周回遅れの諸々

90年代にオタクとしての青春を過ごした人のブログです

三十代のオタク「「「るろ剣と和月のことは俺が一番よく分かってるんだ!」」」

はい、るろうに剣心世代です。私がジャンプを読み始めたのは、「ドラゴンボール」「幽遊白書」「スラムダンク」などが既に看板としての地位を確立してた頃。1994年開始の「るろ剣」は、長期連載としては初めて、連載開始から終了までを見届けた作品ではなかったかと思う。

今から約140年前、黒船来航から始まった「幕末」の動乱期、渦中であった京都に、「人斬り抜刀斎」と呼ばれる志士が居た。


修羅さながらに人を斬り、その血刀を以って新時代「明治」を切り拓いたその男は動乱の終結と共に人々の前から姿を消し去り、時の流れと共に「最強」という名の伝説と化していった。


そして浪漫譚の始まりは、明治十一年東京下町から――

明治という時代/飛天御剣流のかっこよさ/不殺という潮流


ファンタジー全盛の当時、明治日本を舞台にした時代物、というのがまず新鮮に映った。ジャンプでは「花の慶次」(隆慶一郎原作)なんかもあったけど、時代物といえば大人の男の読み物みたいなイメージがある中で、原哲夫の劇画調もその枠内にあるもので。一方「るろ剣」は、それらからは程遠い線の細い絵柄が親近感を持たせてくれた。


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キモノの柄のような装飾が美しい単行本表紙。15巻電書版の表紙は紙版だと薫殿が脱いでる+背景の柄+それと同じ柄の布を剣心が巻いてることで、薫殿の着物を血止めに使ってるように見せてる演出が、ただの包帯巻いてることになってる。なんでや。 http://amzn.to/2zRSOk8


主人公の剣心は、そんな絵柄が似合う優男*1。10年間日本各地を放浪してきたが、剣術小町・神谷薫に出会うことで、東京の下町にしばらく腰を落ち着けることになる。


彼の流派「飛天御剣流」の技の数々に、小学生~中学生当時の私は憧れた。一番好きなのは「九頭龍閃」。奥義「天翔龍閃」の伝授のために生まれた技、という生まれついての二番手でありながら、使い勝手の良さゆえに多用されるポジションがお気に入りなんすよ……*2。「双龍閃」から「天翔龍閃」という、「飛天御剣流の抜刀術は全て隙を生じぬ二段構え!」の天丼もキマってた。相手の聴覚を破壊する【神速の納刀術】「龍鳴閃」もラストバトルで地味な直接攻撃じゃない技を初めて登場させるのが心憎い。納刀した段階から、親指一本で刀を的に向かって弾く「飛龍閃」で髪留めが弾ける演出もたまらない。


目に映る人々を助けるため、不殺(ころさず)の誓いを胸に秘め、彼は逆刃刀*3を振るう。……しかし、心の奥底には制御できない人斬りとしての過去の自分を飼っている。過去と現在、理想と現実、罪と罰。「るろ剣」は幕末の人斬りの贖罪というテーマが、作品全体を貫いている。彼の生き方の代名詞「不殺」は、90年代から00年代にかけて、アニメ漫画ラノベゲームなどにおける一大潮流となった*4


歴史物としては、「るろ剣」は本格派じゃない。ある書評で「バーチャル明治」と揶揄されたけどむしろこの漫画にはピッタリかもね、と作者はコメントしてる。でも、幕末・明治という時代に生きた人たちについて、この漫画は多くの見方を教えてくれた。自由民権運動なんて歴史の教科書でしか知らず、日本の民主化に至る立派な行いくらいにしか認識してなかったのが、それを錦の御旗に店で大酒喰らって周囲の客の迷惑も考えず大声で議論して文句つけてきた店員は喧嘩して、なんて輩もいたかもしれない、と思えた。また、「紀尾井坂の変」の大久保利通暗殺の裏には剣心の宿敵にしてこの漫画で一番スケールのでかい悪役・志々雄真実の暗躍があった、という展開にはぞくぞくした。史実の裏では実はこれこれこういうことがあったんだ、とフィクションに絡めていく手法に初めて触れたのも、「るろ剣」だったと思う。


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作中の時代に合わせたのか、3枚目のような浮世絵風? の扉絵は頻繁に描かれていた


「紀尾井坂の変」をラストに据える単行本7巻は、ドラマもバトルも盛り上がりが最高潮に達する。神谷道場に落ち着きつつあった矢先、新撰組三番隊組長斎藤一との再会。宿敵から、「人斬りが人を斬らずにどうして人を守れる」「不殺の信念がお前を弱くしたんだ」と責められる剣心。そして、幕末を再現するかのような死闘……。

原作とのズレとメディアミックスの出来の良さ


その後の京都編は、個々にお気に入りのシーンはあるものの、あまり評価は高くない。キャラクターを描く線が減って絵柄が簡略化されたのと、戦闘の表現があまりに漫画チックな方面に行き過ぎたという点で、好みから外れたと感じた。人誅編はシリアスな物語である割に今挙げた2点を引きずっているのが違和感があり、剣心個人の物語であったがために、「明治剣客浪漫譚」の【明治】要素が薄いのもマイナスだった。とはいっても嫌いってほどではないけど。


そういう観点からは、勝海舟が登場したりジュール・ヴェルヌの「月世界旅行」が物語のキーとなるなど作品世界の【明治】の枠を広げた小説版の1巻目*5。それに、幕末・人斬り時代の剣心を、漫画的な必殺技やギャグを極力廃し、写実的に描いた、名作と名高いOVA「追憶編」などのほうがよほど楽しめた。「追憶編」でヒロインの巴を影から操っていた幕府側の男が、婚約者にただそばにいて欲しかったという巴に対し、

世の平安なくして個々の幸せなど得られようはずもない。この徳川の世に害を成す者あらば、例えどれほど小さき芽であっても、あらゆる手を講じてこれを摘む。その用心深さこそが、徳川300年の太平の理由。我らがそれを支えてきたのだ。そしてそれは我らの業そのもの。我らも守っているのだよ、人々の幸せを。命がけでな


と説教をするオリジナルのシーンは、剣心の「目に映る個々の人々の幸せだけを守る」という生き方と対になってて、感心した。ただ、これに限らず台詞で語っちゃうシーンが多過ぎるのはやや気になったかな。OVA第2弾の「星霜編」は原作の人誅編と後日談を含む構成なんだけど、あれは受け入れられなかった。剣心が戦場でもらってきた梅毒を薫殿が移してもらうという展開が、剣心の中に占める巴さんの存在の大きさに追いつくためにやったように見えてだめだった。


物語の外の作者のことば


私が述べたような批判は、別に目新しいものではなく、当時からよく目にした。ファンレターで直接著者に届けた人もいたのだろう。単行本のフリートークや登場人物創作秘話で、度々謝罪・反論を行っている。


るろうに剣心」という作品を単行本で追ってく上で、重要なのはその点で。つまり、作者が自分のこと、登場人物のこと、影響を受けた作品のこと、メディアミックスのことなどを物語の外で語る機会が多かった。少女漫画では作者が「柱」で近況を語る文化は確立してたけど、少年漫画では結構珍しかったんではないか。欄外ツッコミは多かったけど、和月の場合文字数の多さで特に目についた。本編でも主にパロディという形で横溢している和月の「好き」は、そうした場でますます爆発している。


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萩原一至BASTARD!!」はパロディ満載のジャンプ作家という点では先駆だけど、私が読み始めたのは「るろ剣」のちょっと前だったし、世代的に離れすぎてるのとキャラを作ってる感があって、和月より共感は薄かった。ラノベ作家で「ああ、この人は自分と同じものを好きなんだな」と感じることが多かった榊一郎も、出会うのはもうちょい後のことだ。


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以下は「登場人物制作秘話」で挙げられた「るろ剣」のキャラクターのモチーフ、キャラデザにおけるオマージュ元だ。

登場人物 モチーフ
来迎寺千鶴 富田常雄姿三四郎』の千鶴
緋村剣心 人斬り河上彦斎。実在
神谷薫 自称「龍馬の恋人」千葉さなこ。実在。池波正太郎剣客商売』の佐々木三冬
比留間喜兵衛・伍兵衛 喜兵衛は小畑健『力人伝説』の某有名元理事長
相良総三 実在
相良左之助 新撰組原田左之助。実在/デザインは小畑健『魔神冒険譚ランプ・ランプ』のランプ
鵜堂刃衛 人斬り岡田以蔵。実在/デザインは『X-メン』のガンビット園田光慶・久保田千太郎『新撰組流血録 壬生狼』の芹沢鴨
ひょっとこ 某アメコミのミュータント
般若 エレファント・マン』『蜘蛛男』/性格は新撰組山崎蒸。実在
武田観柳 新撰組武田観柳斎。実在
高荷恵 小畑健『サイボーグじいちゃんG』のヤングばーちゃん
四乃森蒼紫 新撰組土方歳三。実在/コートは『X-MENガンビット
三条燕 デザインは『美少女戦士セーラームーン土萠ほたる
石動雷十太 某アメコミの某キャラ
赤松有人 X-MEN』のオメガレッド
斎藤一 実在
大久保利通 実在
巻町操 デザインは『サムライスピリッツナコルル、『龍虎の拳ユリ・サカザキ
志々雄真実 新撰組芹沢鴨。実在。『真サムライスピリッツ牙神幻十郎/デザインは『犬神家の一族』青沼静馬
尖角 『コーンヘッズ』のコーンヘッズ。『風の谷のナウシカ巨神兵
瀬田宗次郎 新撰組沖田総司。実在
悠久山安慈 新撰組島田魁。実在/デザインはアンジー水戸華之介
青空一家 伊織は『赤ちゃんと僕』榎木実
池波正太郎剣客商売』の小兵衛/デザインは小畑健『サイボーグじいちゃんG』の懐造時次郎
比古清十郎 デザインは小畑健『魔神冒険譚ランプランプ』飛剣魔神ハーメルン。マントには『スポーン』の影響も
佐渡島方治 X-MEN』フォージ
魚沼宇水 デザインは鳥山明ドラゴンボール』の桃白白。『新世紀エヴァンゲリオン』の使徒マトリエル
刈羽蝙也 江戸時代の剣豪・松林蝙也斎/デザインは『サイボーグ009』の002。『スポーン』のザ・フリーク
本条鎌足 デザインは『新世紀エヴァンゲリオン』の碇ユイ。『ヴァンパイア・ハンター』のレイレイ
不二 風の谷のナウシカ巨神兵/デザインは『エヴァ』のエヴァ初号機小畑健『魔神冒険譚ランプランプ』のドグラマグラ
才槌老人 『霜の巨人』の悪い小人/デザインは『プリンプリン帝国』のルチ将軍
駒形由美 水戸黄門』のお銀こと由美かおる/『ヴァンパイアハンター』のモリガン
雪代巴 新世紀エヴァンゲリオン綾波レイ
桂小五郎高杉晋作 実在
夷腕坊 X-MEN』のブロブとモジョー/『ヴァンパイアハンター』のビクトルとサスカッチ/『ハルク』
戌亥番神 サムライスピリッツ』の風間火月
乙和瓢湖 マントは『X-MEN』『A・O・A』のシニスター
八ツ目無名異 X-MEN』のウルヴァリン、『スパイダーマン』のカーネィジ、ヴェノム
外印 エドガー・ゲイン。実在
オイボレ 大石真『さあゆけ!ロボット』
鯨波兵庫 隻腕の剣士伊庭八郎。実在/デザインは『X-MEN』のアポカリプス
雪代縁 マントは『X-MEN』のガンビット


和月は、「エヴァ」の劇場版は「作った人が作品もキャラクターも全く愛していないことが伝わってきた」と語る一方で、20話くらいまではめちゃくちゃハマってたので、雪代巴のデザインは綾波モドキになってしまいました! と暴露する。私は、これを読んで、ああ、作家も同じ時代に生きてるんだなあと思えた。またプロでも模倣するということを初めて知った。


噛ませ犬として登場した「赤松有人」のデザインを好きなアメコミから借用したのは「悪ふざけ」だけど、斎藤一が同じ新撰組隊長・土方歳三が実際に売り歩いていた、土方の実家の石田散薬の薬箱を持っているのは「単なる遊び」なので抗議されると悲しくなる、というのは理屈としては分かるけどピンとこなかった。和月は他にも「デザイン面でこのキャラはあの作品のパクリだってゆわれたけど残念! その作品です!」みたいな釈明とも開き直りともつかないコメントが多かった。単に出典を間違われるのが嫌いなオタク気質なのか。


作品全体のテーマ、「人斬りの贖罪」を明瞭にするためには薫殿は殺すべきだったんじゃないかともゆってて、それについては異論ない。でも、本当に必要なのは「死んだ人間が望むのは復讐ではなくて生き残った人間の幸福」という例のアレからはみだす復讐者/希望死者を一人でも登場させることだったんではないか、と今は思う。


明神弥彦は、剣心に憧れる負けん気の強い10歳。彼は志々雄の部下である「十本刀」を一人で倒すなど、作者が贔屓しすぎという意見が多かった。最近のインタビューで和月弥彦は読者に感情移入してもらうためのキャラだったけどジャンプは中学生以上の読者が多くて、弥彦は子どもっぽすぎたのでよくなかった」と振り返っている。でも、どうかなー仮に弥彦を18歳くらいにしても同じじゃないかなー。「オーフェン」のマジクなんかもそうだけど、当時実年齢が近くても彼に感情移入してたって人をあんまり見ない。かっこいい大人と彼に憧れる子どもという組み合わせにした場合大人はより大人らしさが、子どもはより子どもらしさが強調されて、後者に近い年齢だと逆に感情移入しにくいんじゃないかな。


そういえば、最終回で剣心から弥彦に逆刃刀が継承されたのって、弥彦側っていうより剣心の一つの区切りであったんだよなー。そう考えれば、最近新たに始まって、例の事件で3回で休載決定した正統な続編【北海道編】で、弥彦があれこれ考えて自分は竹刀でやっていく、と決意したのも逆刃刀を返すのも、頷け……頷け……いやまあそんな簡単には納得できませんけどね。


例の事件について、読者として


和月は単行本の自分の文章について、「読者サービスと作品へのより深い理解を兼ねたもの」と語ってる。でも当の読者からは「言い訳がましい」「興ざめ」との声も多くて、最近実写映画化に合わせて刊行された特筆版や*6では、「嫌ならスルー推奨」と注意書きを掲げている。


「特筆版」はドタバタギャグ要素が強くてあまり好きじゃないけど、これも実写映画の第2弾に合わせて掲載された「裏幕─炎を統べる─ 」は、志々雄様のキャラの濃さで話を最後まで強引に引っ張ることができてて、悪くなかった。


私は? 今はともかく当時は、嫌いじゃなかった。感心する文章も納得できない文章もあったけど、作家の生の声に触れること自体が刺激的だったんだと思う。「剣道部に入ってたけどめっちゃ弱かった」というエピソードも、私自身覚えがあり、共感を加速させた。ラノベでも、よほどアレなことが書かれてない限りはあとがき大好き人間だったし、そういう性分だったんだろう*7


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……だから、和月児童ポルノの単純所持で逮捕されたと聞いた時、驚いたけど、それは犯罪が良いとか悪いとかダサいとかダサくないとかじゃなくて。あそこまで自分をさらけだしてた*8人のそういう趣味一つ見抜けなかった、という衝撃だった。


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中央の着替えシーンはシリーズで一番色っぽいけど、これが、薫殿の女性的魅力が目当てで剣術をやる若者が多いと嘆かれる剣術小町出稽古回なのがまた


そもそも女の子の可愛さをウリにするには、「るろ剣」中盤以降の和月の絵柄ってカタすぎるし。「TO HEART」にハマったからといって「いつかそういうことをやる奴だと思ってました」というコメントを用意するには、葉っぱ信者が周囲に多すぎたし。燕ちゃん? ……燕ちゃんは確かに可愛いけどさあ。それ以上じゃないじゃん。来迎寺千鶴ちゃんのほうがかわいいじゃん*9。そう思ってたんだよなあ……あるいは、「るろ剣」というより和月のファンで、「エンバーミング」完結まで追っかけたような人は、また感想が違うのかも。


漫画には作者の好みが出る。漫画には作者の好みが出るがそれが必ずしも読者的に「いいもの」「リビドーを感じるもの」として映るとは限らない。漫画には作者の好みは出ない。どれもありうると思う。今回はこの内どれだったんだろう……


*1:アニメ版の声優は宝塚出身の涼風真世。今にして思うとこれしかないという気にさせられる。少年役ならまだ適任もいたかもしれないけど

*2:でもビームを出してるかのような演出はちょっと……

*3:峰と刃が逆になっているため、殺傷力が削がれている日本刀

*4:この漫画が発端かどうかは分からない

*5:後で知ったことだけど、著者の静霞薫は歴史家、古流剣術家として多数の著書がある加来耕三の変名だそうだ

*6:原作序盤を作者自らリメイク

*7:作家を目指すに当たり面白い作品を生むことよりサイン会を開いたりインタビューを受けたりといった妄想をしてしまう人間はこうして生まれるのです

*8:と思ってた

*9:単なる大正風女学生趣味では

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