「VS.こち亀」 コラボ相手としての両さんとはどういう存在なのか
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連載40周年&単行本200巻記念という名目だったのがいつの間にか完結記念になっていた、「VS.こち亀 こちら葛飾区亀有公園前派出所ノベライズアンソロジー」を読んだ。ちなみに作家陣は執筆当時、完結を知らなかったらしい。そうと知っていれば内容変えたのに! って人もいるだろうに。恐ろしい恐ろしい……
『VSこち亀』発売になりました。執筆当時は連載終了を全く知らなかったので、『チア男子!!』がコラボできることをただただ喜んでおりました。キャラクターが勝手に動く現象童貞の私ですが、両さんや海パン刑事たちには勝手に動きまくられました。 https://t.co/BE4kDzm3zM
— 朝井リョウ (@asai__ryo) 2016年9月18日
- VS.ガルパン「両津&パンツァー」の遠慮のなさ
- VS.オーフェン「いったいどうしてこうなった」ほんとにね
- 朝井リョウの作家としての嗅覚「こちら命志院大学チアリーディングチーム出張部」
- コラボ相手としての「こち亀」
VS.ガルパン「両津&パンツァー」の遠慮のなさ
6作の中では、本業小説家ではない、そしてアニメの原作者というわけでもない、岡田邦彦という人*1が書いたVS.ガルパンが一番面白かった。
ガルパン世界では男が戦車道をたしなみたい場合、ラジコン戦車道というのがあるらしい。大洗で行われる大会に参戦しよう! あんこうチームと遭遇! 秋山殿と意気投合!からの、後半は両さんが
さすが直近で「こち亀」本編に登場していただけあり、導入にもまるで違和感がなく、成功が約束されたコラボという気がする。戦車として反則だ、リアリティがない、みたいな台詞が、リアリティと映像的面白さなら後者を必ず選ぶガルパンでポンポン出てくるのが可笑しい。搭乗員のボルボと本田がいまいち活きていなかったのと、文章が淡白で、ガルパンはやっぱり音響の迫力あってこそだなあと思わされてしまったのが欠点か。
VS.オーフェン「いったいどうしてこうなった」ほんとにね
お目当ての秋田禎信「魔術士オーフェン・迷宮編 いったいどうしてこうなった」は無謀編とのコラボ。キエサルヒマのオーフェンと現代日本の両さんが入れ替わり転生? する。
両さんがオーフェンの格好を90年代っぽいだの暴走族だのと評したり借金取りに追われる身として地人兄弟と意気投合したりトトカンタの住民にグロ魔術士は帰ってくるなリョーさんずっといてくださいと懇願されたり。ファンがくすりとさせられる小ネタが多いのはありがたいし
正直、全然食い足りない……! 構成上入れ違いになったのでしょうがないんだけど、オーフェンと両さんの絡みももっと欲しかった。なお一番のお気に入りは、原作ファンが口を揃えて「他のファンタジーとはひと味違う」というあの世界の創世神話、成り立ちを「いかにもファンタジーらしい説明」と両さんが一蹴した場面。まあそんなもんだよな。
朝井リョウの作家としての嗅覚「こちら命志院大学チアリーディングチーム出張部」
他は全部原作に触れたことがなかったけど、「チア男子!」の朝井リョウは、超神田寿司の食べログでの評価が急に下がった! 味が落ちたわけでもないのにこれは何かある! ということで、以前からある意味お約束のネタだったし偶然だろうとはいえ、このタイミングで食べログのアレげなところをdisってくる辺りに、直木賞作家の引きの強さを垣間見た。時事ネタへの嗅覚の鋭さって実にこち亀的だという気がしませんか。
「おそ松さん」の公式ノベライズを担当している石原宙による「6つの童貞VS.こち亀女子~魂の合コン~」は、元々キャラ文芸やラノベで活躍してるメンツを集めた中でもひときわ「最近のラノベ」という感じでややしんどかった。面倒見のいい両さんと欲深い両さんの二面性に切り込んだ目のつけどころは悪くなかっただけに。これは他作品にもゆえることだけど、漫画のキャラを小説で出すのに直で漫画っぽい(?)表現を、というのも時と場合による気がして。たとえば多少原作と台詞回しが違っても、村上龍辺りに両さんの商売の栄光と没落とか書いてもらうとかあっても面白かったんじゃないか。まあ今回はそういう企画ではないのだけど。というか自分は推理作家協会が監修したやつを読むべきなのか。
青春小説「ハルチカ」の初野晴が執筆した「二十四の瞳」では、何故かこち亀じゃなくて梅澤春人先生の名前が出てきたけど、「ハルチカ」って普段からこういうパロディを挿れてくる作風なのかしら。ミステリー小説「謎解きはディナーの中で」の東川篤哉による「謎解きは葛飾区亀有公園の前で」は、初期の両さんと中川が町中で銃を撃ちまくっていた頃の雰囲気を感じる短編。ベテランだけあって意外にこなれていた。
イラストは、草河テイストでありながら両さん以外の何者でもない両さんを描いてみせた草河遊也と、秋本先生の絵柄とはまったくかけ離れてるけれど両さんを完全に自分の世界に取り込んでみせた中村佑介が双璧だった。
コラボ相手としての「こち亀」
全作読んで思ったのは、こういうコラボで両さんの何がいいかって、どんな世界でも馴染んじゃうのは勿論なんだけど、何か大成功してもその後にズッコケ三人組よろしく失敗するのがお約束になってるって点ですね。コラボ先の連中に負けるのも可。リスペクトは必要だけど配慮はいらない。そういう点でこれだよこれ! と思うものもあれば、もっと全開で行っていいんやで、と思うものもあったな。
ところで。裏表紙のこのロゴ、ソーキュートですね
*1:ドラマCDの脚本とか書いてるらしい