周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

秋田禎信とSUBARU、五つのハートフルな物語 『Your story with あなたとクルマの物語』


というわけで、ノベライズ大好きおじさんと化した近年の秋田禎信作品の中でもぶっちぎりに謎な仕事、SUBARUの同名CMシリーズの小説版です。ほんと、SUBARU車どころか普通自動車免許も多分持ってない秋田になんでこんな仕事が来たのか……*1


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どうやら金曜ロードショーで流れてるこのCM自体が、「泣ける」と評判の様子。し、知らなかった。CMのノベライズ、という企画がそもそも謎なんですが、まあCM自体のコンテンツ化っていうのはわりと定番なのかなとも思います。大成建設Z会新海誠製作CMとか。それこそ、金ローで放映される映画の内容に合わせたコラボCMとか。「君の名は。」金ロー版の怒涛のコラボCMは記憶に新しいところです。


この作品は、元のシリーズCMから五つの物語を小説化しています。

  • 「父の足音」篇
  • 「以心伝心」篇
  • 「路」篇
  • 「新天地」篇
  • 「助手席」篇


の五篇です。大まかな筋は原作と同じでありつつも、秋田先生により登場人物の過去や内面描写が肉付けされています。


車のCMだけあって、登場人物の年齢層は高め。彼らはそれぞれが自動車にまつわる、苦い記憶を抱えています。高校まで送ってくれる父との二人っきりの空間が苦手だった受験生、撮影旅行で現地に向かう際、進路のことについて相棒と口論になり途中で降りていってしまい以降長いこと会ってない中年編集者、友人とのドライブで乱暴な運転をされ車酔いでもどしてしまった女性……。誰もが日常的に遭遇する可能性のある出来事たち。

*1:1999年のインタビューや、最新では2015年時点で車に限らず運転免許の類を持ってないとtwitterで本人が述べています。以前「おっさんのたまご」というエッセイ企画で取得した小型船舶免許も既に失効したようです

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サンリオ男子とサンリオアニメ男子は違うし全フェアリル研究家は瀬谷愛さんを讃えよ

ハローキティマイメロディ、ボムポムプリン。サンリオの生み出したかわいいかわいいキャラクターたち。彼らではなく、彼らをこよなく愛する男子高校生たちを主役に据えたアニメ「サンリオ男子」が、現在放映されてる。


 サンリオ男子 - 俺たち、青春、はじめました。

意外に人情派な「サンリオ男子


事前情報からイケメンたちによるもっとゆるゆるでキラキラな作品だと思ってたら、サンリオ好き男子の悩みについて意外にも実直な、悪く言えば重苦しい内容で驚いた。


人情モノ、というのが近いだろうか。おばあちゃんにもらったボムポムプリンを大切にせず、そのことを謝れないまま逝かれてしまったプリン好き、留守がちの親に代わって遊びもせず家事をこなしてるのに妹に趣味をなじられるマイメロファン、部活のチームメイトに突っかかるような物言いばかりしてしまうキティさん信者。


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ハローキティを女神と崇め「キティさん」と呼ぶ吉野俊介くん


中学生になっても妖精=フェアリルを信じてるのにクラスの人気者だし自分に何ら恥じることのない「リルリルフェアリル」の一期主人公(の片割れ)、花村望くんとは大違いだ。

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衛藤ヒロユキ「がじぇっと」 クサさ最高潮! あの日夢見た科学の未来を今一度肯定するアーバンファンタジー

電気製品の修理をしていると百件に一回くらい出くわす、理解しがたい状況。自分で勝手に出歩き増殖する、「何のため」という大義を持たない野良キカイ「ビビリアン」。彼らは思春期の子供に伝染して、その願望を叶える姿に成長する。持ち主の役に立つことでキカイとして安定したビビリアンを、人は「がじぇっと」と呼んだ。

キカイはいつも言葉を発している
かすかなノイズ 動作音 グリッチ
そういう音を聞き取れれば故障も防げるさ


魔法陣グルグル」は、ひとえにククリという女の子の物語だった。ストーリーは彼女の出生、というかミグミグ族と「グルグル」の秘密を巡ることで駆動するし、バトルで圧倒的な攻撃力を持ってるのも、勇者ニケのキラキラよりグルグル。全16巻の中で、ニケはあくまでククリの「勇者様」として描かれてきた。


恋愛面でも、当初から勇者様好き好きで好き過ぎて嫉妬で悪魔になったりしたククリとは違い、ニケの気持ちがわからない、というのは続編でも指摘されてるところだ。


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「グルグル」の終盤にコミックブレイド*1で連載を始めた「がじぇっと」(全3巻)は、比べれば「男の子」してる。

数ミリの鉄板の向こうに
ドライバー一本で見られる「キカイの世界」があるのに
ほとんどの人はまったく見ることなく暮らしている
ぼくがキカイの世界を見るのが好きなのは
「ホントの世界」って感じがするからなんだ


街の電気屋さんを父に持つ鳥賀周一は、その背中を見て育ち、機械いじりが好きになった。なのに父は突然電気屋を畳んで、企業の雇われコンサルタントになってしまう。そのことで周一は父のことが少し嫌いになり、会話も減る。しかし、父はその裏で故障した「がじぇっと」を修理する仕事「直し屋」に就いていた。修一は、それを継ぐことになる。


父親をかっこ悪いと思うこと、その仕事を受け継ぐということ。少年主人公の王道である。「グルグル」でギャグにされてた、父親の勇者になるという夢をニケが受け継ぐというシークエンスが、ここでは真面目に描かれてる。「オヤジさん」という、親愛がこもってるようでいて、親に対するには他人行儀な呼び方が絶妙だ。これで父親が威厳があるタイプなら真っ向から反抗できたかも? でも、いつまで経っても自分の好きなことをやり続けてて、年に似合わないクサいことも平気で言う、息子とも友達みたいな関係を築くタイプ――グルグルでもよく見かけた大人の典型だから、気持ちをぶつけにくかったのかもしれない。


サブカルチャーを語る父親って、すげーみっともない」「息子としていたたまれない」というのは石川博品耳刈ネルリ」の主人公レイチの述懐だった。でもレイチにとっては残念なことに、修一の「オヤジさん」は仕事を息子に引き継いだあとも、サブカルクソオヤジ(褒)として強い存在感を発揮し続けるし、他の大人も同様なんだよなあ……

*1:マッグガーデン刊。エニックスお家騒動でガンガンから分派して創刊された

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コスホリという異世界に召喚されたオタクの話

えっちなのは好きです。近年、コスホリという、18歳未満入場禁止のコスプレ系即売会イベントが盛り上がってると聞いて、気にはなってた。12月30日に開催された第22回に、ようやく行く事ができました。


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コミケが過激化するコスプレを規制することによって、そこから追い出された人たちの受け皿として機能してるというこのイベントは、コミケと同時開催。私も、冬コミの二日目を終えてから向かった。会場は、国際展示場からりんかい線で天王州アイルで東京モノレールで乗り換えた、晴海の東京流通センター(TRC)だ。


現地に着いたのは15時過ぎ。開催は15時~20時までなので、少し遅刻。そこから、30分くらい並んだかな*1。カタログを購入し、リストバンドをつけてもらってから入場。


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この後実家に帰ったのだけど、これつけたまま帰ったら声優ライブとかの比じゃないやばみ

*1:入場に必須のカタログを事前に購入していれば、もっと早い。当日にとらのあなに買いに行ったけど、既に完売してた

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【みんなで】も【ソロ】も許容する「ゆるキャン△」のゆるさ スマホ世代のアウトドア漫画

現在TVアニメが放映されてる、【あfろ】さんのキャンプ漫画「ゆるキャン△」がとても好ましい。最初は主演の花守ゆみりちゃん目当てでアニメを観始めて、あ、なんかこの雰囲気はいいなふわもこ女子可愛いな*1って思って原作に手を出したら、その「せいじてきただしさ」にえらい感心してしまいました。


www.youtube.com
 TVアニメ「ゆるキャン△」公式サイト



冬の本栖湖で一人キャンプを楽しんでいた志摩リンは、寒さと空腹で死にそうになってる女の子を拾う。彼女の名前は各務原なでしこ。山梨に引っ越してきたその日に、富士山を見に行こうと思い立ち、家から自転車でやってきたのだという。リンが分けてくれたカレーラーメンをすすりながらキャンプの楽しさに目覚めたなでしこは、新しい学校で野外活動サークル通称「野クル」に入る。偶然同じ学校だったリンは、野クルの他のメンバーとも知り合い、一緒にキャンプに行こうと誘われるのだけど、なかなか重い腰をあげず……

*1:作中の季節は今のところずっと冬

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