周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

青木U平「フリンジマン」 不倫は文化ですか? いいえ、エンタメです


恋愛、というか、男女の駆け引きをレクリエーション的に描いた作品が、今、楽しい。「次にくるマンガ大賞」を受賞した「かぐや様は告らせたい」、サンデーで人気急上昇中の「保安官エヴァンスの嘘」、ラノベでは「OP-TICKET GAME」などなど。


恋愛あるある、異性あるあるを絡めつつ、「これだから男は」「これだから女は」式地獄に陥らないよう、キャラクターを愛しいおバカに描く。結構な作者のバランス感覚が要求される。


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上に挙げた作品の主人公は、多くが童貞だったり異性と付き合ったことがなかったり。まーそっちのほうがキャラに可愛げ(? が出るしね。そーゆー点で「不倫」を目指す以上主人公が既婚者である「フリンジマン」という漫画は、異色とは言えるかな?

場末の雀荘に集まった4人の男たち。彼らはある共通の願望で繋がっていた。その願望とは「愛人を作りたい!!」という清々しいまでに不純で、申し開きできないくらいにストレートなものである。そして男たちは『愛人同盟』を結成する!! 不倫のベテランである井伏(通称:愛人教授)から、愛人作りのノウハウを伝授される田斉たち。果たして、彼らは愛人を獲得することができるのか……ッ!?


愛人同盟のメンバーは、事なかれ主義のリーマン、お調子者の野球好き、そして妻帯者でもないのに不倫したがってる映画オタク。彼らは不倫願望はあるけど、いざとなるとやっぱり家庭のことを始め色んなリスクを考えて尻込みする。愛人教授(ラ・マンプロフェッサー)は「海外旅行したことがなくても生活できるけど、そんな人生は寂しい」「ウニを食べたことのない人生なんていうのも寂しいなあ」と喩え話で巧みに彼らを不倫に誘い、そのいろはを伝授していく。


「世間話でもなんでもいいので二人きりで話すことで擬似不倫の雰囲気を作っていく」「曲がってるネクタイを見て自分で直しに女(ヒト)は愛人の原石」「乾杯の時に位置的にあぶれた奴にまでグラスを合わせてくる奴は愛人気質」……。次々と怪しげな理論が開陳、実践され、他のメンバーは彼の慧眼に戦く。


不倫だの愛人だのというと大人というイメージがあるけど、愛人同盟のメンツには全く当てはまらない。雀荘で打ちもせず益体もない馬鹿話をして店員にウザがられてるところとか暇を持て余した大学生そのものだし、愛人教授(ラ・マンプロフェッサー)の秘密基地(という名の古アパート)から同盟員と愛人候補のデートをスパイ大作戦してるところなんて、まるっきりごっこ遊びに興じる子供だ。


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 フリンジマン 1』より


「男っていくつになってもバカね……」とデキる女風に結論づけてみることは簡単なんだけど。「ワルいこと」はバカな男をよりバカにするし、バカは集まるとバカさ加減が増す。「100%安全な不倫など存在しない」愛人教授の言葉はチキンゲームを加速させるだけ。そして、最初の不倫したいという目的が、いつしか男同士でバカを見せつけ合いたいという風にすり替わった感がある。愛人候補のトロフィーヒロイン化。真面目に(?)不倫するより、ある意味邪悪ではある。そういえば作者が木多康昭の元アシだったそうで。そういえば「喧嘩商売」の女子高生ハンター編に通じるものがあるなー。


とはいえ、男がおバカをやるには女性もいなけりゃ始まらない。終盤には愛人候補より彼女を取り合う愛人教授のライバルとのバトルが見ものだった本作は、全4巻で完結(多分打ち切り)してしまう。それはそれで面白かったんだけど……。作者が軌道修正して、もう一度同じような題材に挑んだのが「服なんてどうでもいいと思ってた」。女ばかりのファッション雑誌「ルイルイ」の編集部に配属されたけど、ファッションも女もからきしな3人の男たち+αの物語だ。


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 服なんてどうでもいいと思ってた 1』より


合コンの練習で、女性主導で男が相槌を打つ形で楽しく会話してたのを、横から「デキる女」がダメ出し。偏見丸出しの合コン論を語る場面である。「フリンジマン」には欠けてた女性キャラの個性が出てて、とても期待が持てた。でも、それも3巻で打ち切られ、作者は路線変更を余儀なくされ……まあ、ぶっちゃけ私がこの漫画を読んだのってつい最近なんだけど……そんな時に売り切られた「フリンジマン」のドラマ化が決定するんだから、世の中わかんないよね。



全ての鍵を握る愛人教授役は板尾創路。愛人同盟の他の3人には大東駿介淵上泰史森田甘路。実写化しやすい題材だとは思うので、ドラマがヒットしたこの漫画の再評価が進めばいいな。