周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

2016-01-01から1年間の記事一覧

野球が全てのアラビア風ファンタジーハレム 石川博品『後宮楽園球場』

2013年、新潮社の日本ファンタジーノベル大賞が惜しまれつつも休止を発表した。 www.shinchosha.co.jp 本作を読んでその第1回大賞受賞作である酒見賢一『後宮小説』を連想したのは、恐らくはそんなタイミングと、わたし自身の知見不足もあってのことだろう。…

「アイカツ!」いちあか編完結 全178話中160話過ぎてリアルタイムの放映に追いついた人の雑感

わたしが「アイカツ!」を観始めたのは2015年の夏。3期の終盤も迫った頃なので、随分と遅い。最初は好きそうな話だけ当てずっぽうで観てたのだけど、1年目終えた後結局巻き戻って全話観る羽目に。大体1日1話消化して、ようやく最新話に追いついたのは年が…

「グリムガル」作者・十文字青を生んだ、ダークファンタジー大好きスニーカー文庫

「灰と幻想のグリムガル」の原作者・十文字青は、自分の作風をライトノベル業界の中で主流ではないと常々公言している。それどころか支流ですらないそうだ。これはなにも「最近のラノベ」がどうこうという話ではなく、デビュー当時からほぼ一貫してそういう…

当時17歳の著者による和風ファンタジーの怪作が復刊 秋田禎信『ひとつ火の粉の雪の中』

第3回ファンタジア長編小説大賞準入選にして、応募当時17歳だった著者のデビュー作が、新潮文庫nexから復刊された。1992年刊行の旧版は、現在電子書籍として配信されている。 ひとつ火の粉の雪の中<ひとつ火の粉の雪の中> (富士見ファンタジア文庫) 作者: 秋…

真面目系クズの心をえぐる甘々学生夫婦生活 石川博品『アクマノツマ』

この「アクマノツマ」は、恐らくは太宰の「ヴィヨンの妻」のオマージュでもあろう*1、駄目人間主人公と天使のような悪魔兼女子高生という夫婦の、8割方甘々な日常を描いた小説だ。商業作家である石川博品が同人作品として発表したものだが、現在はkindleで…

ほんの少しだけ優しいマーガレット・ミラー 『雪の墓標』『悪意の糸』

ロス・マクドナルドの妻としても有名なサスペンス小説家のマーガレット・ミラー(1915-1994)は、わたしが愛読している数少ない、というかほぼ唯一の海外作家だ。元々は「魔術士オーフェン」の秋田禎信が影響を受けたということで読みだしたのだけれど、文体…

「ブギーポップ」シリーズの今後 織機綺リターンズ VSスプーキー・E Part4

「ブギーポップ」シリーズで有名な上遠野浩平の小説は、「ジョジョ」などのノベライズを除いて、全作品の世界が――その関わり方は大小様々であるが――繋がっているのが特徴だ。大半の作品はストーリーとしては単巻で完結しているけれど、作中における役割を一…

児童文学風ラノベのひとつの完成形 野村美月「ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件」

同著者の「吸血鬼」シリーズは打ち切りとなってしまったようだが、こちらは全8巻で円満に完結した。最終巻は丸々一冊後日談。あとがきにあった「このシリーズはむしろ番外編こそが本編」という頼もしいお言葉通り、主要登場人物は勿論、なつかしのあのキャラ…

ヤマト世代の四十代の十年間 那須正幹「ズッコケ中年三人組」シリーズ完結

「ズッコケ中年三人組」は、那須正幹による人気児童文学シリーズ「ズッコケ三人組」の続編だ。約25年、全50巻に渡って書き継がれてきた旧シリーズが完結した翌2005年に刊行開始。年1冊ペースで執筆され、2015年、11冊目の『ズッコケ熟年三人組』で改めて完結…

「スレイヤーズ」がラノベにもたらした何か 秋田禎信、橘公司他『スレイヤーズ25周年あんそろじー』

ライトノベルの生ける伝説である神坂一「スレイヤーズ」は、2000年に本編が完結した後も外伝のほうはしばらく続いていたが、それも2011年に発売された『スレイヤーズすまっしゅ。5 恋せよオトメ』で一旦終了してしまい、以降原作に目立った動きはない。本書…

水木しげる風の有名文学要約本 ドリヤス工場『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいのマンガで読む。』

忙しい現代人のため、恥ずかしくて今さら人には聞けないあなたに、といった謳い文句ですっかり出版ジャンルとして定着した感のある有名作品要約本。web漫画サイト「トーチweb」で連載中の本作もそれに乗っかったものだが、ちょっと変わっているのは水木しげ…

電子化に当たり10年前のイラストを描き直し 秋田禎信・つたえゆず『シャンク!! ザ・ロードストーリー』

ライトノベルの多くは、雑誌連載を経ておらず、単行本に直接書き下ろす形をとっている(最近はなろう連載経由も多いけど……)。これはどういうことかというと、連載漫画やTVアニメのような単行本化/ビデオグラム化に当たり加筆修正する機会が、一回減るとい…

みんなで作るインターネット百科事典的なサイト群の話

wikipediaの自分の趣味に関連した項を編集するのはわりと好きです。感情を交えず事実だけを淡々と記入していく喜びってのはあると思いますし、お気に入りの作家や作品の項がなかったり何年も手つかずになってたりすると、ぐぐって一番上に出てくるのにこれじ…

釣り竿とテグスとお菓子で彼女を釣ろう 吉村夜『キミにもできる! 女の子一本釣りマニュアル』

ごく普通の公立高校に進学したフツメンこと富津浦信司は、なっちゃんこと桜木なつきに恋をした。でも今まで女の子とつきあった試しはない……。そこでフツメンは親友のイケメンこと池田祐樹に相談した。いわく、彼女を作りたいなら釣りに限るとのこと。そうと…

女子校に対する幻想とか現実とかどうでもよくなる一冊 石川博品『四人制姉妹百合物帳』

有名なお嬢様学校――閖村学園高校には“サロン”と呼ばれる友愛組織が存在する。そこに集う生徒たちは姉妹のように睦み合う。 御厨杜理子、佐用島紗智、時岡有希奈ら上級生をメンバーとし、「森」の図書館の一室でひっそりと活動している高踏的サロン「百合種(…

麻生俊平の近況(2016) 『ホワイト・ファング』『捜査班』、そして『和泉貴理子』

麻生俊平という作家を知っているだろうか。ライトノベル業界では珍しく社会派と評判の小説家だ。代表作の「ザンヤルマの剣士」(1993-1997)はオウム事件の直前に新興宗教のマインドコントロールを取り上げたり、終盤がエヴァの方の人類補完計画を髣髴とさせ…

ロボが本気出す時翼を広げるという浪漫 秋田禎信『メックタイタンガジェット 虐殺機イクシアント』

宮龍院シアは、かつて革命を起こして政権を手に入れた解放労働党の英雄である祖父を持つ超的な名家・宮龍院家の一人娘。宮龍院家はおよそ50年にわたって国を牛耳ってきたが、カリスマである祖父が病に倒れ、お家は危機的状況に陥っていた。また長らく戦争を…

(気の合う趣味友達+行動力)×オタクライフ=「腐女子のつづ井さん」

腐女子のつづ井さん (MF comicessay)posted with ヨメレバつづ井 KADOKAWA 2016-02-05 AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo 一介の隠れ(本人としてはそのつもり)腐女子である大学生「つづ井」さんのオタクライフを綴ったコミックエッセイ。元々はTwitterで無…

15年越しの決着がついた、とあるラノベの公式カップリング問題 「魔術士オーフェン」の場合

​やおい方面にも人気があるアニメ「おそ松さん」のノベライズが集英社から刊行されるらしい。 小説おそ松さん 前松 缶バッジ付き限定版 (JUMP j BOOKS)posted with ヨメレバ赤塚 不二夫,三津留 ゆう,石原 宙 集英社 2016-07-29 AmazonKindle楽天ブックス 担…

日常系R18小説「今日は昨日、明日は今日」(ノクターンノベルズ)

知人が結婚した。と言っても、現実に存在する知人ではない。R18小説サイト・ノクターンノベ ルズ(現ミッドナイトノベルズ)で連載されている、「今日は明日、明日は今日」の主人公のことだ。 https://novel18.syosetu.com/n6226bn/ 作品紹介では、 金で買い…

クレヨンしんちゃんは休みが多い? ドラえもん、サザエさんとの比較

TVアニメ「クレヨンしんちゃん」といえば放映開始から20年経過した今も現役の長寿作品として有名ですが、しかし一方で近年は放送休止の週が多く、ファンをやきもきさせています。2015年最後の放送は12月11日 。2016年最初の放送予定は1月15日。このように一…

「ジュエルペット」シリーズ通算351+2話から選りすぐり……たかったep10選

昨年12月26日に放映された7期第39話「また会う日まで」で、TVアニメ「ジュエルペット」シリーズは6年と9ヶ月の歴史に幕を閉じました。全体の変遷と各シリーズの概要については、 matome.naver.jp でまとめましたが、では実際個別回はどんなものであったのか…