周回遅れの諸々

90年代にオタクとしての青春を過ごした人のブログです

なつかしの異世界転生・召喚もの徒然語り

2月から3月にかけて、書評サイト「シミルボン」で連載書評を書いた。「なつかしの異世界転生・召喚もの」というテーマで全5回。過去に書いた感想を下敷きにさらっと済ませるつもりだったのだけど、思ったより手こずってしまった。


shimirubon.jp


取り上げたのは、


の5記事6作品。で、以下は連載の前に試しに書いてみたラフスケッチ的な文章。一つ一つの作品に焦点を絞ったシミルボンのほうと比べると思うがままに書き連ねてる感じ。連載と重複も結構あるけど、あちらで執筆候補から外したものも載っけてて、埋もれさせるのも惜しいので(あと連載の影響でこのブログの更新頻度が減ってたので)、こっちにあげてみます。


現在、ライトノベル・Web小説を中心に異世界転生・召喚ものが大流行している。でも、このジャンルはもちろん、昨日今日に生まれたものじゃない。Web小説書籍化の最右翼「ソードアート・オンライン」(ゲームの世界を舞台にした物語は別物って人もいるだろうけど)や無数の二次創作を生んだ「ゼロの使い魔」を現在に続く流れの起点と見る人もいれば、歴史物とはいえ「王家の紋章」の影響は無視できない、いやいややっぱファンタジーは海外発だろということで「ナルニア国物語」を挙げる人もいるだろうし、往きて帰ったり帰らなかったりする物語なら「神曲」「ファウスト」忘れんなとか、は? 異界探訪の原型はオルフェウスイザナギのアレだろ? って人もいるかもしれない。


とはいえ、私にはこの流れを解説できる教養も文章力もないので、ひと昔以上前のやつで、いくつか特に印象に残った作品を挙げてみるだけにする。


多分、原体験は「はてしない物語」を映画化した「ネバーエンディング・ストーリー」だったと思う。いじめられっ子の主人公が異世界から連れてきた龍に乗っていじめっ子に仕返しするというラストは幼い私も首をかしげるものだったけど、後に原作者のエンデも怒り心頭だったと聞いてそりゃそうやんなあと思った。



一番好きなのは、神坂一の「日帰りクエスト」。タイトル通り日帰りで異世界と現代日本を往還する物語だ。現実が退屈で異世界に召喚されるのを心待ちにしていたという前向きなんだか後ろ向きなんだかわからない女子高生・エリが主人公。同作者の「スレイヤーズ」と違ってエリは何の取り柄もない一般人だけど、それだけに確固たる自我や咄嗟の機転、それを実行できる胆力といった神坂主人公のスタンダード像が、異世界の価値観が異なる住人たちを相手にストレートに表現されている。



ラノベにおいて、異世界召喚というジャンルのお約束をネタに組み込む方向性の臨界点を私に示したのが、日昌晶「覇壊の宴」。日本と異世界がちょっとした海外旅行くらいの距離感になってて、主人公のうだつが上がらないサラリーマン氏は、異世界の支社(ただし従業員一名)に左遷されてしまう。そこはPKOの名の下の地球からの侵略やゴミ処理場化、エルフたちの奴隷問題といった第三世界にはありがちな問題が山積していて……という、「こんな異世界召喚は嫌だ!」の嵐である。自衛隊が大活躍するのは、「戦国自衛隊」からのアレだろうか。この路線でもうちょっと悪意がない作品としては、異世界人の美少女とと地球人の刑事が組んで、双方の結節点である都市の事件を解決するポリスアクション、賀東招二コップクラフト」がある。



「覇壊の宴」にしても「コップクラフト」にしても、えてして異世界人は搾取される側に回りがち。一方で、中村恵里加「ひがえりグラディエーター」は現代人が異世界に召喚されて、現地住民の楽しみのために殺し合いをさせられる。「ゲームなのですぐ治るけど、ちゃんと痛みは感じる」という設定が、描写をより悲惨なものにしていた。またこのゲームでは優勝すると日本円にして三百万、入賞するだけでも百万とやたら具体的かつ現実的な金額が提示されている。報酬目当てに発展途上国貧困層が積極的に参加することもあるんだけど、主人公は初戦の賞金をお米券に替えて母親にプレゼントし、後輩ちゃんは遊ぶための小遣いのほか、大学進学など将来のために貯金している。というのがなんともグロテスクではあった。



前述した「日帰り」は1993年、「覇壊の宴」は2000年の作品だけど、もっと以前から「異世界に召喚されて世界を救うというお約束」が登場するものは存在する。その一例が、本邦においてビキニアーマーの定着に一役買ったOVA幻夢戦記レダ」のノベライズ。普段からファンタジーに慣れ親しんでる主人公は、別世界に召喚されてもまるで動じない。1985年に刊行されたもので、当時ブレイクしたかしないかという頃の菊地秀行が執筆した。著者のイメージとは裏腹に本文のエロ要素はほとんどなかったのは残念ビキニアーマー菊地秀行なのに! 地球に帰るため、女性エルフの体に貼り付いてる「呪文」を見つけるためにエルフを手当たり次第脱がしてく矢上裕エルフを狩るモノたち」が完全無欠のコメディーで、全くエロくなかったのと同じくらいの衝撃だよ! や、面白いですけどねエル狩る。ファンタジー世界の住人たちの脳天に次々と炸裂していく、空手チャンピオンのカカト落とし! 神保町のカレーが早く日本に帰ってこいと俺を呼んでいる! 現在、続編が連載中。



そんな私もマンゾクできるのが、「異次元騎士カズマ」。当時コバルト文庫でぶいぶいゆわせてた藤本ひとみが「王領寺静」名義で発表した少年向け冒険小説だ。ただし騎士の間では男色が当たり前の世界なので、異性愛と同様かあるいはそれ以上にそういう描写がある。作中には「パリ街道」「ローマ法王」「ユダヤ街」といった単語が出てきて異世界転生っていうか実質的に時間移動ものなんだけど、作中でそこに言及されることはなくて、「中世風ファンタジー」と「架空歴史小説」の違いとは、となった。著者は後に歴史小説方面で大成している。



なんの取り柄もない異世界でふしぎな力に目覚めたりモテモテだったり、というと男性向けの印象の方が勝るけど、1977年からスタートした細川智栄子あんど芙~みん「王家の紋章」は間違いなく本邦におけるこの系列の走りだと思う。今となっては既視感のある展開の連続なんだけど、ジェットコースターのような話運びは、ぐいぐい読ませるものがある。少女向けでは他に、渡瀬悠宇ふしぎ遊戯」にハマった。私が観たのはアニメの方なんだけど、「四神天地書」という本の中の世界に迷い込んだ主人公たちと、彼女たちを解放しようと現実世界で奔走する主人公の兄、という二重構造になってて、やがては本の中の出来事が現実に影響を及ぼすという展開にぞくぞくした。また、主人公・美朱と一緒に本の中に入った親友の唯ちゃんという子がいて、「四神天地書」ではバラバラになった二人のそれぞれの視点から世界の優しさ残酷さが語られるという展開も物語を引き締めてた。



同じ異世界に迷い込んだ異邦人でも、命運は別れる。しかしそもそも、多くの人間は異世界への憧れを抱きながらも、現実で生きていくしかない。小野不由美魔性の子」は、ここではないどこかを夢見ながら、目の前で運良くその栄誉に浴することができた者を、指をくわえてそれを見ていることしかできなかった人間の痛切な心情を描いた秀作である。一応「十二国記」シリーズの序章という位置づけだけど、あの大ヒット作を切り離しても十分に楽しめる。私の中では、著者の最高傑作である。



ここまでラノベと漫画ばかり挙げてきた。アニメでは、というと「聖戦士ダンバイン」「魔神英雄伝ワタル」など異世界+ロボット、というのが定番の一つだけど、「天空のエスカフローネ」「魔法騎士レイアース」と、そこにさらに少女漫画の要素を付け足した作品も結構楽しんだな。ゲーム世界にログインする系では「.hack」。安倍吉俊灰羽連盟」は、村上春樹の「世界の終わりとハーフボイルド・ワンダーランド」に影響を受けたと言われる、どこか物悲しいセピア色の世界で営まれる日常が魅力的。無数の異世界とその住人を生み出してきたサンリオ原作の「ジュエルペットてぃんくる☆」は、この10年位で一番好きなアニメかも。


ゼロの神話


「覇壊の宴」の項で、異世界転生・召喚物の「お約束」をどうこうする作品の臨界点を見た、と書いた。これはあくまで私の見方の問題であって、市場には今日も新たなお約束をくすぐる作品が生まれてるのだろうという事実とは関係ない。「スレイヤーズ」「グルグル」「BASTARD!!」などで育ってきたオタクにとって、そこに新しさを見いだせないとなると、途端にオタ活が苦しくなる。……そんな自縄自縛から救ってくれたのが、ヤマグチノボルゼロの使い魔」だった。これまで挙げてきた作品と比べて、「ゼロ魔」は異世界召喚ものとして、これ! という目新しさには欠ける。しかし、それでもクソ面白い。サイトとルイズの冒険に、恋の行方にハラハラする。今再読してるけど、ページをめくる手が止まらない。


そんな「ゼロの使い魔」は、今月の最終巻をもって完結する。このジャンルの中興の祖の幕引きはどのようなものになるのか。ゼロ魔とは、ノボルとは、レモンちゃんとはなんだったのか。また最終巻を読んだら、語りたいと思う*1


*1:シミルボンの方は、ちゃんと最終巻まで読んでから書いてます

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