周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

「相思相愛ロリータ」の同人エロゲサークル【夜のひつじ】の全作をプレイ後 「ゆ、許された」

昔々、ネオ・ジオンの偉い人は言いました。「ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!」と。別にこのキャラクターこの台詞が端緒となったわけではないけれど、年端もいかない女の子に母性を求める、という性癖はオタクの間でそこそこ市民権を得ているようで。


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ララァが戦死した時、彼女は17歳でシャアは20歳。それに比べると艦これの雷やモバマスの桃華ちゃまなんていうのは外見上本当に幼くて隔世の感があるし、こういう文脈でのとことん甘やかしてくれる「母性」って実は祖母性とでも言うべきものじゃないのって思うけど、まあそれはそれとして。そんなロリ母性ブーム? に乗っかってヒットした同人エロゲが、サークル「夜のひつじ」の「相思相愛ロリータ」だった。

純愛中出しロリユートピアノベル「相思相愛ロリータ」

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仕事が忙しく徹夜続きで、日に日に心が擦り減っていくリーマンの「おか」くんが、満員電車の中で出会った少しおませな「まこ」ちゃんと、身も心も通わせていく。まこちゃんの何もかもを肯定してくれるような聖母っぷりもさることながら、おかくんの心情描写が秀逸で。


現場の誰もが限界だと思ってるのに上の人間は聞き入れてくれない、営業は営業でリストラされないよう必死でまた利益にならない案件を取ってくる、いきおい無駄な会議ばかりが増えていく、とりあえず今できることを一つずつ片付けていくしかない。終わりが見えない―― そんな疲弊した大人の日常が社会人プレイヤーの胸を打った。おかくんが疲弊しているからこそ、まこちゃんの底知れないロリ母性が一層引き立つのか。あるいはその逆か。


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わたし自身は、去年の6月にこのゲームに触れた。正直本作単体だとそこまでびびっとこなかったんだけど、テキストはものすごく波長が合ったので、その後一年かけて「夜のひつじ」の作品を全てプレイし、ライターである幌井学司氏が執筆してるジュヴナイルポルノも読み、ずぶずぶと沼に沈んでいった。エロゲで一人のライターにここまで入れ込むというのは初めてだ*1

エロが根っこにあるシナリオゲーという幻想


なんでこんなにハマったのかというと、どの作品も根っこにエロがあるシナリオだからかなあと。エロゲなら当たり前だろってゆわれるかもしれないけど。自分の中では比較的熱心なエロゲユーザーだった約10年前、シナリオとエロが不可分なゲーム、というものを求めてた。エロとストーリーが両立してる、じゃなくて両者が一体になってるエロゲー。でも、結局、ぴんとくるものは見つけられなかった。自分が陵辱モノ苦手なのも関係してたんでしょう。エロが濃いシナリオゲーでも、どこまでいってもストーリーとエロが平行線というか癒着しきってないというか。


それでも探し続けていれば正解に巡り合ったのかもしれないけど、自分的にエロゲってプレイするまでの精神的ハードルが結構高かったのでなかなか新規開拓にも至らず……。時を経て巡り会った夜のひつじのゲームは、そういう意味で自分の求めていたものに限りなく近かった。なお「実用性」は個々人の嗜好に依拠するので、また別の話。「相思相愛ロリータ」に関してはまこちゃんの「尊さ」が勝ちすぎててちょっと……。それ以外は、まあ、その、なんだ、とてもいいです。


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「相思相愛ロリータ」の派生として、安眠+白いおもらしお役立ち音声作品「安眠添い寝ロリータ」はまさにこのゲームというかまこちゃんならではのコンセプトの催眠音声だったけど、担当声優・紫乃小文さんの演技はちょっと声が高すぎて、安眠するには落ち着かなかった。また、ファンディスクとして、まいにち中出しロリユートピアノベル「相思相愛ロリータの生活」もある。


さて。「夜のひつじ」の多くの作品の根底にあるのは、「こんな浅ましい欲望をたとえ好きな相手であってもぶつけることは許されるのか」という普遍的な問いだ。「相思相愛ロリータ」はそれを抱くのが社会人で受け止める相手が幼い女の子ということで倒錯的というかキャッチーな構図になったけど、他の作品でもおおむね変わらない。


またロリゲーか! いいですよね、ロリゲー。


このサークルのゲームにおいては、視点人物である男たちのセンシティブな一人語りが激しい。比較的フラットな主人公でも、エッチシーンになるとエモさを抑えきれない。では彼らに対してヒロインたちはというと、全くもって男にとって都合の良い母性を発揮してるんだけど、それだけでは済ませることのできない存在感がある。基本的に男より頭がよくて、それぞれに男を肯定する事情を秘めている。身体のあたたかさやわらかさもさることながら、理屈でも面倒くさい主人公を言いくるめてしまう。男たちは欲望の身勝手さを散々知っていながら、相手にそれをぶつける。それはとてもきもちのいいこと。そうでしょう? (突然の催眠音声

浅ましい欲望を許されるのはとても心地が良かった。


例えば友情は一定以上の浅ましさを許さない。一度や二度は許すかもしれないけれど何度もは許さない。友情は高潔で素晴らしいものだから。友情は同じ強さを持った人間同士でしか結べない。


愛情は許してくれる。
愛情は、踏み固められた雪からのぞくわずかな白さのように濁りを宿して清潔だからだ。


全体的に叙情的で、繊細で、でも時々暴力的で。ゼロ年代なら高野音彦のイラストがついて、全くセカイ系じゃないのにセカイ系ってラベル貼られてそうな。ライターの人がTwitter杉浦次郎先生をフォローしてたけど、なんかわかる気がする。あるいはやや厭世的になった田中ユタカ


以下は、特に心に残った作品をいくつか挙げる。

縁組み性愛ロリユートピアノベル「ゆびきり婚約ロリイタ」

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タイトル通り相思相愛~の姉妹作。ヒロインはまこちゃんに比べるとやや子供っぽいけど、それでも、これは夜のひつじの作品全般に言えることなんだけど、年相応というには聡すぎる。彼女とイチャイチャ甘々生活を送ることになったきっかけが、彼女の面倒を見てたおばあちゃんが認知症になってしまったから、というこのギャップには参るね……。いやホント……

シロップ漬けボーイミーツガールADV「彼女、甘い彼女」

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逃避癖のある主人公に甘えさせてくれる彼女ができたことで変わっていく、という話。多分このサークルの作品の中では一番オーソドックスな作りだと思う。

ノスタルジック幼馴染ノベル「幼馴染と十年、夏」

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まだ幼い頃の性的な過ちによってお互いを傷つけたと思いこんでいた幼馴染の男女が、関係を回復していく。付き合いだしてしばらく経ってからの、彼氏の部屋に入り浸っている時の彼女のだらけ具合がかわいい。


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愛ある射精管理からの~→たくさんお射精ADV「好き好き大好き!超管理してあげる」

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射精管理モノ。高校の教員である主人公が飴役の彼女とムチ役の妹に管理され、堕ちていく。作中で何故か社会派ラノベとして名高い「ザンヤルマの剣士」が引用される辺り、ライターの人に同世代を感じる。


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身代わり女装人質ADV「女装お嬢様への異常な愛情」とTSライトヴィジュアルノベル「親友が美少女になって帰ってきた」

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「女装お嬢様への異常な愛情」は、独立戦争から10年経った19世紀コロンビアを舞台に女装少年と混血メイドが政治と人種差別/奴隷問題と革命とその他なんやかに翻弄されるというマニアックさ。TSものの「親友が美少女になって帰ってきた」もそうなんだけど、女性(女装)視点によってかえって男性的な欲望が強調される。「親友が~」は、最初は遊びのつもりだった寝取り相手が段々と本気になっていって情のあるところ見せたりするのがツボ。

だだ漏れデレパシーADV「幼馴染の心が読めたらどうする?」

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サトリサトラレもの。お互いのしたいことされたいことがつつぬけで超イージーモードの恋愛を描く。能力の落とし穴とかまるでなくていい方向にばかり転がっていくんだけど、が為にいつかそれが失われることに恐れを抱くようになる。欲望を恋人にぶつけることはどこまで許されるのか、というテーマの取り扱いとしてはこの中で一番ツッコんでると思う。

逆レイプ浮気ADV「純情セックスフレンド」と陵辱アフターADV「さようなら、援交娘さん」

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「純情セックスフレンド」は怪我で打ち込んでいた部活をあきらめざるをえなかった、「さようなら、援交娘さん」は就活がうまくいかず将来に希望がない主人公が、それぞれ女性を汚すことで自尊心を満たそうとしたりしなかったりt。今回、プレイした前作を取り上げたわけじゃないけど、その中でも人生袋小路なゲーム。特に「援交娘さん」は自分に残された唯一の拠り所である性欲にすがろうとする男の悲しい性が容赦なく描かれていた。

天使に吸われてお射精天国ADV「聖天使☆レベルドレイン」

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現時点の最新作。物語開始時点でレベルMAXだけど、天使と致せば致すほどレベルが下がっちゃう勇者が、どう誘惑に打ち勝つのか打ち勝たないのか、という話。魔力供給エッチって基本的に苦手なんだけど、これはすごいよかった。これまで堅実に積み立ててきたものを投げ打ってでも、飛びつきたい快楽がある。魔力は与えるものではなく、奪わえるものという考え方。それと、この人の作風に天使とかアガペーとかいう概念ってすごくなじむ。性愛中心のメディアで無償の愛とか家族愛とか隣人愛のようなものを謳うという、こう聞くとなんか餅月望っぽい。

その他小説、スマホゲーなど

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元々ライターのporori=幌井学司は「マリみて」の二次創作小説を書いていたようで、同人ゲーサークルとしての第一作、雰囲気百合ノベル「孤独に効く百合」(非18禁)は二人の女子高生が家の中で過ごす穏やかな時間を切り取った、しっとりとアンニュイな雰囲気の百合ゲーだった。


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感傷現実ジュブナイルノベル「世界の始まりゴッコ」は同じく年齢制限のない、名前にまつわるファンタジーiOSアプリとして配信されている。



小説は、「お嬢さま三姉妹にぺろぺろされ続けるのをやめたい人生だった」「お嬢さま三姉妹にぺろぺろされ続けてると妹がしつけ直しにきました」「小悪魔な後輩コンビに「誘惑の練習相手」として選ばれた件」の三作を執筆。同人ゲーに比べるとエロ推しで、テーマ性が薄いところはあるかな……? 後輩コンビ~は、甘やかされ重点萌えエロラノベとしてめっちゃ好き。これの序盤読んで、日常系エロショートショート連作集みたいなの読みたいと思った。GJ部をもう少し過激にしたような。でも最後の一線は越えないみたいな。……なんかノクターンノベルスに既にありそうだな。

今後の展望


同人エロゲサークルとしての活動は鉄板なので、もちろん続けてほしいんだけど。河出書房新社辺りの、官能的な要素アリアリの文芸に強いところでなんか書いたりしてみてほしいなも思う。というか河出かは知らないけれど、いずれそうなるんじゃないかなという確信は抱いている。既に別名義で一般向けゲームシナリオのお仕事とかもしてるみたいだし。……って思ってたら、ぶんか社のレディコミ「無敵恋愛S*girl」に小説載せててどういうことなの……ってなった。



タイトルは「ワンコ系年下彼氏はグイグイきます!」仕事に疲れたアラサー女性がインターネットで知り合った大学生と恋に落ちる。……いや、まあ女性心理の書き方が好みだなあとは思ったけど。それはあくまで男性向けエロゲの中の話であって、女性受けするかどうかは……案外そっちから火がついたりするんだろうか。

*1:ロープライスなので手を出しやすいというのはあったけれど