周回遅れの諸々

90年代育ちのオタクです

TVアニメ「クレヨンしんちゃん」のホメオスタシスとトランジスタシス

ホメオスタシス=今を維持しようとする力はれっきとした生物学用語だけどトランジスタシス=変えようとする力はエヴァンゲリオン作中で使用された造語。これ定番のマメな。


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クレしん」は、20年以上やってるような国民的アニメの中では変化に寛容な方だ。というかいつまでも「昭和」の世界が維持され続ける「サザエさん」だって原作は新聞連載で時事ネタを貪欲に取り込んでいくスタイルだったのだけど、いつしか今の形に収まってしまった*1。比べれば、クレしん世界はまだ動いている。元々しんちゃんは原作からしてテレビで流行ってるネタを真似たりするのが大好きだから、というのはあるだろう。例えばみさえやひろしはすっかりスマホを使いこなしてるし、iOSのアシスタントAI・Siriをもじったキャラクター? 「オシリ」も定着している。コラボレーションを果たしたその時時の人気芸能人やドラマやアニメは数知れない。そうしたゲストへのいじり方も手慣れたもので、一回こっきり登場の芸能人をまるで昔からアニメ世界に存在してたかのようになじませてくる。全然関係ないけどVtuberのキズナアイちゃんにクレしんデビューしてほしい。


若手声優もゲストキャラやモブとして頻繁に起用してくれるのがうれしい。今年に限っても、水瀬いのり伊瀬茉莉也佐倉綾音加隈亜衣桑原由気山下七海といった既に人気を確立した若手から春瀬なつみ鈴木絵理古木のぞみ大野柚布子田中貴子までが新たに入ってきてて、声オタ的には垂涎の現場と言える。


一方で物語の根幹を揺るがすような展開には長いことお目にかかっていない。一人の視聴者としてはそれでいいとも思ってる。クレしんについては、私は劇場版は基本的に観ない。TVシリーズだけの付き合いだ。なんでかっていうと、朝起きたら歯を磨くように、一日三回食事をするように、日常の中に完全に組み込まれたルーチンワークこそが私にとっての「クレしん」視聴だからだ。対して映画を観るというのはハレの日の文化であって、それは作品の善し悪し以前に自分が求めるものとはややズレる。TVシリーズで、例えば「今どき専業主婦なんて」という人の要望通りみさえがパートに出たとして、それで「クレしん」像が崩れるかというと、いやあ25年で築き上げた世界はそんな脆くなかろ、とも思うけど……*2まあ、少なくともドラスティックな改革は求めていない。それはやっぱり、ルーチンワークとは相性悪いから。


先日、番組開始当初からしんちゃんを演じてきた矢島晶子の降板が発表された。しんのすけのあの声を作るのに必死で、芝居の方に意識が行かなくなる、また声が荒れるので収録の翌日は他の仕事を断らなければならない、といったことが理由だという。


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これには納得するしかなかった。声を作るのと芝居するというのはやることが違うというのはその通りで。矢島さんはそのどちらにおいても驚異的な技芸の持ち主だけど、しんちゃんくらい地声と違うキャラクターをこれだけの期間演じるというのは並大抵のことではなかったに違いない。「マイトガイン」の吉永サリー、「リューナイト」のパッフィー、「絶望先生」の糸色倫、「脳コメ」の道楽宴、「夏目友人帳」の子狐、「ガラスの仮面」の姫川亜弓、「BLUE DROP」のマリ、そして今MXで再放送してる「ガンダムW」のリリーナ様……。気高く凛々しい女性、可憐な美少女、健気な少年役など、矢島さんに魂を吹き込まれて魅力的に輝いたキャラクターは枚挙に暇がない。今回の降板でしんのすけ以外のキャラクターを演じる機会が増えると言うなら、それを喜ぶほうを取りたい。


第2代野原しんのすけ小林由美子は、少年役に定評のある中堅声優。愛称はしゅびっち。年代的にはデビュー当初、「エクセル・サーガ」のエクセル・ガールズの片割れエクセル小林(本人役)としてハイアット美佳子こと高橋美佳子と作品販促のためにコスプレで全国をドサ回りしてた姿が印象深い。「シスター・プリンセス」の衛役でブレイクし、その後は少年役で確実に地歩を築いていった。私のアニメ視聴量はそこまで多くないけど、それでも、今も色んな番組でちらほら見かける。手堅い人選だ。



前任の降板理由は納得のいくもので、後任はデビュー当初から知ってる人で、キャリアも十分で。じゃあ安心かっていうとそんなわけない、っていうのがこの手の案件の怖いところなんだよなあ。それくらい、この変化はコアなものではある。父ちゃんこと野原ひろし役の藤原啓治は2016年に体調不良で休養に入って、徐々に仕事復帰してきてるものの、まだ「クレしん」の現場には戻ってきていない。代役の森川智之が大分藤原ひろしに寄せてきてることもあって、今はほとんど違和感はないけれど……このまま、藤原ひろしと矢島しんちゃんが再び共演することなく終わってしまうのか。短期間に*3メインキャストが二人降りる。それは単にキャラクターが声変わりするというだけにとどまらない。一緒にアフレコしてる他キャストの演技にも当然影響あるだろうし、矢島しんちゃんをイメージしてお話を作っていたであろう監督や脚本家らも修正を強いられる。内容面のリニューアルと同時に声優を一新した「ドラえもん」は、それはそれで一つの決断ではあった。


新規収録の矢島しんちゃんが聞ける最後の機会は6月29日、小林しんちゃんは7月6日放映分から。私がこの変化を受け入れられるかどうかっていうのは、少なく見積もっても今年いっぱいはかかるだろう。平成が終わる頃、私は今もそうしているように金曜19時30分にはテレビの前にいるのだろうか。まだ分からないけど、結論が出るまで、ひとまずよろしくおねがします>しゅびっち 矢島さん、ちょっとフライングですが、お疲れ様でした。


……あれ、そういえばネネちゃんが持ってる「殴られウサギ」も矢島さんが演じてたけど、あっちはどうなるんだ? 毎夏恒例のクレしんホラー回までもうそんなに時間ないゾ? こっちでは矢島さん起用継続して、作中でしんちゃんの声変わりネタでもやる? クレしんならやりそう。


*1:たまに実験的に液晶テレビが登場したりはしている

*2:そもそもひまわり置いてパートに行けない

*3:二年っていうのはクレしんの歴史を考えると短いと言っていいでしょう