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周回遅れの諸々

90年代にオタクとしての青春を過ごした人のブログです

ラノベ作家としての佐藤大輔=豪屋大介 エロスとバイオレンスとビッグマウスと

小説家の佐藤大輔が、虚血性心疾患のために亡くなった。享年52歳。多くの未完作を抱えての逝去だった。


mainichi.jp


氏については「征途」「レッドサンブラッククロス」「皇国の守護者」などの(仮想)戦記を執筆した作家、というのが多くの人の認識だろう。苛烈な展開、そこからの逆転劇などを得手として、多くのファンを獲得したが、シリーズ物を始めては途中で投げ出すという欠点もあった。



近年では、アニメ化もされたゾンビ漫画「ハイスクール・オブ・ザ・デッド」の原作者としても知られている。



しかし、ラノベ読者である私にとっては、まずラノベ作家・豪屋大介こそが佐藤大輔だった。


豪屋=佐藤説は、公式には一度も認められたことがない。最初は文体や作風などの類似の指摘から始まり、佐藤→砂糖、豪屋→ゴーヤというPNの法則性とか、豪屋が赤の他人として佐藤に影響を受けたことを度々語ったりとか、佐藤の奥さんが同一人物だと認めたらしいとか、まあ色々と議論があったんだけど。豪屋の代表作「A君」のコミカライズを担当した漫画家が同一人物だと認めたので確定、ということでいいんだろうか。



また、豪屋は2005年の『このライトノベル作家がすごい!』で顔出しのインタビューに応じているが、この写真は当時ライターだった橘ぱんが影武者として撮影されたものだったらしい。これがきっかけで橘はラノベ作家の道を歩むことになるのだけど、参考にということで渡されたのが「A君」と「デビル17」だったとか。結果出来上がった「だから僕は、Hができない。」もわりと過激なエロコメだった。



インタビューの結びでは、豪屋は「『俺が豪屋だ、文句あるか!』とでも言えばイメージ通りのサービスになりますか?(笑)」と豪屋=佐藤説を茶化す発言もしている。そういうことをする人だったんで、上の関係者の発言も、生前の氏と一計案じて「面白いから死後も同一人物だったってことにしとこうぜ」とかだったり? とちょっと疑ってしまった。


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あと5年早く出してほしかった「A君(17)の戦争」


佐藤大輔は小説家としては1991年に『逆転・太平洋戦史』でデビュー。自分より結構上の年代の人が昔からハマってた印象あるので、案外若かったんだなと。でもまあ「HOTD」とかもすげえ若い感性で書かれてたけど。いい意味で。……それから約10年後の2002年に、豪屋大介名義で『A君(17)の戦争』をファンタジア文庫から上梓した。富士見で仕事をすることになったのは、当時の編集長である菅沼拓三*1と縁があったからだそうだ。


本作は、いじめられっ子が異世界に召喚されて魔王をやることになるという、2017年現在も流行しているファンタジーの一類型である。イラストは、当初は伊東岳彦モーニングスターだったけど、7巻から北野玲衣に変更された。

皆さんはじめまして、豪屋です。
異世界プラントラントで繰り広げられるよっとアレな高校生、小野寺剛士の物語、いかがでしたでしょうか。いやもう二十代前半、編プロ勤務経験二年あり、という人間が初めて書いた小説ですんで、色々と不安です。ちょっとコワイ考えになったりして、剛士のように丸くなってしまいます、あはは。

 A君(17)の戦争(1)』あとがきより。今となっては空々しい……

ギャグが走り出したらとことん書く。ベタなパロディもがんがん入れる(でもそれが成立する理屈はちゃんと用意する)、戦闘シーンはリアリズム重視、スプラッタな場面も逃げず、司馬遼太郎的な薀蓄語り/歴史語りをおたく的に使って笑わせ、富野節を挿入したかと思えば、官僚制の非効率性批判にかこつけてとつぜん阪神大震災当時の神戸市の対応を罵倒し始めたり―――などなどの特徴が融合した結果、おたく上がりの中年男性にはものすごく読み心地のいい世界が出来上がっている。ていうか、佐藤大輔架空戦記が好きな読者なら、年齢にかかわらず問題なくハマれるはず(ただし番外編の四巻を除く)。

 ライトノベル☆めった斬り!』より


この作品には、同レーベルの他作品を「おファンタジア」と評する揶揄が多数含まれていた。それは、悪意云々以前に刊行がせめて5年前なら目新しいものとして映ったかもしれない。けれど当時ファンタジーというジャンル自体、ラノベの中では既に下火であり、お約束をどうこうする作風というのも、読んでる側としてはやり尽くされた感があって。戦記物としては結構面白かったのだけど、第一印象が尾を引いて、結局あまりいい読者にはなれなかった。


とはいえそんな私の感想とは関係なく、シリーズは順当に人気を得て巻数を重ねていった。が、2006年に発売された第9巻で刊行がストップしてしまう。以下は、8巻発売時のインタビュー。

―――『A君~』は現在、シリーズのどのあたりまで来ていますか?
豪屋 6割強ですね。
――― 折り返しを過ぎたくらい?
豪屋 折り返しって発想もあまりないですね。ストーリーの進行と本の厚さは違いますから。薄くても、ものすごく話が進む巻もあるし、どれだけ使っても、状況によっては進まないこともあるし。それは本の厚さとは関係ないです。

  このライトノベル作家がすごい!』より


ただ、2014年に配信された電子書籍全巻合本版のタイトルは「複数巻セット」となっていた。本人だか編集だか分からないけど、続刊への望みはまだ捨ててなかったらしい。多くの中断作品の合本版が「全巻セット」となってることを思えば、破格の扱いではあったと思う。まあ佐藤名義では富士見とは「HOTD」とかでずっと仕事してたわけですしね。


オールタイムベストエロラノベ「デビル17」*2

これはエロい、と言われるラノベは昔から幾つもある。例えば「ルナ・ヴァルガー」、あるいは「され竜」、もしくは「武林クロスロード」。「ビアンカ・オーバースタディ」はラノベなのにやり過ぎだ、と思う人もいるらしい。しかし、そのどれもが過激さ、密度、内容量という意味では「デビル17」には及ばない*3。菊地夢枕両巨頭もここまでではなかった。物量では平井和正の「月光魔術団」が対抗できるかなーってくらい。


「デビル17」は、2004年から2006年にかけて6巻が刊行されたピカレスク・ロマンだ。修学旅行でテロリストに襲われた主人公がそれを撃退する。いかにもなボンクラ妄想の冒頭。でも、初っ端から既にクラスで一番の美少女「しおり」がテロリストに犯されてて、彼女には「ときメモ」よろしく伝説の樹の下で愛を確かめあった彼氏*4がいるんだけど助けてくれなくて、絶望した彼女は自分だけでも生き残るため、相手に媚びを売って自ら腰を振り始める……というと、少々勝手が違ってくる。


この事件を契機に超常的な能力を手に入れた主人公は、戦いの中に身を置きつつ、セックス三昧の日々を送る。能力が身体の性的なアレコレの方にも作用して二十四時間絶倫状態、体液に含まれる「バイオナノマシン」と「ヒト起動物質」で好きなように女を発情させ、男根は女性の内部で快楽を求め変形する。夏休みの学校で二人の美少女とヤリまくり、女教師にも手を出し、挙げ句の果てにはヒロインの兄にアナルを掘られて男女受け攻めお構いなしになったり。一方で拷問の必要がある(好みでない)女はベンツの屋根に縛りつけて走り回り、失禁脱糞するまで責め立てる。……ああもう、拙劣な文才では全くあの作品のアレさが伝えられないのが悔しい。


このシリーズがファンタジア文庫から刊行された時の衝撃は半端ではなかった。書評家の大森望・三村美衣による「ライトノベルめった斬り!」でも、大ヒット作でもない本作に結構な紙幅を割いている。

大森 でもこれ、要するに《ウルフガイ》なんだよ。
三村 平井和正ってこんなに悪意があったかな。
大森 《ウルフガイ》は世界に対する怒りと絶望が出発点でしょ。“人類ダメ小説”って言ってたじゃん。男子中学生の欲望にストレートに訴える方向で《ウルフガイ》をアップデートすると《デビル17》になる。
三村 欲望にストレートなの? だってこれ、「おまえら、欲望にストレートなんだろ」って言われてる小説だと思わない?
大森 中学生男子はそんなこと考えない。
三村 ほんとに? 平井和正はこんないやな小説ではなかったよ。
大森 平井和正は、ポルノとしての実用性は低いけど、こっちは実用に耐えるもん。
三村 なるほどね。平井和正も小学生の頃読んだら十分ポルノだと思うけど……たしかにこっちは百倍すごいよね。中学生の頃、平井和正買うのにあんなに苦労したのに(笑)
大森 同級生の美少女二人と夏休みの学校でヤリまくるとかね。
三村 でもさあ。“欲望にストレート”って言うけど、それはつまり、今までみんながつくってきたお話のウソを否定してるわけでしょ? 『おまえらほんとはこれがやりたかったんだろ」って。
大森 こういう身も蓋もない正論って、今の時流に合ってるんだよ。イラクまで行って人質になるバカは死んでいい、みたいな。頭の悪いやつが最低で、頭が良ければ性格が悪くてもOK。《A君(17)の戦争》もわりとそうでしょ。ライトノベルの世界でも、ついにそういうタイプの本音派が出てきた。バカは逝ってよし。ヒューマニズムはマヌケの思想。
(略)
三村 なんかねえ、こういう作品が許容されること自体はいいなって思うの。好き嫌いは別にして、ここまで(ライトノベルが)広がってきたんだなっていう面白みは感じるんだけど。だって、『バトロワ』の方が全然安全だよ。おたくどもにとって。世の中の人にはちょっと違うと思うけど。
大森 でもさ、話の構造としては、憧れの美少女を手に入れて、悪いやつをどんどん殺していくんだから正統派。
(略)
大森 そういう毒をわざと入れる狙いは非常によくわかるので(笑)、抵抗感はないな。だから押井守の劇パト2みたいなもんだよ。クーデターを装ったテロ。微温的な日常コメディがはびこるライトノベル界に「戦争はとっくに始まってる」と爆弾を投下する。
三村 なんかねえ、女にまったく実在感がない部分はそのままに、なのに妙なリアリズムがある。それがすごくいやだなと思った。
(略)
大森 テロに遭遇したのをきっかけに、スイッチが入って、平凡な男の子が知らないうちに超人化していく。ケガがすぐ治るとか、高く飛べるとかね。
三村 その超人性を抜いて、わりと居心地のいいおたく的幻想の世界へ持っていったのが《フルメタルパニック》だと思うのね。子供の時から特殊な訓練を受けた傭兵が、ふつうの学校に入ってきてっていう話なんだけど、両方とも同じ富士見で出てるのがなんとも……。

 ライトノベル☆めった斬り!』より


どちらかというと「硬派」と言われることが多い「フルメタ」ですら「デビル17」のアレっぷりと比較して「居心地のいいおたく的幻想の世界」と評される、という辺りに当時の衝撃を感じ取ってほしい。なお「フルメタ」の著者・賀東招二は本作に対し

なんと申しましょうか。豪○先生があそこまでやって下さったんだし(これ自体は快挙)、俺もガンガン書いちゃっていいのかなー、いやあそこまでやらなくても、せいぜい乳首や陰毛の描写くらい濃密にやってもアリかもしれないかなー、などと思ったりもしますが―――
あー! 嘘です! 冗談です! やりませんから! 怒らないで! 見捨てないで!
……まあ、ね?
そっと手をつなぐだけでも、ちゃんとドキドキ感は出せるわけで。そういう気持ち、大切にしたいのじゃよねー。
いや、これはこれでやっぱり本音なんですが。

  「フルメタル・パニック!-サイドアームズ-音程は哀しく、射程は遠く」あとがきより


とコメントしている。


閑話休題。「めった斬り」では大森が肯定派で三村は否定派だったのだけど、私は、心情的には三村寄りだった。大森はこの後「女だから嫌な気分になったんじゃない?」と言ってるけど、いくらなんでも単純に切り分けすぎだろ、と思う。ただこの作品の「悪意」自体がそれまで存在しなかったようなものかというと、そうではない。結局のところ「デビル17」は誰もが認めざるをえないほど、「読ませる」作品だった。だからなんでもない「悪意」でも無視できない。私もなんだかんだで出てるものは全部読んでしまった。


ある程度ジャンルとして確立されつつあったライトノベルで、プロパーの外からやってきた作家がこれを書いたというのは、とても悔しかった。


賛否どちらにせよ何かしら言及せざるをえない。アンチも無視できない、それだけの力があったのだみたいな評価の仕方は、ファンに都合のいい内面の忖度であり、あまり好きではないんだけど。本作に対する私の心情としてはホントそんな感じ。


著者本人の主張は、以下のようなもの。

で、今回のお話は……えーとまあ、コードヒーロー成長話、ということになるんでしょうか?
コードヒーローとは国家の定めた法(ロウ)や社会的な常識(ルール)よりも自分のなかに存在する厳格な掟(内的規範=コード)を重視する人間のことです。(略)つまりどんな場合でも自分を裏切らない人間、そのためならばすべての手を尽くすことも厭わない人間―――究極のロマンチストです。『一度、人を殺してみたかったから』というクソたわけた理由で殺人を犯すゴミ虫どもの対局にいる存在だといえるでしょう。
(略)
というわけで黒江徹は必要とあれば殺しますし、そのことに悩みは抱きません。『戦いはいつも虚しい』とか『生き残るために殺す』とか『おまえだけは許せない』とか『俺には戦うべき理由がある』なんて逃げ口上は用いません。彼は存在として戦い、殺し、交わり(ぬはは)ながら自分を定めていきます。もちろん現実ではこうさっぱりとはいきません。そうです。つまり伝説の剣も最強の魔法も耳の尖ったエルフ姉ちゃんも出てきませんが、このお話は紛れもないファンタジーです。すなわちユーモア・エンターテインメント小説の一変種です。というわけで一読されればおわかりのとおり、暴力とセックスが関わる場面からは徹底的にリアリティを排除しています(でもなければ主人公が[中略]なんてさすがに書けません。

 『デビル17(1)』あとがきより

S沼 豪屋さんと「ジュブナイル版大藪春彦みたいなのやりたいよね」という話をしていたんです。
(略)
豪屋 そうです。24時間勃ちっぱなしで、出会う女の子もすぐに向こうから抱きついてきてって、そんなの、ユーモア以外のなんだというのか(笑) 邪魔なやつはどんどん殺すのも、ユーモアですよ。おまけにそれを昨日まで何も知らなかった高校生がやってるわけですから(笑)
(略)
―――アダルトシーンは力を入れて書いてますか?
豪屋 普通です。エロ本にするんならエロ本として構築しますよ。『デビル17』はエロ本としては邪道です。
―――どういった点で邪道なんでしょうか?
豪屋 濡れ場をストーリーに組み込んじゃってるんです。ストーリーの中で濡れ場に意味を持たせちゃうと、それはもうエロ本じゃない。濡れ場の中でやってる行為とか、ちょっとした前振りとかが全部、小説としての構造や目的に絡んでくるんですよね。(略)

  このライトノベル作家がすごい!』より

ちなみに「露悪」とか「悪意」とか「読者を選ぶ」とかいう思考停止言語で『デビル17』を説明したつもりになっている方々はよほど心がキレイなんだと思います(笑)

 このライトノベル作家がすごい!』より


確かに、設定にはリアリティの欠片もなく、ユーモア以外の何物でもない。なんで二次ドリでやんなかったのってなもんである。しかし豪屋=佐藤の筆力は、それが「リアル」ではないと分かっていても、圧倒的な生々しさをもって読者に迫ってくる力がある。人間の身体について医学資料なんかに当たった上でデタラメを書いてるんだなと分かる跡もある。三村も、その辺りが気持ち悪いと思ったのではないか。


 漫画版は、「鉄鍋のジャン」で有名な西条真二が執筆を担当した。


はたしてこれが全くの無名の新人が書いたものだったら、富士見は出版してたのだろーか。いやでもあそこも時々トチ狂ったことするからな……

幻と消えた「アダルト版シャーロック・ホームズ」

豪屋名義で実際に本になっているのは、「A君」「デビル17」の2シリーズ。比較的最近出した「エルフと戦車と僕の毎日」も10年前なら豪屋名義で出してたのかなあと思うけど、まあ佐藤名義で出したほうが売れますよね。それと刊行予定に上がっていながら結局出なかったのが、徳間ノベルズEdge刊の「ホームズ」もの。

豪屋 シャーロック・ホームズのアダルト版です。ホームズが美人看護婦のワトソンさんと一緒になって活躍するという話を予定してます(笑)いろんなパターンを考えたんですよ。ホームズってほとんどの作品がワトソンの一人称から描かれてるでしょ? それで「ホームズをワイルドな女にして、それを男の目から見て描く」というアイディアを最初に考えたんですけど、「それじゃ他人がヤってるのを見てるだけでおもしろくないな」と思って(笑)。だったら“ジュブナイル調だけど性格と行動がバイオレント”という女の子が“もっと無茶をするホームズ”と一緒に行動する方が描写としてはおもしろいかな、と。

 このライトノベル作家がすごい!』より


佐藤が長らく主戦場としてきたノベルスレーベルで、豪屋がどんな物語を描くのか。ラノベならともかくノベルスでエロスとバイオレンスやっても埋もれちゃうんじゃないか。色々興味はあったけど、徳間ノベルスEdge自体短命に終わってしまい*5、結局世に出ることはなかった。


「デビル17」を超えろ


……今でも「これはエロい」と評判になったラノベ新作を手に取ることがある。しかし、いまだに「デビル17」を超えるものにお目にかかったものはない。ビッグマウスだけどそれに足るだけの文才を持つあの作家は、勝ち逃げのまま逝ってしまった。一応ライトノベルというジャンルに愛着を持つ人間としては、それがとても悔しいのだった。

*1:佐藤の「RSBC」にもモデルとなったキャラが登場

*2:ここでの「ベスト」は「良い」という意味を持ちません

*3:「実用性」に関しては個人差あるので、保証しません

*4:主人公ではない

*5:つっても刊行予定出てから休刊まで何年もあったけど

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