周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

大ベテランに今風美少女が書けないなんて誰が決めた 秋田禎信「巡ル結魂者」


「俺もさ、異世界だって考えてたからかな……騒ぎを起こして実験観察なんて、まともな人間の発想じゃないよ。やるべきじゃなかったよな」 

巡ル結魂者

 

異世界へ召喚された人間には、異邦人であるからこそ、出来ることがある。本作の主人公カズトも、その立場に加え、異常な頭の回転の早さ、人間力の高さをもって、ヒロインたちの抱える問題に、無闇に摩擦を起こすことのない最適解を下していく*1。ある人はこの面白さを、「ルイズが出木杉を召喚してしまったようです」と評した。けれど、異物のままでいるということは、人間関係に一線を引くということだ。その社会の中で生きて行くならば、どうやっても壁が立ちふさがる。

 

……そんな、異世界召喚ものではある意味古典的な、最近のラノベとしては「俺の青春ラブコメが間違っている。」などでも記憶に新しい人間関係の問題に取り組んだのが、この「巡ル結魂者」(全5巻)だ。

 

  • 今時かつどこか懐かしいヒロインたち
  • ハーレム物(ハーレム物とはゆってない)の主人公はどうあるべきか
  • 豊富につめ込まれたパロディ
  • 知能バトルではなくとんちバトル
  • 本文とイラストとのキャッチボール
  • 全5巻(刊行期間にして1年半)完結は短すぎる

*1:例えるなら極黒のブリュンヒルデの村上くん。でもおっぱい星人ではない

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エロアニメの新潮流「イノベーティブアニメ」「インモーション技術」

※今回特に知識的な裏付けが皆無で印象だけで物事を語ってるので、いつも以上にガバガバです。

 

一般向けでは、アイドルアニメのダンスシーンなどをフルCGで制作することが当たり前になったように、成年向けでもこの数年で定着した表現技法がある。メーカーの広報は「イノベーティブアニメ」「インモーション技術」なんて呼んでいるらしい。この文章を読んでいる人にも覚えがあるんじゃないだろうか。情報サイトやDVDパッケージの裏に載っているスチールが原作そのままの美麗な絵で、ワクワクしながら視聴してみたら、動きがやたらカクカクしていて、おかしいな……? ってなるアレのことだ。

 

印象としては全編Flash形式のエロアニメ、だろうか。げっちゅ屋emily原作「らぶコロン 1」のPVが公開されてるので、そちらを参照。この手のアニメはカクカクさ加減を隠すためかPVがないことも多いのだけど……。

 

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猫に説教される底辺ラノベ作家(33)~心にしみる私小説「先生とそのお布団」、カクヨムで公開中

角川が小説投稿サイト「カクヨム」を立ち上げて、約二ヶ月が経過した。オープン初日にプロ作家であるろくごまるにが、角川(富士見書房)の編集上の不手際を糾弾する文章をあげてから*1、一時はすっかりそういった作品の発表の場として人気を得てしまった感がある。つまり自己言及的というか内部暴露というかそんなような。

 

kakuyomu.jp

 

その辺りを意識したわけではないだろうけど、これもプロである石川博品が発表した「先生とそのお布団」は、デビュー3年目の売れないラノベ作家・石川布団と、彼の小説の師匠である「先生」と呼ばれる猫の日常を綴った私小説(フェイク)だ。

 

ラノベ作家残酷物語という虚像

 

主人公の「オフトン」は33歳。「ピコピコ文庫」の新人賞を受賞して世に出るも、デビュー作「猛毒ピロリ」は3巻打ち切り。

 

 

スーパーでバイトしながら1年かけて企画を練ってきた新作は、奇抜すぎるという理由で編集会議を通らず、とうとう版元と袂を分かつことに。「女相撲」を題材にした「国学園乙女場所」を複数の出版社に持ち込みし、散々駄目だしされながらも、ようやくゴーサインを出してくれるところを見つけたものの、いざ書いてみると筆が進まなかったり、家族が入院したりで、うまくいかず……。

 

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*1:電子出版契約の問題で、それ自体はカクヨムとは直接関係ない

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野村美月「SとSの不埒な同盟」 「俺の嫁」持ち同士のオタカップルの幸せ 

​上のように書いたけれど、「SとSの不埒な同盟」(全2巻)の主人公もヒロインも別にオタクじゃない。この作品は、好きな人がそれぞれ別にいて、お互いの恋の成就のために同盟を結んだ男女が段々と惹かれあっていくという、大まかなあらすじだけ聞けば「とらドラ!」や「おまえをオタクにしてやるから俺をリア充にしてくれ!」に似たタイプのラブコメだ。野村のファミ通文庫での新シリーズ「楽園への清く正しい道程」も、この変種に当たる。

   

 

 

ただ、二人共がタイトル通りサディスティックな性癖を持っていることが、上記の作品と「SとS~」を一線を画すものにしている。

 


芸術音痴でありながら、美術部に入部した真田大輝。美術部員は仮の姿。
美術室から見える合奏部の美園千冬を鑑賞するのが真の目的。非公式な部活動、 鑑賞部員なのである。
そして、美術部にはもうひとり、絵が激烈下手な美少女の部員・ 藍本ルチアが…。
ルチアも鑑賞部員ではないかと、大輝はルチアに話しかけるが…。
ドS主人公と、ドS超然美少女が繰り広げる、ピュアラブストーリー!!

 

大輝とルチアは生粋のドSだけれど、しかし自分達の性癖があまり一般的でないことを自覚していて、好みの異性を見つけても欲望をぶつけたりせず、ひたすら遠くから見つめて膨らませた妄想を楽しむだけだった。それを部活動化したのが「鑑賞部」だ。

 

この部活の中で、初めて出会った同好の士として、彼らは大いに自分の趣味を語らう楽しさを知る。鑑賞部はやがて「対象を遠くから眺めるだけ」から、余計な邪魔者が入らないようにするため「対象を自分のものとした上で思う存分鑑賞する」と活動内容を路線変更を迫られる。互いにステディな相手ができることを意識した二人は、自分達の間にあるものが友情か恋愛感情か分からなくなっていく。しかし彼らはドS同士で、当然その性的欲求を満たしてくれるのはおどおどしていて、繊細で、弱い相手であることが望ましいのだから、異性としてお互いに欲情することはできないはずで……。

 

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とあるラノベ世代が読んだ平井和正 「月光魔術團」「超革中」「ボヘミアンガラス.st」「幻魔大戦」

SF作家・平井和正(1938-2015)が亡くなってから一年以上が経つ。それまで近いようで遠かった作家だったけれど、訃報を機に幾つかの作品を読了した。

 

唯一、狭義のラノベレーベルから刊行された「月光魔術團」

これは逝去より随分前の話だけど、わたしが最初に触れた平井作品は、確か「月光魔術團」だったと思う。伝奇アクション小説「ウルフガイ」の犬神明が女の子になって還ってきたナンデ!?、という触れ込みの小説。何故平井作品の中で特に有名でも評価が高いわけでもないこのシリーズだったかというと、単に電撃文庫という自分に近しいレーベルから刊行されていたからだ*1

 

わりとえろえろな内容だったと思うけど、実はよく覚えてない。他の電撃作品と雰囲気はそこまで変わらなかった気がする。人狼少女というモチーフにドラマ化もされた篠原千絵の漫画「闇のパープル・アイ」を連想したりした。あっちは豹だけど。

 

 

*1:初出はアスキー

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