「リルリルフェアリル~妖精のドア~」を振り返る 最強カワイイ妖精エンターテインメント
昨年の2月から放送されていたキッズアニメ「リルリルフェアリル」の、1年目が終了した。妖精界(リトルフェアリル)と人間界(ビッグヒューマル)。フラワーフェアリルりっぷの、1話での誕生以来、遠く離れていたりっぷと人間の花村望は、24話でようやく再会する。ただし、人間にフェアリルの姿を見られてはならないりっぷは、ヒューマルとして正体を隠したまま。二人が本当の意味で再会するまでのは、50話を越えてから。1年物らしい、贅沢な尺の使い方だった。、フェアリルたちがビッグヒューマルに行くまでにヒューマルについて学んだりしてたのは他のアニメの妖精にも見習ってほしいくらい。
メルヘン、カワイイ、ファンタジー
基本的に「おねがいマイメロディ」以降のサンリオアニメを観てきた人間なので、たくさんのちみっちゃいかわいい妖精たちによるメルヘン、ファンタジーを全面に押し出したオールドサンリオアニメというのは逆に新鮮で、とても心地よかった。妖精が異界からやってきて面倒ごとを押し付けたり人間の成長を助けたりといった存在ではなく、妖精界はそれ単体で成立していて、どっちかというと人間の方がゲスト的な役割であるという、根っからメルヘンの世界観。
第5話a「
第35話はa、b共に絵コンテで参加した井内秀治さんの遺作となってしまった話数。aパートの「
そもそもどこかにある、異世界へとつながる小さな「妖精のドア」っていうのがヨーロッパに実際に伝わる伝承だし、登場人物?の一人オーベロンの名前はシェイクスピアの「夏の夜の夢」から取ってたりするし、設定の根幹からして結構ガチでファンタジーやってるのかも。
道徳を学ぶ番組として
しばしば多くのファンタジーがそうであるように、本作もまた、人生についてわたしたちにたくさんのことを教えてくれる。とはいっても押しつけがましさは全くなくて、視聴者はカワイイカワイイゆってる内に大切な言葉が染み込んでくる。
キッズアニメでは、一緒に見ている親御さんへのメッセージも重要だ。第10話b「
大人、道徳とゆえば第11話「
第44話a「
自分も大概「これお子様は分かんないだろw」というキッズアニメを観てきたけど、群を抜いてこれをお子様に見せてどうしようというんだ……と思ったのが、第25話「
カオス、マジキチはないと思ってた? 残念! サンリオアニメでした!
ワンエピソード丸々ギャグをやる場合、大体イケメンジョフェアリルが関わっている。自分たちをイケてると高らかに叫ぶ、「コジコジ」「おじゃる丸」「グルグル」などの作品世界にもいそうな、珍妙なやつら。その扱いは時々ギリギリアウトで作品の倫理観を崩壊させてるような気もするけど、彼らの存在が世界をより色彩豊かなものにしていることは否めない。
第18話a「
第28話b「
本編に限らず、イケメンジョダンスはメイン4人が歌う「りるりるわんだふるがーる!」のCDのB面に収録されるという、ある意味破格の待遇。裏の主役とすら言えるかもしれない。でもそれならもうちょっと彼ら彼女らが報われる話があっても罰は当たらないと思うよ……
恋
生まれたばかりのフェアリルたちも、恋をする。作中に「恋愛学」という性教育?の授業があり、恋愛感情が高まると変身したりという高河ゆんの「loveless」ばりの設定からしてガチである。
りっぷと花村くんは、お互いまだちゃんと会ったこと、話したことのない段階で、恋をつのらせていく。第12話a「
りっぷやローズちゃんたちの恋を見守る、大人のフェアリル、マージとゴールのカップルも好きだ。幼なじみである二人は、ゴールが虫も殺さないような笑顔と声で昔のことをああだこうだと持ち出し、マージはその度赤くなる。子どもたちをダシに事あるごとにイチャイチャイチャイチャ。(あっこいつら一線超えてるな……)という雰囲気を感じる。マージを演じる豊口めぐみはこの作品の中ではトップクラスのキャリアを誇るベテランだけど、かつてないほどの美人声オーラが出てた。
リルリルフェアリルの番組構成は全て隙を生じぬ二段構え
このアニメは一回の放送につき2話構成で、時折、a,bパートで意図して正反対の作風を織り込んでるフシがある。この傾向は「ジュエルペットサンシャイン」でも見られたけど、本作ではさらに極端さが増している。
前述した第12話a「
第39話「
第40話ではaの「
シリアスか、ギャグか。マジキチか、カワイイか。甘いか、苦いか。そんな二元論にこだわる必要はない。可愛いキャラが毒舌を吐いたからって可愛さが何ら損なわれるわけではなく、むしろより可愛くなる。そんな懐の深さがサンリオアニメの魅力だと思う。2年目の「リルリルフェアリル~魔法の鏡~」は放送時間帯が土曜朝から金曜夕方に変わったことがどんな影響を与えるのか、あるいは何も変わらないのか。どうなることやら。
*1:これはaパートのセリフで直接は繋がってないけど
「かぐや様は告らせたい」石上会計と、愛され非モテキャラブーム
例えば、映画公開間近、森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」の先輩。
例えば、赤塚不二雄の漫画を原作とする「おそ松さん」の六つ子。
例えば、竹宮ゆゆこ「ゴールデンタイム」の二次元くん。
例えば、マドカマチコ「WxY」の横田先生もしくはKY☆ポコニャン先生。
例えば、ドラマでは星野源が演じた、「逃げるは恥だが役に立つ」の津崎平匡。
当人の内心としてはいたって切実な問題なんだけど、非モテを叫ぶその姿が大仰すぎるがゆえにコミカルに映ったり、あるいは自覚して道化を演じてる部分もあったりして―――オタクが大学デビューするにあたりいっそぺらいオタクとしてキャラを作るとコアな部分を隠してオタク以外の人とも案外付き合えるとか、そのくせウェーイなリア充を無意味に見下してたらしっぺ返しを喰らうとか、二次元くんの描写はいちいちクリティカル過ぎる―――そういうところがキャーカワイイーって読者に黄色い悲鳴を浴びるキャラクターたち*1。最近良く見るような気がする彼らを、愛され非モテキャラ、とわたしは勝手に呼んでる。
※つばさ文庫版『夜は短し歩けよ乙女』の表紙はなかなかkawaiiけど、乙女が大学生には見えない……
*1:なお黄色い悲鳴をあげるのは女性に限りません
「リルリルフェアリル」1年目声優別キャラクター一覧完全版/兼役の多さがもたらすもの
サンリオ・セガトイズ原作のキッズアニメ「リルリルフェアリル」はとても兼役が多い。誰がどのキャラを演じているのか一度整理してみようと、以前、こういうものを作った。
あれから約3クール分が放映され、1年度目「リルリルフェアリル~妖精のドア~」は完結した。その間に新規のキャラクター、声優も増えた。上の記事を更新してもよかったけど、今回は一覧性を重視してexcelで表を作ってみた。htmlに変換したものも最後に一応置いておくけど、画像にしたやつのほうが見やすいと思う。
基本的に同じ種族の中では被らないようにしてるのかな、と思う。レジェンドフェアリルがやたら多くてレジェンド感薄いのは、既存の分類に当てはまらないものはなんでもレジェンドフェアリルに入れてるからか。制作サイドも視聴者も。
本作の公式twitterアカウントは何かと声優推しだけど、本編の中では
- 第36話「ヒューマルとフェアリルは恋ができないの?」で、りっぷ(cv.花守ゆみり)がフェアリルチェンジしたヒューマルの姿の時にとっさに出た偽名が「花咲ゆみり」
- 第40話「愛のヒーロー!イケメンジョファイブ!」で夫婦役を演じた代永翼と西墻由香はリアル夫婦
- 産休から復帰した豊口めぐみの復帰第一回は「赤ちゃん」「子育て」をテーマにした第49話「大ピンチ!みんな赤ちゃんになっちゃった!」
など。
特にヒューマルを「演じている」りっぷの偽名が、中の人の声優としての名前のもじりというのは、色々おもしろいなと。
それと、以下は本作のキャスティングについて、兼役の多さに着目して書いた文章。2016年の夏コミで頒布された谷部さんの「声ヲタグランプリ vol.17」に寄稿したもの。そもそも上の兼役まとめは、この文章を書くために作成した。いつも以上にポエムめいていたこっぱずかしいけど、いい機会なのでここに掲載しておく。一部修正済。
- 兼役の多さがもたらすもの
- 2年目「リルリルフェアリル~魔法の鏡~」について
- 参考
- html版
『攻殻機動隊小説アンソロジー』 「原作」はどこから来てどこへ行く?
ハリウッド版の実写映画が公開! っつーことで、色んな関連本が出版されている「攻殻機動隊」。本作はその小説アンソロジーである。SF、純文学、ラノベ、漫画原作者と色んな方面から集められた五人の作家がそれぞれの「攻殻」世界を描く。
- 円城塔「Shadow.net」
- 三雲岳斗「金目銀目 Heterochromia」
- 朝霧カフカ「攻殻機動隊 sonft and white」
- 秋田禎信「自問自答」
- 冲方丁「スプリンガー Springer」
- 終わりに
円城塔「Shadow.net」
公安が試験中の、ドローンを用いた大規模監視システム。プライバシーの観点からマスキングをかけられた情報を、どうやって扱うのか。機械的な処理が法的に規制されている一方で、人間(サイボーグ含む)の「見る権利」は保障されている。事故で他人の顔の区別がつかなくなった「わたし」は、傷ついた脳を貸すことでドローンの目、システムの一環となる。
あるいはそれは、一度しか通信が望めないような者がすがる通信プロトコルだった。最後のマッチで上げる狼煙のように。一本しかない発煙筒の使い方のような。電源が切れる直前の無線に向けて語りかけるような種類の。
最先端技術にまつわる法的なアレコレから生まれる何か。時系列的には「人形使い」事件の後の話である。ある、はずだ。と、そんなところから疑っていかなくちゃいけない。30P足らずの短編の中で展開される圧倒的な情報量、行き着いた先の、そしてまだ見果てぬ景色。ロマンチシズム。つまりこれがハードSFってやつか*1。著者は芥川賞も受賞した、純文学とSFの人。
*1:正直理解が及んないのでポエムで誤魔化したやつ。まだ? あるいはこれからも?
ラノベ作家としての佐藤大輔=豪屋大介 エロスとバイオレンスとビッグマウスと
小説家の佐藤大輔が、虚血性心疾患のために亡くなった。享年52歳。多くの未完作を抱えての逝去だった。
氏については「征途」「レッドサンブラッククロス」「皇国の守護者」などの(仮想)戦記を執筆した作家、というのが多くの人の認識だろう。苛烈な展開、そこからの逆転劇などを得手として、多くのファンを獲得したが、シリーズ物を始めては途中で投げ出すという欠点もあった。
近年では、アニメ化もされたゾンビ漫画「ハイスクール・オブ・ザ・デッド」の原作者としても知られている。
しかし、ラノベ読者である私にとっては、まずラノベ作家・豪屋大介こそが佐藤大輔だった。
豪屋=佐藤説は、公式には一度も認められたことがない。最初は文体や作風などの類似の指摘から始まり、佐藤→砂糖、豪屋→ゴーヤというPNの法則性とか、豪屋が赤の他人として佐藤に影響を受けたことを度々語ったりとか、佐藤の奥さんが同一人物だと認めたらしいとか、まあ色々と議論があったんだけど。
<訃報>佐藤大輔さん52歳=作家(毎日新聞) - Yahoo!ニュース https://t.co/nMisyBYkOv
— 松本規之アニメ南鎌倉~WEB配信中! (@matsumoto0007) 2017年3月26日
A君の戦争のコミカライズでお世話になり、普段からFB で会話していながら直接お会いすることは何回でしたが亡くなれてしまいました。今は冥福を祈りたいと思います。
また、豪屋は2005年の『このライトノベル作家がすごい!』で顔出しのインタビューに応じているが、この写真は当時ライターだった橘ぱんが影武者として撮影されたものだったらしい。これがきっかけで橘はラノベ作家の道を歩むことになるのだけど、参考にということで渡されたのが「A君」と「デビル17」だったとか。結果出来上がった「だから僕は、Hができない。」もわりと過激なエロコメだった。
<訃報>佐藤大輔さん52歳=作家(毎日新聞) - Yahoo!ニュース https://t.co/NL74I1ZLqI #Yahooニュース 佐藤さんの影武者やったことで当時の担当さんと飲むことになってデビューした経緯もあったもんで、ツラいです。
— 橘ぱん@クラッシュ原稿 (@pan_baron) 2017年3月26日
デビル17とA君の戦争を発掘したので読み直したくなった。てか参考ってことで渡されたのがコレで、どうして俺のはああなった……
— 橘ぱん@クラッシュ原稿 (@pan_baron) 2012年5月12日
インタビューの結びでは、豪屋は「『俺が豪屋だ、文句あるか!』とでも言えばイメージ通りのサービスになりますか?(笑)」と豪屋=佐藤説を茶化す発言もしている。そういうことをする人だったんで、上の関係者の発言も、生前の氏と一計案じて「面白いから死後も同一人物だったってことにしとこうぜ」とかだったり? とちょっと疑ってしまった。
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