周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

アニメ「うる星やつら」感想あるいは森見登美彦がガチの押井守信者だった話

去年の秋から、「うる星やつら」をつまみ食い視聴してた。言わずと知れた高橋留美子原作、「平凡な*1主人公のもとにある日突然美少女が降ってきて……」というハーレムタイプのラブコメのご先祖様となる作品。TVアニメでは2年目、劇場版は2作目まで「パトレイバー」「攻殻機動隊」で有名な押井守が実質的に監督をやってる。押井は結構好きなんだけど、「うる星」は名作と名高い「ビューティフル・ドリーマー」以外未視聴だったのです。


うる星の話


感想としては、80年代のオタクが日陰者とは、どうも信じられなくなってきた……。だって露出度の高い美少女が飛び回り他の漫画やアニメのパロディを至る所に放り込む、オタクアニメそのものの本作がフジのゴールデンタイムに放映されて高視聴率を取ってた時代ですよ? いくら原作がメジャー少年漫画誌連載とはいえ。宮崎勤以前だから? 最終回一個手前の194話「お別れ直前スペシャル輝け!! うる星大賞」でエピソード人気投票やってたんだけど、「またまた純情ギツネ! しのぶさんが好き」がランクインしたのって「北斗の拳」パロやったからっていう疑惑が拭えないんだよなあ……


ラムちゃんは、序盤の電撃電撃電撃押しだった序盤から10話「ときめきの聖夜」を経て、押して駄目なら引いてみろ、を実践するようになって可愛くなってきた。トレードマークである虎縞ビキニの一張羅から、セーラー服を着たりケープを羽織るようになったのもポイント高い。劇場版「完結編」の着替えシーンで、セーラー服脱いだらいつもの格好だったのには、ドキッとした。虎縞ビキニ単体だとなんとも思わないのにね。


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そりゃあたるも89話「ラムとあたる・二人だけの夜」で、両親が旅行に行って二人きりの夜、一線を超えたら今までのようにガールハントできない→でも一線を超えても超えなくても電撃食らうなら同じじゃね? って気づいて、なら構うこたあねえとばかりにラムを連れて寝室に行くという生々しさを見せるわい。それと歩調を合わせるように、最初は厄介者扱いだったあたるの両親のラムちゃんへの態度も軟化していった*2


この手のラブコメでは、逃げる男主人公をヒロインたちが追っかけながら「コラ~ッダ~リ~ン!」「もう電撃はコリゴリだよ~」って掛け合いを交わすのがお約束。それが本作では、侵略者の娘である宇宙人のラムちゃんを地球代表のあたるが捕まえようとする「鬼ごっこ」―――無事捕まえられれば地球は救われるけど、そうでなければ……――― が反転した結果の産物だったのにはへーってなった。特になんの意味もないと思ってたようなお約束でも、元々は理由があったりするもんだ。


他には

  • あたるがラムにリボンをプレゼントしたことに対してメガネが「今時リボンはダサくないか」ってコメントしてて、自分が生まれる前からダサリボン問題ってあったんだ……! と感動した。オシャレに無縁のメガネが言うってのがまた。
  • あたるのお母さんの団地妻感がツボ。しかしエヴァのフィルムブックで「Don`t Be.」が欧米では親が子供に絶対に言ってはならない言葉だという知識を得たわたしはうる星であたるの母親が「生むんじゃなかった」と口走る度、BPOとかPTAとかTPPとか大丈夫これ? って30年以上前の作品に無駄な心配をしていた。
  • やたら牛丼食ってる。
  • 78話「みじめ! 愛とさすらいの母」って「BD」の原型じゃん!


など。

森見登美彦押井守の話


それで、全然話は飛ぶんだけど、自分は森見登美彦っていう作家がわりと好きで。今、原作小説を書いたアニメ映画「夜は短し歩けよ乙女」、TVアニメ「有頂天家族2」が絶賛放映中の人なんだけど。



こむずかしい言葉が怒涛のように押し寄せてくれる語りとか、しっちゃかめっちゃかなドタバタとか、虚実入り混じる作風とか。「うる星」を観てて、このアニメや「パトレイバー」「ご先祖様万々歳!」なんかの押井守と似た空気を感じるなーと思って調べてみたら、かなりガチな押井ファンだった模様。

大森 つげ義春の『ねじ式』とか、あるいは押井守を連想したんですが。
森見 押井守さんも好きなので、入ってるだろうと思います。ボーッとしてると、押井守宮崎駿が自動的に出てくるんです。
大森 たしかに、『千と千尋の神隠し』っぽいところもあるし。


森見登美彦&大森望対談より

明石 なぜか、いきなり盛り上がったなあ。夕方になって日が傾いた頃に、突然森見君が「押井守を知ってるか」って言い出して(笑)「短篇集のレーザーディスクとか一式持ってるから、今から俺の下宿に観に来るか」って。
森見 それはね、高校の時には、誰とも押井守の話とかできなかったんですよ、まったくまわりに通じなくて。そしたら明石君が押井守の名前を知ってたから、「この人なら!」と思ったんでしょうね(笑)。
明石 たまたま『攻殻機動隊』が好きだっただけなんですけどね。後日森見君の家に泊まったら、押井守レーザーディスクをかたっぱしから見せられた(笑)


「文藝2011年05月号」【森見登美彦】特集より

※二つ目の引用の対談相手、「明石」さんは氏の大学時代の友人。「四畳半神話大系」のヒロイン明石さんとは違ってれっきとした男性です。というか女性だったら大学で知り合った女性を部屋に連れてきて延々エヴァを見せた滝本竜彦みたいなことになっちゃう!


つまり、「うる星」において押井のお気に入りキャラだった「メガネ」は、時代が違えば他の森見主人公同様愛され非モテキャラとして、サブカル好きの女子大生にキャーキャーゆわれる可能性があったんだよ!!!(ナ、ナンダッテー


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……押井の映画に「立喰師列伝」(一作目)というのがある。飲食店において与太や奇行で店員を狼狽させ、その隙に代金を払わず逃げ出す。その技を磨きに磨いた「立喰師」たちを、紙人形劇みたいなアニメで描いた作品だった。「途中で寝た」という観客が多い本作を、私は押井の衒学趣味がエンタメとして昇華された氏の最高傑作と信じて疑わないのだけど、森見作品に頻繁に出てくる「詭弁論部」なんか特にこの手の味を感じられて嬉しかった*3。近年、押井は「立喰師」みたいなギャグ全開の作品を発表してないからなおさら。……とはいえ、氏の小説はおおむね押井に比べてずっとポップでキュートだけどね。文化祭をやってもその背景に学生運動への思い入れが、なんてこともないし。



そういえば、押井の弟子である神山健治(「攻殻機動隊S.A.C.」「東のエデン」の監督)は森見作品にハマって、対談などもしたことがあるそうで。「おや、神山さん、奇遇ですね」「いや、たまたま」なんてね。


*1:あたるが平凡かというと全く平凡じゃないけど

*2:こういうハーレム物で、一緒に暮らしてる非日常サイドのラムちゃんより日常サイドのしのぶ贔屓というのが新鮮だった。ああいう押しかけ女房キャラってなんだかんだで主人公の母親と即仲良くなるじゃない

*3:え? 蓬莱学園? なんですかそれ