周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

Vtuberがリアルアーティストと対バンした「BREAK THE BORDER 2018」

新年二日目、私は赤坂BLITZにいた。たくさんのアイドルグループによる対バンイベント「アイドル甲子園」に参加していたのだ。次々にアイドルが出てきては歌い、踊り、オタクは沸く現場に圧倒されっぱなし。正月早々実家からUターンしてアイドルを観に来たのは、友人に誘われたから、というのが直接的な理由。でもそれともう一つ、年末のライブ納めに思うところがあった。

年の暮れ、新宿ReNYで

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昨年12月29日の「BREAK THE BORDER 2018」には、バーチャルyoutuberの響木アオちゃん目当てで参加した。こちらは2019年にブレイクが予想されるアーティストを集めた対バンライブ。アオちゃん以外の出演者は


の五名+オープニングアクトに登場する三名。おおむねアニソンタイアップ系の人が呼ばれた感じなのかな。


会場の新宿ReNYに着いたのは結構ギリギリ。入場のとき、「お目当ては誰ですか?」と尋ねられ、推しの浮沈が自分の双肩にかかってることを実感する*1。ホールに入るとほどなくオープニングアクトが開始。「17live」という配信アプリのコンテストで選ばれた三人が登壇してアニソンをカバーした後、ライブが始まった。

*1:対バンではお決まりの光景らしい。別にアンケートを取ってるのではなく、ライブハウスのレンタル料など会計上の問題だとか。最初はグッズでももらえるのかと思った……

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「孤独のグルメ」祝25周年 原作漫画とドラマ、二人の井之頭五郎

主人公は中年男性。仕事で訪れた土地の見知らぬ店で、メシを食う。ただそれだけの漫画「孤独のグルメ」は、1994年にスタートした。最初の連載と単行本の際はそれほど反響がなかったが、文庫化してからネットで話題になってブレイク。2012年から始まった松重豊主演のドラマは7期目を数える。原作も人気が出てから復活、不定期に「SPA!」に掲載されていた。


……が、しかし。原作:久住昌之、作画:谷口ジローでずっとやってきた漫画は、2017年に谷口が亡くなったことにより、二度と新作が読めなくなってしまった。


原作の初出から25年が経過している。「孤独」の楽しみを描いた作品としてたくさんの「お一人様」の共感を集めたこの漫画は、既にそれほど異端でもなくなっている。現実社会では「お一人様」の楽しみは今や当たり前のものとして受け入れられているし、お一人様も友人知人との付き合いも適切な距離感をもって両方楽しんじゃう、ゆるキャン△なんて作品も登場した。


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「お一人様」が当たり前のものになって*1。原作漫画はもう描かれないことが確定して。ドラマはまだこの先も続くのか、続かないのか。聞くところによると、松重さんの胃腸がいい加減ヤバいとも聞くが……。私は多くの人同様、文庫化でブレイクした頃からの読者だ。長い付き合いのこの漫画を、ドラマとの比較もかねて一度振り返ってみたい。

*1:むしろ最近は一周して「やっぱりお一人様よりいい相手を見つけたいよね」というところまで来てるように思う

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漫画版「オーフェン無謀編」 矢上裕が描き出すトトカンタ。それと大暮維人の「化物語」

いよいよ「オーフェン」新作アニメが現実のものとして迫ってきた。20年執着してきた原作の再アニメ化。しかも過去には一度(一度?)失望を味わった作品だ。怖くないわけがない。でも、今回のアニメ化を機に矢上裕の描く「オーフェン」が読めるだけでも僥倖かな。そう考えるとちょっとだけ気分が楽になる。矢上オーフェン、今までのメディアミックスの中でも抜群に出来がよい。

トトカンタの現出


魔術士オーフェン無謀編」は、小説本編である「魔術士オーフェンはぐれ旅」の外伝。元はエリート魔術士だったのに貧窮に負けて金貸しになったオーフェンの、無軌道で自堕落で騒がしい日々が綴られる。連載時のキャッチコピーは「言葉のナイフが肺腑を抉る! 悪口雑言ファンタジー。言うだけあって、オーフェンたちの罵倒台詞の応酬は実に秀逸だった。その原作を、矢上は見事に自分のものにしている……今まさにしようとしている。


第1話では、オーフェンがヒロイン・コギーと初対面の握手を交わす。指先でちょんと触れるだけの握手。これは原作の地の文にある描写なのだけど、今までファンに特に言及されていたものではなく、そこを拾って大コマで描くとは思わなかった。しかし相手から見て体の向きを横にしてかっこよさげにしながらも警戒心丸出しに「ちょん」と触れる主人公氏のなんと可愛いことよ。このページが目に入った瞬間、私は勝利を確信し、思わずガッツポーズを取ってしまった。


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家名に「なまえ」ってルビを振ってるってことは「オーフェン」は二つ名的なアレなのかしらこの世界では


この漫画は漫才の面白さを第一としてはいないように読める。矢上はバストアップの構図をあまり使わない。一歩引いたカメラでオーフェンやコギーの身振り手振りの躍動感、巻き起こされる騒動のやかましさを強調する。限られたページ数の中で、原作の小ネタ――問答無用調停装置「エドゲインくん」に書かれた「平和への祈りを込めて」というフレーズなど――は言葉で説明せず、できるだけ絵の中にさりげなく*1放り込もうとしている。ここぞという場面ではさらに一歩引き、舞台であるトトカンタ市とそこで暮らす住民たちを描き出す。


オーフェンが借金取りとして働こうとする数少ないEP「俺の仕事を言ってみろ!」では、原作からオチが改変されている。詳しくは述べないが、しかしそこまで違和感がないのは、あの街の住人ならいかにもやりそうだからだろう。トトカンタは奇人変人の巣窟だ。そこに住む人々はモブであってもキャラが濃ゆい*2。この漫画を読んでいると「ああ、あの人外魔境が今まさに漫画として再現されつつある……」とそんな感慨を覚える。菊地秀行魔界都市<新宿>や内藤泰弘の生んだヘルサレムズ・ロット同様、トトカンタという街もまた、我々が一度は訪れてみたい(でも死にそうだから住みたくはない)と願ってやまない虚構の都市であった。「血界戦線」のように見るからに魑魅魍魎百鬼夜翔な連中は存在しない。しかし矢上トトカンタの広大さはその隙間におかしな奴らがうようよいることを予感させる。


矢上は仕事依頼を受けてから「オーフェン」を読んだようなことをゆってたと思うが、にしては原作理解がものすごい。あと純粋に漫画力が高い。さすが秋田同様、キャリア20年以上のベテラン。思えば代表作「エルフを狩るモノたち」も、「異世界から日本に帰るため、呪文の紋様を体に書かれたエルフを脱がしまくる」というアレな設定とは裏腹に、キレイなオチのつけ方にしばしば感心させられたなあ。


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*1:ヒュキオエラ王子の「私が崇拝している魔王様」という台詞は後の原作でその魔王様が登場するからこその小ネタなんだろうけど、これはちょっとわざとらしかったかな?

*2:あと原作の別の話数に似たようなオチはある。本来のオチは小オチ的に中盤で消化し、単行本の特典ペーパーでもフォローされている

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「スレイヤーズ」のおさらい8 第二部に突入して何が変わったのか

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1995年、『スレイヤーズ9 ベゼルドの妖剣』が発売される。アニメから入った読者が初めて手にした原作最新刊である。本編第二部はこの巻からスタートした。メディアミックスが本格化し、作者は長者番付にランクインと、世間的な「スレイヤーズ」旋風はむしろこの頃から加速していった。が、さて第二部自体の評価はというと、あまり高くない。「第二部に入ってから失速した」というのが熱心なファン以外の世評だ。


何故第二部をつまらなく感じるのか。その理由として挙げられるもののいくつかにはちょっと反論したい。一方で私なりの不満もある。さて、第一部と二部では何が違うのか。

  • ルークとミリーナ、ゼルガディスとアメリ
  • バトルのやりこみ要素化、ルーティン化
  • 第二部は暗かったのか
  • 幻の第三部とリナの将来
  • 第二部一言感想
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ミステリー風の雰囲気アニメ「聖ルミナス女学院」 深夜アニメ黎明期の徒花 

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前回前々回と、「lain」と「ブギーポップ」について書いた。この二作は共に「トライアングルスタッフ」という会社が制作に関わっていたのだけど、もう一作、同社の制作で忘れられないのが「聖ルミナス女学院」だ。

深夜アニメのはじまりの時代


このアニメの情報に初めて触れたのは「lain」最終回後の新番予告だった。時に、1998年。「エヴァ」ブームを中心として、アニメ人口が拡大。96年の「エルフを狩る者たち」の成功から、翌年にはテレビ東京系だけでも一気に10本近くの深夜アニメが放映される。それまではOVAでしか観れなかったようなマニア向けの作品が多数テレビで放映されるようになるまで時間はかからず、アニメファンは嬉しい悲鳴を上げた。


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これを資金面から支えたのが製作委員会方式、実製作の面から支えたのが作業のデジタル化だったが、一方で「ロスト・ユニバース」のように質に問題がある作品も散見された……と、ここまではwikipedia頼りの知ったかぶり。


この時期の代表的な成功例が、深夜ならではの前衛的でスタイリッシュな映像を見せてくれたのが「lain」だった。一方で、その後番の本作は……まあ、お世辞にも成功とは言いがたいだろう。

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