周回遅れの諸々

90年代にオタクとしての青春を過ごした人のブログです

祝プレオーフェン漫画化 コミクロンの三つ編みの行方

魔術士オーフェン」シリーズは、90-00年代にファンタジア文庫から刊行されたラノベだ。当時のファンタジア文庫といえば、書き下ろしのシリアスな長編と雑誌連載のギャグ短編、二つのシリーズが同時進行するスタイルをもって人気を得る作品が多かった。「オーフェン」にも、シリアスな本編「はぐれ旅」とギャグ短編「無謀編」の二つの流れが存在する。そして第三の流れが、「無謀編」単行本*1に毎度書き下ろされる「プレ編」と呼ばれるシリーズ。本編から遡ること5年前、主人公オーフェンの学生時代を描く、タイトル通りの前日譚である。


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前日譚という創作手法には、何故か人を惹きつけるものがある。本編以上の人気を得るものも少なくない。これまで明かされなかった謎が今、明らかに! っていうアオリはよく見る。先が見えない楽しさではなく、先が見えてるからこそ、こいつら今はこんなだけど将来ああなるんだなあ一体どういう経緯を辿るんだろう、というワクワクもページを繰る手を早めてくれる。


世間の荒波に揉まれ、やさぐれ、金貸しとして立派なチンピラと成り果てたオーフェンも、5年前は魔術の名門《牙の塔》の最エリートだった。当時の名前はキリランシェロ。そして名門校の生徒というのが度々そうであるように、彼が所属する「チャイルドマン教室」は奇人変人の集まりであった。「プレ編」は、本編ではオーフェンの姉アザリーが引き起こした事件によって離散している、彼らの輝かしい日常を綴っている。


基本的にシリアスな「はぐれ旅」、ギャグの「無謀編」と比べると、「プレ編」のテンションは中間くらい。内容も

  • ファンタジー世界に士郎正宗的オカルティックサイバーパンクな世界観を持ち込んだ「チャイルドマン・ネットワーク」。その謎に迫る「超人たちの憂鬱」
  • ミスコンにおいてアザリーとレティシャ二人の姉いずれかに投票したくないがために格闘大会で勝ち上がろうとする「リボンと赤いハイヒール」
  • 周囲から理解されないと思いこんでる20代独身女性レティシャの鬱屈を爽やかに解決する「天使の囁き」
  • アニメではコメディリリーフとして重宝された「ブラックタイガー」(ハーティア)の出生秘話「袖振り合うも他生の縁」
  • 酒場で出会った、ドメスティックバイオレンスに悩む女性を天然ボケの殺し屋コルゴンが救う……救う? 「向かない職業」


などなど多種多様。分量的には「オーフェン」シリーズ全体の1/10くらいのものだったのだけど、同人界隈ではメジャーな「学パロ」的な内容だったこともあって、これが結構人気が出た。どっちかというと女性ファンが多かった印象。魔法学校ものということで、「ハリー・ポッター」が流行った時に本シリーズのことを連想する人もいたとかいないとか。


チャイルドマン教室は、教師であるチャイルドマンを頂点に7人の生徒が在籍している*2。中でもTHEプレ編キャラと言えるのはやはりコミクロンだろう。なにせこのキャラ、本編第1巻で既にチャイルドマン(アザリー)に殺されてるのだ。しかも5年ぶりに同窓生と出会ったオーフェンは、「君も覚えているだろう? 僕らと同じ教室だった、あのコミクロンだよ」とゆわれて「……彼はコミクロンだったのか」と返すという鬼畜ぶり。それだけアザリーのことで頭いっぱいだったのかもだけどさ……。台詞もなく、どんな外見かもわからず、この巻に限れば名前アリのモブでしかない。執筆時点では続刊があるかどうか分からず設定が固まってなかったんだろうという専らの噂である。


コミクロンが「プレ編」で初登場したのは4話目の「清く正しく美しく」。三つ編みおさげ(男)、黒のローブの上に白衣をまとった科学者(魔術士)という攻めっぷり。「どうせ今後本編に登場しないんだから滅茶苦茶やってやろう」という作者の意図が垣間見える。傲岸不遜な学生マッドサイエンティストという点では、漫画「PON!とキマイラ」の乙部清丸に似てるかも。毎週珍妙なメカを作っては、キリランシェロのバットで破壊されている。



様々な技能をチャイルドマンから受け継いだ生徒たちの中にあってコミクロンは医療用の魔術を専攻としてて、先生からの評価は以下のような感じ。

術者としては語るところもなく凡庸。レベルは低くないが、完成された術とまでは言い難い。
身なり、言動、行動と全般的に奇抜を好み、そのせいで変人の扱いを受けやすいからだろう、幻想からの脱却が早かったようだ。おかげで発想の自由度は高い。才覚と言えるほどの成果には至っていないが、緊急時に人体を合理的に把握する一助にはなるかもしれない……とにかく最前線に置くよりはましだろう。


なお、先生の評価はコミクロンに限らず当てにならないとは言われてる。死後、ティッシが戦闘で指を失った時、「コミクロンが生きてれば治してくれたでしょうにね――」と述懐したくらいだ。


「歯車様」を信仰し日夜研究と開発と破壊と再生の日々を送るコミクロン。でも、そればかりではない。天然ボケの暗殺者コルゴンを助手と呼び屋根裏で奇妙な交友関係を結んでたり。かと思えばティッシをひそかに想ってて。キリランシェロやハーティアの前では「誕生日ねえ。すっかり忘れてたけど、そういやそうだったな」「俺の調査によればあの女が期待する上納品の価値はインフレ傾向にある。ここはひとつ、ショック療法として、葉っぱ一枚ずつというのはどうだろう」「自分のことを女神だとでも思ってるんだろう」とかこきおろしてたのに、いざ誕生日になると匿名で「皆の守護天使」というメッセージつきの天使の像をプレゼントしたり。この科学者の中では女神はいないけど天使はいるらしい。天使なんて迷信、と切って捨てるキリランシェロとは対照的。ロマンチストか! 他にもいつも「ふっふっふ」と笑うのにティッシが相手のときは「はっはっは」になったり*3。呪文は他のクラスメイトが「光よ」とか「我は放つ光の白刃」なのに対して「コンビネーション3-7-5!」とかそういうの。あと名前に「ミクロ」がついてるのもかわいい。

オーフェン』シリーズでは、時間を遡った番外編で本編とは違う立ち位置を確保してしまうというパターンが多かったです。
名前だけの死人だったあいつとか。読者の方から『どうして死なせてしまったんですか。なんで生き返らないんですか』という声が随分あって困ったのを覚えています。なんでって言われましても……


http://www.motsunabenohigan.jp/oldnote/200810nt.htm

ただでさえプレ編しか出番がなくそれも毎回というわけでもないのに、読者はたちまち彼に夢中になった。ファンブックの人気投票では、なんと主人公に次ぐ2位を獲得している*4女性票より男性票が多めだったらしい。



1巻目で死んでるという悲劇性とのギャップが受けたというのは大きかっただろう。その死因であるアザリー討伐、教室が離散してティッシが悲しんでるのを見て、その原因であるアザリーを討とうと任務に立候補した……というのは、単なる私の妄想である。コミクロンの死によって、コルゴンはショックを受けて《塔》を飛び出している。


先生に振り向いてほしい一心で実験したのが失敗。アザリーが塔を出る

姉を追ってキリランシェロが塔を出る

ティッシが鬱になる

ティッシのためにコミがアザリー討伐を決意

コミクロンが死んじゃう!

死んだ

コルゴンがショックを受けて塔を出る


このバカのドミノ倒し。


さて。コミクロンについて、いまだ解決されてない疑問がある。それは、1巻で死んだ時も三つ編みおさげだったのか、ということだ。プレ編で17歳だから、本編では22歳。年齢的にそろそろキツい気がしなくもないし、いくらなんでもあの髪型のままならオーフェンも気付くはず……。アニメでその謎が解けるかとも期待したけど、原作から大幅に改変されてたので、該当シーン自体が存在しなかった。2011年に発売された新シリーズ第1弾「キエサルヒマの終端」の口絵は原作イラストレータ草河遊也による、多分唯一の22歳コミクロンが描かれてるけど、三つ編みの部分は巧妙に隠されてた。


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 『魔術士オーフェンはぐれ旅 キエサルヒマの終端』より


しかし歯車様は我々を見捨てなかった。22歳の彼とは、意外な形で再会することになる。連(むらじ)先生による、web漫画サイト「ファミ通コミッククリア」で連載中の「はぐれ旅」再コミカライズである。


 魔術士オーフェン はぐれ旅 我が呼び声に応えよ獣 - コミッククリア


「可能な限り原作に忠実」を謳っている今回こそは……! と期待は高まった。物語が進み、アザリー討伐隊の下りになり。読者の前に姿を見せたコミクロンは、はたして三つ編みおさげだった。コミクロンは死ぬまでコミクロンだったんだ!



原作に忠実に、とゆった舌の根も乾かぬ内からアレだけど、どうやらこのコミカライズではオーフェンはコミクロンに気づいてたという線で行くっぽい……?


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降って湧いたネタ供給に騒然とするファン一同。だが数週間経ったある日、その内の一人がある事実に気づく。「あれ? コミクロンの髪型、修正入ってない?」 そう、あの三つ編みおさげが綺麗さっぱりなくなってたのだ*5。それも単行本収録時じゃなく、わざわざ連載中に。死に様もきっちりと。こちらは嬉しいかと云われると、まあ、うん……


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この漫画、修正自体はそう珍しいことじゃない。にしても、これは驚きだった。彼の髪型はそこまで重要な事柄なのか? 逆に重要じゃないからあっさり修正されたのか? 22歳コミは三つ編みバッサリ切ってるよ派の過激原作ファンからカミソリレターでも届いたんだろうか……?


と、そういえば。2009年に発売された「秋田禎信BOX」*6に収録されてるプレ編新作「怪人、再び」でコミクロンが髪を切るエピソードがあるんですよね。



時系列についてははっきりしてないけど、あれがプレ編最新エピソードなら、以降はずっとそのままっていう解釈なのかもしれない。


そんな、スプーキーEばりに死んでからも我々を惑わせるコミクロンが活躍するプレ編。詳細は不明だけどコミカライズが決定している。最近のコミカライズだと本編はストーリー漫画で、キャラいじりは4コマで、というのが多い気がするけど、現状「はぐれ旅」の漫画がやってるので、プレ編は4コマだったりするのだろうか。……一方で原作の方は絶版。「しゃべる無謀編*7では新プレ編と入れ替わりで旧プレ編が削除されてるし、コミカライズに合わせて新装版が発売されるのを期待していいのかな……?


*1:正確には「無謀編」は単行本シリーズ名であって、ドラゴンマガジン連載時のタイトルは短編も「はぐれ旅」

*2:近年「無謀編」の新装版として出版された「しゃべる無謀編」に書き下ろされた新プレ編では、新しい生徒が入室する短編も

*3:彼に対するティッシの心中は不明だが、後に別の級友フォルテと結婚している

*4:私も一票投じました

*5:服装も《塔》の戦闘服に。こちら

*6:オーフェン」「エンジェル・ハウリング」などの新作や未収録短編を収録した作品集

*7:タイトル通りドラマCDがついた無謀編新装版。コミクロンも出演。CVは逢坂良太

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