周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

「スレイヤーズ」おさらい 3 アニメとの比較~林原めぐみ、竜破斬(ドラグ・スレイブ)、卵は産まない、正義の仲良し四人組

第1回で、「スレイヤーズ」の特徴として取り上げられようなものが実は当時それほど新しいものでもなかったんじゃないか、という話をした。


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そういう場で挙げられる「新しさ」がおおむね陽性の、笑える「スレイヤーズ」にしか繋がらないことに個人的な不満を持っていたからだ。短編だけならまだしも、長編の基調はシリアスである。なのに、話者は短編を想定して話しているようには見えない。そういう不満だ。また、新しい=ファンが感じる面白さとは限らないんじゃないか、とも思っていた。


スレイヤーズ」(長編)は、何が新しいかとかは置いといて、剣と魔法の冒険活劇として面白いものだった。リナ=インバースは物語開始当初から人類としてはトップクラスに強い力を持つ魔道士だけど、それでも中級魔族にすら遠く及ばない。作中では人間やドラゴンやあらゆる生きとし生けるものと魔族との間には、絶望的な力の差がある。リナは野盗共相手には無双する一方で、魔族に対しては知恵と勇気と咄嗟の機転と――そんなようなもので立ち向かう。案外、王道の人間賛歌。それが私の「スレイヤーズ」(長編)観だ。

  • アニメで読者層が変わった?
  • アニメ全シリーズの概要
  • リナ=インバースは神坂一に似ている。林原めぐみはリナ=インバースに似ている。つまり神坂一林原めぐみに似ている(?
  • 竜破斬(ドラグスレイブ)はリナの「必殺」技ではない
  • お色気は薄れラブコメが残った
  • 正義の仲良し四人組
  • まとめると

アニメで読者層が変わった?


しかし、私以外の読者の、「スレイヤーズ」の面白さはRPGネタこそあった、というインプレッションまでは否定できない。神坂一公認ファンクラブ【めが・ぶらんど】(1991年開設!)会長の民木唯さんは、「アニメ化によりメジャー化を果たして以降、そういったRPG的な部分のおもしろさよりも、リナ達の魅力的なキャラクター性などアニメ向きな部分にスポットが当てられるようになっていく」「アニメ化前とアニメ化後ではFCの男女比が9:1くらいだったのが、5:5くらいまで女性が増えた」このコラムや同人誌での神坂との対談などで語っている。私も読者サイドはその辺りが転機かな、と思う。原作が刊行開始した翌年には同人誌が出てたというから当初から人気はあったのだろうけど、シリーズの初版部数はTVアニメ第二期放映中に発売された長編11巻『クリムゾンの妄執』で最高を記録した。これは以降14年間『涼宮ハルヒの驚愕』に破られるまでラノベトップだったそうだ*1。当然、この頃入ってきた新規ファンは多かっただろう。


オーフェン」のファンとしてお隣さんであるスレイヤーズクラスタを横目に見てると、2000年に本編完結してからも今までずーっとファン活動を続けてきたような方はこの世代が多いような気がするが、それも道理だ。


私も含めアニメから入った人間が原作に入っていった時、既に本編は第一部が完結済みで、ストーリーやキャラクターで推す「スレイヤーズ」の形はできあがっていて。それを読者は真綿のように吸収していった。これが『スレイヤーズ!』『白魔術都市の王子』から、「正調ユーモア・ファンタジー」としての作品をリアルタイムで追っていたような人とイメージの齟齬を生んだんじゃないかとも思っている。

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『スレイヤーズ!』ファンタジア大賞準入選と、ファンタジーとしての評価 「スレイヤーズ」をおさらいする 2

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長編第1巻『スレイヤーズ!』は、富士見書房が主催するファンタジア長編小説大賞の、記念すべき第一回準入選作*1である。この時の審査員は田中芳樹*2岬兄悟火浦功の三名。神坂一と、彼とともに長くレーベルを引っ張っていくことになる冴木忍。第一回からいきなり大当たりの二人を引き当てたことで、自社で発掘した新人にほとんど専属に近い形で長く書いてもらう、というのがファンタジア文庫の方程式の一つとなった。


近くて遠いところではコバルト文庫なども新人賞を主催していたとはいえ、ファンタジア大賞の成功でこの流れは加速し、スニーカー、電撃他にも波及。毎年何十人もの新人がデビューする業界の盛況さを生む。

*1:ファンタジア長編小説大賞の席次は大賞の次が準入選

*2:後に田中は「薬師寺涼子の怪奇事件簿」シリーズで「ドラよけお涼」という「スレイヤーズ」の「ドラまたリナ」をパロった通称のキャラクターを登場させます

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「スレイヤーズ」をおさらいする 1990年当時「スレイヤーズ」は新しかったのか? それ以前の状況は?

スレイヤーズ」は、元号が「昭和」から「平成」に変わった年に姿を現しました。著者はこれがデビュー作の神坂一。80-90年代にかけて本邦のアニメゲーム漫画界隈を席巻した「剣と魔法のファンタジー」の代表的作品の一つであり、現在の「ライトノベル」に直接繋がるマイルストーンと評価されています。シリアスな長編は1990-2000年にかけて全15巻(第一部8巻第二部7巻)が、コメディータッチの短編は1989-2011年にかけて、単行本全35冊分が月刊ドラゴンマガジンで連載されました。シリーズ累計発行部数は2000万部超。刊行開始時期は、ちょうどパソコン通信において「ライトノベル」という言葉が生まれた頃でもありました。

西暦 出来事
1989 長編第一作「スレイヤーズ!」が第1回ファンタジア長編小説大賞準入選、外伝短編第一作「白魔術都市の王子」が月刊ドラゴンマガジンに掲載
1990 スレイヤーズ!」刊行
1991 短編集第1巻「白魔術都市の王子」発売。またドラマガでは八回の読み切りを経て、「スレイヤーズすぺしゃる」として連載化。初表紙&巻頭カラー特集
1992 原作イラストレーター・あらいずみるいによる漫画版「スレイヤーズ」が連載。単行本全一巻
1994 PC-98版「スレイヤーズ」、SFC版「スレイヤーズ」発売。それまで一話完結方式だった「すぺしゃる」が前後編形式に
1995 長編ベースのテレビアニメ第一作、短編ベースの劇場アニメ第一作放映。前者は三年連続*1、後者は四年連続。長編第二部開始
1996 長編11巻「クリムゾンの妄執」で初版最高部数を記録
2000 長編第二部完結。ここまでで全15巻
2001 秋田禎信との合作「スレイヤーズVSオーフェン」発表
2001 長編ベースの劇場版第五作「スレイヤーズぷれみあむ」上映
2008 TVアニメ第四期「スレイヤーズREVOLUTION」放映。分割2クールで翌年「スレイヤーズREVOLUTION-R」放映。長編全15巻新装版発売。「すぺしゃる」単行本は30巻で終了。ナンバリングを一新し「すまっしゅ。」と名を変え再スタート。途中から再び1話完結方式へ
2011 スレイヤーズすまっしゅ。5 恋せよオトメ」で、外伝短編が一旦終了したことが発表される
2013 SANKYOがTVアニメ版を「CRフィーバースレイヤーズREVOLUTION SP」としてパチンコに
2015 スレイヤーズ25周年あんそろじー」発売。神坂本人に加え秋田禎信橘公司らが参加した
2016 ソーシャルゲームグランブルーファンタジー」とコラボ
2018 18年ぶりの長編最新刊「スレイヤーズ16 アテッサの邂逅」発売


そんな超有名な小説ですが、他人様の「スレイヤーズ」の話を聞いているとしばしば噛み合ってないなあと思うことがあります。これは、それぞれの話者がいつ、どのような形で、どれくらいジャンルに関する事前知識を持って「スレイヤーズ」に触れたのか、どこまで作品を追いかけたのかも関係しているのでしょう。別に「スレイヤーズ」に限った話ではなく、長く続いたビッグタイトルならそんなもんだと思います。

*1:四年目に同じ枠で放映されたのは同じ神坂原作でスタッフも共通の「ロスト・ユニバース

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続・ゆりキャン△ 各務原桜と志摩リンの関係

アニメ「ゆるキャン」一期は、なでしこのソロキャンで幕を下ろした。原作でもその内やるだろうと原作者のあfろ先生が構想していたものを先取りした形だ。志摩リンのソロキャンに偶然居合わせたことでその楽しさを知ったなでしこが、今度は一人でキャンプに挑戦し、これまた偶然リンちゃんと鉢合わせる。第一話と連環する見事な構成となっている。


なでしこの二つのソロキャン


……そのソロキャンだけど、作中では「初めての」とは明言されていない。テントを設営する手つきが危なっかしいのでそんなに回数を重ねていないことは分かるのだが、野山の色から季節は既に春のようなので、その前のクリキャンからは大きく時間が飛んでいると推測される。その間に一、二回ソロキャンしたかも。あれが初ソロキャンなら、電話で「今日はソロキャンしてるんだー」ってゆわれたリンちゃんがもうちょっと驚きそうな気もする。先日発売された原作コミック最新刊のように。……


原作第7巻では、まさにそのなでしこの初ソロキャンが描かれている。季節はまだ冬。リンちゃんに相談してキャンプ地を決定。バイトが休みの週末に、富士宮に一人旅立つ。



志摩リンは自分も週末休みなのでなでしことキャンプしたかったようだが切り出せず、別の場所へ原付の旅へ。でもなでしこのことが気になって終始そわそわ。またなでしこの姉である桜さんも居ても立ってもいられず四輪一人旅。なでしこ見守り隊の二人は現地で偶然鉢合わせする。つまり、桜×リンである。主要登場人物の中で一番ちっこいのとおっきいのの、身長差カップル(?)だ。

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「TVアニメゆるキャン△ 公式ガイドブック 野外活動記録」を読んだ備忘録

声優、スタッフ、そしてほとんど表に出てこない原作のあfろ先生も含めて、対談やインタビューなど貴重な証言がたくさん掲載されてたので、覚書。

佐々木睦美(キャラクターデザイン):動きでは育ちの良さを意識しました。ドリンクを飲むときも手を添えるし、座るときはスカートでもパンツスタイルでも内股で座る女の子らしさがあります。


志摩リンについて。この手の作品のキャラって基本的に育ちは良いよね。子供だけでキャンプしたいという願いに理解がある寛容さもそれっぽい*1。「女の子らしさ」という点では、なでしこに「焚き火で乾燥してるから」と化粧水を貸してあげるシーンが好きです。

あfろ(原作):初めはリンの友達キャラとして少し出てくるだけのキャラだったんですが、担当さんの推しキャラだったため途中からメインキャラにしようという事になりました。他のメインキャラの名字が地名なのに恵那だけ名字が地名じゃないのはそういう理由です。(…)

京極義昭(監督):(…)「ゆるキャン△」の中では斉藤さんが一番手強いですよ(笑) なんだか手のひらで転がされそうな気がする。僕と原作担当編集の黒田さんは、彼女のそういったところが気に入っています。(…)


関係者にファンが多そうな斉藤さん。あの独特の距離感は元々あまり登場する予定がなかったからなのか……。少し出てくるだけの友達キャラとしてはいきなりリンちゃんの髪いじってたり存在感めっちゃ強いけど、どの辺りでアニメメインビジュアルの内一人になるほどにしようと決めたんだろう。

*1:さすがに誇張はされているけれど

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