくる。私ことトゥルー長男とは一緒に暮らしているという設定だった「べびプリ」の家族たちが、終始俗っぽいところを見せていたのとは対称的だ。


sube4.hatenadiary.jp


シスプリ」は現代日本を舞台にしている。それをどこか別世界のように感じてしまうのは、公野先生の教養、語彙のおかげだ。以前、可憐の配信でハロウィンに合わせた衣装を着たことがあった。その際、視聴者から「当時、シスプリ原作でもハロウィンを取り扱ってましたよ」と指摘が入り、「20年前ってハロウィンまだ全然定着してなかったのに流行を先取りしてた公野先生すごい!」という話になっていた。だが、ハロウィンが近年になって定着したのはあくまで日本のこと。英語圏ではずっと昔からの伝統行事だった。それを当たり前のような顔して取り扱ってみせるのは、海外児童文学などにも造詣が深そうなゴッドならではで、別に流行を先取りしたとかいうことではなかったんではないか*3


一言で言えば、文化が違うということになる。「妹」という法的血縁的には近いのに*4どこか遠い、浮世離れした存在。可憐は12人の中でも筆頭妹で、探偵妹や電波妹に比べると表面的にはそこまでぶっ飛んでない。だがそのプレーンさゆえに夢見がちなところが強調されていた。


ところがvtuberとしての彼女は全く違う。妙に場馴れした態度で中年「お兄ちゃん」の世知辛い人生相談に乗り、生活臭全開のトークかますこのギャップが、まずは「vtuber可憐」の武器だと言える。毎回、配信では冒頭でゴッド監修のテキストを可憐が朗読するパートが挿入されているのだけど、これが後々の「自我崩壊」パートを引き立てている。


とはいえ、設定やガワと中身のギャップはVtuberとしてはお約束。「シスプリ」としてもゴッドの作風は二十年前からヤンデレ可憐などで散々「狂気」としてファンのネタにされてたわけで、今になって「公式」が乗っかったからといって、特筆すべきものではない。


私が彼女の最大の武器だと思うのは、二十年という歳月とそこから生まれる視聴者との距離感だ。あの配信のアットホームかつ煤けた雰囲気は「スナック可憐」なんて言われてたりするけど、ここでは少し違う見方を提示したい。


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そもそも兄妹とは何か。上下関係のことだ、と言ってまずは差し支えないだろう。子供の頃は知識や体格やそして義務教育課程における等級など周囲の様々な要素が序列を意識させる。年上だから年下を可愛がって、年下だから年上を敬って。「シスプリ」でも可愛い妹に慕われて羨ましい立場にいるように見える兄は、その分理想の存在であることを求められる。なんだかんだ、公野作品は結構古典的な道徳観念に支えられている。


上下関係に基づいて仲が良かったり、逆に反発したり。それが10年、20年経ち。社会に出てみれば多少の年齢差は気にならなくなる。礼儀作法道徳としては相変わらず年功序列が推奨されるが、それよりもっと別の上下関係に組み込まれるからだ。兄妹の関係もよりフラットなものに近づいていく。妹が兄に説教することもある。……それでも、妹がお兄ちゃんと呼んでくれるのなら。これほどうれしいことはない。あの日のお兄ちゃんに恋して同級生にからかわれてた夢見がちな可憐は、もう冒頭にしかいない。しかし妹は今も間違いなく妹であり続けている。それがシスプリ20周年に対して出した回答なのだろう。


sube4.hatenadiary.jp

*1:内三人は後から追加された新妹

*2:原作初期はハーレム物ではなく妹一人に兄一人、という設定だとずっと思ってたのだけどそれすらも揺らいでたみたい?

*3:というか当時から「海外のお祭り」としては一般に認知されていたようにも思う

*4:義妹の可能性もある