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周回遅れの諸々

90年代にオタクとしての青春を過ごした人のブログです

秋田禎信『血界戦線 オンリー・ア・ペイパームーン』 映像化も望まれる良ノベライズ

ラノベ ラノベ-秋田禎信

www.adventar.org


※この文章は、秋田禎信関連アドベントカレンダーの一日目の記事です。


内藤泰弘原作「血界戦線」のTVアニメ2期が、2017年に放送されることが決定した。ストーリーなど詳細はまだ明らかにされていないが、ノベライズでありながら一部の人から映像化を望まれているのが、「魔術士オーフェン」などで知られる秋田禎信による小説版血界戦線「オンリー・ア・ペイパームーン」だ。


元々秋田と内藤は趣味の洋物トイなどを通じて「血界」連載以前から交流があったのだけど、仕事で組んだのはこれが初となる。

「それで、どっちが私のパパ?」レオとザップの前に現れた少女。彼女の一言が、この世界の未来を賭けた戦いのはじまりだった。秘密結社ライブラの語られざる物語、ノベライズ!!


この小説ではレオナルドの視点を通して、未来からやってきたという自称ザップの娘・バレリーが引き起こす騒動が語られる。ザップという男はどういった人間であるのか、ひいてはレオとザップの関係は……といった辺りが話の肝。副題は「あなたが私を信じてくれるなら、紙で作られたお月さまでも関係ない」と謳ったジャズのスタンダードナンバー「It's Only a Paper Moon」と、それをフィーチャーした1970年代の映画「ペイパー・ムーン」からの二重のオマージュ。後者は詐欺師の中年と母親を亡くした9歳の女の子の旅を描くロードムービーだ。



It's Onlly A Paper Moon/Nat King Cole

ヘルサレムズロットに暮らす普通じゃない人々の普遍的な生活感情(?)


秋田の「オーフェン」と内藤の「トライガン」は、脛に傷を持つ不殺系主人公*1罵倒芸、同時期の「カウボーイビバップ*2なども含めて「大人の男」のかっこよさをアピールしたアニメ化、といった風に共通点が多い。その年代のファンは結構な割合でかぶっているようで、元々期待する人は多かったけど、発売後もおおむね好評みたいだ。



HLの魔界都市っぷりは、医療行為としての「スンギュギベウラルムンアオダイショウ酢漬け丸呑み」とか「山ほど詰まれたハイヒールのひとつひとつに蛙の卵を詰める内職」とかいった描写で表現されている。「オーフェン無謀編」の舞台トトカンタにおけるご町内奇人変人ごった煮感を思い出す人も多い。


同時に秋田は、異界で暮らす人々(?)の生活感情を些細な、けれど実感がこもった言動で描き出すのも忘れない。「大崩落で人間が人間様をやめた」ことで医療訴訟なんかなくなって喜ぶ、外界を追い出された医者がいる。死すら多様化して、それでも悼むことをやめられず、位置、位相を変えることのない墓地を求める人達がいる。神格級の存在がありふれてて奇跡が当たり前のものになっても「それでも僕ら、奇跡を祈るんだ」と言い放つスティーヴンさん、キエサルヒマにほしかった。

技名を叫んで殴らない

近年の秋田作品の傾向として、バトルのすっきりしたカタルシスをあえてかわしてとんちで解決する、というのがあってどうかなーと思ったけど、そこはいつもと変わらず。そういう意味では、映像で映える話とは言い難いところはある。


「技名を叫んでから殴る」に対して「呪文を叫んでから殴る」のがオーフェンというか秋田作品で、根本的に内藤流のド派手な戦闘を再現するには向いてないんじゃないか、という気はしなくもない。どこまでいっても人体の構造を無視することができない、というか。人間じゃないものを描く時はその限りではないのだけど……

ザップ・レンフロという男

秋田禎信という作家は登場人物のかっこ悪いところを描くことで、かっこよく見せることが多い。例外がノベライズで、『スレイヤーズVSオーフェン』も『VSこち亀』でも、わりかしストレートにリナや両さんをヒーロー/ヒロインとして描いている。


このお話の主人公、ザップはどうだろう。代表作の「オーフェン」でチンピラ/クズは書き慣れてるし安心、とゆわれ、実際彼の動かし方は堂に入っている。

その口が、開口一番にこう言った。
「それで、どっちがわたしのパパ?」
「…………」
絶句しながらザップを見やると。
ザップは混じりっけない真顔で、きっぱりとレオを指していた。
(すげえ)
なんとなく感心する。どんな不意打ちを喰らっても迷いなく生き延びる。戦士の才だ。

「冗談で言ってるわけでもないっぽいのが怖いんだけど……パパって子供時代とかなかったの?」
「ねえわきゃねえだろ」
「思い出の玩具ってなんかある?」
「どうだかな。木の。角張ったやつ」
「積み木?」
「違う。ああ、あれだ。角材」


双方の生い立ちに関して言えば、オーフェンはあれでも魔術のエリートで、作者からは「すごくきつく絞ったエルメスのスカーフ」と評されている。教養はあるし、なんならピアノも弾ける。一方でザップさんの思い出の玩具が角材というのは、二人の違いを端的に示している。まあでもザップさんの角材ネタに萌えるってのは、≪塔≫の訓練で戦闘中反射的に目をつぶらないようにっつって両手を縛られて布を丸めた棒で延々殴り続けられたキリランシェロに萌えるようなもんかしら。


とにかく、かっこ悪いところを描くことでかっこよく見せる、という手法はザップにも採用されている。でも、なんだかんだでザップはストレートにかっこいい。それは展開としてかっこいいシーンが用意されている、というのは勿論だろう。ただそれ以上に、このお話の視点人物として固定されているレオがそう思ったから、というのが大きい。 秋田作品の多くでは、三人称であっても、地の文の記述は視点人物が見たこと感じたこと、という前提があるからだ。特にこの小説では構造としてそれが強調されている。他の人がどう思うかはわからないけど、レオにとっては、それは真実なのだ。……これってなんか、二次創作そのものって感じがしませんか。



バレリーの母親についての真相は、あくまでいい女だったで通したザップさんに比べて、アレンハタムの例の人に対して数年間根に持ってた我らがグロ魔術士どのの懐の狭さときたら……と思った。いやでもそこは実際に情を交わしたかどうかの違いというやつなのか。

「オンリー・ア・ペイパームーン」から入る秋田禎信作品

代表作の「オーフェン」でもいいんだけど、既刊が多すぎるので。「ハンターダーク」は、とにかくハッタリを利かしたかっこよさを追求したカートゥーンSFアクション。多分この作品を経なきゃクラウスさんは書けなかったんじゃないだろうか。
近年の作品の中では最もスッキリ爽快な気分を味わえる。



「ベティ・ザ・キッド」は、内藤先生→トライガン→SF西部劇繋がり、ということで。やや重めだけど、魅力ある敵役を求める向きに最適。



相手の全てを知らなくても構わない。また知ったとしてもそれまでの関係が壊れるとは限らない。黒猫の姿をした女魔法使いと「秘儀盗賊」の少年剣士。互いに言えない秘密を抱えた二人による冒険ファンタジー。



「RD」は士郎正宗Production I.G.原作の同名アニメの外伝的ノベライズ。職場の同僚♂同士の、バディのようでバディでない少しバディなお仕事SF小説。お気に入り詳細を見る



圧倒的な力を持つ人外の存在との闘いということならこれ。舞城王太郎原作、越前魔太郎名義の人気作家らによる競作企画の一端であるハードボイルド・サスペンス。


小説第2弾はあるのか

結構重版を重ねてるようだし、「ペパムン」映像化はともかく秋田によるノベライズの2冊目はあってもよさそうだけど、どうかなあ。「血界」が多大な影響を受けてる「魔界都市」シリーズの菊地秀行とか、あとは「ブラックロッド」の古橋秀之とか「デュラララ!!」の成田良悟とかに書いてほしいって人もいるしなあ。

*1:もちろんその境地に至った経緯は全く違う

*2:キャラクターデザインは血界アニメの川元利浩

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