周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

電子化に当たり10年前のイラストを描き直し 秋田禎信・つたえゆず『シャンク!! ザ・ロードストーリー』

ライトノベルの多くは、雑誌連載を経ておらず、単行本に直接書き下ろす形をとっている(最近はなろう連載経由も多いけど……)。これはどういうことかというと、連載漫画やTVアニメのような単行本化/ビデオグラム化に当たり加筆修正する機会が、一回減るということだ。本文の誤字脱字ならば、重版さえかかればそこで修正されることもあるだろう。しかし、イラストはそうはいかない。かかる手間の割りに、リターンが少ないという考えなのだろうか。週刊連載の漫画同様、ライトノベルのイラストのスケジュールのタイトさは、昔からそこかしこで聞く。そこで、やむをえず不本意な作品をアップしなければならないこともある。しかし、仮にイラストレーター本人が「このイラストはアレだ」と公言したとしても、後に修正がかかったのを聞いたことは滅多にない。

 

「シャンク!! ザ・ロードストーリー」は、秋田禎信の手になるファンタジー小説「シャンク!! ザ・レイトストーリー」の直接の続編である。

 

永遠の命を求めて人体実験を繰り返す、凶悪な魔法使いたち。奴らを相手に、必殺の剣を提げて立ち向かう若き秘儀盗賊シャンク。教区外で魔法使いを追いつめ、ついには“魔力結晶”を手に入れたはずだったが……それは少女の姿をしていた! すべての常識を無視したこの少女に振り回され、悲鳴寸前のシャンク。ちょっと待て、不老不死はどこいった!? 
秋田禎信×依澄れいのコンビで描く、“剣と魔法”の冒険活劇!

 


 剣と魔法の正統派冒険活劇に改めて挑んだ感じの雰囲気や、「人の役に立つと死ぬ」からいつもゴーマンかましてるツンデレ魔女(本当の姿をさらしてはいけないため普段は黒猫の姿をしている)と秘伝の剣術を見られちゃいけない少年剣士の、お互い秘密を抱えツンケンしながらも相手に淡い感情を抱えている関係、などがファンには人気だ。2002年に「ザ・スニーカー」で連載開始したレイト~から、著者の都合で文庫書き下ろしに移行する際、リニューアルの一環としてタイトル変更。担当イラストレーターも依澄れいからつたえゆずにバトンタッチした。

 

つたえの挿絵は素人目にも明らかに作業時間が足りないのではと思わせる、クオリティの高くないものが何点か含まれていて、読者の間での評判はよくなかった。制作サイドの実際のところは分からない。が、読者のほうはといえば長いこと秋田作品の挿絵といえば草河遊也という刷り込みを受けてきて、萌え系(!)の依澄れいに面食らって、それでも段々慣れてきたところにイラスト交代、という経緯もよろしくなかったと今にして思う。いつの時代も、ラノベ作家につくファンがイラストレーターに向ける不平不満は多い。特にそれが大ヒットを経た後の作品なら、「やっぱりこいつの小説のイラストはあいつじゃなきゃ」という声は出てくるものだ。シリーズが長く続いていれば挽回の機会もあっただろうが、ロード~はレイト~同様全2巻、計4巻で2005年に円満完結してしまい、読者の評価が覆されることはなかった。

 

それから約10年が経過した2014年。世間の波に乗って本作も電子書籍化されたのだが、実際読んでみて驚いた。なんと何点かのイラストが加筆修正されていたのだ。中には、構図から全く別のものもあった。

 

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(左が修正前、右が修正後)

 

秋田によると、つたえの方から描き直ししたいと提案してきたそうだ。しかしこれ、公式の電子書籍のあらすじとかでは全く触れてないの勿体無いな……

 



電子化に当たって何らかの特典をつけることは珍しいことではないし、本文の細かい部分を修正するというのも稀に見られるが、イラストを描き直すというのは初めて聞いた。紙の書籍と電子本で内容が食い違うことには賛否両論あるだろうが、制作者が加筆修正を望むなら、紙しかなかった頃と比べ(多分)容易にそれが可能だ、というのは利点ではあるだろう。

 

全てのイラストレーターにこういう対応を望むわけにはいかないが、というかいかないからこそ、このような事態に巡りあうことができて、自分は幸運だったと思う。つたえ先生、ありがとうございます。

 

 

(※この文章は2015年01月に書いたのを加筆修正したものです)