周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

ラノベ系イラストレーターの大御所・いのまたむつみの40周年原画展に行ってきた

7月下旬、有楽町マルイで開かれたいのまたむつみ展に行ってきた。これは氏の画業40周年を記念してのもの。来場者の年齢層は比較的高めで、落ち着いて鑑賞することができた。


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いのまたむつみは言うまでもなく、日本を代表するイラストレーターの一人だ。そのキャリアはアニメーターを出発点としている。代表作には「幻夢戦記レダ」「サイバーフォーミュラ」「ブレンパワード」、小説の挿絵では「宇宙皇子」「風の大陸」「ドラゴンクエスト」、TVゲームでは「テイルズオブ~」など。こうして見るとファンタジーが多いのかな。昔、マイケル・ジャクソンが来日した際、書店で見つけた彼女の画集に一目惚れし、対談まで組まれることになったというエピソードは今でも語り草となっている。漫画「BASTARD!!」では作者の萩原一至は作中に登場する神にリスペクトを込めて「美の女神イーノ・マータ」という名前をつけてたりする。


私は特にイラストレーターとしてのいのまたに思い入れがある。大きな瞳に烏の濡れ羽色の髪(比喩表現)の美少女を描かせたら当代一だと、今でも思ってる。イラストレーターといえばいのまた、いのまたと言えばイラストレーターみたいなところはある(?)。最初に彼女の絵を目にしたのは「小説版ドラゴンクエスト」。多分、初めて読んだラノベだったんじゃなかろうか。「ドラクエ」と言えば、鳥山明のキャラクターデザインが唯一無二のものとして君臨している。最初は小説版のそれに「なんだか妙にキラキラしたドラクエだな……」と戸惑った。それが、繊細なタッチで描かれる美麗なキャラクターたちにすぐ夢中になっていった。中でも「ドラゴンクエストⅣ」の著者・久美沙織による耽美な描写は、いのまたのイラストにインスピレーションを受けてああいう路線になったんじゃないかと思うくらいハマってた*1



いのまたが「宇宙皇子」でイラストレーターとしてデビューしたのは1984年。安彦良和をイラストに採用した「クラッシャージョウ」の刊行が始まったのが1977年で、その後「キマイラ・吼」「吸血鬼ハンター」の天野喜孝なんかも出てきて、アニメ・漫画系のイラストレーターっていうのが職業として確立され始めていた時代だ。


小説の中身ではなくイラストで売る、というのはこの頃始まったことではない。滝沢馬琴葛飾北斎の時代からその手の話は聞かれたとか聞かれなかったとか。写実的な人物絵や登場人物の心象を表現した抽象的な風景画。様々な表紙イラスト、挿絵がその次代の読者の心を掴んだ。


南総里見八犬伝」と、彼の物語を生み出そうと苦心する馬琴。虚実入り乱れる小説


いのまたらはアニメ・漫画由来の【強い】キャラクターがウリだったわけだが……アニメーター時代に描いていたようなキャラをそのまま持ってきたから受けたわけではない。水彩調の淡い色彩というのもイラストレーターとしての彼女の武器だった。野に咲く花でも、怪物を屠る大剣でも、朽ちかけた古城でも、いのまたの描く世界はどんな作家の作品にでも自然と馴染んだ。どんな作品でも正面からぶつかって自分の世界に取り込んでしまうような【強さ】がある天野喜孝とは対極的だ。それでいて、彼女の描くキャラクターには彼女にしか生み出せないような華があった。非常に抽象的で申し訳ないけれど、その辺りの塩梅が、私が彼女の仕事にハマる理由だったかと思う。アニメの原画やゲームのキャラデザ、そして小説のイラストと色んな仕事からセレクションされた絵画が並んでるのを見て回ってそう感じた。……ええと、あ、はい。40周年おめでとうございます。


*1:どちらかというとデスピサロとロザリーの悲劇的な物語がそうさせたのだろうとは思う