周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

「リルリルフェアリル~妖精のドア~」を振り返る 最強カワイイ妖精エンターテインメント

昨年の2月から放送されていたキッズアニメリルリルフェアリル」の、1年目が終了した。妖精界(リトルフェアリル)と人間界(ビッグヒューマル)。フラワーフェアリルりっぷの、1話での誕生以来、遠く離れていたりっぷと人間の花村望は、24話でようやく再会する。ただし、人間にフェアリルの姿を見られてはならないりっぷは、ヒューマルとして正体を隠したまま。二人が本当の意味で再会するまでのは、50話を越えてから。1年物らしい、贅沢な尺の使い方だった。、フェアリルたちがビッグヒューマルに行くまでにヒューマルについて学んだりしてたのは他のアニメの妖精にも見習ってほしいくらい


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メルヘン、カワイイ、ファンタジー

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基本的に「おねがいマイメロディ」以降のサンリオアニメを観てきた人間なので、たくさんのちみっちゃいかわいい妖精たちによるメルヘン、ファンタジーを全面に押し出したオールドサンリオアニメというのは逆に新鮮で、とても心地よかった。妖精が異界からやってきて面倒ごとを押し付けたり人間の成長を助けたりといった存在ではなく、妖精界はそれ単体で成立していて、どっちかというと人間の方がゲスト的な役割であるという、根っからメルヘンの世界観。


第5話a「すみれと雨と古い手紙」は、まだ前番組「ジュエルペット」の影を引きずってたわたしが、フェアリルの世界にハマるきっかけとなった。「雨、いいのになあ。水たまりに落ちて跳ねる雫、葉の上に真珠のような水玉がついてたり……。いいのになあ」すみれは大好きな雨の日に、友達を散歩に誘う。乗り気じゃなかったりっぷとひまわりは、それでも最初は楽しんでたんだけど……。仲良し3人組の初めての喧嘩が描かれるエピソードだ。自分の好きなことを相手とも共有したいという思い、それを押しつけてしまう形になったという後悔。ちゃんと仲直りできた時にはこっちまでうるっときてしまった。


第35話はa、b共に絵コンテで参加した井内秀治さんの遺作となってしまった話数。aパートの「オリーブ&ひがん 二人きりの冒険」は特に、静謐な夜の森小屋の中、炎に照らされた根暗男子と優等生男子の淡い友情をしっとりと描いた傑作だった。


そもそもどこかにある、異世界へとつながる小さな「妖精のドア」っていうのがヨーロッパに実際に伝わる伝承だし、登場人物?の一人オーベロンの名前はシェイクスピアの「夏の夜の夢」から取ってたりするし、設定の根幹からして結構ガチでファンタジーやってるのかも。

道徳を学ぶ番組として

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しばしば多くのファンタジーがそうであるように、本作もまた、人生についてわたしたちにたくさんのことを教えてくれる。とはいっても押しつけがましさは全くなくて、視聴者はカワイイカワイイゆってる内に大切な言葉が染み込んでくる。


キッズアニメでは、一緒に見ている親御さんへのメッセージも重要だ。第10話b「開店!ツリーカットハウス」は、オシャレに目覚めたすみれとレディが、学校にも好きな格好をしてくる。先生は一度は怒るものの、学校でもオシャレをさせてほしいと嘆願しに来た二人の熱意に、しばらく様子を見ることに。やがて彼女たちは「TPOを踏まえたオシャレもステキだ」と気づき、自発的に学校では学校でのオシャレを追求することに。……実際は、なかなかこうも理想的な展開にはならないだろう。でもそういう心は忘れずにいたい。「知りたい時に正しい知識を教えることは大切ですからね」*1という、全てのフェアリルを統べるフェアリルゴールの台詞にそれな! って頷いてしまう。。


大人、道徳とゆえば第11話「レオン先生の変身学」である。ミニスカへそ出しに胸の谷間がくっきりと露出度の高い格好をした先生はカメレオンの先生。性別不詳でCV.阿部敦。こういうキャラを出来る限り自然に映すってのは「クレヨンしんちゃん」の十八番なんだけど、本作もいい感じ。人間的にもとってもいい先生で、フェアリルたちと話すとき腰をかがめたりとか、フェアリルマージやゴールと比べ、生徒たちと対等であろうとする心持ちが細かい所作に表れてる。特にイケメンジョフェアリルなど「カワイイ」から外れがちのキャラに対しては救いになってるかなと。


第44話a「オーロラ、夢のカーテン」では、それまで人に乞われるがままにカーテンを作っていたオーロラが、ふと自分のために創作をしようと思い立つ。でも、自分の作りたいものがなかなか見えてこない。そんな中、友人のアドバイスもあり、最後には、必ずしも1から10までオリジナルである必要はないと気づく。クリエティビティにおける「自分らしさ」とは何か。別に創作活動をしていなくとも、仕事などで悩んだときには観直したいエピソードだ。


自分も大概「これお子様は分かんないだろw」というキッズアニメを観てきたけど、群を抜いてこれをお子様に見せてどうしようというんだ……と思ったのが、第25話「スター☆星空ステージ」。男性アイドル「スター」がまだ無名だった頃から応援していたさくらは、人気が出るにつれ現場で新参がハバを利かせるようになり、疎外感を感じてしまう、という話。この回は、監督の五城桜ちゃん=菱田正和が、「キングオブプリズム」以前の「プリティーリズム」からついてきてくれたファンに向けて見てほしいと語っていた回で、そう云われてみればなるほど、とは思うんだけど……。なおスター役の増田俊樹は、「キンプリ」における主人公の一人・カヅキを演じている。

カオス、マジキチはないと思ってた? 残念! サンリオアニメでした!

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ワンエピソード丸々ギャグをやる場合、大体イケメンジョフェアリルが関わっている。自分たちをイケてると高らかに叫ぶ、「コジコジ」「おじゃる丸」「グルグル」などの作品世界にもいそうな、珍妙なやつら。その扱いは時々ギリギリアウトで作品の倫理観を崩壊させてるような気もするけど、彼らの存在が世界をより色彩豊かなものにしていることは否めない。


第18話a「イケメンジョダンスでビューチフォ~!」では彼らの「イケメンジョダンス」がフェアリルの世界を席巻した。駄コラのような紙芝居のようなダンスは、特に凝ってることをしてるわけではないのに、いや、だからこそ妙に笑いを誘う。感触としては押井守の「ミニパト」みたいな感じ。


第28話b「夏だ!ビューチフォ~!イケメンジョランド!」にいたっては、サンリオピューロランドみたいなテーマパークで遊びに来たりっぷたちを、イケメン所が崇拝する邪神「ジョンメケ」様に利用され、洗脳させられるところだった。最終的にジョンメケ様は巨大化。イケメンジョはこれに立ち向かう羽目に。


本編に限らず、イケメンジョダンスはメイン4人が歌う「りるりるわんだふるがーる!」のCDのB面に収録されるという、ある意味破格の待遇。裏の主役とすら言えるかもしれない。でもそれならもうちょっと彼ら彼女らが報われる話があっても罰は当たらないと思うよ……

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生まれたばかりのフェアリルたちも、恋をする。作中に「恋愛学」という性教育?の授業があり、恋愛感情が高まると変身したりという高河ゆんの「loveless」ばりの設定からしてガチである。


りっぷと花村くんは、お互いまだちゃんと会ったこと、話したことのない段階で、恋をつのらせていく。第12話a「このドキドキって何!?」で成立したひまわりとダンテのカップルは、スポーツ系さわやかIKEMENと無自覚天真爛漫キャラによる初々しさ溢れる組み合わせで、以降も隙あらばイチャイチャイチャイチャ。第17話a「恋とはどういうものかしら」で急激な運動をしたことによる胸の動悸を恋と勘違いしてたローズちゃんは、なんだか女の子を不幸にしそうなだめんず系っぽいイケメンに捕まってしまった。


りっぷやローズちゃんたちの恋を見守る、大人のフェアリル、マージとゴールのカップルも好きだ。幼なじみである二人は、ゴールが虫も殺さないような笑顔と声で昔のことをああだこうだと持ち出し、マージはその度赤くなる。子どもたちをダシに事あるごとにイチャイチャイチャイチャ。(あっこいつら一線超えてるな……)という雰囲気を感じる。マージを演じる豊口めぐみはこの作品の中ではトップクラスのキャリアを誇るベテランだけど、かつてないほどの美人声オーラが出てた。

リルリルフェアリルの番組構成は全て隙を生じぬ二段構え

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このアニメは一回の放送につき2話構成で、時折、a,bパートで意図して正反対の作風を織り込んでるフシがある。この傾向は「ジュエルペットサンシャイン」でも見られたけど、本作ではさらに極端さが増している。


前述した第12話a「このドキドキって何!?」とb「美しすぎるボクたちさ~」は、同じ思春期の恋愛ネタなのに、前者は甘酸っぱさ全開の両思い、後者はクラスで一番面白い人(ただし異性としては見られていない)ポジの男子がモテるためにがんばるんだけどかえって滑りまくるという、この容赦の無さ。


第39話「リトルフェアリルのハロウィンナイト」「ビッグヒューマルのハッピーハロウィン」は、タイトル通り妖精界と人間界両方のハロウィンの風景を描く。この回の面白いところは、フェアリルたちがサンリオキャラのコスプレしてる一方で、人間たちがフェアリルのコスプレしてるところだと思う。多くの人間はフェアリルを想像上の存在だと思ってるように、フェアリルも他のサンリオキャラをそのように思ってる。でも1話限りのためにこれだけの人数にそれぞれ別の新規衣装を用意するのって大変そう。フェアリルに限らないけど、アニメ制作サイドにとってハロウィン回って結構な重荷になってない? 大丈夫?


第40話ではaの「フェアリルハウスへようこそ」でタイトル通りの真っ当な……まあわりとまっとうな販促回をやる一方、bの「愛のヒーロー!イケメンジョファイブ!」では地域の特産品を売り込む公務員と雇われヒーロー、販促に関わる大人たちの悲哀を描いてみせた。


シリアスか、ギャグか。マジキチか、カワイイか。甘いか、苦いか。そんな二元論にこだわる必要はない。可愛いキャラが毒舌を吐いたからって可愛さが何ら損なわれるわけではなく、むしろより可愛くなる。そんな懐の深さがサンリオアニメの魅力だと思う。2年目の「リルリルフェアリル~魔法の鏡~」は放送時間帯が土曜朝から金曜夕方に変わったことがどんな影響を与えるのか、あるいは何も変わらないのか。どうなることやら。


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*1:これはaパートのセリフで直接は繋がってないけど

「かぐや様は告らせたい」石上会計と、愛され非モテキャラブーム

例えば、映画公開間近、森見登美彦夜は短し歩けよ乙女」の先輩。
例えば、赤塚不二雄の漫画を原作とする「おそ松さん」の六つ子。
例えば、竹宮ゆゆこ「ゴールデンタイム」の二次元くん。
例えば、マドカマチコ「WxY」の横田先生もしくはKY☆ポコニャン先生。
例えば、ドラマでは星野源が演じた、「逃げるは恥だが役に立つ」の津崎平匡。


当人の内心としてはいたって切実な問題なんだけど、非モテを叫ぶその姿が大仰すぎるがゆえにコミカルに映ったり、あるいは自覚して道化を演じてる部分もあったりして―――オタクが大学デビューするにあたりいっそぺらいオタクとしてキャラを作るとコアな部分を隠してオタク以外の人とも案外付き合えるとか、そのくせウェーイなリア充を無意味に見下してたらしっぺ返しを喰らうとか、二次元くんの描写はいちいちクリティカル過ぎる―――そういうところがキャーカワイイーって読者に黄色い悲鳴を浴びるキャラクターたち*1。最近良く見るような気がする彼らを、愛され非モテキャラ、とわたしは勝手に呼んでる。


 ※つばさ文庫版『夜は短し歩けよ乙女』の表紙はなかなかkawaiiけど、乙女が大学生には見えない……

*1:なお黄色い悲鳴をあげるのは女性に限りません

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「リルリルフェアリル」1年目声優別キャラクター一覧完全版/兼役の多さがもたらすもの

サンリオ・セガトイズ原作のキッズアニメリルリルフェアリル」はとても兼役が多い。誰がどのキャラを演じているのか一度整理してみようと、以前、こういうものを作った。


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あれから約3クール分が放映され、1年度目「リルリルフェアリル~妖精のドア~」は完結した。その間に新規のキャラクター、声優も増えた。上の記事を更新してもよかったけど、今回は一覧性を重視してexcelで表を作ってみた。htmlに変換したものも最後に一応置いておくけど、画像にしたやつのほうが見やすいと思う。


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基本的に同じ種族の中では被らないようにしてるのかな、と思う。レジェンドフェアリルがやたら多くてレジェンド感薄いのは、既存の分類に当てはまらないものはなんでもレジェンドフェアリルに入れてるからか。制作サイドも視聴者も。


本作の公式twitterアカウントは何かと声優推しだけど、本編の中では

  • 第36話「ヒューマルとフェアリルは恋ができないの?」で、りっぷ(cv.花守ゆみり)がフェアリルチェンジしたヒューマルの姿の時にとっさに出た偽名が「花咲ゆみり」
  • 第40話「愛のヒーロー!イケメンジョファイブ!」で夫婦役を演じた代永翼西墻由香はリアル夫婦
  • 産休から復帰した豊口めぐみの復帰第一回は「赤ちゃん」「子育て」をテーマにした第49話「大ピンチ!みんな赤ちゃんになっちゃった!」

など。


特にヒューマルを「演じている」りっぷの偽名が、中の人の声優としての名前のもじりというのは、色々おもしろいなと。


それと、以下は本作のキャスティングについて、兼役の多さに着目して書いた文章。2016年の夏コミで頒布された谷部さんの「声ヲタグランプリ vol.17」に寄稿したもの。そもそも上の兼役まとめは、この文章を書くために作成した。いつも以上にポエムめいていたこっぱずかしいけど、いい機会なのでここに掲載しておく。一部修正済。

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『攻殻機動隊小説アンソロジー』 「原作」はどこから来てどこへ行く?

ハリウッド版の実写映画が公開! っつーことで、色んな関連本が出版されている「攻殻機動隊」。本作はその小説アンソロジーである。SF、純文学、ラノベ漫画原作者と色んな方面から集められた五人の作家がそれぞれの「攻殻」世界を描く。

円城塔「Shadow.net」


公安が試験中の、ドローンを用いた大規模監視システム。プライバシーの観点からマスキングをかけられた情報を、どうやって扱うのか。機械的な処理が法的に規制されている一方で、人間(サイボーグ含む)の「見る権利」は保障されている。事故で他人の顔の区別がつかなくなった「わたし」は、傷ついた脳を貸すことでドローンの目、システムの一環となる。

あるいはそれは、一度しか通信が望めないような者がすがる通信プロトコルだった。最後のマッチで上げる狼煙のように。一本しかない発煙筒の使い方のような。電源が切れる直前の無線に向けて語りかけるような種類の。


最先端技術にまつわる法的なアレコレから生まれる何か。時系列的には「人形使い」事件の後の話である。ある、はずだ。と、そんなところから疑っていかなくちゃいけない。30P足らずの短編の中で展開される圧倒的な情報量、行き着いた先の、そしてまだ見果てぬ景色。ロマンチシズム。つまりこれがハードSFってやつか*1。著者は芥川賞も受賞した、純文学とSFの人。


*1:正直理解が及んないのでポエムで誤魔化したやつ。まだ? あるいはこれからも?

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ラノベ作家としての佐藤大輔=豪屋大介 エロスとバイオレンスとビッグマウスと

小説家の佐藤大輔が、虚血性心疾患のために亡くなった。享年52歳。多くの未完作を抱えての逝去だった。


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氏については「征途」「レッドサンブラッククロス」「皇国の守護者」などの(仮想)戦記を執筆した作家、というのが多くの人の認識だろう。苛烈な展開、そこからの逆転劇などを得手として、多くのファンを獲得したが、シリーズ物を始めては途中で投げ出すという欠点もあった。



近年では、アニメ化もされたゾンビ漫画「ハイスクール・オブ・ザ・デッド」の原作者としても知られている。



しかし、ラノベ読者である私にとっては、まずラノベ作家・豪屋大介こそが佐藤大輔だった。


豪屋=佐藤説は、公式には一度も認められたことがない。最初は文体や作風などの類似の指摘から始まり、佐藤→砂糖、豪屋→ゴーヤというPNの法則性とか、豪屋が赤の他人として佐藤に影響を受けたことを度々語ったりとか、佐藤の奥さんが同一人物だと認めたらしいとか、まあ色々と議論があったんだけど。豪屋の代表作「A君」のコミカライズを担当した漫画家が同一人物だと認めたので確定、ということでいいんだろうか。



また、豪屋は2005年の『このライトノベル作家がすごい!』で顔出しのインタビューに応じているが、この写真は当時ライターだった橘ぱんが影武者として撮影されたものだったらしい。これがきっかけで橘はラノベ作家の道を歩むことになるのだけど、参考にということで渡されたのが「A君」と「デビル17」だったとか。結果出来上がった「だから僕は、Hができない。」もわりと過激なエロコメだった。



インタビューの結びでは、豪屋は「『俺が豪屋だ、文句あるか!』とでも言えばイメージ通りのサービスになりますか?(笑)」と豪屋=佐藤説を茶化す発言もしている。そういうことをする人だったんで、上の関係者の発言も、生前の氏と一計案じて「面白いから死後も同一人物だったってことにしとこうぜ」とかだったり? とちょっと疑ってしまった。


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