最終兵器彼女:新海誠がブレイクしたので、今一度三大セカイ系について語る 01
「君の名は。」が大ヒット中の新海誠は、00年代前半に「ほしのこえ」で脚光を浴びた。このアニメを評するのによく使われていた言葉が「セカイ系」だ。当時は「ほしのこえ」に高橋しんの漫画「最終兵器彼女」、秋山瑞人の小説「イリヤの空、UFOの夏」を合わせて、三大セカイ系とも呼ばれた。あの時代に生きた人間は、あえてカタカナでオサレ感を出す「ソラマチ」などといった言葉の語感にもびくっとしてしまうとかしないとか。
まずは簡単に、わたしなりの「セカイ系」の理解
用語の定義についてはwikipediaでも読んで大雑把に理解するのでもいいけど、こと三大セカイ系については
三大セカイ系はそれぞれに異なった様相を示す作品だが、その共通点を大まかに抜き出せば、
銃後の少年
前線の少女
二人をそれぞれ違った仕方で繋ぐ空と学園
の三要素ということになるだろう。
というのが簡明かなと。つまり、戦争に引き裂かれた恋人たちをSF要素を交えて描く恋愛もの。少女が前衛で少年が後衛、ただし二人は引き裂かれておらず共に戦う、ということならそれは「灼眼のシャナ」などの学園異能ものとなる。「セカイ系とは何か」で出た
「『新世紀エヴァンゲリオン』の影響を受け、1990年代後半からゼロ年代に作られた、巨大ロボットや戦闘美少女、探偵など、おたく文化と親和性の高い要素やジャンルコードを作中に導入したうえで、若者(特に男性)の自意識を描写する作品群
という結論についてはちょっと込み入ってて、「セカイ系とは何か」を丸ごと読まないと納得行かないと思うのでみんな読もう。自分なんかは戦争や軍隊に好きな人を奪われる、NTR物の亜種として捉えてるけど……。
あるいは、当時「なんでもエヴァのパクリ扱いはもういいよ」派が拡大していく一方、一部現代批評界隈ではまだまだホットなトピックであり、セカイ系とはすなわちエヴァの作品としての命脈を断ち切らせないために仕掛けられた*1ムーヴメントだったんだよ! とか。
……まあ、この際用語の定義やまして時代背景なんかどうでもよくて、三大セカイ系の個々の作品についてちょっと語ってみたい。
ぼくたちは、恋していく。
「最終兵器彼女」は、ビッグコミックスピリッツで2000年第1号からスタートした。00年代初頭に戦争を描いた作品というイメージだと9.11~イラク戦争との関連を疑いがちだけど、件のテロが起こったのは連載も終盤に入ってからで、影響を受けたのは連載終了後に発表した外伝の方。
大手メーカーに就職した「いい人」の主人公が社会の荒波の中でどう生きるか、周囲は彼の影響でどのように変わっていくかを描いたヒット作「いいひと。」完結から1年。高橋しんの待望の新作、という扱いだった。
今回取り上げる中で最も思い入れがあるのがこの「サイカノ」。強面で誤解されやすいけど本当は繊細な少年と、いつもオドオドしている少女の恋愛を描くと1話で思わせといて突然の開戦、偶然シュウジが居合わせた戦場に兵器としてのちせが現れ、「最終兵器になっちゃった」と告白。そこで、連載予告などでも伏せられていた「最終兵器彼女」というタイトルがどどーんと出てくる。
ギャグのような設定でありながら、実際ギャグも交えつつも、ストーリーは転げ落ちるように悲劇的な方向に進んでいく。その語り口はとことんセンチメンタルで、苦手って人も多いんだろうけど、当時の自分はずっぽりハマってしまった。
*1:誰に?