周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

アニメ化記念公式グッズ・ダイキャスト武器「オーフェンの魔剣」の謎

二〇年ぶりの再アニメ化に、ラノベ魔術士オーフェン」が盛り上がっている。……少なくとも盛り上げようという気概は感じられる。


放送開始は二〇二〇年一月だが、池袋となんばでは、公式グッズを扱う期間限定ショップがいち早くオープン。アニメ名物「絵の中の状況がいまいち掴めない謎版権イラスト」を使ったグッズが発売されて、「本当にアニメ化するんだなあ」という実感がようやく湧いてくるなどした。中でも注目すべきは、ショップ公式アカウントが「オーフェンの魔剣」と呼ぶ「ダイキャスト武器」¥5,500(税別)。なにせこのグッズ、原作読者の誰一人としてその由来が分からず、「オーフェンの魔剣ってなんだ……?」と困惑している代物なのだ。


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寸法はW40mm×H140mm。せっかくだからと思ってアニメ試写会の物販で購入してみたが、やはりその正体は謎のまま。刀身に彫られた文字列は魔術文字かと思ったらただの版権表記だった。放送に先んじて*1商品化されたアニメオリジナルの魔剣、というのが無難な落とし所だろうが、サクッと無視して色んな可能性を考えてみたい。


オーフェン」に登場する魔剣といえば、まず思い浮かぶのが月の紋章の剣《バルトアンデルスの剣》だ。銘は「いつでも・ほかの・なにか」という意味で、切ったものの姿を好きなように変えられる。長い長い物語の発端であり、第一部では要所要所に登場。旧アニメの際に既に一度,、ペーパーナイフとして立体化している。再アニメ化で改めてグッズ化されてもおかしくない。しかし今回の「魔剣」は、原作イラストとも新作アニメのPVに出てくるものとも形状がまるで異なっていた。それにバルトアンデルスならそう書くだろう。


他にも魔剣と呼ばれる類の武器はいくつか思いつく。ガリアンソード全開の星の紋章の剣《ムールドアウル》、蟲の紋章の剣《コルクト》、世界樹の紋章の剣《ヒュプノカイエン》、それから《オーロラサークル》。だがこれらの原作イラストとも形状が違う上、いずれもオーフェンのものとは言い難い。基本的に魔術とステゴロで戦う人だから、剣ってあんまり使わないんですよね。


オーフェンが使う魔剣、ではなくオーフェンが作成した魔剣ということならどうだろう。元々日曜大工を趣味として怪しげな武器を作っていた主人公は、二十年後の第四部では魔王の力を獲得。それによって手当り次第魔術武器を試作してはうまく機能してくれず、嫁や娘にガラクタ扱いされていた。この辺りは、まさに「オーフェンの魔剣」とは言える。ただ商品化するにはちょっとチョイスが渋すぎるか。


コメディ短編の「無謀編」では、刃の照りを見ただけで背中にミミズ腫れを起こす魔剣リプリール》とか、なんかご飯がまずくなる魔剣「オルトアリエス」とか、カラスの繁殖を助ける魔剣「ハートプーウ」とか、夏はちょっと疲れ気味になる魔剣「マグリスジューヴ」なんてイロモノも出てきた。イロモノなのにというかイロモノだけに読者間での人気は高く、仮にこの中から商品化するとしたらどれにするかで相当揉めそう。


twitterで見かけてちょっと感心したのは、オーフェンの魔術「我掲げるは降魔の剣」を再現してるのではないか、という説。ただアレは不可視の力場を剣として作り出すという設定なので、刀身はガンプラビームサーベルみたいな半透明のものになるのじゃなかろうか。


ところで、作中では「魔剣」についてこんな定義をされたことがあった。

「魔剣ってのは、人の思いが造るのさ」
(…)
「そうだ。いわくつきの、て言うだろ? ようするに、その剣を使った者……その使い方……使われた時代……使われた背景。それらはすべて、時とともに消えゆくものだ。使い手はいつか死ぬ。技も継承されなければ失伝する。背景は、もみ消される。それらはすべてひっくるめて、伝説としてワンパックにされる」
「なんか話が抽象的なんだけど……」
「いいから聞けって。んで、後世に残るものはなにか? 伝説というそのラベルと、ラベルを貼られた――その剣だけだ。人はこれを“魔剣”と呼ぶのさ。魔力のあるなしは、関係ない」
「ようするに……」
(…)
「噂に尾ひれがついてるってだけで、ただの剣と同じってこと!?」
「同じってことはねえさ。伝説に残るだけあって、たいした上物なのは間違いない」
(…)
「いろいろな剣が魔剣と呼ばれ、伝承されてる。有名なオーロラサークルや、九十四日目、ザ・カーニバル……これらはひょっとしたら、伝説通りの能力を持っているのかもしれないさ。刃こぼれが勝手に直ったり、斬ると同時に傷口に毒を送り込んだり。名工が創意工夫を重ねて、そういった剣を開発したのかもしれねえ。だが実際は――自分の手で使ってみなけりゃ、伝説の真偽は確かめようがねえってわけだ」、
(…)
「……みんなしてデマに踊らされてるわけ?」
「ロマンだと言ってほしいね。ちなみにそのスレイクサースト、名工はある男のためだけにその剣を鍛え上げ、手渡す時にこう言ったそうだ――『さあ、渇きを癒やすが良い』ってな。その瞬間、そいつの銘が決まった」
「怪しげな話……」
(…)
「そんなもんでいいんだよ。伝説なんざ気にする必要はねえ。剣はしょせん道具に過ぎないんだからな。人の思いが魔剣を作るっていうのは、そういうことだ。折れそうなくらい振り回してやりゃあいいのさ」


つまりフレーバーテキストが大事なんです、という話だ(ちがうかもしれない)。爬虫類の姿をしてないドラゴンを始め、およそファンタジーというものにまつわる既成概念から少し外れたものをお出ししてきたシリーズらしい理屈ではある。会話の中でお題となっている《スレイクサースト》は、「パズドラ」と「オーフェン*2がコラボした際にも「魔剣」として実装された。この論理を援用すれば、土産物屋に置いてある木刀ばりにとりあえず「ファンタジー小説だから」で作ってみた(ちょお邪推)やっつけグッズの類も《魔剣》とすることが可能だ。公式サイドが今後こういう説明をしてきたら「それもそうかもしれない」と納得する用意はしておこうと思う。


*1:というかアニメの放送が遅れたために本来同時進行だったはずの周辺展開が核のアニメに先行してるともっぱらの噂。私の中で

*2:というかファンタジア文庫