「カムイの剣」 最高にかっこいい80年代のニンジャ活劇アニメーション
子供の頃、テレビで放映していたアニメを観て、何か強烈な印象を残していったことだけは覚えている。でも、内容はおろかタイトルも思い出せない。こういった経験のある人は多いと思う。その後、なにかしらのきっかけがあって再視聴することができたとして、「やばいやっぱすごかった当時の俺の目確かだったわ」となるか「あれ、こんなもんだっけ……?」となるかは、ひとつの賭けではある。今回わたしもひとつの賭けに挑んでみた。その結果は……記憶に残っていた以上に面白かった! 観てよかった! 当時の俺偉い!
賭けの対象になった「カムイの剣」は、SF作家・矢野徹の同名小説を原作として、1985年に公開されたアニメ映画だ。当時乗りに乗っていた角川映画としては、「幻魔大戦」「少年ケニヤ」に次ぐ長編アニメーションとなる。監督はその「幻魔大戦」や、「銀河鉄道999」などで知られるりんたろう。アニメーション制作はマッドハウスが担当した。
矢野徹原作、りんたろう監督による、伝説の海賊・キャプテンキッドの財宝を巡る波乱万丈な痛快冒険スペクタクル。親殺しの汚名を着せられた次郎は、無罪を知る僧侶・天海に救われ忍者修行を始めるが、天海の狙いは次郎の“カムイの剣”だった…。
ストーリーは基本的に、ある目的地に行けば定められたイベントをこなし次の目的地が明かされそこに辿り着けば別のクエストが始まり……という、RPGのようなロードムービーの体をとっている。抜け忍の復讐、キャプテンキッドの宝探し、西郷隆盛やマーク・トウェインといった史実の人物との絡み、アイヌや黒人、インディアンへの差別問題etcetcといった盛り沢山の内容だけれど、とっ散らかった印象はなく、パキパキとテンポよくお話が展開していく。代わりに、山あり谷ありの大冒険という感じもあまり受けず、原作で特に強調されていた差別問題のような、物語全体を引っ張る核に欠けるため、後半はやや冗長かという気もするのだけど……。
これは、良くも悪くも主人公次郎の朴訥で寡黙な性格もあるだろう。そんな彼には有名俳優・真田広之の生硬な演技がよく合ってはいた。
このアニメの最大の魅力は、アクションシーンにある。パッパッと気持よく切り替わる静動、光と影を強く意識したスタイリッシュな演出。またどんな強敵相手でも無闇に何合も斬り結ばず、多くの言葉を交わしたりすることなく、バッサバッサと斬り倒していくのにいちいちシビれた。
時代物アニメのベストというと「るろうに剣心」を挙げる人も多いだろうけれど、あちらがどちらかというとリアルっぽい動きで魅せていたのに対し、こちらはあくまでアニメだからこそやれることをやっていて、山田風太郎的ないわゆる「忍法」もバンバン登場する。けれど画面はあまり派手にならず、同じニンジャものの傑作でも、色遣いから何から全てがギラギラした魅力を放つ「獣兵衛忍風帖」*1に比べ全体的に色調もテンションも抑制が利いていて、モノトーンの良さというか、cool japanならぬchic japanというかdry japanというか、そんなかっこよさを感じた*2。
また、ロック歌手の宇崎竜童と和太鼓奏者の林英哲がコラボし、当時「幻魔大戦」「カムイの剣」「AKIRA」とアニメ大作で立て続けに使われたケチャを多用するエキゾチックな音楽も、一度聞いたら忘れられないぞくぞくするものばかりだった。
けれど、一度聞いたら忘れられない、というのはいいことばかりではない。音楽に限らずこのアニメにはある種の美学、独特のアクションの型みたいなのが全編通して貫かれているのだけれど、2度、3度と繰り返されると、イメージは強く刻まれる一方、ひとつの作品としてはうーんとなる。「MADLAX」の例のBGMが劇中で4回流れる長編映画を想像したら、近いものがある? そこまで極端ではないかな。でもこれは132分という長尺で一本にまとめるよりは、OVAみたいな形で小分けでお出ししたほうが効果的だったんじゃなかろうか、という気はする。
とはいえ、そんなことが大した瑕疵にならないほどのかっこよさではあった。アクションで魅せるアニメとしては、自分の中でオールタイム・ベストクラス。次は本作の監督りんたろう、脚本の真崎守、キャラデザの村野守美が揃って参加してる、同じ時代物の「佐武と市」を観たいので、どっかで動画配信していただけないでしょうか。
(どっちもBDは出てないのね……)