周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

00年代初頭の女子高生漫画オタク、伊原摩耶花(古典部)の本棚

10月に発売されたムック『米澤穂信古典部』では、原作者が考えた「古典部」メンバー4人の本棚が公開されていた。


オタクとしての伊原摩耶花


古典部」シリーズは、米澤穂信による青春ミステリー小説だ。青春とゆっても輝かしいばかりじゃない、ほろ苦い後味が人気の秘訣となってる。2012年には「氷菓」のタイトルで京都アニメーションによってTVアニメも制作され、人気を博した。今秋には実写映画も公開される。


この作品では、地方の進学校に通う高校生の様々な自意識が取り上げられている。その中でも私が一番注目してるのは伊原摩耶花。主人公・折木奉太郎とは犬猿の仲の、小柄な女の子だ。



古典部と掛け持ちしてる漫研*1では人一倍創作意欲に溢れていて、オタク以外の人をカタギと呼び、オタクとしては人目を気にする方で。多分、いわゆるガチ勢なんだろう。それだから部内のエンジョイ勢とはしばしば対立してる。強気のようだけど内に抱え込むタイプなので、人間関係に悩んで睡眠薬を服用しないと眠れなくなったりという一面も。


彼女が文化祭での漫研の企画としてコスプレをしてきた時に、乗り気じゃないながら選んだキャラも、萩尾望都「11人いる!」のフロル、藤子・F・不二雄エスパー魔美」のマミ、手塚治虫七色いんこ」のマリコと有名所ではあるものの、他の部員が「ストⅡ」の春麗や「ヴァンパイアハンター」のレイレイを演じてたのと並べてみると、部内の温度差が目に見えるよう*2


彼女が自分に似ているとは全く思わない。共感できるかというとそうでもない。ただ「古典部」メンバーを眺めてみた時、「刺さる」場面が多いのも彼女絡みの事件であることも事実だ。それはやっぱり私も彼女もオタクだからなんだろう。そんな伊原摩耶花の本棚は以下の通り。

*1:というか古典部のほうが掛け持ちなんだけど

*2:原作は10年以上前の作品なので、2017年時点から新しい古いで見てみると今やどっちもどっち感はなくはない

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『小説 魔法使いの嫁 銀糸篇』 原作を知らなくても楽しめるファンタジー小説集

人外×少女の現代ファンタジー漫画、ヤマザキコレ魔法使いの嫁」の、小説アンソロジー。先行して発売された『金糸篇』とは執筆陣を替えての一冊。

東出祐一郎「ウォルシュ家攻防戦」

チセとエリアスはとある土地を訪れる。
そこは、すでに家屋はなく石の壁を少し残すのみとなっている「家」の跡。
かつて憑いていたという家事妖精に興味をもったチセにエリアスは、その土地の持つ記憶をみせる。
それは遠い遠い過去に存在したブラウニーたちの記憶だった。

変わるもの。変わらないもの。永い時を生きる「隣人」たちの持って生まれた業と人間との関わりを描く、ホラー風味の怪異譚。


なんだけど、タイトル通りの、ブラウニー達によるバトル――争い、諍い、とかではなくて「バトル」というのが相応しい、「――捻り潰す!」「できるものならな!」みたいなテンションの殴り合い――は、この小説の雰囲気にはそぐわない。「まほよめ」として以前に、この小説の中で浮いてる。「Fate/Apocrypha」の執筆を始め型月作品に関わってるようだけど、なるほど、文章の調子はきのこに似てる。


真園めぐみ「ナチュラル・カラーズ」

魔法機構の技師であるキリドは、魔法を使ったときの魔力量を測る「計測器」を作り出そうとしていた。
試作品にまでこぎつけた彼がデータ集めのために協力を仰いだのは「カラーズ」と呼ばれる魔法使い。
キリドとカラーズの奇妙な同居生活が始まった。


人生に行き詰まった少年が、世界の美しさに触れたことで活力を得る。まほよめは人外エリアスと人であるチセとの交流を綴った物語、ではあるのは勿論なんだけど、主人公のチセは人との交流を断ち切ったわけではない。むしろエリアスとのふれあいは巡り巡って他の人間との交流にも繋がっている。そんなことを思い出すやわらかな手ざわりの一作。作者は東京創元社の新人賞でデビューしてまだ間もない人。


吉田親司「戦場の赤子」

大英帝国ナチス・ドイツの戦闘機が空を舞う1940年。
日本人の魔法使い・G中佐と彼に付き従う霧島は、イギリス王立空軍の飛行場にいた。
観戦武官でありながらスピットファイアで出撃したG中佐は、ドイツ機にグレムリンが取り付いているのを目にする。
戦争に魔力を持ち込んだ者がいる……!


ベテラン仮想戦記作家による、WW2のIF。魔術文字を刻印したホーミングミサイルが飛び交い、ボイラーやエンジンを魔術で強化したことで氷上を滑るように軍艦が進み、巨大ゴーレムが波を裂く。海上のオカルト大決戦。ナチスといえばオカルト、オカルトといえばナチスですよね。オットコノだもんなー! しょうがないよなー! って感じで、原作とは全くかけ離れた雰囲気だけど、これはこれで。


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『血界戦線 グッド・アズ・グッド・マン』 濃密さを増したHL描写、ザップ大活躍、堕落王の気高さ

千年かけて練り上げた魔導によって、破壊も創造も思いのまま。退屈を厭い、世界崩壊レベルではた迷惑なゲームをヘルサレムズロットに仕掛ける怪人、堕落王フェムト。彼が持ち合わせてないのはただ一つ、「普通(グッド)」であること――。ある日、たわむれに「普通」に堕ちてみようと考えた彼は、ひとまず彼自身を増殖させてみることにした。


魔術士オーフェン」の秋田禎信が、「トライガン」の内藤泰弘の新たな代表作「血界戦線」をノベライズ! 90年代後半-00年代前半のオタクにはたまんねえ! と話題になったコラボの第2弾であります。


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秋田ザップ好きすぎ問題

第1弾『オンリー・ア・ペイパームーン』はレオを視点にザップ・レンフロの魅力をクズ度据え置きかっこよさ3割増しに描き、さすがチンピラ金貸し魔術士オーフェンさんで一世を風靡した秋田や! と読者からはおおむね好評価だった。今回フェムトが起こした騒動に挑むのはレオ、ザップ、ツェッドということで、斗流、ランチトリオ(というらしい)ファンにはおすすめ。というかザップ好きには垂涎。

  • 指向性対人地雷の弾幕を血刃で裂いたその空隙を通り抜け敵を拳骨で昏倒、でも爆発の余波で服はぼろぼろ、ほぼ全裸に
  • 落ちてくるビルの一棟を血刃でバラバラにして周囲に落としていき、自分たちの周囲にがなんとか息できるくらいの空間を作る
  • 指紋認証に対して、レオが「神々の義眼」で残った指紋を解析し、ザップが血法でトレースする。でも指紋認証自体はフェイクで扉を押したら開いた
  • レオによって右目の視界だけを入れ替え、ツェッドとの斗流ツープラトン


など、単独でふるう血法の自在ぶりから、レオやツェッドとの連携まで見事にこなしてみせた。前巻がザップというキャラクターを解剖したなら、今巻は戦闘者としての彼をフィーチャーしている。一読して感じたのは、なんというか、漫画の戦闘を活字にできてる気がするってことだ。


秋田禎信の描く戦闘というと人体構造と皮膚感覚を丹念に伝えてくる、そんなイメージがあった。でもザップさんのそれはどんな人体構造してんのか分かんないくらいスピード感に溢れ、ド派手で、変幻自在。同作者の『ハンターダーク』があくまで非人間という括りの中で人体構造を無視した動きをさせてたのに対し、本作はそういうのお構いなしのデタラメバトル全開。読んでると内藤せんせの絵が自動的に頭に思い浮かぶ


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青木U平「フリンジマン」 不倫は文化ですか? いいえ、エンタメです


恋愛、というか、男女の駆け引きをレクリエーション的に描いた作品が、今、楽しい。「次にくるマンガ大賞」を受賞した「かぐや様は告らせたい」、サンデーで人気急上昇中の「保安官エヴァンスの嘘」、ラノベでは「OP-TICKET GAME」などなど。


恋愛あるある、異性あるあるを絡めつつ、「これだから男は」「これだから女は」式地獄に陥らないよう、キャラクターを愛しいおバカに描く。結構な作者のバランス感覚が要求される。


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上に挙げた作品の主人公は、多くが童貞だったり異性と付き合ったことがなかったり。まーそっちのほうがキャラに可愛げ(? が出るしね。そーゆー点で「不倫」を目指す以上主人公が既婚者である「フリンジマン」という漫画は、異色とは言えるかな?

場末の雀荘に集まった4人の男たち。彼らはある共通の願望で繋がっていた。その願望とは「愛人を作りたい!!」という清々しいまでに不純で、申し開きできないくらいにストレートなものである。そして男たちは『愛人同盟』を結成する!! 不倫のベテランである井伏(通称:愛人教授)から、愛人作りのノウハウを伝授される田斉たち。果たして、彼らは愛人を獲得することができるのか……ッ!?

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「魔術士オーフェン」は銃の存在するファンタジー世界をいかに描いたか

銃は、大陸でも類を見ない、強力な兵器のひとつではあった。が、最強ではない。便利ですらないかもしれない。数発撃つごとに暴発の危険性は高まり、さりとて一発目から危険がないわけでもない。故障も多い。それでもなお、この武器は騎士たちの誇りであり続けた。大陸の治安を守る者だけが使うことを許された聖なる武器。


魔術士オーフェンはぐれ旅 我が庭に響け銃声』より

銃器について。
なんでかわたしは、イスラエルに惹かれるみたいです。
そんなわけでアサルトライフルといえばTAR-21です。
ディスカバリーなチャンネルの、最強兵器がどうのといういつものやつで紹介された時、現地の人がアメリカ人の紹介者に試射させて「へー、アメリカ人が撃ってもわりと的に当てられるもんだネー」的な素敵コメントしていたのが印象的でした。
そして彼いわく、「連射性能はもちろん良いよ。まあカタログスペック的にはね。でも実際ライフルを使う時にフルオートで撃つ奴はいないだろ。こいつが本当に優れてるのはまず撃ちたい時に必ず弾が出ること。そして遠すぎない距離で当てやすいこと」
これで学んだってわけではないですが(この番組見たの最近ですしね)、わたしが現実性を感じる銃器のスペックっていうのは、そのあたりが一番ピンときます。
彼らにとっては現実性どころか現実ですから、単に感心して済むような話でもないんでしょうけどね……


http://www.motsunabenohigan.jp/oldnote/200810nt.htm


「刀剣や魔法が主な攻撃手段である作品では、銃火器は不当に弱く描かれているッッッ」というのはよく聞く話ではある。「現実的に」考えればそういう傾向もあるかな、とは思う。銃が「真っ当に」強い作品としては人類最強の範馬勇次郎が、腕っこきのハンターの銃弾に気絶させられた「グラップラー刃牙」が真っ先に出てくる。*1。あと「トライガン」。銃は直線の攻撃しかできない、それに対して刀は曲線的な動きが可能、って理論好きだったんだけどなあ……



我らが「オーフェン」シリーズも、銃が存在するファンタジー小説としてたまに例として挙げられる。ではその評価はというと、わりとバラけてる気がする。


そこで、以下でシリーズ中の銃の扱いをざっと追ってみた。未読の人は、作品世界は都市圏ではガス灯や下水道なども整備された、産業革命を経た文明が構築されてる。作中最大の攻撃力を持つ魔術は、人間の場合他種族との混血によるものであり、遺伝的素養がない者は絶対に使えない。人間の使う魔術は音声魔術と言って、声の届く範囲までしか効果を発揮しない。以上の3点だけ知っといてほしい。

  • 第1部~拳銃は近接戦闘で使うもの
  • 第2部~狙撃銃の登場
  • 新シリーズ~狙撃銃の普及
  • 結論

*1:ただしこの時点のオーガは今現在ほどには化け物じみた強さではなかった

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