周回遅れの諸々

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「ズッコケ三人組」シリーズ電子版配信スタート! 思い出の七選

Amazon.co.jp: ズッコケ三人組 - 文学・評論 / Kindle本: Kindleストア


ついに、とうとう、待望の「ズッコケ」シリーズ電子書籍化がスタートした。全50巻(中年三人組シリーズを入れると60巻!)と巻数が多いし、刊行期間は1978-2004年と長く続いたシリーズだし、一度手放して、また買い直したいと思ったものの、二の足を踏んでた人は私以外にもいたのではないでしょうか。


sube4.hatenadiary.jp

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お調子者のハチベエ。のんびり屋のモーちゃん。本の虫のハカセ。小学六年生の男子三人は会社を起したり無人島でサバイバルしたり江戸時代にタイムスリップして暗殺される直前の坂本龍馬と遭遇したり、八面六臂・大人顔負けの大活躍。でもその後大体つまずく。だからこそのズッコケ三人組。離婚問題や天皇などタブーなど存在しないかのように那須正幹先生は諸問題に切り込み、時に読者にトラウマを植え付けることもしばしばだった。特に印象深いものを挙げていく。

ズッコケ(秘)大作戦


シリーズで随一の鮮烈な印象を残して去っていった美少女・北里真知子通称マコが登場。転校生の彼女は、借金取りから逃げ回っている実情を覆い隠している、虚言壁の持ち主だった。美人で、家はお金持ちで、性格もよくて……という設定のためには、幼い子どもにお駄賃をやって川で溺れているフリをさせ、自身それを助ける、といったようなことも辞さない。三人組に訪れる淡くて切ない恋、というにはあまりにも。あまりにも……! 結局三人組が途中でそのことに気づいたのも知らず、彼女は最初から最後まで優等生を演じきった。ただただ「そういう子」もいる、と示してみせる那須先生は、虚言癖を一概に「嘘はいけないこと」として作中で更生させるよりもずっと厳しい。


ズッコケ中年三人組 41歳の(秘)大作戦 」では彼女のその後が語られている。マコは相変わらずマコであった。

あやうしズッコケ探検隊


ガス欠のボートが漂着した無人*1でサバイバル。自分たちで家を作ったり、食料を採取したり、そういった男の子的な憧れが詰まった巻であると同時に、至高のユリ小説でもある。団塊ジュニア世代はみんなこの本を読んでユリに憧れたんだ。なあ、あんたもそうだろう?


大人になってから再読した時は、無人である筈の島に住み着いている彦田老人のことが気になった。身よりもなく、人里離れたところに暮らしている謎の老人……というとこの手の話としてはお決まりのパターンだけど、彼の場合時々本土から役所の人間が生活物資を持って訪ねてきているんですよね。那須先生らしいリアリティの取り方。そして、劇中においてとうとうこの島での生活がままならなくなった老人は、本土の老人ホームへ入れられてしまう。老人はそのことを肯定も否定もしないけれど、役所の人間が来てからの態度の豹変から、三人組は何かを感じ取るのでした。


同じ年に発表された「ぼくらは海へ 」は本作とは対になっている、ということでシリアスな部分ばかり取り上げられるけど、あれはあれで船造りの工程が楽しそうではあった。

ズッコケ山賊修業中


山陰地方には、はるか昔大和朝廷に追われた者たちの末裔が今も隠れ住んでいる。彼らは山賊に身をやつしながら、「土ぐも様」なる存在を崇拝し、いつの日にか都に攻め上る日を待ち望んでいる。三人組と大学生の堀口さんは一族に新しい血を入れるため、彼らに拉致される。


なんだかんだいって典型的な往きて還る物語だと思ってたので、堀口青年が土ぐも族のところに残ると言い出した時には驚いた。本人的には悩んで悩んで悩み抜いた末での決断ではあっても、初読時の私は「そんな非常時の一時的な感情が当てになるもんかな」と懐疑的だったけど、今は心のどこかで完全には否定し切れない面もある。何の目的もなくだらだら過ごしていたところに、やりがいのある仕事と生涯の伴侶をいっぺんに手に入れて、自分なら果たしてそれに抗することができるだろうか……?


この巻が多くの読者にトラウマを残した理由は、荒唐無稽な設定のはずなのに細部に妙にリアリティを感じさせるためだろう。「ズッコケ」シリーズはミドリ市内で展開される話と宇宙だ海外台だ江戸時代だと外にでてく話の二種類に大別されるけど、後者の中でも完成度はピカイチ。しかし「いつか今の政府を倒して日本の真の国王に返り咲く」という目標は彼らにとってどこまで真に迫ったものなんだろうか。いつか来る都に攻め上がる日がいつになるのか、一族の人たちは積極的に知りたがってるようには見えないし、当の土ぐもさまも特に今のやんごとなき人や政府を恨んでいるような描写はない。1000年前のことだから当然と言えば当然なんだけど、そう考えるとやっぱりこの徒労は何のためにあるのか、1000年の内に目的を忘れ手段ばかりを講じるようになっていはしないか。そういった虚しさばかりが募った。その挙げ句が「ズッコケ中年三人組: 45歳の山賊修行中」みたいな末路かと思うとつらい。那須先生、おうらみもうす、おうらみもうす……

うわさのズッコケ株式会社


港の釣り客に弁当やラーメンを売るところから始まって株式会社を設立、同級生に株主になってもらう。読者人気投票では常に一、二を争う巻。もちろん私も大好きです。あれよなー子どもの身で大人以上のことをやってのける、というのがこのシリーズの肝で、この巻は「株式会社経営」っていういかにも大人がやってそうなイメージのあることを分かり易くこなしてたからかなー。お金を稼ぐということを楽しく描きつつ、エコノミックアニマル的なものへの安全弁というか対立概念として自由奔放な画家を登場させ、尚且つ安易に前者を全否定もしないバランス感覚。なんでもこの巻を読んで起業家になった人もいるらしい


しかし、あのまま経営規模を拡大させていったらショバ代を要求する広島ヤクザが登場したりしたのかな……

ズッコケ結婚相談所


夫婦間の真実なんてものは片方だけから聞いたんじゃ実際のところは分からない。子供の記憶なんて曖昧だ。はたして本当の被害者は誰だったのか。それはまだモーちゃんが幼い頃に起こったお母さんの離婚問題を取り扱った、シビアなストーリー。


今読み返してみると事件のその後が気になる。家族三人で暮らす、ということについてモーちゃんと妙子姉さんはいいよ。でもお母さんは、子ども二人が結婚して家を出ていくようなことがあればどうするんだろ。再婚候補の相手だった人とは友達としてお付き合いしていくみたいなことを言ってたけど、相手もお母さんもそれだけでいいんだろうか。焼けぼっくいに火が付いたりしないんだろうか、とかそんなことを考えてしまった。「中年三人組」シリーズでモーちゃん一家が大阪から帰ってきて同居してるのはその辺も関係しているのだろうか。

ズッコケ文化祭事件


三人組のクラスは文化祭で劇を上演することに。その脚本を一度賞を取ったきりの売れない童話作家・新谷敬三に依頼する。しかしそれがつまらなかった子どもたちは極道ものとして勝手に好き放題改変してしまう。……ってあらすじだけ抽出すると相当ひどい話だなこれ。いやまあ実際新谷先生サイドからするとひどい話ではあるんだ。


説教じみてて古臭くて「自分の中の子供」に向けて書いている新谷さんは、「ズッコケ」のように子供を天使として描かない、現実的且つエンタメ性の高い作風と対比されて語られることが多く、そういう意味でメタ的な児童文学である。でもじゃあ那須先生のみたいに現実の子供と真正面から向き合って書けば受け入れられるかというと、そうとは限らない。他人はどこまでいっても他人で、子供なんてのはその最たるものである。作者の真摯さなど一顧だにしてくれない。だから、最後の最後には「自分が面白いと思うかどうか」が物を言うのだと思う。


読者にどんな読み方をされようと堪えられる忍耐力を持ちうるならば、あるいはそれは最強の作家なのかもしれない。「読まれない」ことも含めて。でもそうもいかんのよね。

ズッコケ三人組の未来報告


全50巻中、25作目の折り返し地点に書かれたもの。本作を最後に挿絵の前川かずお先生が病気のため、高橋信也先生にイラストが引き継がれている。本作でIFの形式で描かれる二十年後の三人組は、「中年三人組」で描かれたものと比べると、底抜けにバラ色の未来が広がっている*2。でもこの巻の舞台すらとうに通り過ぎた時代なんだよなあ……

終わりに

上に挙げた作品を見て分かる通り、私の好きな作品というのは前半に固まっている。子供の頃に追っていたのは28巻目の「参上!ズッコケ忍者軍団」辺りまでで、後半は大人になってから読んだ。子供の頃読んだものと大人になってから読んだもの。評価が違うのは当然なんだけど、今回の電子書籍化で格段に手に取りやすくなったので、後半も再評価を進めたいし、他の人も同様であってほしい。ただし電子版は、単行本に掲載されてたミドリ市の地図と座席表が収録されていないので、そこは留意されたし。今回電子版の底本となってる文庫版では、そもそもどっちも載ってないんでしたっけ?


 Amazon.co.jp: ズッコケ三人組 - 文学・評論 / Kindle本: Kindleストア

※6月30日時点で30巻目まで予約・購入可能

*1:無人島とは言ってない

*2:三十二歳を描いた「未来報告」が四十歳から始まる「中年三人組」のようにならないとは限らないけど

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