ロボが本気出す時翼を広げるという浪漫 秋田禎信『メックタイタンガジェット 虐殺機イクシアント』
宮龍院シアは、かつて革命を起こして政権を手に入れた解放労働党の英雄である祖父を持つ超的な名家・宮龍院家の一人娘。宮龍院家はおよそ50年にわたって国を牛耳ってきたが、カリスマである祖父が病に倒れ、お家は危機的状況に陥っていた。また長らく戦争をしてきた国も危機に瀕していたる。宮龍院家次期当主である16歳の少女は、新兵器『VEX01イクシアントTYPHOON』に搭乗し、戦争に参加していた。父に無理矢理パイロットに選出され、英雄に祭り上げられ陰口も叩かれながらも、シアは今日も戦場に赴く。大空に光の翼の軌跡を描いて―。シェアード・キャラクター、リアルロボットバージョン。
「スレイヤーズ」の神坂一と「魔術士オーフェン」の秋田禎信。90年代ラノベを代表する作家であり、プライベートでも親交が厚いこの二人が、『スレイヤーズVSオーフェン』(このコラボにあたって新装版、電子書籍版が発売)以来13年ぶりにタッグを組んだコラボ企画。秋田にとっては「愛と哀しみのエスパーマン」から8年ぶりとなる古巣・富士見書房での仕事でもある。主人公を共有した上で神坂サイドがスーパーロボット、秋田サイドがリアルロボット風小説を執筆するという試みとなっている。
地上での都市防衛戦を描いた神坂版『メックタイタンガジェット 巨甲闘士グランアース』に対し、こちらは地べたに堕ちたらはいそれまでよな空戦メイン。
他にも1stガンダム世代だという秋田の、ガンダムリスペクトらしい描写が随所に見受けられる。なんかヤザンっぽいキャラとか、敵戦艦に「紙飛行機」って通称つける辺りとか。「オーフェン」は編集者に「アニメとか漫画とかの面白さ」を追求するように言われた氏が、Vガンを観ていて「魔法使いとかが宇宙を飛び回ってビーム撃ったりガチガチつばぜり合いしながら、なんかそれっぽい台詞を叫び合う」というイメージを得たことが原型になっていて、実は「魔術士」の「士」は「機動戦士」の「士」のオマージュ、というのはファンの間では有名な話だ。
そういえば多分明日、うちにV2ガンダムが来る。御呼びしようかずっと迷ってたんだけど、昨日勢いでオーダーしてしまった。玩具っぽいと言われようと、玩具っぽいから好きなのだった。V2。ガンダムの中では2番目に好き。
— 秋田禎信 (@AkitaYoshinobu) 2010, 4月 11
1番好きなのは言うまでもなくターンエーなので、7月の銀色バージョンを注文してしまった。V2はその余波と言えよう。
— 秋田禎信 (@AkitaYoshinobu) 2010, 4月 11
AkitaYoshinobuさんが搭乗するガンダムはLM314V23/24 V2アサルトバスターガンダムです http://t.co/4BCiwBfn3e http://t.co/6UhBDWefzM 確かに私は無類のV2好きですがアサルトのほうが好きです。物干し竿が良いのだ。
— 秋田禎信 (@AkitaYoshinobu) 2013, 10月 7
@tama_skyfish 実はガンダムよりザブングルのほうが好きなんですよね。でも1番好きなのはターンAなのでややこしいです。 http://t.co/sRGhEpd7
— 秋田禎信 (@AkitaYoshinobu) 2012, 6月 25
コメディ色も意外?に強く、この企画は、女子パイロットへの、ロボットを開発した博士のセクハラギャグが重要な点らしい。男どもの冗談混じりのセクハラパワハラにあるいはいや〜んまいっちんぐしあるいはしなやかに躱しあるいは手玉に取りながら湿っぽくならず生きていく戦う女性主人公というのは80年代OVA的な一類型である気がするけどそれはそれとして、セクハラを受け続けた主人公が、後半では、生意気ロリの新キャラにゆるゆりなセクハラをするようになってしまう顛末には笑ってしまった。ファンの間ではほぼ確定事項になってたけど、やっぱり百合好きですよね秋田先生。
(ふと)そういえば今月のザ・スニーカーの記事に「いつかBLを書きたい」と言ったのが載ってるんですが、編集者には「秋田さんは百合を書くべきです」と言われました。
— 秋田禎信 (@AkitaYoshinobu) 2010, 9月 2
ところで本作はリアルロボットと銘打っていて、まあ設定は細かいけど(アニメだとスーパーロボットだろうと動力がなんであろうとカトキ立ちしてる絵だけでそこに存在するっていう説得力出るけど、小説だと読者の想像力頼みなんでアニメよりちょっと多めにリアルっぽい設定の担保がないとと厳しいのかなーとか)、特にロボットの運用等についてリアルという感じはしないかな……。強いて言うなら「機龍警察」と同じくらいリアルロボット。あれは「パトレイバー」とよく比較されるけど、主人公機はブラックボックスを抱えるワンオフの機龍警察と、最新鋭ではあっても汎用性のあるレイバー、独立愚連隊で左遷先ですらある特車二課と、トップダウン式に組織されたエリートの集まり(であるが故に疎ましがられてる)のSIPD。むしろ対になっていた。
一番リアル(?)だと感じたのは、思春期でただでさえ不安定な時期なのに戦闘に駆り出され懊悩する主人公が、信頼すべきカウンセラーによって解決の糸口を掴むという点だった。年頃の子どもを預かってるんだからカウンセラーくらいつけとけよマンもこれで安心。……だから、同じ主人公でスーパーロボットリアルロボット両方やるというこの企画の肝に関してもいまいちぴんとこなかった。秋田版と神坂版でそこまで本質的な違いがあるかというと…… ?
とはいえその点は本作のエンタメとしての面白さを損なうものでは全く無く、一方でこれがアニメだったらTVシリーズの総集編映画だよなというくらいには巻き展開なのはどうしようもなく惜しくて、是非とも続刊が欲しいところ。また秋田神坂両氏はマジンガー世代の神坂氏、ガンダム世代の秋田氏に並んでエヴァに影響を受けた世代の作家がこの企画に噛んでくれたら、というような発言をしているが、自分としては地上戦、空戦と来たので次は宇宙戦闘を望みたい。
蛇足
アニメイト特典ペーパーの対談で明かされる、衝撃の事実。
イイハナシダナー
参考リンク
※この文章は2013年10月に書いたのを加筆修正したものです。