周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

妹はいくつになっても可愛い、むしろ大人になった妹のほうが可愛い

「妹が欲しい」「お前の妹ってことは三十路超えるけどそれでもいいのか」みたいな会話は匿名掲示板ではお約束のネタだ。妹=庇護対象みたいなイメージが、キャラクターの枠を未成年に止めようとしてるんだろうか。ワタシ的には結婚しようが子供産もうが妹はいつまで経っても妹だし肉親としての情は変わんないなーと思う。むしろ年を経るにつれて高まるまである。最近、立て続けにそんな漫画を読んでる。

縞野やえ「服を着るならこんなふうに」

「服を着るならこんなふうに」は、ファッションバイヤーの人が原作を担当する、要は脱オタファッションガイドを漫画にしたもの。社会人数年目のお兄ちゃんが、服装について、大学生の妹・環にイチから指導される。姉にコーディネイトを教わったって話はリアルでよく聞くけど、妹は珍しいかしら。そうでもないか?


人に服装のことを教えてもらうのは恥ずかしい。普段からだらしないところを見られてる肉親なら構わない。……とはいえそれは昔から仲が良かった場合であって、仲悪いわけじゃないけど特に一緒に遊んだりするわけでもない二人が一緒にお出かけというのは、別の気恥ずかしさがあるような気がする。そこを意識しない二人は根っこの部分で最初から仲いいのでは。社会人になったら結婚を前提としたら彼氏を作って家を出たい、と公言してる妹にとっては、ファッション講座は最後の兄孝行みたいなものだろうか。


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ファッションオタクな妹だけど、大学に行く時や友達と遊ぶときと比べて、兄と出かける時はそこまでキメキメな感じじゃないのが逆に可愛い。 

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関谷あさみの父娘漫画「千と万」 おっさんもJCも同じ人間よ

成年漫画において、細い線で描かれた女子中学生、ビビッドな心理描写と濃ゆいエロで人気を得てきた、関谷あさみ。中一の娘と中年サラリーマンの父子家庭を題材にした「千と万」全3巻は、彼女の本格的な一般誌デビュー作となった。帯に曰く、「普通の中学1年生の普通の日常生活がいちばんかわいい」。掲載誌は、「Girlish comics for Boys and Girls」を掲げていた「コミックハイ!」。同誌が休刊した後、「月刊アクション」で完結した。

自分はイケてる中年男性だと思っている父・千広とひとつ屋根の下で暮らす、中学1年生の娘・詩万。お父さんの言動にイライラしちゃうのは、詩万が思春期だから? それとも単にワガママだから? 関谷あさみが女子中学生をリアルに描いた、コミックハイ!の人気作品がついに単行本化!


詩万は、小ずるくて、家事は面倒で、内弁慶で、お父さんはうざくて、でも別に嫌いなわけじゃない、ごく普通の中学生。千広は、気持は若いけど、どうしようもなくおっさんで、すぐ調子に乗るし、娘のことは好きだけど、無神経なところもある、これまた普通の中年サラリーマン。二人のごく当たり前の日常は、当たり前に騒がしく過ぎていく。作者が同人誌で父子萌え漫画を描いてたこともあり、詩万はもちろん千広もなかなか可愛く描かれてる。虫が苦手だったりとか。


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男と女であること、年齢が離れていること。また片親であることから生まれる周囲の二親がいる家庭との違い……。個人の間でのギャップを、ことさらに主語をでかくして取り上げるようなことを、この漫画はあんまりしない。

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『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』 現在の少女小説の主要読者は少女ではない

そもそも「少女小説」とは。新井素子「星へゆく船」や氷室冴子なんて素敵にジャパネスク」、小野不由美十二国記」、今野緒雪マリア様がみてる」、雪乃紗衣彩雲国物語」などの、少女に向けて書かれた小説のことだ。大正時代、吉屋信子エス小説(百合小説)「花物語」の頃から言葉とジャンル自体は存在したのだけど、現在に至るそれは80年代の新井素子氷室冴子らが確立させたという。



ファンタジー、学園物、BL。時代によって流行の変遷はあったにせよ、主要読者層はあくまで少女たちだった。しかし、2017年現在では読み手のコアは「年齢で区切れば『少女』ではない女性たち」だそうだ。中高生の間で少女小説が以前ほど読まれなくなったこと、かつての中高生がそのまま読者としてスライドしたこと。以上2点が平均年齢を大きく押し上げた。少年向けのライトノベルは、市場における存在感の大きさから俗流若者論と結びついた毀誉褒貶を浴びることが多かったけど、近年の少女小説はその点、ジャンルが縮小傾向にあり、一言居士もあまり寄りつかない*1。とはいえ、少年向けも存在感の割に一部の論者が心配するほど売上は大きくないし、少年向けでもなろう系なんかの主要購買層は30代とも聞くのだけど。


嵯峨景子『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』は少女小説の主要読者が「少女」ではない女性たちになるまでの歴史を、ジャンルを代表するレーベルであるコバルト文庫中心に辿っていく。表紙カバーの写真に写っているのは著者自身で、ジュニアモデルとかイラストでなく妙齢の女性が表紙という辺りに本書の肝がある気がする。

*1:そう、俺以外は

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アニメ「うる星やつら」感想あるいは森見登美彦がガチの押井守信者だった話

去年の秋から、「うる星やつら」をつまみ食い視聴してた。言わずと知れた高橋留美子原作、「平凡な*1主人公のもとにある日突然美少女が降ってきて……」というハーレムタイプのラブコメのご先祖様となる作品。TVアニメでは2年目、劇場版は2作目まで「パトレイバー」「攻殻機動隊」で有名な押井守が実質的に監督をやってる。押井は結構好きなんだけど、「うる星」は名作と名高い「ビューティフル・ドリーマー」以外未視聴だったのです。


うる星の話


感想としては、80年代のオタクが日陰者とは、どうも信じられなくなってきた……。だって露出度の高い美少女が飛び回り他の漫画やアニメのパロディを至る所に放り込む、オタクアニメそのものの本作がフジのゴールデンタイムに放映されて高視聴率を取ってた時代ですよ? いくら原作がメジャー少年漫画誌連載とはいえ。宮崎勤以前だから? 最終回一個手前の194話「お別れ直前スペシャル輝け!! うる星大賞」でエピソード人気投票やってたんだけど、「またまた純情ギツネ! しのぶさんが好き」がランクインしたのって「北斗の拳」パロやったからっていう疑惑が拭えないんだよなあ……


ラムちゃんは、序盤の電撃電撃電撃押しだった序盤から10話「ときめきの聖夜」を経て、押して駄目なら引いてみろ、を実践するようになって可愛くなってきた。トレードマークである虎縞ビキニの一張羅から、セーラー服を着たりケープを羽織るようになったのもポイント高い。劇場版「完結編」の着替えシーンで、セーラー服脱いだらいつもの格好だったのには、ドキッとした。虎縞ビキニ単体だとなんとも思わないのにね。


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*1:あたるが平凡かというと全く平凡じゃないけど

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映画「夜は短し歩けよ乙女」 あなたの新生活にも「ご縁」がありますように

森見登美彦原作のアニメ映画「夜は短し歩けよ乙女」を、初日に観てきた。劇場は「極爆上映」「爆音上映」と名付けた音響に対するこだわりが有名な立川シネマシティ、の極爆爆音関係ないシネマワンの方*1。監督は、同作者の「四畳半神話大系」のTVアニメも作った湯浅政明で、今回は脚本なども含め「四畳半」のスタッフ再び、ということになってる。まあ同じ世界を舞台にしてて登場人物も結構かぶってるしね。なお私自身は一応森見作品は単行本化したやつは全部読んでるけど、湯浅政明は「四畳半」と「クレしん」くらいしかちゃんと観てません。

「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作!

※あらすじは原作のものです

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  • 映像として
  • 原作からの改変点:みんな異なる時間を生きている
  • キャスティングについて
  • デートムービー
  • つばさ文庫版、オモチロイ
  • 原作と関連商品

映像として


独特の色遣いで表現された世界を、極端にデフォルメされたキャラクターたちが所狭しと走り回る、ジェットコースターのような映画だった。監督がアニメ「クレヨンしんちゃん」(映画・TVA両方)に深く関わってる人なんで、あのキャラクターを360度グリグリ動かして目が回りそうになるところとか似てるかも。


原作は古都・京都を舞台にした摩訶不思議なファンタジーで、それが大学時代の「何でもアリ」な空気に妙にマッチした青春小説。この10年くらいの「京都+大学生物」ブームの端緒でもある。大仰な語り口の中に「笑い」や「可愛さ」を含ませた作風で人気を得た。



この映画が「原作に忠実」かっていうと必ずしもそうではないんだけど、「四畳半」同様、原作者と監督の強い個性のぶつかり合いが化学反応を起こして、「夜は短し~」でしかない作品になってたと思う。「四畳半」の灰色の雰囲気に比べると本作はポップでカラフルなイメージを増してて、そこがくどいと感じることもあったけど。詭弁踊りとか。あとこの作画の凄さをみろやおらああああとばかりにカメラを正面に固定して踊りをノーカット長尺で見させられるの苦手。

*1:こっちは久々だったけどシネマツーに比べると音響面などで物足りなさは残る。あんまし大迫力! って感じの作品ではなかったのが救い

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