周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

次世代の主人公とたてまつられる人間は、こっけいだねえ!

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ドラゴンボール孫悟飯 息子はセルにやられてる


ドラゴンボール」でセル編が終了してから数年後、大きく成長した悟飯が都会の学校に通い出した頃の話が好きだった。冴えない転校生が実はかつて地球を救ったこともある戦士で、日常生活でも力をセーブしなきゃいけないんだけど、ついやり過ぎてしまって……という設定にボンクラ魂を惹かれた。しかし、人気がなかったのか、元々その予定だったのか、物語はすぐに天下一武道会からの魔人ブウ編に入ってしまい、主人公としての悟飯の影も薄れていった。まああのままグレートサイヤマンを続けてても発展性がなかった気はする。


シリーズ物の世代を跨いだ主人公交代劇は難しい、とはよくゆわれる。なんだかんだゆって読者は旧主人公に愛着を持って作品についてきた人が多いだろうし、交代に当たって作品の変質は免れないし、逆に変わらないなら主人公を交代する意味がない。これに新主人公がシリーズ途中からの新加入キャラで旧主人公に対してやたら噛みついてきて作者からは優遇されていて(いるように読者には見えて)、なんていうのが加わるともう、旧主人公がやたらヘイトを溜めてでもいないと積みである。


悟飯については、人造人間との戦いで片腕を失い、トランクスの師匠ポジとなっている未来悟飯がかっこよかった。というかあの未来トランクス編自体のシリアスなトーンが最高だった。トランクスというキャラクターはフリーザを真っ二つにした初登場時から成功が約束されたようなもので、アニメ独自の続編「GT」ではチビ悟空、パンと共に冒険する主要キャラに選ばれている。悟空と違って社会的な意味でも良き父である悟飯の姿は、そこにはない。


それでも悟飯は一度は主人公の座に就いた。一方で、続編ではこいつら主役の話が見たいとファンから言われたりしながらも、さらに下の代にその座を奪われた、谷間の世代ともゆえるキャラクターっていうのもいる。


ラブライブ!亜里沙と雪穂 妹コンビはどこいった


アイドルアニメ「ラブライブ!」の1期、2期、劇場版と続いたμ's編*1 を通してμ'sの9人に憧れていたのが、主人公である穂乃果の妹・雪穂と絵里の妹・亜里沙だ。将来はμ'sに入りたい、という希望もあったけれど、μ'sの解散と「本当に自分が好きなのは今の9人のμ's」という気付きから断念*2。自分たちのラブライブを模索し、劇場版ではμ'sメンバーが残らず卒業した後の音ノ木坂アイドル研究部で、新入生を勧誘する姿が描かれている。


と、それはよかったのだけど、先日放映終了した続編「ラブライブ!サンシャイン!!」では、μ'sファンである主人公たちが、その後月日が流れた音ノ木坂が訪れる。その際の、在校生? の、「μ'sはこの学校に自分たちのものも、優勝の記念品も、記録も何も残していかなかった」「物なんかなくとも心が繋がっているからって」という証言が波乱を呼んだ。いや、それは「この9人がμ's」という結論からすればありえそうなことだけど、でもそうするとありゆきってあの後どうなったの……? 彼女らの活動はμ'sの物質的な諸々とは全く無関係、と言われればそうなんだけど、お話の構成としては別に必要ではないんだけど、彼女たちに言及がないこと始め、なんか音ノ木坂、スクールアイドルそのものの霊圧が消え失せてるようなアトモスフィアがありませんでした……? みたいな。かくして、二次創作にうってつけの空白ができあがる。


「MAJOR」茂野いずみ 姉はここにいる


満田拓也の野球漫画「MAJOR」の最終回で登場した茂野吾郎の娘・いずみは、家でダラダラしてるだけで働かない父を疎ましく思っていた。しかしそれはいずれ来るべきプロリーグでの再デビューのため人知れず訓練していたためだったと知る。そういった背景があり続編が決まった時、彼女が主役の女子野球ものを期待していた読者も多かったようだけれど、実際の「MAJOR 2nd」の主人公は弟の大吾だった。


いずみは、スポーツ一家にあって一人才能がなく、少年野球をやめ勉強もせず家でゴロゴロしているだけだった大吾を軽侮していた。再起した後、野球に関してアドバイスしながらも、彼の努力に度々懐疑的なまなざしを送る。彼女が弟を見直すことが「MAJOR 2nd」のゴールの一つなんじゃないか、という節もあり、こうやって整理すると大吾といずみの関係は吾郎といずみの再話なんじゃないかとも思うけど、その意図するところはいまいちよく分からない。ただ大吾との関係性を考えると、いずみは年長の教導役であり、お色気要員であると同時に、第二のヒロインと言っていいかもしれない。なおメインヒロインは寿くんの息子の光。


アイカツ!」北大路さくら 取り残された後輩


アイドルアニメ「アイカツ!」の北大路さくらは、主人公であるいちごたちの1コ下の世代として、アイドル学校スターライト学園に入学。いちごとあおいが秋からの編入組であるのに対して、春からの通常入学?組であるさくらは、古典芸能を嗜む一家の出ということもあり、トップアイドルである神崎美月に目をかけられるほどの存在ではあった*3。実際、彼女の学年の中で、アニメ1年目の最強選抜ユニットとも言えるスターアニスに選ばれたのは彼女だけだ。しかし、いちご世代編が完結した後の主人公は、いちご同様編入組で、当初はいちご以外誰一人として将来のアイドルになることを見抜けないほど普通の、大空あかりだった。


さくらはしっかり者で、「和をもって尊しとなす」を地でいくキャラだけど、反面寂しがりなところが強調されていた。入学して早々ふさぎこんでたし、いちご世代が卒業する時も曇ってたし。それは、同世代に彼女と同格のアイドルがいないことにも一因があるような気がする。初登場回でヘッドホンで音楽聞いてるばかりでコミュニケーション取ろうとしない同室のロックちゃんこと三輪皐月を見よ! まあ、だからこそ、卒業式の答辞で感極まったさくらを名もない同級生がフォローし、パートナーズカップではロックちゃんとユニットを組む姿に感動させられるわけだけど……。


いちごたちが卒業した後、さくらは中等部の中心的な存在になり、あかりたちの世話を焼いたりしてかえって存在感は増している。人望があり、たくさんの同輩や下級生が彼女を慕って集まってくる。でもそこにさくらの有力な対立候補はいない。2代前のスターライトクイーンである神崎美月同様の、頂点に立つ者としての孤独。それは結局彼女がスターライトクイーンになるまで解消されなかったのではないか。で、メタ的なことを言うと、彼女が主人公ならそんなことはなかったんじゃないか。ライバルの一人もいたんじゃないかと。彼女のものとなったスターライトクイーンのためのお屋敷でお祝いをしてくれた中に同年代が一人もいないという絵面は、そんなことを考えさせられる*4


魔術士オーフェン」マジク・リン 弟子は結局帰ってきた


で、まあ、いつも通りオーフェンの話になっちゃうんだけど。


ファンタジー小説魔術士オーフェン」で、下町の美少年マジクは野心に燃え、身一つでどうとでもなる「魔術士」に憧れていた。彼は実家の宿屋に金も払わず泊まっていたろくでなしのオーフェンを師と崇め、共に旅に出る。序盤から師が驚くような洗剤能力を垣間見せていたマジクはしかし、全20巻(作中では半年)の旧シリーズでその才能を開花しきることはついになかった。


さっさと誰かが家に返してやるべきとか自爆特攻兵を教育してる気分になるとか師匠が未熟だったとか、彼については作中で散々に言われている。ファンの間では彼自身の増上慢を指摘する声もあったけど、オーフェンが優秀すぎるため師に向いていない、旧シリーズ当時は余裕がなくて弟子のことをちゃんと見てやれなかったという声も近年多い。昔はシンちゃんが駄目な奴に見えたけど大人になってみるとミサトさん始め周囲の大人が駄目なやつだこれ! みたいな。そこまでではないけど。オーフェン本人もマジクを格下と侮っていたと認めている。


精神的技術的な成長がなかったわけではない。慢心は消えた。魔術の制御も身につけた。最終巻を始め、何回か見せ場もある。しかし本編の彼は結局「ぼくたちの魔術士道はこれからだ!」というところで終わってしまった。「るろ剣」の弥彦で喩えるなら、飛天御剣流は8割方マスターしても幹雄様*5にも勝てないというレベル。本編序盤とその前日譚である「無謀編」では、生活能力皆無のオーフェンに比べ世渡り上手なところを見せていたのだけど、そんな長所もいつしか消えてしまった。戦闘技術というおよそ平時には役に立たない分野で鼻をへし折られたのがよほど応えたのか。


終盤、魔術士としての方向性の違いにより、袂を分かつことになったオーフェンは言う。

「餞としちゃ大したことは言えないけどな。いいか、お前は行く――だが、いつもどってきてもいい。分かったか?」

(だから……マジク。気づけ)
拳を固め構えを取り、オーフェンは囁いた。
(お前はいつか必ず一人前の魔術士になるんだ。今でなくとも、いつか必ず)


この言葉通り、本編完結から20年以上が経過した続編では、師と肩を並べるほどの魔術士となって帰ってきたマジクが描かれている。ただし、上司でありオーフェンの知己であるハーティアに目をつけられ*6、殺戮を繰り返した結果、精気や覇気といったというものが全く感じられない、枯れ木みたいになってしまった美中年として。


あんまりだ、とは思う。新シリーズの主人公は絵に描いたような「イイオンナ」の婚約者までいるエリートラブコメリア充野郎だっていうのに。空白の20年間=設定だけあって描かれていない第3部の主人公格であるマジクとの、この差! 「ナデシコ」のアキトユリカは劇場版でひどいことになってたけど、マジクはただでさえ旧シリーズでロクな目にあっていないのに加えてこれだ。第3部の序章である「キエサルヒマの終端」では、第2部終了後一人になったオーフェンを即追いかける決意をしたクリーオウに対し、マジクは「僕はまだ、旅立てる気がしないから」と自嘲気味に語っているけど、あそこで同行していたらどうなっていたんだろうか……。


ひどいひどいとゆわれながらも実は新シリーズのマジクも好きだったりする。ものぐさすぎて、弟子兼介護役のオーフェンの娘に押されないと歩かない*7枯れ木のような昼行灯で、でも陰惨な過去を持つ作中最強の魔術士。そんな設定に燃えない読者がいるだろうか。旧シリーズからのファンの人にもおおむね好評のようだ。でもそれって主人公のポジションとしてはちょっとくどすぎるかなあ、ということで、幻の第3部を小説にしてほしいという希望は、自分にはあんまりない。出たらそら読むに決まってるけどさ。


以上、着地点も考えずダラダラ書き連ねてきた。次世代の主人公とたてまつられたけど結局その座に就くことはできなかったキャラクターが、末路はどうあれわたしは好きだ、という話でした。

*1:1期以前のPVやスクフェスやそして何よりSIDがあるだろ!とかのツッコミはご勘弁ください

*2:サンシャイン最終回でモブが一緒にやりたいと言いだしたのを拒否しなかったのはこれとの対比?

*3:最初のステージでは蘭ちゃんのスールに負けてたけど

*4:別に同年代の人から祝われなかったわけではない

*5:燕ちゃんの主家筋に当たる人

*6:アニメ一期ラストのセルフオマージュ?

*7:恋愛感情はないにしても憎からず思っていた女性とお師様の娘に世話される四十男の心境はいかばかりか