周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

『攻殻機動隊小説アンソロジー』 「原作」はどこから来てどこへ行く?

ハリウッド版の実写映画が公開! っつーことで、色んな関連本が出版されている「攻殻機動隊」。本作はその小説アンソロジーである。SF、純文学、ラノベ漫画原作者と色んな方面から集められた五人の作家がそれぞれの「攻殻」世界を描く。

円城塔「Shadow.net」


公安が試験中の、ドローンを用いた大規模監視システム。プライバシーの観点からマスキングをかけられた情報を、どうやって扱うのか。機械的な処理が法的に規制されている一方で、人間(サイボーグ含む)の「見る権利」は保障されている。事故で他人の顔の区別がつかなくなった「わたし」は、傷ついた脳を貸すことでドローンの目、システムの一環となる。

あるいはそれは、一度しか通信が望めないような者がすがる通信プロトコルだった。最後のマッチで上げる狼煙のように。一本しかない発煙筒の使い方のような。電源が切れる直前の無線に向けて語りかけるような種類の。


最先端技術にまつわる法的なアレコレから生まれる何か。時系列的には「人形使い」事件の後の話である。ある、はずだ。と、そんなところから疑っていかなくちゃいけない。30P足らずの短編の中で展開される圧倒的な情報量、行き着いた先の、そしてまだ見果てぬ景色。ロマンチシズム。つまりこれがハードSFってやつか*1。著者は芥川賞も受賞した、純文学とSFの人。


*1:正直理解が及んないのでポエムで誤魔化したやつ。まだ? あるいはこれからも?

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ラノベ作家としての佐藤大輔=豪屋大介 エロスとバイオレンスとビッグマウスと

小説家の佐藤大輔が、虚血性心疾患のために亡くなった。享年52歳。多くの未完作を抱えての逝去だった。


mainichi.jp


氏については「征途」「レッドサンブラッククロス」「皇国の守護者」などの(仮想)戦記を執筆した作家、というのが多くの人の認識だろう。苛烈な展開、そこからの逆転劇などを得手として、多くのファンを獲得したが、シリーズ物を始めては途中で投げ出すという欠点もあった。



近年では、アニメ化もされたゾンビ漫画「ハイスクール・オブ・ザ・デッド」の原作者としても知られている。



しかし、ラノベ読者である私にとっては、まずラノベ作家・豪屋大介こそが佐藤大輔だった。


豪屋=佐藤説は、公式には一度も認められたことがない。最初は文体や作風などの類似の指摘から始まり、佐藤→砂糖、豪屋→ゴーヤというPNの法則性とか、豪屋が赤の他人として佐藤に影響を受けたことを度々語ったりとか、佐藤の奥さんが同一人物だと認めたらしいとか、まあ色々と議論があったんだけど。豪屋の代表作「A君」のコミカライズを担当した漫画家が同一人物だと認めたので確定、ということでいいんだろうか。



また、豪屋は2005年の『このライトノベル作家がすごい!』で顔出しのインタビューに応じているが、この写真は当時ライターだった橘ぱんが影武者として撮影されたものだったらしい。これがきっかけで橘はラノベ作家の道を歩むことになるのだけど、参考にということで渡されたのが「A君」と「デビル17」だったとか。結果出来上がった「だから僕は、Hができない。」もわりと過激なエロコメだった。



インタビューの結びでは、豪屋は「『俺が豪屋だ、文句あるか!』とでも言えばイメージ通りのサービスになりますか?(笑)」と豪屋=佐藤説を茶化す発言もしている。そういうことをする人だったんで、上の関係者の発言も、生前の氏と一計案じて「面白いから死後も同一人物だったってことにしとこうぜ」とかだったり? とちょっと疑ってしまった。


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徳間書店がオタク文化にもたらしたもの

とか、誰か書いてくれないかなあと常々思ってる。


www.ccc.co.jp


読売出身のカリスマ経営者・徳間康快が一代で急成長させ、かつては田中芳樹銀河英雄伝説を擁してノベルス*1市場に確固たる地位を築き、宮崎駿=国民的アニメ作家が確立するまで「アニメージュ」でバックアップし続けた徳間書店。メディアミックスの先駆者ともゆわれている同社が、オタク業界に与えた影響は大きい。大きい、はずだ。しかし、80年代前半生まれの私が中高生の頃には、この界隈における徳間の地位ってのは、既に角川に喰われかけてた印象がある。

*1:新書と同じサイズの小説レーベル。大体二段組

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「このすば」のアクア様とカズマさんがオーフェンとコギーだった

数多の異世界転生物がヒット作を飛ばしている。中でも「この素晴らしい世界に祝福を!」は特に、90年代を生きた人たちにある種の郷愁をもって迎えられているみたいだ。


曰く「めぐみんの爆裂魔法はスレイヤーズのリナが使うドラグスレイヴだ」「じゃあめぐみんのライバルであるトモダチいない巨乳のゆんゆんはナーガ?」「めぐゆんはあの日僕らが夢見たリナーガの姿」「直球でファンタジーRPGパロやってるという意味ではフォーチュン・クエストなのでは」「いやグルグルだろう」「クズマさんのクズっぷりはむしろあかほり作品の主人公のそれでしょ」「いやなりきれてないじゃん」云々。


私なんかはアニメだけで言えば、なんだかんだで「これはゾンビですか?」が雰囲気的には一番近いと思うんですけどね。同じ金崎貴臣監督×上江洲誠シリーズ構成の。ラブコメのラブが薄めで疑似家族っぽいところとか。そういえばあっちでもドラスレパロやってたなあ。



さて。私は「オーフェン」が特に好きだったので、そっちと絡めて話すと(平常運転)、カズマさんとアクア様の関係は現代に甦ったオーフェンとコギー(無謀編時代)に見える。

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なつかしの異世界転生・召喚もの徒然語り

2月から3月にかけて、書評サイト「シミルボン」で連載書評を書いた。「なつかしの異世界転生・召喚もの」というテーマで全5回。過去に書いた感想を下敷きにさらっと済ませるつもりだったのだけど、思ったより手こずってしまった。


shimirubon.jp


取り上げたのは、


の5記事6作品。で、以下は連載の前に試しに書いてみたラフスケッチ的な文章。一つ一つの作品に焦点を絞ったシミルボンのほうと比べると思うがままに書き連ねてる感じ。連載と重複も結構あるけど、あちらで執筆候補から外したものも載っけてて、埋もれさせるのも惜しいので(あと連載の影響でこのブログの更新頻度が減ってたので)、こっちにあげてみます。


現在、ライトノベル・Web小説を中心に異世界転生・召喚ものが大流行している。でも、このジャンルはもちろん、昨日今日に生まれたものじゃない。Web小説書籍化の最右翼「ソードアート・オンライン」(ゲームの世界を舞台にした物語は別物って人もいるだろうけど)や無数の二次創作を生んだ「ゼロの使い魔」を現在に続く流れの起点と見る人もいれば、歴史物とはいえ「王家の紋章」の影響は無視できない、いやいややっぱファンタジーは海外発だろということで「ナルニア国物語」を挙げる人もいるだろうし、往きて帰ったり帰らなかったりする物語なら「神曲」「ファウスト」忘れんなとか、は? 異界探訪の原型はオルフェウスイザナギのアレだろ? って人もいるかもしれない。


とはいえ、私にはこの流れを解説できる教養も文章力もないので、ひと昔以上前のやつで、いくつか特に印象に残った作品を挙げてみるだけにする。

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