周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

ほしのこえ:新海誠がブレイクしたので、今一度三大セカイ系について語る 03

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で、「ほしのこえ」は2002年に公開。高橋や秋山と違い一部の短編アニメーションを除いて商業的実績がないに等しかった新海は、本作を音楽を除いてほぼ一人で作り上げたことで、新時代のアニメーションの旗手、といったような評価を受けた。

2046年、関東某県の中学に通う長峰美加子と寺尾昇は同級生。同じ部活で仲の良いふたりだが、中学3年の夏、ミカコは国連軍の選抜メンバーに選ばれたことをノボルに告げる。2047年、冬、ミカコは地球を後にし、ノボルは高校に進学する。 地上と宇宙に離れたミカコとノボルは携帯メールで連絡をとりあうが、リシテア号が木星エウロパ基地を経由して更に太陽系の深淵に向かうにつれて、メールの電波の往復にかかる時間は開いていく。ノボルはミカコからのメールだけを心待ちにしている自身に苛立ちつつも、日常生活を送っていく。やがてリシテア艦隊はワープを行い、ミカコとノボルの時間のズレは決定的なものへとなっていく……

背景美術の美しさ


現在公式に映像を視聴することができる中で最も古い作品である「彼女と彼女の猫」の頃から「君の名は。」まで、新海作品の魅力として挙げられるのは背景美術の美しさだ。たとえば「ガンバの冒険」や「ウテナ」などファンタジー色の強い小林七郎作品に比べれば、一応現実の風景を素材にしているのだけど、あれやこれやと撮影の過程で手を加える事によって、光の表現が特徴的な、きらきらした、どこかにありそうなのにどこにもない世界を作り出している。


ファンの中にはストーリーは二の次というか、背景美術と新海作品には欠かせない「天門」さんの音楽を中心にしたPVを盛り上げる付加要素くらいに考えている人も少なくない。実際、エロゲレーベルである「minori」のOPムービーを始め、5分未満の短編も多い。というか「ほしのこえ」にしてからがTVアニメのエピソード1本分程度の尺しかなくて、ちょっと長いPVくらいの印象を受けた。


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イリヤの空、UFOの夏:新海誠がブレイクしたので、今一度三大セカイ系について語る 02

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イリヤ*1は、2000年に電撃hp第7号で連載がスタートした。元々「EGコンバット」「猫の地球儀」などのSFラノベで高い評価を得ていた秋山は、本作で一躍売れっ子となった。

「6月24日は全世界的にUFOの日」*2新聞部部長・水前寺邦博の発言から浅羽直之の「UFOの夏」は始まった。当然のように夏休みはUFOが出るという裏山での張り込みに消費され、その最後の夜、浅羽はせめてもの想い出に学校のプールに忍び込んだ。驚いたことにプールには先客がいて、手首に金属の球体を埋め込んだその少女は「伊里野可奈」と名乗った…。おかしくて切なくて、どこか懐かしい…。ちょっと“変”な現代を舞台に、鬼才・秋山瑞人が描くボーイ・ミーツ・ガールストーリー、登場。

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企画段階の仮タイトルは「UFO綾波」。ストーリーラインは笹本祐一の「妖精作戦」に影響を受けたとも言われている。ただ、ハイスペックなスーパー高校生だった「妖精作戦」の主人公と違い、「イリヤ」の登場人物は、主人公の浅羽を始めおおむね平凡な中学生となっている。「こみっくパーティー」の九品仏大志を彷彿とさせる行動型オタクである水前寺は大人顔負けの活躍で物語を引っ張るトリックスターだけれど、それでも終盤では物語から排除させられてしまう。「妖精作戦」はあと、登場人物の内面を直接描くのを徹底的に避けている、というのも違うところか。


文章で読ませるラノベ作家のベストワン


イリヤ」のヒットには何ら不可解なところがない。小説めっちゃうまい人が、「ひと夏のボーイミーツガール」というとっつきやすい題材に取り組んだから売れた。それだけだ。勿論世の中には同じように上手い人が多くの人に受け入れられる題材を選んだけど売れなかった、という例は幾つもあるので、結果論ではあるのだけれど。そう言わしめるに足るくらいの力は本作にはある。

*1:よく間違えられるけどイリアではなくイリヤ

*2:毎年この日になるとこの作品のファンが祝ってるけど、物語が始まるのは8月31日から

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最終兵器彼女:新海誠がブレイクしたので、今一度三大セカイ系について語る 01

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君の名は。」が大ヒット中の新海誠は、00年代前半に「ほしのこえ」で脚光を浴びた。このアニメを評するのによく使われていた言葉が「セカイ系」だ。当時は「ほしのこえ」に高橋しんの漫画「最終兵器彼女」、秋山瑞人の小説「イリヤの空、UFOの夏」を合わせて、三大セカイ系とも呼ばれた。あの時代に生きた人間は、あえてカタカナでオサレ感を出す「ソラマチ」などといった言葉の語感にもびくっとしてしまうとかしないとか。

まずは簡単に、わたしなりの「セカイ系」の理解


用語の定義についてはwikipediaでも読んで大雑把に理解するのでもいいけど、こと三大セカイ系については

三大セカイ系はそれぞれに異なった様相を示す作品だが、その共通点を大まかに抜き出せば、
銃後の少年
前線の少女
二人をそれぞれ違った仕方で繋ぐ空と学園
の三要素ということになるだろう。

http://d.hatena.ne.jp/K_NATSUBA/20091216#1261006655


というのが簡明かなと。つまり、戦争に引き裂かれた恋人たちをSF要素を交えて描く恋愛もの。少女が前衛で少年が後衛、ただし二人は引き裂かれておらず共に戦う、ということならそれは「灼眼のシャナ」などの学園異能ものとなる。「セカイ系とは何か」で出た

「『新世紀エヴァンゲリオン』の影響を受け、1990年代後半からゼロ年代に作られた、巨大ロボットや戦闘美少女、探偵など、おたく文化と親和性の高い要素やジャンルコードを作中に導入したうえで、若者(特に男性)の自意識を描写する作品群

という結論についてはちょっと込み入ってて、「セカイ系とは何か」を丸ごと読まないと納得行かないと思うのでみんな読もう。自分なんかは戦争や軍隊に好きな人を奪われる、NTR物の亜種として捉えてるけど……。




あるいは、当時「なんでもエヴァのパクリ扱いはもういいよ」派が拡大していく一方、一部現代批評界隈ではまだまだホットなトピックであり、セカイ系とはすなわちエヴァの作品としての命脈を断ち切らせないために仕掛けられた*1ムーヴメントだったんだよ! とか。


……まあ、この際用語の定義やまして時代背景なんかどうでもよくて、三大セカイ系の個々の作品についてちょっと語ってみたい。

ぼくたちは、恋していく。

最終兵器彼女」は、ビッグコミックスピリッツで2000年第1号からスタートした。00年代初頭に戦争を描いた作品というイメージだと9.11~イラク戦争との関連を疑いがちだけど、件のテロが起こったのは連載も終盤に入ってからで、影響を受けたのは連載終了後に発表した外伝の方。


大手メーカーに就職した「いい人」の主人公が社会の荒波の中でどう生きるか、周囲は彼の影響でどのように変わっていくかを描いたヒット作「いいひと。」完結から1年。高橋しんの待望の新作、という扱いだった。



今回取り上げる中で最も思い入れがあるのがこの「サイカノ」。強面で誤解されやすいけど本当は繊細な少年と、いつもオドオドしている少女の恋愛を描くと1話で思わせといて突然の開戦、偶然シュウジが居合わせた戦場に兵器としてのちせが現れ、「最終兵器になっちゃった」と告白。そこで、連載予告などでも伏せられていた「最終兵器彼女」というタイトルがどどーんと出てくる。


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ギャグのような設定でありながら、実際ギャグも交えつつも、ストーリーは転げ落ちるように悲劇的な方向に進んでいく。その語り口はとことんセンチメンタルで、苦手って人も多いんだろうけど、当時の自分はずっぽりハマってしまった。

*1:誰に?

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清野静「時載りリンネ!」「さよなら、サイキック」 歯列矯正ブリッジをつけた女の子は好きですか?

7年の沈黙を破り、あの清野静が新作発表! ってことで、未完の前作「時載りリンネ!」シリーズ1-5を読み返していた。

200万字の本を読むことでたった1秒だけ、時を止めることができる一族“時載り”。バベルの塔に住み、本を摂取することで生きている彼らだが、わざわざ人間界にやってくる変わり者もいる―それが僕の隣の家に住む幼なじみの少女・リンネだ。「わくわくするような大冒険がしたいな」というリンネの一言により僕らは、時間を自由にまたぎ歴史の中に住む死の集団“時砕き”が所有する、“誰にも読めない本”を巡る冒険を始める。


第11回スニーカー大賞奨励賞を受賞して書籍化されたこのシリーズは、児童文学の影響が色濃いハートフルなファンタジー。児童文学風味のラノベ作家というとどうしても野村美月を連想してしまうけれど、あちらが青い鳥文庫などの新書レーベルならこちらは立派な装丁のハードカバーといった感じで、小学六年生のリンネと語り手の少年・久高の冒険を確かな語彙でわりかし格調高く? ちょっと言いすぎか。あまり崩さない文章で、しかし軽やかに謳いあげている。

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「劇場版アイカツスターズ!」 スタッフTとショートパンツと生足と伝説のドレスと

新宿バルト9で「劇場版アイカツスターズ!」を観てきた。女児向けアニメの映画を劇場で観るのは実は初めてだけど、大画面に映るアイドルたちのスタッフTシャツ(というか四つ星の体操服?)とショートパンツから伸びる二の腕生足に目を奪われっぱなしだった。

 

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自分はひょっとしてアイドルっぽい人のスタッフTフェチなのかもしれない。衣装の素朴さが素材の良さをひきたてるところとか、なんとなく学生の頃を思い出すところとかに惹かれる。モバマスなんかでも特訓後のきらびやかな衣装より特訓前の私服のほうが好きなことが多いしね。そして健康的なスタッフTにショートパンツから伸びる生足の過激さがスーッときいて……これは……ありがたい……

 

南の島を丸々ひとつ使って行われる「アイカツ☆アイランド」はステージあり、アトラクションあり、島内観光あり。そしてその辺をアイドル(候補生)たちがうろうろしていて、いわゆる「接近戦」以上にアイドルとファンの距離が近いイベントだ。話に聞くマチ★アソビがこんな感じだろうか。ゆめたちはアイドルとしてステージに立つ一方で、イベントスタッフもこなし、たまには海で遊んだりもする。スタッフTとショートパンツは、主にイベント運営時とプライベートの時に着られていた。

 

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