周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

森見登美彦をつくった100作

文藝別冊:森見登美彦』より。一人の小説家、監督につき一作品のみ挙げています。
本誌では本人のコメントつき。


小学生時代

A・A・ミルン 石井桃子:訳『くまのプーさん』(岩波少年文庫

クマのプーさん (岩波少年文庫 (008))

クマのプーさん (岩波少年文庫 (008))

オトフリート・プロイスラー 中村浩三訳『大どろぼうホッツェンプロッツ』(偕成社

大どろぼうホッツェンプロッツ (偕成社文庫 (2007))

大どろぼうホッツェンプロッツ (偕成社文庫 (2007))

イエルク・シュタイナー イエルク・ミューラー おおしまかおり:訳『ぼくはくまのままでいたかったのに……』(ぽるぷ出版)

ぼくはくまのままでいたかったのに……

ぼくはくまのままでいたかったのに……

ペーター・ニクル ピネッテ・シュレーダー 矢川澄子訳『ラ・タ・タ・タム』(岩波書店

ラ・タ・タ・タム―ちいさな機関車のふしぎな物語 (大型絵本)

ラ・タ・タ・タム―ちいさな機関車のふしぎな物語 (大型絵本)

ダニエル・デフォー 坂井晴彦:訳『ロビンソン・クルーソー』(福音館書店

ロビンソン・クルーソー (福音館文庫 古典童話)

ロビンソン・クルーソー (福音館文庫 古典童話)

ヒュー・ロフティング 井伏鱒二:訳『ドリトル先生アフリカゆき』(岩波少年文庫

ドリトル先生アフリカゆき (岩波少年文庫)

ドリトル先生アフリカゆき (岩波少年文庫)

名探偵ポワロ

名探偵ポワロ 全巻DVD-SET

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宮崎駿天空の城ラピュタ

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リチャード・ドナーグーニーズ

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スティーブン・スピルバーグインディ・ジョーンズ』シリーズ

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マジカルユミナ(花守ゆみり)と声優が名前を出してvtuberすること

マジカルユミナは、「LoveR」というギャルゲー(PS4)の販促のために生まれた。ゲーム本編に登場する主人公の妹「優美菜」を元にした、バーチャルシスターだ。彼女はお兄ちゃんの理想の芸人妹になるべく、制作サイドの無茶ぶりに応え、バーチャルyoutuberとして視聴者と交流することで、日々研鑽を積んでいる。「マジカル」要素は衣装以外にはない。


www.onsen.ag


声優としてモーション担当として優美菜/ユミナを「演じて」いるのは、若手人気声優・花守ゆみり。代表作に「ゆるキャン△各務原なでしこ、「かぐや様は告らせたい」早坂などがある。

優美菜orユミナorゆみりの今日もお兄ちゃんねる♪


ユミナ:ゆみりは公然の秘密ですらなく、動画内でも、右上に「CV&ACT:花守ゆみり」とテロップが表示されている。でもお便りで花守さんこんばんはって書くと花守さん? 誰かな~? って返してくれるし、一応花守ゆみりユミナに声と動きがよく似てる人、ということになってるような、でもガバガバ設定のような……その辺の茶番も楽しみの一つだ。


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https://www.youtube.com/watch?v=K4jJ1x2iaWw


そもそもゲーム内の「優美菜」は15歳だけど、彼女を元にした「ユミナ」はなぜか9歳の姿。ユミナはこの設定をいいことに、ゲームとは違った立ち位置を獲得している。


性格も、優美菜は兄に対してぐいぐい迫る、ギャルゲーらしい肉食系妹だけど、ユミナの方はプレゼントに欲しいものって言われて「土地」って答えたり、やたらと足癖が悪くてすぐにお兄ちゃんに蹴りをかましたり、フォークで刺したり、他のヒロインとのフォトセッション実況*1でキモオタムーヴかましたり。やりたい放題の悪ガキ感あるいはおっさん感はある。


オタクの間では、「中にゆみりちゃんが入ってない本編の優美菜を私たちは愛せるのか*2」「ユミナの方を攻略したい」、というのは喫緊の課題であった。それほどにユミナのキャラは強かった。


ユミナのキャラについては、ラジオなどでも垣間見られるゆみりちゃんの素が出ているのだと言われるけれど、さてどうだろう。それもまた演じているのではないかという気がする。声優に限らず人間は誰でも他人の前では様々なペルソナを使い分け云々……。


マジカルユミナ会心の動画は、「LoveR」の優美菜ルートをユミナとしてプレイしてみるものだろう。自分の似姿が攻略されるギャルゲーをプレイして奇声を上げるユミナ。画面上ではユミナと、優美菜と、ゆみりとがそれぞれの存在をかけて押し合いへし合い殴り合い。三人がごっちゃになったカオスが現出している。


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https://www.youtube.com/watch?v=yBKaXN0jF6o


それでも、大元は花守ゆみりという一人の声優だ。動画冒頭のクレジットがそれを再認識させてくれる。……このVtuberの演者の名前が公表されている」という事実に、心のどこかで気楽さを感じている自分がいる

*1:「LoveR」はヒロインの写真を撮って楽しむゲームです

*2:声のみ花守

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ずっと好きだった原作が掘り起こされて再アニメ化する際に望む三つのこと

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過去に一度アニメ化したものの「続編」や「リメイク」じゃなくて、「再アニメ化」の話です。過去のアニメとは無関係のやつです。

  • 無理に全部やろうとしなくていい
  • 声優は基本的に全取っ替えしてほしい
  • 広報やグッズ展開はどれだけはっちゃけてもよい

無理に全部やろうとしなくていい


以前のアニメはオリジナル要素が多かったから、今度は原作に忠実に……というパターンをよく見かける。じゃあなんで前回そうなったかというと、その時点では原作の分量が足りなかったとか、原作が完結してなかったけどアニメはアニメで一度終わらせる必要があったとか、そんな理由っぽい。


しかし、10年、20年経って再アニメされるような作品は、その後も巻数を重ねて大長編になっていることが多い。そうなると、今度はアニメの方が十分な尺を用意できない。ただでさえ1クールが基本のご時世だ。最盛期を過ぎた原作をアニメ化するっていうだけでも既に大博打だろう。


そういう時、もうこんな機会二度とないだろうからと、多少無理してでも今ある原作を全部やるのか。あくまで作品としての出来を重視してやれるところまでやって、二期に繋ぐのか。私は後者を支持する。最初から最後まで映像化することそれ自体がアニメの目的と化して、ダイジェストにはなってほしくはない。どこまでが無理な端折り方になるのかは意見が別れるところだろうけど……


断腸の思いでエピソードを厳選するのも一つの手ではある。劇場版「攻殻機動隊GITS」や「スプリガン」みたいに特定の話だけ映画にしてもいい。ただ、いきなり劇場版というのは新規ファンも期待できなさそうだし、それはそれでハードルが高そうだ。


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TVシリーズなら、今やってる「ブギーポップ」は全18話で4冊分5エピソード。このくらいがギリギリだと思う*1。16巻を2クールできれいにまとめあげた「魔法陣グルグル」は奇跡のバランス過ぎた*2。ほんとどうやったらあんな芸当が成立するのか。ギャグは多少ちょっぱやでやるくらいのほうがケツカッチンにならないとはいえ……

*1:最初の「笑わない」除く

*2:漫画と小説がごっちゃになってますが気にしないでください

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原作通りアニメ化してもファンに伝わらないことがある

上遠野浩平原作「ブギーポップは笑わない」(2019年版)の話です。「ブギーポップ」シリーズは現在新装版が何冊か出ててこれらは加筆修正されたものですが、以下の文章における引用は旧版を出典としています。

  • もう長いこと原作小説を読んでない読者は記憶があやふやである/原作のどこの段階に忠実なのか
  • 原作本文と原作イラストの矛盾
  • 他作品とのクロスオーバー
  • 大ヒットしたアニメはそれ自体が原作だと勘違いされる
  • じゃあ2019年版は全部原作に忠実なのか?

もう長いこと原作小説を読んでない読者は記憶があやふやである/原作のどこの段階に忠実なのか


まず、「ブギーポップ」は20年前に刊行を開始した。現在もシリーズは続いているが、これだけ長いと途中で振り落とされたファンも多い。既刊22冊の内、12冊目『ジンクス・ショップへようこそ』(2003)か13冊目の『ロスト・メビウス』(2005)辺りが契機だったのではないか、と言われる。そういう状態で当時の情報を更新することなく、既に原作本も手放した状態でアニメを視聴すると、原作準拠でも、あれっ記憶の中の原作と違う、となってしまう。もっとも、そこらへんを確かめようと新装版を買ったりするのだから、悪いことばかりではないのだが……。


具体的に取り違えやすいのは、キャラクターに関することだろう。例えばこの小説は分かりやすい勧善懲悪の物語ではなく、ブギーポップも正義のヒーローなんかではないという思い込みが見受けられる。確かにブギーさんは何かというと小難しいことを口にするし、善悪という枠に留まらないところはある。シリーズが進むにつれてそういう傾向はますます強くなっていく。

ブギーポップというのがなんなのか、本作でも身も蓋もない解説があるし、推測もされるし、結論さえ出ているのだろうが、しかしどうにもそれが収まりが悪い。どの説明も微妙にそこからはみ出す。さっき“その人”とかいったが、いわゆる“人”なのかどうかも不鮮明である。己の周囲はフィクションの中の出来事だと自覚しているメタ的キャラクターのようでもあるし、逆に全然自分の立場をわきまえていない下手くそな役者のようでもある。それまで書いてあったことと、次に書いてあることが矛盾する。

名前の由来も(…)イギー・ポップというアーティスト名がもうそのものじゃないのかと思うが、ブギー・バップという言葉もあったような気がするし、ブギー・ウギーというオバケもいる。その辺の結合なのだろうが、付けた瞬間にその辺の根拠が全部消し飛んでしまったような感じである。

『ブギーポップは笑わない』電子版あとがきより


一方で、少なくとも初期は「変身ヒーロー」そのものであったし(彼氏視点)、街なかで倒れてる「サイコさん」に手を差し伸べて、彼を遠巻きに見て助けようとしない連中に向け「君たちは泣いている人を見て何とも思わないのかね!」から始まる演説をぶつ、熱血漢めいたところもあった。


ブギーポップは、タイトル通り笑わない。しかし彼氏の竹田くん視点では「目深に被った帽子の下で左眼を細めて、口元の右側を吊り上げた。藤花では絶対にしない左右非対称の表情だった」「あの表情は苦笑いだったのかも知れないと気づいたが、そのときはわからなかった。ただ、妙に皮肉っぽい、悪魔的な感じのする表情だなと思っただけだ。」と言われている。この表情の映像での再現はなかなか難しいだろうが、これらを踏まえれば今回のアニメブギーも「まあこういう風になるのもしょうがないかな」程度には思えるはずだ。思えない? そう……


「ストーリーは忘れても個性的なキャラクターはいつまでも記憶に残る」という。有象無象の登場人物の中にあって、【不気味な泡】ブギーポップは私達に強烈な印象を与え、今も忘れられていない。しかし、当時の記憶を更新しない限り、読者が覚えているのは諸々の例外が削ぎ落とされた、記号的なイメージでしかなかったりする。「厨二キャラの権化」みたいなね。


なお私は一応最新刊までずーっと追い続けてますが、鳥頭なので三日経ったら全体のストーリーもキャラクターも忘れちゃってますねヤッター。だからこの文章もびくびくしながら書いてます。

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高野和「七姫物語」新装版発売 <東和>の戦場にはいつも清涼な風が吹いて……

広い空と羽ばたく鳥と稜線を背に、オリエンタルな衣装を着た少女が佇んでいる。その瞳には何が写っているのだろうか。


少女の名は空澄あるいはカラカラ。彼女が主人公を務める物語の名を「七姫物語」という。第一巻は作者のデビュー作で、第九回電撃小説大賞において金賞を受賞した。シリーズとしては電撃文庫で六巻まで出て一度完結。今回、メディアワークス文庫から加筆修正された新装版が発売されることになった


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左が電撃文庫版、右がMW文庫版。新装版はイラストがA・Sさんに変更。本文挿絵はなし


やわらかい色彩で表現された装画が目を惹く、第一作の旧版に出会ったのは2003年。ちょうどライトノベルのイラストでもCG彩色が当たり前になってきた頃だ。本作の尾谷おさむのように、落ち着いた色合いを得意とするイラストレーターが活躍し始めていた。

七姫が織りなすストーリー


この物語は「国盗り物」である。舞台となる<東和>では、各都市がそれぞれに象徴となる宮姫を擁立し、睨み合っていた。先王の子を自称する姫はそれぞれ

  • 一宮シンセン黒曜姫
  • 二宮スズマ翡翠
  • 三宮ナツメ常磐
  • 四宮ツヅミ琥珀
  • 五宮クラセ浅黄姫
  • 六宮マキセ萌葱姫
  • 七宮カセン空澄姫


の七人*1。お話の中心となる空澄(カラカラ)は戦災孤児だった。彼女は東征将軍テン・フオウ、軍師トエル・タウという二人の山師に担ぎ上げられ、七番目のお姫様として即位することになる。

*1:都市の名称は、新装版ではそれぞれに漢字が振られている

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