「アマガミ」の思い出、橘純一という主人公 続編?「セイレン」放送開始によせて
今冬から、TVA「セイレン」が放映開始される。原案・シリーズ構成・キャラクター原案は「アマガミ」のキャラクターデザインを担当した高山箕犀*1、舞台は同じ輝日東高校。「アマガミ」から9年後の物語で、「アマガミ」ヒロイン七咲逢の弟・七咲郁夫、同じく上崎裡沙の妹・上崎真詩など前作と繋がりのあるキャラクターも登場するらしく、期待が高まると同時に、にわかに「アマガミ」づいてもいる。
http://www.tbs.co.jp/anime/seiren/
「アマガミ」は2009年に、PS2用の恋愛シミュレーションゲームとして発売された。いわゆるギャルゲーだ。自分の趣味に引きずり込む、その魅力を最大限に引き出していたのが、主人公の橘純一だった。
橘さんの奇行
2年前にクリスマスデートをすっぽかされた苦い経験から恋愛を避けてた橘さんだけど、やっぱり彼女欲しい! よし今年のクリスマスまでの一ヶ月で彼女作るぞ! というのが「アマガミ」の一応のあらすじ。でもそんな過去を感じさせないほどに、作中の橘さんはアクロバティックな行動力を持っている。
学校の隠し部屋に「お宝本」を多数保管してるというのも大概だけど、まだそれほど仲良くなってない子に「絢辻さんは勝負パンツって持ってるの?」と尋ねたり、ポンプ小屋(!)に連れ込んだ子の膝裏をぺろぺろ舐めて「どうして犬が膝の裏をなめるのか、犬の立場になればわかるかも知れないって」と弁解したり保育園児プレイをして(ああ、なんだか心が開放されたみたいだ……保育園児……最高だよ!)と喝采をあげたり。
女の子が気に入るような会話の選択肢を選んで好感度をあげていく、という当たり前のシステムなのに、どの選択肢もアレで、プレイヤーは暴れ馬に乗ってるような気分にさせられる。この手のギャルゲーの常として主人公の姿をこちらが確認できないが故に*2、どんな顔してそれをゆってるか分からなくて逆に狂気が増幅される、ってのはあると思う。ある世代において、ギャルゲーといえばプレイヤーが感情移入するために主人公は無個性で、という偏見を突き崩した一人が橘さんだった*3。発売当時は、ニコニコ動画で配信されるゲーム実況が既に市民権を得ていた頃で。このゲームも、橘さんの「
「アマガミ」ヒロインの反応はというと、最初は当然戸惑う人もいるんだけど、結局橘さんの情熱に圧されて、堕ちていく。
近年では、「アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ」のコミュにおけるプロデューサーなんかにも、似たものは感じている。
ヒロインたちの幸せ
……彼女たちは橘さんとくっついて幸せだったんだろうか。それぞれの「スキBEST」「スキGOOD」と呼ばれるエンディングを見る限り、少なくとも不幸せには見えない。本人たちがいいならそれでいい……そんな思いを邪魔したのが「スキBAD」「ソエン」 などのバッドエンドだった。
――「絢辻詞」の裏表性格について
高山 複数の人格を持つ人の人格が崩壊する切なさを出したいと思いました。逢と詞に関しては「スキBAD」イベントがまずありきなんですよね。特に「アマガミ」の最初って、逢の「スキBAD」のあのシーンのイメージがあって。じゃあそのシーンに行くにはどうすれば良いのか、システムをどうすれば良いのかって所からスタートしています。もう少し言えば「アマガミ」って「どうやったらクリスマスに女の子に酷いことができるか」っていうのが最初だったんですね。本当に「スキBAD」ありきのゲームなんです。過去にクリスマスに女の子を呼び出して、放っておくゲームなんてほぼないです。でも恋愛シミュレーションゲームだから、現実じゃありえないことをしたい、と思って。それを描きたかったです。
https://web.archive.org/web/20101026010314/http://www.amagami-ouen.com/character/ayatsuji.html
6人のヒロインの内、ラブリーこと森島先輩は、一流企業で20代にして部長という超エリートコースを歩んでいる。梨穂子はアイドルデビューしてテレビに出演する、高嶺の花になった。薫は、画家として大成しつつある。要は、橘さんとくっつかない方が社会的に成功する(かも)、という可能性が示唆されているのだ。紗江ちゃん? 紗江ちゃんは……はどうなんでしょうねあれ。
上のインタビューで挙げられている絢辻さんと七咲は、「ソエン」でも「スキBAD」でも、別に社会的成功は納めていない。確か。ただしこの二人は、他の4人と比べて分かりやすく、ギャルゲエロゲヒロインの王道である「解決されるべき重い事情」を抱えている。絢辻さんは家庭の問題、七咲は部活で伸び悩んでいるというのがそれだ。そしてこの二つはハッピーエンドである「スキBEST」「スキGOOD」でもはっきりとは解決されていない。
というか、橘さんの取った行動が荒療治すぎて、特に絢辻さんの場合「別の幸せ」を提示することでしか事態を収束できなかったというか。これは「ヒロインの問題は解決すべし」と鍵ゲーに教わってきた自分にとって、ちょっとした衝撃だった。これがリアルだ、とか言うつもりはないし、基本的におバカなゲームなんだけど、こういう苦味がきいてるところも含めてファンは阿鼻叫喚しつつ楽しんでたと思う。