秋田禎信とかいうコラボ・ノベライズ大好きおじさん エロゲから国民的漫画まで
昨日、「VS.こち亀」の話をした。オーフェンとこち亀って接点皆無じゃないですか!? と驚いた人も多かったようだけど、実は秋田禎信という作家は、この10年くらい、意外なところでの原作つきの仕事やコラボに積極的に関わっている。昔に比べればネームバリューのある作家のノベライズというのはぐっと増えたし、例えば西尾維新辺りもかなり多いんだけど、秋田の場合全体の執筆量の中でのノベライズ・コラボの比率がめっちゃ高い。
ノベライズという仕事の魅力、本質について、秋田はこんなことを言っている。
ノベライズって、いつもの仕事よりほんの少しだけ孤独でないからか、なんか不思議なテンションになる気がするのです。なので実は、ノベライズ好きなのです。わたし。
— 秋田禎信 (@AkitaYoshinobu) 2015年5月11日
@Bubles_withK そうですねー。ノベライズって、元になる世界やキャラが頭の外にいる感じで、書いてるわたしにも楽しい経験でした。
— 秋田禎信 (@AkitaYoshinobu) 2015年5月30日
そんな話ばっかりしてても伝わらないので… そういや血界戦線を通してわたしが1番好きなコマっていうのがあって、話を見失いそうな時はそのコマ見直してました。それが「鰓呼吸ブルース」の、早速プリントアウトしようっていうコマなんですが。
— 秋田禎信 (@AkitaYoshinobu) 2016年4月3日
ここがね、血界戦線がなにかっていうのを示してるコマって信じてるのですよ。何故かはあんま言語化できないんですが…それじゃ余計伝わらないか。まあ単にこのエピソードが好きってだけな気もしますけど。そんな「好き」がなんなのかを纏めるのがノベライズって作業かなと思ってます。(あっ纏めた)
— 秋田禎信 (@AkitaYoshinobu) 2016年4月3日
では、実際に関わった作品はどんなものがあるだろうか。ちょっと長くなるけど勘弁して付き合ってほしい。
- 神坂一との合作「スレイヤーズVSオーフェン」(2001)
- 読者参加企画「スペル・ブレイク・トリガー!」(2003)
- きゆづきさとこ原作「パノのもっとみに冒険」(2006)
- 士郎正宗・Production I.G.原作「RD 潜脳調査室 Redeemable Dream」(2008)
- 舞城王太郎原作「魔界探偵冥王星O ホーマーのH」(2010)
- ニトロプラス原作「愛しい香奈枝さんの装甲悪鬼村」(2010)
- 岸啓介キャラクター原案?「ハンターダーク」(2011)
- 神坂一との競作「メックタイタン ガジェット 虐殺機イクシアント」(2013)
- 神坂一原作「ゼフィーリアの悪魔」(2015)
- 内藤泰弘原作「血界戦線 オンリー・ア・ペイパームーン」(2015)
- わたしにとって好きな作家の書くノベライズとは
神坂一との合作「スレイヤーズVSオーフェン」(2001)
最初は、ファンタジア文庫の先輩作家である神坂一「スレイヤーズ」と「魔術士オーフェン」のコラボ企画「スレイヤーズVSオーフェン」。東京の秋田と兵庫の神坂がチャットでやりとりしながら即興で作り上げた合作だ。視点人物であるオーフェン=秋田の描写からほとばしるリナ好きすぎ問題は、一部界隈にリナ×オーという新たな派閥を生んだとか生まなかったとか。
読者参加企画「スペル・ブレイク・トリガー!」(2003)
ノベライズってゆっていいのか、ここに入れるかどうか迷ったけど……。読者から募った初期設定を元に作家が短編を書き下ろすファンタジア文庫の企画「小説創るぜ!」の一環。複数応募の中からわざわざ「女しかいない異世界に勇者が召喚される」という題材を選ぶ辺り、この頃から秋田の「なんでもやったれや」意識は健在だったのだなあと。「巡ル結魂者」の前身として読んでも可?
世界に女しかいない理由が、ある魔女が「世界から争いの種をなくす」呪いをかけたからって、これ男が暴力的だからって捉えてたけど、女にとって男は不和の元となるとも読めるなー。逆もまた然り、とか考えてました。
この「小説創るぜ!」、文庫版に掲載された富士見ラノベ作家四天王の似顔絵がなにげによく似てましたね。
きゆづきさとこ原作「パノのもっとみに冒険」(2006)
秋田自ら小説化したいと手を挙げたのが本作。きゆづきさとこの漫画家としてのデビュー作「パノのみに冒険」を小説化したもの。当時は今ほどきゆづき先生も知名度なかったし、DM誌上でプッシュされてる感もなかったので*1、先見の明があったのかしらと。結局これ原作自体は単行本も出ずに無期限休載になっちゃってるし。
魔女見習いのパノと使い魔のミスターディードゥルによるほっこりさせられるファンタジーで、短くほのぼのとした話の中にも何がしかの伝えたいことを織り込む寓話としてのできの良さに、当時、こんなのも書けるんだ! と驚かされた。これ以降、作風がぐわわっと広がったと感じる。絵本風にイラストを大きく見せる紙面構成もステキ。
秋田はきゆづきの魅力はテキストの柔らかさにもあるといい、自分ではそれがうまく再現できなかったと述べている。
きゆづきさんは、絵もなんですけど、テキストの柔らかさがわたしたまらないのですよね。昔一度別作品のノベライズさせていただいたことあるんですが、これはわたしなんかがどう逆立ちしても真似できないなぁ… と思い知りました。
— 秋田禎信 (@AkitaYoshinobu) 2016年5月27日
が、一方で富士見書房関連の中では一番出来が良かった仕事だった*2と自賛していて、本作が秋田のノベライズ好きに拍車をかけたであろうことは想像に難くない。2009年には書き下ろしを加えて「秋田禎信BOX」に収録された。
士郎正宗・Production I.G.原作「RD 潜脳調査室 Redeemable Dream」(2008)
「攻殻機動隊」に連なる世界を舞台に、職業的電脳ダイバー・シムラとジャクソンの活躍を描く。時系列は原作の50年前、だったかな? 協力して仕事するわけではないけれど、同僚としてお互いの手腕を信頼している。SFお仕事ものとして、底に秘めた二人の男の絆が熱い。場面転換するごとに挿入される警句が印象的。
舞城王太郎原作「魔界探偵冥王星O ホーマーのH」(2010)
覆面作家競作企画「魔界探偵冥王星O」では、「ホーマーのH」を担当。人類社会を裏から支配する「彼ら」と探偵の暗闘を、泥くさく、ハードボイルドタッチに仕上げてみせた。
ニトロプラス原作「愛しい香奈枝さんの装甲悪鬼村」(2010)
これはなんと、ニトロプラスのエロゲー「装甲悪鬼村正」の二次創作。ファンディスク「邪念編」に収録されている。スニーカー文庫で出した「べティ・ザ・キッド」のイラストがニトロの山田下朗で、その繋がりらしい。エロゲと言ってもニトロなので、まあ、端的にゆえば、暴力的な話。二次創作もそれに引きずられて、ファンの間では確定事項になりつつあるリョナ好きが存分に活かされた話となっていて。エッチシーンも、こう、棒を他人の肉体に出し入れする時点で、処女膜とか関係なくセックスって暴力だよねそれが気持ちいいって倒錯してるよねというか。
原作がエロゲってことで先日実施した秋田禎信ビンゴでもプレイ率は高くなかったんだけど、ファンなら一読の価値はあるとは思う。
岸啓介キャラクター原案?「ハンターダーク」(2011)
光が届かない地下世界で5体の「機械人」たちが闘うSFニンジャ活劇。おもちゃ大好きな秋田が「機械人」のフィギュアでガチャガチャ遊んでるのが想像できるような、造形はわりとカートゥーンな感じなんだけどでもめっちゃかっこいい小説だった。SDガンダムとかアイアンリーガーとかああいう感じ?
元々は造形作家・岸啓介の作成した立体物をキャラ原案にアニメーションを制作するという企画があり秋田はその骨子となる物語を作り上げてくれと依頼され実際に書き上げたんだけどアニメのほうがお流れになってしまったので小説だけお出ししたよ、というややこしい経緯を辿った小説。田島昭宇により機械人たちのデザインも新たに書き起こされている。岸は単行本解説の中で
私はそれまでにも作品についてのシノプシスを作家の方に書いて頂いたことが度々あるのですが、よくありがちなのが「物語の展開に忠実ではあるけれど、肝心の意図が汲み取られていない」という場合です。つまり、提示したキーワードやアイテムは過不足なく組み込まれているものの、その実意図せぬ方向に話がふくらんでしまい、結果として根底を流れる「芯」のようなものがごっそり欠け落ちた「物語の大きなぬけがら」になってしまっているのです。
しかし、ごくまれにその逆の場合があります。「決して提示した原案に忠実なわけではなく、割愛された部分があったり異なる要素が混ざっていたりするのに、それでも「同じ匂い」をその中に感じる」という場合です。秋田さんの書かれた文章は、まさに後者のものでした。
と述べている。実際、時と場合にもよるけど、秋田は他人の――というか自分の作品においても、キャラクターの口調や設定の整合性というものについてそこまでこだわるタイプではない。その原作の魅力はどこか、自分の限られた手数の中でそれを再現するにはどうしたらいいのか、しっかりとしたコンセプトを立てること、それこそを重要視しているような節がある。ただまあそれが読者の求める面白さと合致しているか、とゆったらまた別問題なのでアレなんだけど。
神坂一との競作「メックタイタン ガジェット 虐殺機イクシアント」(2013)
「パノ」以来、実に7年ぶりとなる古巣・富士見書房での仕事は神坂先生絡み。主要登場人物のみ共通で、マジンガー世代の神坂がスーパーロボット、1stガンダム世代の秋田がリアルロボット風の小説を執筆するという試み。その試みがうまくいったかっていうと、神坂版はともかく秋田版はパトレイバーだと思ってたら機龍警察だったくらいのリアル度で、いまいち対比がうまく効いてない感じがしてピンとこなかったんだけど、エンタメとしては近年の作品の中では一番好き。
神坂一原作「ゼフィーリアの悪魔」(2015)
三度、神坂先生登場! 「スレイヤーズ25周年あんそろじー」に収録された本作は、リナがまだ地元ゼフィーリアにいた頃、魔道士協会の学校に通っていた時代の話。リナの本質/魅力は圧倒的な火力ではなく、頭の回転の異常な速さ、機転、それを即実行に移せる胆力にあるという点が40P程度の短編に凝縮され描かれている。世代的に唯一神坂先生をいじることができる作家の強みも活かされていた。
内藤泰弘原作「血界戦線 オンリー・ア・ペイパームーン」(2015)
共に90年代を代表する作家である内藤と秋田が、実は以前からプライベートでも付き合いがあったというのは既に周知の事実となっている。この内藤の新たな代表作である漫画のノベライズもその縁から来ているのだろう。原作ファンからクズofクズとの評判が名高いザップを主人公に据え、未来から彼の娘がやってくることで巻き起こる騒動を描く。魔都ヘルサレムズロットの猥雑さ、ザップの堂に入ったクズ度合いもさることながら、彼の挙動の一つ一つを見つめるレオの視線に、二人の強い絆を感じさせた。
血界小説版の冒頭が公開です。御一読頂ければ伝わる、漫画のどこぶっ込んでも全く違和感の無い瞠目のノベライズ。ブレないキャラ言動、HL名所描写、トンチキヴィラン、妙な固有名詞をフル装備した、文字で摂取する血界そのものでございます。(続 https://t.co/WwHUH6bGYd
— 内藤泰弘/YasuhiroNightow (@nightow) 2015年5月30日
続)それだけでも凄技なのに物語が進むうちにそのうねりが血界史上かつて無い大きな視線の到達を手に入れて尚且つ「戻ってくる」んすわ。何かやっぱ恐ろしく只者じゃない人に依頼してしまったんだと僕と編集さん一同息を呑みました。新しく創出されたまる一冊の新エピソード、どうぞお楽しみに…!!
— 内藤泰弘/YasuhiroNightow (@nightow) 2015年5月30日
『血界戦線 オンリー・ア・ペイパームーン』本日発売…!!ビックリする程精度の高い血界小説ぶりに相当綿密な打ち合わせが行われたのではと思われましょうが違います。ほぼイッパツで
— 内藤泰弘/YasuhiroNightow (@nightow) 2015年6月4日
ゴロンとこれがやって来て後は若干の摺り合わせをしただけです。実力派作家のプロ技存分にご堪能下さい…!!
秋田さんはね~「漫画の方でまだ描かれていない肝の設定の近辺を扱う場合、明確な描写をぼかして切り抜けるんだけど小説物語構造的には全く破綻してない」をスルッとやってくるんですよ。更に技術だけじゃないロマンや寂寥感まで盛り込まれて…。手練としか言い様がない。全くもってお勧めです…!!
— 内藤泰弘/YasuhiroNightow (@nightow) 2015年6月4日
なお副題は「It's Only a Paper Moon」と、それをタイトルに頂戴した洋画「ペーパー・ムーン」へのオマージュ。
わたしにとって好きな作家の書くノベライズとは
作家のファンを長いことやっていると、新作を読んでもついつい「いつもの秋田」で済ませてしまいがちになる。執筆活動の中で作風をこれと完全に固めた作家もいれば、ああでもないこうでもないと新しいことに挑戦していく作家もいるだろう。それを読み取れず過去作のあれに似ているこれに似ているで終わってしまうのは悲しい。そういう意味で原作付きの仕事やコラボというのはこちらの目先を変える意味でも、また(そんなものがあるというのなら)作家の幅を広げる意味でもありがたいなと。
あとはこれもう何年も同じこと言い続けてるんですけど、秋田もたまにはコラボする方ではなくされる方になって欲しい。秋田禎信作家活動25周年を記念して、「